学位論文要旨



No 115110
著者(漢字) 胡,秋平
著者(英字)
著者(カナ) コ,シュウヘイ
標題(和) 異種接合材料の応力場に関する研究 : 応力の弾性定数依存性と半無限異種接合板基本解の導出
標題(洋)
報告番号 115110
報告番号 甲15110
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4605号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡邊,勝彦
 東京大学 教授 中桐,滋
 東京大学 教授 酒井,信介
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
 東京大学 助教授 中村,俊哉
内容要旨

 異種接合材・複合材の工業的応用の広がりにより、界面力学の基本理論の確立と明確化が急務となっており、異種接合材に対する強度評価は非常に重要な立場となってきている.そして.その強度や機能を評価する際に、界面上及びその近傍の応力を精度良く解析することか要求されている.

 本研究の背景としては.今世紀1950年代.界面力学が発展して以来.Williams,M.L.は1952年に二次元弾性論に基づき,接会端部の応力特異性がr-Aの指数関数を持つことを固有値展開法により導いた.そして.1967年に.Dundurs.J.は弾性複素理論を用い,二次元の界面応力場を特性づける組み合わせた弾性定数,a.を導入した.それをDundursのパラメータと称し.界面力学を論じる上での重要なパラメータとしている.その後,Bogy.D.B.は1968年より.二次元の界面応力場を検討する際に.Dundursのパラメータを用いた表現が初めて実施されていた,・・・それから30年間あまり.弾性領域における界面応力場に関する研究に当たってはDundursのパラメータが良く用いられ.特に.軸対称接合材の応力場を検討する際に.それが二次元と似ているため.Dundursのパラメータの準用例が多く見掛けられている.また.一般の三次元接合材においても、その理論解がないため.Dundursのパラメータを借用することがしばしば見られている.ところで.軸対称や三次元の応力場は二次元の独立パラメータであるDundursのパラメータで一義的に表現できるであろうか?これらの問題に対し.未だに究明されておらず.接合材の応力場が特定できる統一的弾性パラメータは確定されていない.本研究の第I部では,軸対称接合材の応力場における弾性定数依存性を検討し,そこで導いた独立パラメータを二次元または三次元のそれらと関係付け.結局.接合材に関する統一パラメータを導出する.また.そこで.各次元接合材に物体力が存在する場合も検討し.その弾性定数依存性を明らかにする.

 一方.応力解析に関しては.理論解析の他に.コンピュータを駆使し.数値解析を行う方法もめざましく発展・普及されている.1950年代アメリカの航空技術者により開発された有限要素法(Finite Element Method)に継ぎ.1970年代になって,境界要素法(Boundary Element Method)も開発され.それに関する出版物や汎用プログラムが数多く発行されていた.後者が前者の急速な発展の影であまり注目されない時期もあったが.後者が対象とする物体の領域内を離散化(要素分割)せず,物体の境界のみを離散化する境界型の数値解法であるため,特にポテンシャル問題や弾性問題等の解析に簡便であることが認められている.それで,弾性問題を解析するに当たり.二次元の場合には.今まで.均質無限板中に単位集中力が働く場合の応力解であるKelvinの解(1846年)と均質半無限板におけるそれのMelanの解(1932年).または.無限異種接合板におけるそれのHetenyiの解(1962.63年)が良く用いられており.イギリスのBEM専門ソフト開発会社であるBeasy社をはじめとし,すべての汎用プログラムに取り組まれている.しかし.接合材の応力解析と言えば.実際の解析モデルは自由表面と接合界面を有し,しかも.接合端部近傍の応力は最も注目されるところであり、接合端部を交わる全ての自由表面と接合界面の総合効果で与えられている.それ故.このようなモデルを解析する際に.Kelvinの解を用いれば.全ての境界に要素分割を行わねばならないし.端部近傍にも細かくしねばならないのである.また.Melanの解を用いれば.接合界面に上述の処理を行い.Hetenyiの解を用いれば,自由表面に上述の処理を行わねばならないのである.それらにより.もし.自由表面と接合界面との両方の境界条件を満たす基本解があれば.接合材に対する数値解析には有用であろうと考えている.したがって.本研究の第II部では,このような基本解.すなわち.半無限二次元異種接合材基本解を導いている.また,基本解は物体力の特殊な応力解であるため,第I部で導いた統一パラメータを用いている.

 本研究は序論,第1部の「界面応力の弾性定数依存性」.第II部の「半無限二次元異種接合材基本解の導出」.総括から構成している.各部の内容は次のように内訳している.

 まず.序論においては.研究の背景.研究の目的.論文の構成との三章で構成し.付録には.本研究に関連する基本事項.すなわち,A1には,弾性論における基本関係式と各種応力関数.A2には.界面応力の状態と特異性を紹介している.

