学位論文要旨



No 115186
著者(漢字) 野木,直行
著者(英字)
著者(カナ) ノギ,ナオユキ
標題(和) 同位体ボロンの単結晶育成とフォノン物性
標題(洋)
報告番号 115186
報告番号 甲15186
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4681号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 山脇,道夫
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 助教授 関村,直人
 東京大学 助教授 浅井,圭介
 東京大学 助教授 長崎,晋也
内容要旨 第1章緒言

 非金属元素の同位体組成を変えることで、フォノンに関連する物理的性質に、特徴的な同位体効果が現れることが期待される。ボロンは、19.8at%の10と80.2at%の11Bのわずか2種類の安定同位体で成り立っている。軽元素であるため、2種類の同位体質量比は約10%と大きく、同位体分離された原材料が入手し易い。結晶構造に着目すると、単位胞中には、副格子として強共有結合性の二十面体クラスタをもち、高融点、高硬度な物質群を構成している。

第2章本研究の目的

 単結晶育成により、同位体組成比の異なる、高品位なボロン結晶(熱的に安定な-菱面体晶相:-rh.B)を得ること、得られた試料を用いて、-rh.Bにおけるフォノンの、光学及び音響モードに及ぼす同位体効果に関する知見と、機構解明を目指す。具体的に、光学フォノンに対しては、赤外、或いはRaman活性モードを、音響モードについては、熱伝導度を考察する。

第3章同位体組成を調整したのボロンの単結晶育成

 3-1はじめに ボロンの融点は約2365Kと高く、高温活性である。帯溶融(FZ)法は、溶融帯が表面張力により保持されるため、坩堝が不要である。-rh.Bの単位胞は六方晶で表すとa=1.0944nm、c=2.3811nmである。フォノン同位体効果のみを浮き彫りにするために、構造欠陥を抑え、同位体組成の異なる高品位で大型の単結晶試料を準備することを目的とした。

 3-2実験

 3-2-1 原料棒及び種結晶の準備 99.5%10B濃縮、99%11B濃縮、同位体混合(50%10B+50%11B)、同位体混合(70%10B+30%11B)及び天然ボロン原料棒を粉末冶金法により準備した。出発物質は、99.5%10B濃縮多結晶粉末、99.5%11B濃縮多結晶粉末を、天然ボロンは、純度:99.9%の多結晶粉末を用いた。同位体混合には、上記濃縮粉末を化学量論組成にもとづいて適宜混合したものを用いた。円柱状に圧縮整形し、約1600Kで、BN或いはTa坩堝中で真空焼結したものを原料棒とした。種結晶は、FZ溶融によって得た多結晶から、ラウエ法により<0001>方向(六方晶系表示による)を有するグレインを用いた。

 3-2-2 単結晶育成 キセノンランブ(最大出力:6kW)による近赤外光を加熱源とするFZ炉を用いて育成を行った。透明石英反応管中に原料をセットし、管内を排気した後、純アルゴンガスを流し続けた。育成パラメタは以下の様である。

Table 1 Crystal growth parameter of -rhombohedal boron

 3-2-3 結晶性の評価 育成結晶は、概観接写、電子顕微鏡、断面の光学顕微鏡、並びにX線ラウエ法による成長方位の確認により、巨視的に評価された。GDMS並びにICPMSによって、同位体組成比及び化学不純物分析が行われた。

 3-3 結果と考察 FZ法による単結晶育成を行い、平均サイズとして直径約10mm、長さ3.5cm結晶ロッドを得た。組織観察からクラックや結晶粒界は存在しないことがわかった。また成長方位については、育成方向に垂直な断面のX線ラウエ写真から<0001>方向が優先成長方位であることがわかった。同位体組成分析については以下のTable 2に示したように、5種類の異なる同位体組成をもつボロンの-菱面体晶相を得た。それぞれ10B(93at%)、11B(99at%)、天然(19.8at%10B)、42%10B及び70at%10Bである。Table 3中の化学不純物に関しては、金属元素は微量である。一方、軽元素(C、N、O)は、金属元素に比べてやや多く含まれていた。これらは高温活性であることから、原料棒作製の段階で混入したものと考えられる。尚、後述の赤外分光で明らかとなったが、42at%10B及び70at%10B結晶は、Ta固溶体が形成された結晶であることがわかり、ボロン固溶体という別の一面を考察することになった。以上、フォノン物性を実際に測定するために十分な品位とサイズを併せ持つボロンの-菱面体晶相の結晶を得ることができた。

