学位論文要旨



No 115124
著者(漢字) 金,传荣
著者(英字) Jin,Chuan Rong
著者(カナ) キム,デンエイ
標題(和) ボクセル情報を利用したマルチスケール被覆法
標題(洋) Multi-scale Cover Method using Voxel Information
報告番号 115124
報告番号 甲15124
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4619号
研究科 工学系研究科
専攻 船舶海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 都井,裕
 東京大学 教授 吉村,忍
 東京大学 助教授 白山,晋
 東京大学 助教授 鈴木,克幸
内容要旨

 FEMやFDMなどの数値解析にメッシュ生成が必要である。ぞのメッシュ生成のプリプロセスに莫大な時間と労力がかかることはまだ統合化のCAEのボルトネックとなっているといえる。この問題を打開するために、メッシュ自動生成法と違う方向で、ボクセル解析法とメッシュレス法が研究されてきて、注目を浴びている。ボクセル解析がボクセル情報から規則的なメッシュを作ることで、プリプロセスが極めて簡単、3次元のどんな形状でも高速的にメッシュを確実に生成できる。けれども、境界表現や精度コントロールなどはまだ研究途上となっている。一方、メッシュ生成を避けるメッシュレス方法として、EFG、PUFEM、hp-Cloudなどが提案されて、メッシュ生成の必要のない新しい解析方法が出てきたが、理論的にも実用的にもまだ課題を抱えている。特に、境界条件の処理、必要な精度の積分の効率、一次独立性の問題などがメッシュレス法の実用化を妨げている。

 最近、FCM法が提案されてきた。FCM法は被覆分布が規則的であるため、プリプロセサスがボクセル解析と同じ簡単で、数学領域と物理領域を分離しているので境界処理がボクセル解析より合理的に有効である、しかも、被覆関数の次数で解析精度もコントロールできる。しかし、今までの研究ではすべての要素が統一的であるため、ローカルで要素のサイズが調整できていない。そのため、場合によってp法より有効なh法が実現できていない。

 本論文では、このFCMの理論枠を一般化した上で、PU(Partition of Unity)による形状関数を作る場合に対して一次独立性を検討し、二つの充分条件を提案した。さらに、ローカルでh法もp法も実現できるように、CLSA(Cover Least Square Approximation)を提案し、ボクセル情報を利用したマルチスケールの被覆法を開発した。

 FCM法は被覆システムで構築されたFCM近似空間でPDEの近似解を求める。被覆システムは数学被覆、物理被覆と被覆関数及びウィンドファンクションに構成されている。数学被覆が物理領域と分離して分布される。ウィンドファンクションで被覆近似を局部化し、PUやCLSAなどの方法で全領域のFCM近似空間を構築する。PDEが数学被覆領域でなく、物理被覆領域上で満足されることで、近似解を求める。

 数学被覆

 ⊂Rnを解析領域とし、{}i=1,2,…,NC を次の条件を満たすカバーとする。

 

 上で関数空間()を定義する。をこの関数空間の基とする。(,)を数学被覆と、を数学被覆領域という。

 物理被覆

 ∂の境界及び不連続面とする。数学被覆領域が∂でKi個の子領域ikに分割された場合、(ik)を物理被覆領域と呼ぶ。各子領域に対してKi個の近似関数を定義し、被覆関数と呼ぶ。

 i番目の物理被覆をと書き、相当の被覆関数を次のように書く。

 

 すると、各物理被覆上で次のローカルの近似空間が構築できる

 

 (,)を物理被覆と、iを被覆関数と呼ぶ。

 グローバル近似

 被覆のローカル近似からグローバル近似の構築方法として、本論文ではPU法とCLSA法を用いる。一般的に、次のように記述する。

 

 ここで、Pがローカル近似空間からグローバル近似空間への映写である。P より構築したグローバル近似空間が次の条件を満たさなければならない。

 

 V⊂VN()が解析に必要な関数空間である。たとえば、H1

 ,hはメッシュサイズである。

 ウィンドファンクション

 グローバル近似関数空間を構築する時、被覆関数の局部化と被覆間の結合とのために、被覆ごとにウィンドファンクションを定義する。PU法では、重み関数wiを用いる。CLSA法では、influence degree function wi(あるいは重み関数と呼ぶ)とlocalization factor function iを用いる。

 PU法と一次独立性

 PU法でグローバル近似関数が次のように作られる。

 

 通常の線形重み関数を用いるときに、グローバル近似関数の一次独立性が失われる可能性があることが判った。それに対して、本論文では一般的な充分条件を挙げたほか、より実用的な重み関数でのもう一つの充分条件を提案した。