 そして.第I部の「界面応力の弾性定数依存性」においては.全六章から成っている.その内訳は次の通りである.

 第1章 緒論

 接合材の弾性定数依存性問題を取り上げ,その方法論を述べる.

 第2章 二次元接合問題における応力場規定独立弾性パラメータ

 Airyの応力関数を用い,物体力が存在しないと存在する場合における二次元の弾性定数依存性を検討し.それらの独立パラメータを導く.

 第3章 軸対称問題における応力場規定独立弾性パラメータ

 Michellの応力関数を利用し.二次元における解析方法に習い.軸対称接合問題(接合平面・接合曲面)における応力の弾性定数依存性を検討し,その独立パラメータを導く.

 第4章 接合問題における統一的応力場規定独立弾性パラメータの提案

 一般の三次元接合問題に関しては.次元解析によって,三つのパラメータが必要であることが分かる.本研究では.それらの性質を統括し.すべての次元(二次元・軸対称・三次元)に共通する統一パラメータ提案する.

 第5章 FEMを用いた統一パラメータによる二次元と軸対称応力場の相違の検討

 上述の結果に基づき.有限要素法を用い,軸対称と二次元の応力場に関する弾性定数依存性を確認すると共に.その相違関係も検討する.

 第6章 結論第I部の研究結果をまとめ,その実用性を明らかにする.

 第II部の「半無限二次元異種接合材基本解の導出」においては.全六章から成っている.その内訳は次の通りである.

 第1章 緒論

 半無限異種接合板基本解の導出に当たる背景や必要性を述べる.

 第2章 基本解導出法の検討(仮想境界設定法の提案)

 本基本解の導出に関し.「仮想境界設定法」を提案する.

 第3章 Mellin変換面における基本解

 Airyの応力関数を用いて.Mellin変換面における応力基本解を導く.

 第4章 Mellin逆変換による基本解の導出

 Mellinの逆積分変換式を利用し,実座標系における応力基本解を導く.その際.本基本解に関する応力特異性の表現についても詳しく検討し.さらに.解の性質を調べ.数値解析に容易な形式を取り上げる.

 第5章 得られた解の数値評価に基づく検討

 得られた本基本解に数値解析を行い.その可解析性を確かめる.

 第6章 結論

 第II部の研究結果をまとめ.その実用性を明らかにする.

 最後に、総括においては.第1章に本研究の総括と主な結論,第2章に今後の課題と展望をまとめている.

 とりわけ,本研究では主に以下の結論を見い出している.

 (1)接合材の応力場に関する統一的弾性パラメータを導いた.

 (2)軸対称と二次元の応力場の相違関係を見い出し,その判別条件を提案した.

 (3)異なる特異性の性質を持つ応力問題をまとめて解析する「仮想境界設定法」を提案した.

 (4)半無限二次元異種接合材基本解を導出した.

 したがって.統一パラメータを利用すれば.接合材の界面応力場が特定でき.より統括的に確実に強度評価を行うことができる.また.半無限二次元異種接合材基本解を用いれば.境界要素法の接合材に対する数値解析には大いに貢献を与えることである.さらに、本基本解の解析に用いた「仮想境界設定法」を利用すれば,き裂を有する基本解などにも適用でき.より一般性のある方法論に展開することが期待される.

 なお,本研究で導いた統一パラメータは一般の静的弾性接合問題にだけではなく.熱弾性接合問題や残留応力接合問題.さらに.き裂を含む小規模降伏場合での接合問題にも適用できる.

審査要旨

 本論文は「異種接合材料の応力場に関する研究(応力の弾性定数依存性と半無限異種接合板基本解の導出)」と題し、序論、界面応力の弾性定数依存性を扱った第I部、半無限二次元接合材の基本解を導出した第II部および総括からなる。

 近年異種接合材料は様々な分野で用いられ、その強度評価手法の確立は急務であるが、界面における応力の不連続性、界面端部での応力特異性などのため基本となる応力場評価に関連しても解決さるべき問題が多く残されている。本研究はこの異種接合材料における応力場に関するものであり、第I部は、従来二次元問題では材料の組合せが及ぼす応力場への影響はDundursのパラメータと呼ばれる独立な2つの弾性定数により整理されることが知られているが、軸対称問題においてこれがどうなるかということを論じたものである。そして軸対称問題はしばしば擬似二次元問題のように扱われるが、それは不適切であり、二次元問題とは異なり、材料の組合せが応力場に及ぼす影響を論じるには3つの独立なパラメータが必要であることを明らかにし、具体的なパラメータの形を提案すると共にこれが一般の三次元問題に対しても有効なものとなることを示したものである。また第II部は、第I部で導いたパラメータを用い、半無限異種接合板の内部に集中力が働く場合の基本解としての要件を備えた解を、当該問題は力点と界面端部の2箇所において特異性が生じる扱い困難なものとなるが、通常物体内の体積力として扱われる集中力を仮想面上における集中表面力として扱う方法を提案し、Mellin変換を適用することにより導いたものである。この解は境界要素法に適用することにより、界面端部の特異性に配慮した端部近傍での細かい要素分割を不要とするものである。以下要約すると

