従来のコンピュータ技術と通信技術では、それらを連携してトータルなサービス機能を得ようとすると、互いに制約があった。半導体技術によって実現されるコンピュータは、情報の処理速度とメモリ容量が飛躍的に増加してきた。一方、通信技術におけるデータ(情報)の伝送速度は光ファイバによって、やはり飛躍的な向上がなされた。これらの二つにより新しく生まれた技術が、ATM(Asyn-chronous Transfer Mode)である。ATMは、情報通信革命をもたらす情報スーパーハイウェイの中核の技術であるため、ATMに対しての研究が盛んである。ATM網における交換技術や管理、制御技術の進歩により、広帯域、マルチメディア、マルチポイント通信が今後の通信サービスとして期待されている。一方、無線通信網においても、最近のアンテナ、信号処理技術の進歩により、高速大容量化が進められ、マルチサービス提供への要求が高まっている。このような要求は、移動端末の小型、高機能、省電力化により、ますます高くなり、今後の無線通信網でも、音声情報のみならず、動画像、データ情報等のあらゆる表現メディアをあらゆる速度で統合的にサービスできる広帯域、マルチメディア通信が期待される。ATM網と無線通信網は各々独立分野として研究され、発展して来たのが今までの現状であり、最近、それらの統合的管理、制御機能に関する研究、いわゆる"無線ATM網"に関する研究が盛んである。 「無線ATM」とは、有線ATM網への無線アクセスを実現することで、有線系の端末と"質的"に同様のサービスを無線リンクの移動端末に提供することを目指すものである。しかし、無線ATMの実現に向けては解決すべき技術的問題が多く、世界中の研究機関でその研究が進められている。 有線ATM網では、ユーザの要求品質であるQoSを保証しながら、資源を有効に使用するため、サービスクラスとトラヒックパラメータを設け、様々なトラヒック制御を行っている。そのサービスクラスの中で、最も注目を浴びているクラスがABR(AvailableBit Rate)であり、ABRサービスクラスのトラヒック制御は輻輳制御を行う。今まで提案された輻輳制御は、レートベース制御とクレジットベース制御に大きく二つに分けられる。しかし、両方式は長所と短所があり、LANからWANまであらゆるネットワークに適用することは様々な問題点が残っている。本論文の目的の一つは、ネットワーク規模に関係せず、ユーザのQoSを保証できる方式としてRCFC(Rate and Credit Flow Control)方式を提案し、既存の両方式と比較性能評価により提案方式の優れた点を検証する。 また、無線ATM網の設計において二つの課題がある。一つは、マルチメディアサービスは高速データレートを要求していあるが、無線リンクでの高速化は課題である。もう一つは、移動端末がマクロセル間を移動した場合、短時間内にATMのコネクションを再設定することが課題である。本論文の目的の一つは、端末が移動した場合、トラヒック特性によりハンドオーバ方式を動的に適応する。動的ハンドオーバ方式を提案し、ハンドオーバ間のATMセルの順序保障、ハンドオーバの処理時間の短縮、移動ユーザのQoSを保証することを検証する。 本論文のもう一つの目的は、有無線を統合したATMネットワークで、ABRトラヒックの幅輳制御に対する研究である。有無線統合したATM網では、有線区間と無線区間の様々な状況の違いがあるため、有線区間と無線区間を分け、有線区間ではRCFC方式を適用し、無線区間では動的割当方式を適用する。具体的には、有線区間と無線区間のネットワーク状況を適切にフィードバックさせ、送信端末や仮想端末で伝送速度を制御することにより、ユーザのQoS(セル廃棄率、セル遅延、セル遅延変動など)の保証とユーザ間の公平性、バッファの節約、スループットの向上を図るような方法を提案し、検証する。本論文の主な構成は次のようである。 第3章で、無線ATMにおける技術的な課題である、移動性に関して位置管理とハンドオーバ方式について概説し、その課題を解決するための動的ハンドオーバ方式を提案する。動的ハンドオーバ方式の設計について検討を行う。図1に動的なハンドオーバ方式を示す。 第4章で、有無線ATMにおけるABRトラヒックの輻輳制御の設計を行う。まず、有無線区間の課題を上げ、その解決策として有線区間でのRCFC方式の設計と、無線区間での動的割当方式を設計する。有無線区間を分け、制御方式を適応するため、基地局をVS/VDスイッチとして設計を行う。図2に有無線統合ATM網でのVSVD方式の適用を示す。 