学位論文要旨



No 115148
著者(漢字) 李,正根
著者(英字)
著者(カナ) リー,ジョングン
標題(和) 広帯域半導体光増幅器の為の多層反射防止膜の設計及び製作
標題(洋) Systematic Design and Fabrication of Multilayer Antireflection Coatings for Broadband Semiconductor Optical Amplifiers
報告番号 115148
報告番号 甲15148
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4643号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 神谷,武志
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 荒川,泰彦
 東京大学 助教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 土屋,昌弘
 東京大学 助教授 高橋,琢二
 東京大学 助教授 山下,真司
内容要旨

 現在の光ファイバ通信技術は過去約十年間目覚しい進歩を遂げ、通信コストの節減、通信容量の劇的な増加、及び通信ネットワーク・サービスの質と構造の革新をもたらした。基本的に通信というのは、送信機、通信媒体、及び受信機という三要素で構成されており、光通信の場合はそれぞれ半導体レーザ、光ファイバ、及びフォートディテクタで代表される。一方、長距離に渡る情報容量への高まる要求は微弱な信号を単純に増幅するのみならず様様な多重化技術を必要とするこの二なり、光増幅器が生れるようになった。

 半導体光増幅器(SOA)は現在もっとも注目を浴びている光素子で、光スイッチ、波長変換器、及び光再生器等の光機能性デバイスを実現する為に重要な役割を担っている。アレー集積が可能であって、更に広帯域に渡って高性能を発揮するという点でこのような分野で魅力を感じさせているのである。

 転送容量が10Gbit/sを超える新しい光ネットワークのデザインにおいて、特に時分割多重(TDM)技術や波長分割多重(WDM)技術が用いられている場合、全光型信号処理はその重要性を増している。この中で全光波長変換は、周波数の再利用や信号のルーティングなどを用いるWDMネットワークの最適化にもっとも強力な技術である。SOAは、強い非線形性、超小型,集積化可能、及び媒質が有する利得等から波長変換において有効な候補である。

 高性能・広帯域SOAを実現するためには、成長技術の他に三つの技術が必要である:(1)広帯域に渡って端面の反射率を極限まで下げる為の多層反射防止膜の有効なデザインツール、(2)高い再現性を持つ精巧な蒸着技術,及び(3)半導体レーザ媒質の利得スペクトル全域に渡って反射率を正確に評価できる高信頼性の測定技術。特に、実際の製作の観点から見ると、(3)の測定技術はコーティングやSOAの正確な評価のみならず、蒸着プロセスのリファインメントやデザインへのフィードバック等に欠かせない重要な要素である。本研究は、このようなSOAの高性能化を図るために、理論設計から製作、及び評価までをシステムチックに行ったものである。

 光フィルタの製作は、まず目的とする性能を満たすコーティングのデザインから始まる。この工程は、既知のコーティング物質の屈折率から各層の最適膜厚を求めるアルゴリズムを用いている。SOA製作の最初段階として光素子の為の広帯域多層反射防止膜の新設計アルゴリズムを提案した。コーティングの構造は二種類のみの物質の交互堆積でかくそうの膜厚は非1/4波長の厚さである。1.5m帯のGaInAs/AlGaInAs MQW半導体レーザ端面への四層反射防止膜(ARコーティング)のデザインで、数値計算を用いてパラメータ空間にマッピングしたところ反射率1x10-5以下の帯域幅が100nmを超えるコーティングのデザインが得られた。

 成膜においては、電子ビーム(EB)蒸着機を導入し、TiO2とSiO2を用いて蒸着を行った。しかし、TiO2/SiO2多層膜システムでこの二種類の物質の屈折率が膜厚や層によって異なることが判明した。従って、最適化された理論デザインは実際の製作においてはイニシャルデザインとして、成膜のリファインメントを行った。コーティングの再現性はもう一つの大事たファクタであって、我々はデザインの面ではなく成膜の面から再現性を保つ方法を研究した。こういったリファインメントの技術と再現性を保つメンテーナンスの相互結合で、二層ARコーティングにより1x10-6代の最小反射率と約50nmの帯域幅(反射率1x10-4以下の)が再現性良く得られ、1.3と1.5m帯の高性能MQW SOAを製作できるようになった。1.5m帯のSOAに対しては更に四層ARコーティングを行い、100nmを超える帯域幅が得られた。

 ARコーティングされた半導体レーザの端面反射率を測定する方法として一般的に用いられるのはHakki-Paoli方法である。しかし、この方法には様様な問題点が抱えられており、より信頼性の高い測定を目指して半導体レーザの自然放出光を最小二乗方により解析する新評価方法を開発した。用いられたモデル式は屈折率分散に対する一次近似と共に自然放出と利得スペクトルに対する放物線近似を表す八つのパラメータを含んでいる。コーティング後の測定データに対してゾーンフィッティングを行うことにより階段式の反射率スペクトルが得られる。フィッティング解析とその結果得られた反射率スペクトルの信頼性は様様た物理パラメータの値の妥当性、注入電流依存性、及びエクストラポレーションの再現性等から確かめられた。耐ノイズ性を持ち、広いスペクトル範囲に渡って応用できること等から、この新方法は既存の自然放出光解析方法に大きな改善をもたらしたといえる。