図表Table 2 Isotopic composition of isotope-modified boron crystals by grow discharge mass spectrometry(GDMS). / Table 3 Impurities in -B105 crystal rods with the isotopic composition modified
第4章菱面体ボロン結晶における赤外反射スペクトルの同位体濃度依存性

 4-1 はじめに 同位体組成比の異なる-rh.B単結晶試料を用いて、赤外反射分光を行い、得られた赤外活性なモードの周波数に関する、同位体組成依存性を探ること、及び各振動モードから、得られた-rh.Bの結合力に関する知見を得ることを目的とした。尚、第3章で述べたが、赤外分光に供した結晶には金属固溶体TaxB105も含まれており、これらについても純粋な-rh.Bのスペクトルと対比させながら検討を行う。

 4-2 実験

 4-2-1 -菱面体ボロンの光学活性モード -rh.B(R3m)の光学モード(optical mode)に関して、波数ベクトル:k〜0で許される既約表現は以下のようである。

 

 ここで、A2u、とEuはそれぞれ赤外活性モードでありA1gとEgはラマン活性モードである。

 4-2-2 赤外反射分光測定 同位体組成比を変えた-B105の赤外反射スペクトルをFTIR分光測定した。同位体組成比は、それぞれ、10B濃縮(10B:93.2at%、11B:6.4at%)、11B濃縮(11B:99.0at%、10B:1.0at%)、天然同位体組成(10B:19.8at%、11B:80.2at%)、同位体混合(10B:70.0at%、11B:30.0at%)及び同位体混合(10B:41.6at%、11B:58.4at%)である。前者3種類が純粋-rh.B結晶で、後者2種類は固溶体TaxB105である。試料は2種類の面方位(0001)及び(1010)を有する。測定分解能は2〜4cm-1である。アルミニウム単結晶或いは金蒸着膜を参照信号に使用した。

 4-3 結果と考察 Figure 4-1は10B濃縮、11B濃縮、天然B並びに42at%10B、及び70at%10Bの5種類の試料による赤外反射スペクトルを、K-K変換した光学活性TOフォノンの波数依存性である。赤外光の偏光成分EuにはA2uが、E⊥にはEuモードが対応する。但し、偏光を用いていないためA2uモードは厳密にはEuモードも含まれている。古典解析による天然-rh.Bの赤外活性なフォノン分散関係と赤外活性TOフォノンのピークに一致した。

図表Fig.4-1(a)2(),imaginary part of dielectric constant from Kramers-Kronig (K-K) analysis of the reflectivity(A2u-mode). / Fig.4-1(b)2(),imaginary part of dielectric constant from Kramers-Kronig (K-K) analysis of the reflectivity (Eu-mode).

 純粋-rh.Bの赤外活性TOフォノンの考察

 古典調和振動子モデルでは、モード周波数:kは、

 

 ここでk.K及びMはそれぞれ波数、結合力定数及び質量、cは光速である。(1)よりKが一定ならば、振動は調和的である。11Bの波数を基点とした場合、10B濃縮結晶の周波数の実験値は、

 

 に一致し、天然-B105結晶(10B:19.8%)の波数も、11Bの波数と10Bの波数を結ぶ直線上に存在した。故に、天然-rh.B結晶の光学モードは調和的であり、周波数のずれは、平均質量数のみに依存していると考えられる。A2uモードの、1230cm-1付近に存在する、単一B原子の結合力定数は、約520N/mであった。波数650cm-1〜1100cm-1は、B12(準)分子の振動であるF1uが、Davydov分裂により、8本のA2uとEuモードが生じることによる。これらA2uとEuモード対応するFig.7中の、の傾きから、結合力定数はわずかに異方的であった。二十面体間の振動を表す650cm-1以下の振動モードにおいてはほぼ等しかった。線幅の広がりに関してもA2uモードの1250cm-1付近に存在する単一B原子によるピークの比較を行った結果、天然ボロンのピークにおいて、非調和崩壊による広がり以外にisotopic disorderに起因すると考えられる広がりが見られた。