図表図1:動的なハンドオーバ方式 / 図2:ABR輻輳制御のVSVD方式の適応 第5章で、有線区間でのRCFC方式、無線区間でのハンドオーバ方式、無線区間でのチャンネル動的割当方式に関してシミュレーションモデル、評価項目について述べ、各方式に対して比較評価を行い、結果について述べる。最後に、有無線区間でのVSVD(Virtual Source/Virtual Destination)方式を適用した方式について性能評価を行い、結果について述べる。 有線ATM網でのABRトラヒック制御方式として、本論文で提案したRCFC方式とレートベース制御方式であるEPRCA方式、クレジットベース方式であるVCFC方式との比較シミュレーション評価を行った。現在、レート制御の問題点として提起されている輻輳が激しいときのセル損失率は、近距離の場合起きやすいことと、クレジット制御の問題点として提起されている遠距離での伝搬遅延により、制御情報の遅れがセル損失を防ぐためにスイッチでの莫大なバッファを要求することで、リンク間距離を変化しながら三つの方式でのスルーブット特性、平均セル転送遅延時間、セル損失率、スイッチでのバッファの総要求量、ABRトラヒックソース間公平性、バックグラウンドトラヒックであるCBRの音声トラヒックのスループット特性と遅延などを求めた。同じように帯域の利用率を変化しながら、輻輳度に対しての様々な特性を求めた。 シミュレーションを行った結果、近距離の場合、EPRCA方式ではセル損失の発生を防ぐことが難しいことと、RCFC方式とVCFC方式ともに距離に関係せず、セル損失率をゼロに保証できることが明らかになった。遠距離の場合、EPRCA方式はセル損失の発生が落ちることと、VCFC方式よりバッファの要求量も少なくなり、平均セル遅延時間も短くなったことでクレジットベース制御より優れた方式であることが証明された。VCFC方式はスルーブットが近距離に比べ落ちないが、遠距離ためクレジットを受け取る時間が掛かり、バッファにセルが溜ることで総バッファの量が大きく要求される。また、バッファでの待ち時間が長くなり、平均セル転送遅延時間が長くなることで遠距離では他の方式よりスイッチ製作値段とスイッチの複雑性で問題になることが明らかになった。RCFC方式は輻輳が起きた場合、ネットワークの輻輳情報を送信端末へ知らせ、転送レートを下げることで、スイッチでのバッファに溜るセルの数を減らし、バッファ内の待ち時間を短くするため、VCFC方式よりスイッチでの総バッファ量も減らすことと平均セル遅延時間も短くすることで遠距離でEPRCA方式と同じくらいスループット、バッファ量、平均セル遅延時間であることが明らかになった。また、三つの方式ともにバックグラウンドの音声トラヒックを優先的に送ったことが明らかになった。 無線ATM網で端末が移動することにより生ずるハンドオーバ処理に対して提案方式である動的ハンドオーバ方式を検証するため、接続拡大方式と部分再設定方式を様々なシミュレーションパラメータを用い、比較評価を行った。その結果、接続拡大方式はハンドオーバの処理時間が短くでき、セルの損失率が少なく、バッファの要求量も少ない。しかし、余分の資源(帯域)を多く使う。また、全体のパスの長さが長くなり、エンドツーエンド間の遅延が大きくなる。セル損失に厳しいABRトラヒックはこの方式が相応しいが、大きいトラヒックと高速のトラヒックの場合、資源面で不利である。遅延に厳しいVBRトラヒック対しではこの方式は相応しくない。一方、部分再設定方式はピボットスイッチを決めるのに時間がかかりハンドオーバ処理時間が長いためセル損失率とバッファの要求量が大きい。しかし、一回パスを再設定すれば遅延の問題はなく、資源の無駄も少ない。セル損失に厳しいABRトラヒックには不利である。遅延に厳しく、ある程度セル損失は受容できるVBRトラヒックには相応しい方式である。有無線統合ATM網でのABRトラヒックのエンドーツーエンドー間の制御方式に対して比較評価を行った。 第6章で、無線区間での動的ハンドオーバ方式を適用する時、ABRトラヒック場合、接続拡大を、遅延と資源の使用の課題があり、その課題を解決するため、2段階ハンドオーバ方式を検討する。 本論文の意義は、有線ATM網でのABRトラヒック制御方式としてRCFC方式を提案することにより、ネットワークの規模や使用状況に関係せず、適用できることを検証した。また、無線ATM網での移動端末のハンドオーバ処理のため動的ハンドオーバ方式を提案することにより、VBRやABRトラヒックのQoSを保証できることを検証した。また、有無線統合ATM網でのABRトラヒック制御方式としてVSVD方式を用い、有線区間ではRCFC方式を適用し、無線区間では動的チャンネル割当方式を適用することにより、有無線区間を関係せず、エンドーツーエンド一間の輻輳制御を実現した。 |