 「序論」は、本研究全体の背景、目的・意義、および論文の構成についてまとめたものである。

 「第I部 界面応力の弾性定数依存性」は次の6章からなっている。

 第1章は「緒論」であり、第I部の研究の背景、目的、構成をまとめている。

 第2章「二次元接合問題における応力場規定独立弾性パラメータ」では、体積力の存在しない二次元問題においてDundursの2つのパラメータが応力場を規定する独立パラメータとなり得る理由をAiryの応力関数を用いた独自の考察により明らかにし、さらに二次元であっても体積力が存在する場合には3つの独立パラメータが必要となることを明らかにしている。

 第3章「軸対称接合問題における弾性定数パラメータの導出」は、軸対称問題においては二次元問題と異なり、体積力が存在しなくても応力場を規定するには3つの独立パラメータが必要となることをMichellの応力関数を用い、前章での考え方を拡張適用することにより証明したものであり、さらに用いるべき具体的な3つのパラメータを提案している。

 第4章は「接合問題における統一的応力場規定独立弾性パラメータの提案」であり、ここでは二次元問題、軸対称問題から得られた独立なパラメータ間の関係を明らかにすると共に、一般の三次元問題においては次元解析により3つのパラメータが必要であることが知られていること、軸対称問題は三次元の特殊な場合と考えられること等から、接合問題を扱うにあたっての統一的な役割を果たし得るパラメータとしてDundursのパラメータと今一つのパラメータを加えた3つのパラメータを提案している。

 第5章「FEMを用いた統一パラメータによる二次元と軸対称応力場の相違の検討」では、前章で提案した3つのパラメータを用い、同一材料の組み合わせのもとでの二次元解析と軸対称解析をFEMにより行い、二次元解析では応力分布はDundursのパラメータのみによって定まるが、軸対称ではDundursのパラメータは同じであっても3つ目のパラメータに応力分布は依存し、界面端部に、二次元では特異性、応力集中が生じない材料の組合せであっても、軸対称では応力集中が生じ得ること等を示し、3、4章における理論的考察結果を数値的に実証している。

 第6章は「結論」であり、第I部の研究の成果がまとめられている。

 「第II部 半無限二次元接合材基本解の導出」は次の6章からなっている。

 第1章は「緒論」であり、第II部の研究の背景、目的、構成をまとめている。

 第2章「基本解導出法の検討(仮想境界設定法の提案)」では、半無限二次元異種接合材中の一点に集中力が働く場合の基本解を求めるにあたっての方法論を検討しており、物体内に集中力が働くとしてそのまま扱う方法では所用の解を求めることは困難であることを明らかにし、問題解析の方法として、集中力の力点と界面端部を含む仮想面を想定し、物体内に働く集中力を仮想面上の集中表面力として扱う仮想境界設定法と名付けた方法を提案している。

 第3章は「Mellin変換面における基本解」であり、ここでは、仮想境界設定法を導入することにより、本来Airyの応力関数の非同次方程式を境界条件、接合条件のもと解かねばならない問題を、同次方程式を解く問題として定式化し、Mellin変換を行ってMellin面における基本解を導いている。

 第4章「Mellin逆変換による基本解の導出」では、3章で求めたMellin面における解を留数定理やローラン展開における諸定理を活用して逆変換し、実座標系における基本解を導いている。またその解に現れる力点や界面端部における特異性を調べ、解としての要件を満たしていることを確認している。

 第5章「得られた解の数値評価に基づく検討」は、得られた解の妥当性を数値的に確認したものであり、均質材としたときMelanの解に完全に一致すること、また幾つかの具体的な材料の組み合わせに対し、得られる解が妥当なものとなっていることを示している。

 第6章は「結論」であり、第II部の研究の成果がまとめられている。

 「総括」では第I部、第II部を通しての本研究の成果、今後の課題がまとめられている。

 以上要するに本論文は、異種接合材料の応力場を扱って行く上で基本となる応力場に対する材料の組合せの影響を特定し整理する一般的なパラメータを導き、それを活用しつつ、BEM解析に有用な半無限異種接合板に集中力が作用する場合の基本解を導いたものであり、今後益々多用される異種接合材の強度評価にあたって寄与するところが大きいものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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