 TaxB105の赤外活性TOフォノンの考察

 42at%10B並びに70at%10Bの2種類、すなわちTa固溶体(TaxB105)については、-rh.Bの格子間原子収容サイト:A1-hole(pos.6c),E1-hole(pos.6c),D-hole(pos.36i)のいずれかにTaが固溶していると考えられる。どのサイトに占有しているのかという点に関しては、過去の報告(H.Werheit et al.,1990)の金属固溶例からDとA1である可能性がきわめて高い。

 これらを純粋な-rh.Bとの比較を兼ねつつ、それらのスペクトルを以下の3つの波数領域に分けて、詳細に議論する。

 (1)k〜1250cm-1(ユニットセル中央の単一B原子position:3b)(A2u-modeのみ)

 (2)1150cm-1>k>650cm-1(サブユニットB12内部振動)

 (3)k<650cm-1(B12-B12間(サブユニット間)の振動)

 (1)では、42at%10B並びに70at%10Bいずれのスペクトルとも、ピーク幅はブロードで、ピーク位置も純粋-rh.Bの調和近似から予想される値に比べ低波数側ヘシフトしている。これに関しては、D-holeを占有したTaによりc-軸に沿った単一B原子の伸縮振動がc-面方向に力を受けて分裂することによる線幅広がりと、重い元素の混入による振動数低下のための低波数側へのシフトであると解釈できる。

 (2)においては、やはりD-holeへの金属混入により、二十面体内振動に幾つかの影響が現れている。例えば、純粋な-rh.Bにおける一本のスペクトルが、2つに分裂していると解釈できるモードが存在した。但し、ピーク重なりも多いため厳密に全てのモードにおいてという訳ではない。またA1サイトへのTa混入も考えられ、前者と併せて、両サイトへのTa固溶による影響ではないかと解釈できる。

 (3)の領域においては、きわめて鋭い2つのピークが、現れており、これについてはクラスタ-クラスタ間(B28-B-B28等)の間に存在するA1サイトへの侵入原子による影響が支配的であると考えられる。

第5章-菱面体ボロンの熱輸送特性における同位体依存性

 5-1はじめに 同位体組成比の異なる3種類の-rh.B単結晶(93at%10B、99at%11B及び天然同位体組成)を用いて低温熱伝導度測定を行い、熱伝導度:(T)に及ぼす同位体効果とその原因となるフォノンの同位体による散乱効果について考察することを目的とした。

 5-2実験 測定は定常熱流(steady heat flow)法により行われ、測定温度範囲は液体He温度付近から150K程度である。測定に用いた温度計はC.G.Rである。尚、結晶試料に対する熱流の向きはc-軸に平行である。

 5-3結果と考察:Figure 5-1は今回測定を行った3種類のボロン結晶試料に対して、定常法により測定した熱伝導度の温度依存性である。温度約41Kで最大値をとり、天然ボロンのは約419W/mKであった。93at%10B濃縮試料においては、の最大値は570W/mKに達し、これは天然試料よりも約40%上昇している。これは-菱面体晶型のボロン結晶の熱伝導度における最高値である。また99at%11B結果については550W/mKとやはり熱伝導度は上昇した。熱伝導度に及ぼす典型的な同位体効果は、天然Bに対する11B濃縮試料によく現れている。すなわち、濃縮効果が現れるのは、最大値の付近においてであり、その前後においては、両者の曲線はほぼ一致している。これは天然B中において、不純物としての10Bが除去されたことによる濃縮による上昇を示している。一方10B濃縮結晶に対しては、同位体濃縮効果による熱伝導度上昇と共に、天然Bとは逆比的な、全く異なる組成をもつことによって、天然Bと11B濃縮試料の熱伝導度曲線が一致し始める高温側においても、まだ一致せず、さらに高い熱伝導度を示していると考えられる。すなわちフォノン-フォノン相互作用が、天然Bと11Bで類似しているのに対して、10B濃縮結晶では10%近い軽核からなる格子振動の影響が、この差を生じさせていると考えられる。

