本論文は、「レーザ誘起蛍光法による大気圧放電プラズマ中のOHラジカルの測定」と題し、発振波長可変クリプトンフッ素エキシマーレーザ(KrF)励起でのレーザ誘起蛍光法(Laser Induced Fluorescence)を大気圧力下でのパルス放電によって形成されるプラズマ診断に用いたものであり、全体で6章から構成されている。 第1章は、序論であって、本研究の背景、特に、大気圧力下でのOHラジカルの役割がどのようなものと考えられるかを示し、そのために有効と考えられる診断技術をまとめてある。光学的測定法がいくつかあるが、本研究で用いた波長でのLIFは絶対値測定にも適した手法であることなどを示している。 第2章には、本研究で実際に使用した測定装置の概要が示されている。基礎原理、OHラジカルの測定される遷移、エキシマレーザ測定の特徴などが示され、現実の装置の詳細が示されている。特に、提出者自らが開発した装置における各種ラジカル信号の時間変化は、強く環境に依存することなどが示された。また、マイクロ秒単位のOHラジカル2次元分布の測定システムなどが詳細に示されている。 第3章では、クリプトンフッ素エキシマレーザを用いたOHラジカルの計測をパルス性アーク放電に適用した例について詳細に記述されている。従来から報告されいる火炎でのOH観測結果と比較すると、パルス放電でのOHラジカルの形成量はきわめて少なく、また、時間変化も大きいことから、どの信号がいかなる原因によるものかを同定するために実行された実験結果が中心に記述されている。また、この研究中に、同じ構成のLIF測定によって鉄原子の検出が容易なことがわかった。当初、鉄原子からの信号が強すぎて細かい情報が判別できなかったほど、きわめて高感度であることが判明した経緯なども示されている。 第4章は、パルスアーク放電によって形成されたOHラジカルの挙動を正確に測定した結果をまとめたものである。まず、放電後、3-40マイクロ秒後にOHラジカルの量は最大となること、2次元分布によると、放電経過後、時間とともに次第にOHラジカルが広がる様子が観測されている。また、ガス条件によって、拡散により広がる場合と、両電極に向かって広がる場合があることが確認されている。また、この間、励起された一酸化窒素によるLIF信号が分離測定され、今後、放電によるNO自身の変化をしることがでるものと期待される。また、湿度、負性ガスの存在などによるOHの発生量、OH濃度が最大となる発生時間の違い、減衰時定数の大幅な違いなど従来知られていない多くの現象が明らかとなった。OH領域の広がり方にも特徴が認められ今後の研究成果が期待できる。更に、様々な有機物による影響なども詳細に検討されており、今後、反応機構の解釈に利用されるものと期待されている。 第5章は、アーク放電ではなく、非熱平衡プラズマを作り出すストリーマ放電やバリア放電によって形成されたOHラジカルの計測に成功したことが報告されている。この場合、OHの密度が少ないこと、ストリーマの発生は再現性がないことなどからデータ処理に一段と工夫が要求され、SN比の向上に勤めた結果測定可能となった。アークの場合と異なり、放電直後にOHラジカルは最大で時間と共に減衰すること、ストリーマの発生場所とOHラジカルの発生場所がほぼ同期していること極性依存性があることなどが確認されている。特に、後者のためには、それまでの多数回の観測画面を平均化していたのに対して、一回の放電でのきわめてSN比の小さい画面から可視化に成功したものである。 第6章は、結論でそれまでの成果をまとめたものである。 以上を要するに、本研究は、KrFエキシマレーザ励起によるレーザ誘起蛍光法を大気圧のもとてサブマイクロ秒パルスにて発生させたプラズマの診断に応用可能なことを実証したもので、プラズマ中のOHラジカルや励起一酸化窒素の二次元分布の時間変化などを定量的に測定できることを明らかにし、放電プラズマ中での各種化学反応機構を解明する上できわめて有効な手法を開発したものであり、放電プラズマ工学上貢献するところが少なくない。 よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。 |