No | 115177 | |
著者(漢字) | 中坊,嘉宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカボウ,ヨシヒロ | |
標題(和) | ビジュアルフィードバックのための超並列・超高速ビジョンシステムの研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 115177 | |
報告番号 | 甲15177 | |
学位授与日 | 2000.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4672号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 計数工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,視覚フィードバック情報を用いてロボットの高速な制御を行うビジュアルサーボの研究が注目されている.ところがこのように制御の高速性を高めていくと,対象やロボットの運動に対応して,センサ,アクチュエータ,制御系を一体としたシステムのダイナミクスについて考慮し,適切に設計することが必要となり,従来のビジョンシステムではこの要求を満たすことができなかった.特に問題となるのは従来のシステムがビデオ信号の利用を前提として設計されている点で,視覚情報をビデオフレームレート(30Hz)以上でフィードバックすることが困難であった. このような問題に対して,本論文ではビジョンシステムとビジュアルフィードバック制御におけるダイナミクスの問題の重要性を指摘し,この観点から,ビジュアルフィードバックを目的とした処理の構造とシステムの構成を総合的に検討し直し,これに基づくトップダウン設計を行って,実際のシステム構築を行った. 具体的には,まず従来のビジュアルフィードバックの手法におけるサンプリングレートの問題を指摘し,動的なビジュアルサーボの実現のためにビジョンシステムに求められる性能について考察した.またアクティブビジョンについても動的な制御の概念を導入して,アクティブビジョンの動特性がビジョンシステムの設計に大きく関わることを示した. さらにこの議論にもとづいてビジョンシステムの設計を行い,従来の画像転送の問題を解決するものとして完全並列と列並列という2つの異なる伝送方式と,多数の画像センサと処理部を1対1に対応させた完全並列処理を特徴とする新しいビジョンシステムの提案を行い,実際にシステム構築を行った. この結果,両システムにおいて超並列・超高速での画像処理を実現し,1msという従来にない超高速ビジュアルフィードバックを可能にした.また画像については,列並列伝送を利用したシステムで128×128画素という高解像度を実現した.さらに,ビジュアルフィードバックのためのビジョンシステムに不可欠な要素として,システムコントローラや特徴量抽出のための専用回路をシステムに組み込み,これを新しく開発した高速アクティブビジョンに搭載してターゲットトラッキングを行って,高速かつ動的な制御を可能にする新しいビションシステムを実現した.構築したシステムの外観を図1に示す. 論文では,高速ターゲットトラッキング,汎用画像処理などの実験により,従来のビジョンシステムの限界を打ち破る超並列・超高速ビジョンの重要性を明らかにした.これはビジョンシステムを構成する全ての要素について,それぞれの要求仕様を明らかにし,トップダウンの設計を行った結果である. 最後に,新しいビジュアルインピーダンスの概念を提案し,その理論の詳細を示した.ここでは,これまでビジュアルフィードバックで見られなかったタスクレベルでの望ましいダイナミクスを与える制御法について,視覚においてもこれが有効となることを明らかにし,実際に衝突回避とはめあいという具体的な例に適用し,実験によりその有効性を示した. | |
審査要旨 | 本論文は、「ビジュアルフィードバックのための超並列・超高速ビジョンシステムの研究」と題し、5章より構成されている.自律的でロバストなロボットを実現する上で、視覚情報を用いたロボットの制御が欠くことのできない要素として広く認識されており、特に、画像からリアルタイムに抽出した特徴量をもとにサーボループを構成して制御を行うビジュアルサーボの研究が盛んである.このような高速リアルタイム性を特徴とする制御では、対象やロボットの運動に対応してセンサ、アクチュエータ、制御系を一体としたシステムのダイナミクスを考慮し、ビジョンシステムを含めた適切なシステム設計がなされる必要がある.ところが従来のビジョンシステムでは、このような設計がなされておらず、その結果、視覚によるロボットの動的かつ高速な制御の実現を妨げる本質的な問題を抱えている.本論文は、このようなビジュアルフィードバックによるロボットの動的な制御を目的として、実現性の高いビジョンシステムの設計を行い、実際にこの設計に基づいたシステム構築し、新たに提案した制御手法とともに実際の高速制御に応用して、構築したシステムとビジュアルフィードバックの有用性を示したものである. 第1章は「序論」であり、ビジュアルフィードバック、アクティブビジョンの実現を目的とした高速ビジョンシステムについて著者の考えを述べ、本論文の目的と構成を記述している. 第2章は、「ビジュアルフィードバックのモデル」と題し、本論文で提案するビジョンシステムのアーキテクチャに関して基本的な考え方を述べた上で、従来のビジョンシステムが抱えていた本質的な問題として、画像のサンプリングレートの制限を指摘するとともに、その結果として従来のアクティブビジョンやビジュアルサーボの手法が、実際には準静的な形でしか実現されていないことを指摘している.同時に、ビジュアルサーボ並びにアクティブビジョンの一般的な処理モデルを提示している. 第3章は、「ビジョンシステムの構成」と題し、動的なビジュアルフィードバックを実現するための処理構造を明らかにし、これに適したビジョンシステムの具体的なアーキテクチャを提案し、実際に2つの異なる方法によるシステム設計と製作を行っている.1つは、光検出器とプロセッシングエレメントとの間の完全並列接続を用いたシステムで、16×16画素に対して1msのサンプリングレートを実現している.もう1つは光検出器アレイとプロセッシングエレメントアレイの間の列並列接続を用いたシステムで、128×128画素に対して8bitグレースケールという高解像度、高階調化を実現している.また、それぞれのシステムを用いて高速ターゲットトラッキングを実現し、その有効性を検証している. 第4章は、「ビジュアルインピーダンス」と題し、試作した高速ビジョンシステムを利用した、環境に動的に対応するロボットの新しい制御方法を提案している.すなわち、高速ビジョンの導入により、視覚情報をロボットダイナミクスに直接結び付けることが可能となり、その例としてインピーダンス制御の枠組みを導入したビジュアルインピーダンスという新しい制御方法を提案している.この方法では、画像に含まれるパターン情報を利用した特徴量として仮想表面と仮想接触ベクトルを定義し、これを直接ロボットのダイナミクスと結び付けるインピーダンス制御を導入することにより、実際の接触を伴わず、視覚だけから接触と同様な効果を実現する新しい制御の枠組みを構築している. 第5章は「結論」であり、本研究の成果がまとめられている. 以上要するに、本論文は、高速視覚情報を用いて対象の動的な制御を実現する視覚情報処理システムのアーキテクチャを提案するとともに、具体的にシステムを構築し、アクティブビジョンシステムとして、高速ターゲットトラッキングやビジュアルインピーダンスを実現し、その有効性を示したものである.これにより、従来のビジョンシステムのボトルネックを解消し、ビジュアルフィードバックの新たな可能性を示したものとして、関連する分野の研究の発展に貢献するとともに、計測工学の進歩に対して寄与することが大であると認められる.よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54737 |