 CLSA法

 CLSA法はメッシュレス法の一種である。ある点で近似値を求める時、次の汎関数を用いる。

 

 ここで、

 

 J(a())を最小化することにより、a()が決められる。

 

 a()をu1(x,)に代入して近似を求める。

 本論文では、CLSA法のinterpolatoryや一次独立性などの性質を分析した。

 被覆は、マルチスケールのボクセル情報を利用してマルチスケール的に分布される(図1)。これに三つの利点がある。まず、分布生成(メッシュ生成)が完全自動的に確実に実現できる。そして、多数の要素がまったく同じパラメータを持っていることを利用して、要素グループの概念(図2)を導入し、計算時間とメモリのコストを下げることが可能となる。つまり、一つの要素グループに対して、要素剛性マトリクスの計算が一回だけで、保存も一つだけである。更に、ボクセルのサイズで被覆分布の疎密度をローカル的に調整し、解析精度を向上することができる。ボクセル情報で生成したマルチスケールの被覆分布の中に不適合要素が存在する。この不適合要素を処理するために、CLSA法を導入したのである。

図表図1 Multi-scale cover distribution using multi-scale voxel information / 図2 Element Group

 弾性解析にボクセル情報を利用したマルチスケール被覆法を適用し、解析例題でマルチスケール被覆法の実用性を示した。図3は一つの二次元の例題で、図4は一つの三次元の例題である。

図表図3 mesh and Computed result of y for a2D plate with hole / 図4 mesh and computed result of u for a 3D plate with hole
審査要旨

 本論文は,「MULTI-SCALE COVER METHOD USING VOXEL INFORMATION(ボクセル情報を利用したマルチスケール被覆法)」と題し,7章から成っている。

 第1章は,緒言で,本論文の背景,目的について述べている。本研究は,3次元構造物の解析法として近年注目を集めているボクセル有限要素法にもとづいており,ボクセル有限要素法の問題点の一つである,解析精度をローカルにコントロールできないという問題を,有限被覆法(FCM)を用いることによって解決している。

 第2章では,有限被覆法(FCM)の理論の枠組みを再構築し,Bubskaらが提案しているPU法に対し、ボクセル被覆を用いて解析する手法を考案した。被覆関数が1次以上の場合、重み関数として1次関数を用いると近似関数間の独立性が失われることを示し、近似関数の1次独立性が保たれるための重み関数の十分条件を数学的に証明し、具体的にボクセルカバーのPU法に使える2つの重み関数を提案している。また,本章では,提案された重み関数を用いてボクセル被覆関数の次数を調整することで,解析精度をローカルにコントロールできることを示している。

 第3章では、従来のPU法の適用では困難となるマルチスケールのボクセル解析に有限被覆法を適用することを試みている。この問題を解決するために,マルチスケールのボクセル情報を利用した新たなメッシュレス法(Cover Least Square近似法)を提案している。従来の様々なメッシュレス法の研究の問題点を指摘すると共に、被覆ごとに異なる最小自乗近似を行うことによって、マルチスケールのボクセル被覆に対して近似関数を構築する手法を提案した。さらに、その手法により求められた関数は補完性(近似関数がカバーの中心でその値を通る性質)、連続性(被覆関数、重み関数と同じ次数の連続性を持つ)、再現性(被覆関数の多項式を厳密に再現できる)、および1次独立性を持つことを示している。

 4章においては、このCover Least Square近以法をマルチスケールのボクセル解析の枠組みで行う手法について提案し、具体的なアルゴリズムを示している。また、エレメントグループの考えを導入することにより大幅に計算時間及び必要な記憶容量を削減できることを示している。

 5章では,静弾性問題に対する具体的なインプリメンテーション、およびシステム化が説明されている。CADの形状データファイルを読み込み、解析結果を表示するまでを自動化する手法が述べられている。

 第6章では,ボクセルデータを利用したCover Least Square近似法の解析例を示し,本方法の有効性を検証している。本方法を用いれば,従来の有限要素法では良好な精度を得ることが困難であった非常にメッシュサイズ比が大きい問題に対しても良好な精度が得られることや,従来のボクセル有限要素法では解析が不可能であった,部分的にボクセルの大きさが異なる問題についても十分な精度で解析が可能であることを示している。

 第7章は結論と今後の展望が述べられている。

 以上を要約すると,本論文では,ボクセルデータを利用したCover Least Square近似法という新たなメッシュレス解析法を提案し,その有効性を検証しており,この方法は従来解析が困難であった複雑な形状の3次元ソリッドに対する解析手法として非常に有望であると思われ、本論文の内容は,計算工学の発展に資するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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