 以上の研究の結果、二層と四層ARコーティングを用いて、1.3と1.5m帯の高性能MQW SOAの製作に成功した。1.3m帯のInGaAsP MQW SOAは120mAの注入電流で26dB以上の最大利得と62nm以上の3-dBバンド幅を示した。これは斜め構造や窓構造を介しない垂直入射でARコーティングのみで製作したSOAの中ではベストデータである。1.5m帯のデバイスも同様に高い性能を示した。

審査要旨

 本研究は「Systematic Design and Fabrication of Multilayer Antireflection Coatings for Broadband Semiconductor Optical Amplifiers(広帯域半導体光増幅器の為の多層反射防止膜の設計及び製作)」と題し、英文で書かれており、全6章からなる。

 第1章はIntroduction(序論)であり、大容量光情報ネットワークにおいて広いスペクトル帯域を利用する波長分割多重(WDM)方式が重要であるが、コンパクトで機能性の高い半導体光増幅器を広帯域化すればさらに顕著な進歩が期待されることを述べている。ついで半導体レーザに反射防止膜を施して共振器特性を抑えた進行波型光増幅器開発の経緯および種々のデバイス機能に関する研究を要約している。さらに反射防止コーティング技術の現状を展望し、システムの要求に応えるには傾斜端面および活性領域端部の窓構造化との組み合わせが必要とされているため、アレイ化、集積化が困難となっていることを指摘している。この問題を解決するため、多層誘電体膜の最適設計によって反射スペクトルの広帯域化を図り、またこれを実際に製作し、精密な評価を施すことにより、広帯域光増幅器を実現することを本研究の目的としている。

 第2章はNovel Design Theory of Broadband Multilayer Antireflection Coatings(広帯域多層反射防止膜の新設計理論)と題し、広帯域の反射防止膜を形成するには多層膜の採用が有利であることを述べ、従来のアドミッタンス整合条件に基づく設計理論を要約した後、新しい最適設計理論を提唱している。新設計法では許容最大反射率以下に収まる波長幅を評価関数と定義し、パラメータ空間においてそのマッピングを行い、最適パラメータ群を決定するものである。1.5ミクロン帯で4層膜を用いた最適設計では反射率10-5以下の帯域幅100nm以上が実現可能と予想している。

 第3章はRefined Fabrication and Reproducibility Maintenance of Multilayer Antireflection Coatings(多層反射防止膜作製法の改良と再現性の確保)と題し、電子ビーム蒸着装置を用いたSiO2/TiO2多層膜を再現性良く成膜するための条件について述べている。最も重要な点は膜屈折率が膜厚、および下地条件の関数であることでおる。まず2層連続蒸着における屈折率変化のデータベースを作成し、それを参考にしながら最適膜厚をフィードバックによって求める手法を開発している。また蒸着器内部のクリーニング工程が再現性の確保に重要であることを指摘している。これらによって反射防止膜の最小反射率を10-5以下で形成できるようになった。

 第4章はNovel Characterization Technique for Reflectivity Evaluation of Antireflection Coated Laser Diodes(反射防止膜付き半導体レーザの新しい反射率推定法)と題し、従来の標準的な反射率推定法であるHakki-Paoli法[増幅された自然放出光(ASE)スペクトルに現れる振動のピーク値と谷値の比較からレーザ媒質の利得スペクトルおよび端面反射率を推定する方法]では高品質の反射防止膜に対しては十分な精度が得られないことを指摘し、新たに8ケのパラメータを用いて自然放出および利得スペクトルを表現し、理論的に予想されるASEと実験データの最小2乗誤差フィッティングによってパラメータを決定すると同時に端面反射率を求めるアルゴリズムを開発した。これを実際に適用し、10-5以下の反射率を精密に推定する確証を得ている。

 第5章はHigh Performance Broadband Semiconductor Optical Amplifiers(高性能広帯域半導体光増幅器)と題し、以上の設計法、製作法及び評価法を適用することによって半導体光増幅器の特性改善を図った過程を詳しく記述している。最大利得26dB帯域40nmの光増幅器を実現し、また波長可変レーザと外部共振器型モードロックレーザの動作測定によって反射防止膜改善の効果を検証している。

 第6章はSummary of the Thesis(論文の総括)であり、得られた成果をまとめるとともに、将来の課題を指摘している。

 以上のように、本研究はコンパクトで集積化の可能な広帯域半導体光増幅器を実現するために必要とされる広帯域多層反射防止膜について検討し、新しい設計理論の構築、膜形成法の改善、精密反射率スペクトル推定法の開発を行うとともにこれらに基づいて高性能の光増幅器を実現したもので、電子工学、ことに光エレクトロニクスに貢献するところが多大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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