 この結果についてCallaway modelを用いて考察を行った。

 格子熱伝導度は以下の式で表される。

 

 -1、及びは、それぞれフォノンの速度、フォノンの平均自由行程、フォノンの散乱緩和確率及び物質のデバイ温度(-rh.Bでは1300K)である。x≡t1lkBTである。Cはデバイ比熱である。散乱確率-1は以下のように仮定される。

 

 同位体散乱として以下のKlemensによる以下の仮定を導入する。

 

 fjとMjはそれぞれj番目の同位体の濃度及び質量であり、Mは平均質量である。項は同位体の質量分散を表している。Figure5-2より10B濃度が約52%の混合比で最小になる。フォノン平均自由行程が混合により短くなることが示されている。同位体以外の点欠陥的因子による影響は非常に微少とみなした。以上より、-rh.Bの、10B:99.9%濃縮及び10B:50%結晶熱伝導度を計算した(Fig.5-1中の点線及び破線)。最大値付近では、実験結果をある程度示している。高温において、定性的にフィットをおこなった結果、(T)∝T-1が良く成り立つことがわかった。

図表Fig.5-1 Thermal conductivity of isotope-enriched and natural -rhombohedral boron crystals by steady heat flow method. The dotted and dashed lines indicate theoretical curve based on Callaway model. / Fig.5-2 The variance of the isotopic composition for boron based on Klemens’ postulate.
第6章結論

 ボロン結晶のフォノンに及ぼす同位体効果とその機構解明を目指した。そのために、同位体組成比の異なる5種類の-B105の帯溶融法による育成を行った。得られた結晶の結晶性は良好で、サイズも実際にフォノン物性測定を行うのに十分であった。

 上記結晶を用いての赤外活性フォノン測定では、調和近似を用いた結合力定数、光学的異方性といった知見に加え、42at%10B、70at%10BのTa固溶体における振動数特性といった知見も併せ得た。また同位体効果の見込まれる低温熱伝導度測定を行い、フォノンの平均自由行程の増大による、同位体濃縮による熱伝導度上昇効果を観測でき、既存の理論模型など用いて総合的に評価し、11B濃縮結晶の熱伝導度上昇は主に点欠陥散乱の軽減によるもので、10B濃縮結晶では、前記理由に加えフォノン-フォノン散乱における格子原子の主体が、11Bから10Bに置き換わったことが支配的な要因であると結論づけた。

 (1)N.Nogi,T.Hirano,K.Honda,S.Tanaka,and T.Noda:J.Surf.,Analys.,Vol.4,No.2,280(1998).

 (2)N.Nogi,S.Tanaka,T.Noda,T.Hirata:Solid State Commun.,Vol.111,No.8,447(1999).

 (3)N.Nogi,T.Numazawa,S.Tanaka,and T.Noda:Mater Trans JIM,Vol.40,No.9,950(1999).

 (4)野木,野田,田中:日本金属学会誌第63巻 第9号 1157(19999)

 (5)N.Nogi,T.Noda and S.Tanaka Solid State Chem,Submitted

審査要旨

 非金属元素は、その同位体組成を変えることで、とくにフォノンに関連する物理的性質に特徴的な同位体効果が現れることが期待される。ボロンは、19.8at%の10Bと80.2at%の11Bという2種類の安定同位体で成り立っていること、軽元素であるため、2種類の同位体質量比が約10%と大きく同位体効果が際立って現れることが期待できること、および同位体分離された原材料が入手し易い、という特徴をする。本論文は、単結晶育成により、同位体組成比の異なる高品位なボロン結晶(熱的に安定な-菱面体晶相:-rh.B)を得るとともに、得られた試料の赤外吸収スペクトルの測定と熱伝導度測定を通して、-rh.Bにおける光学フォノン及び音響モードに及ぼす同位体効果を明らかにしようとしたもので、全体は6章と補章から構成されている。

 第1章は緒言であり、ボロンの物理的、化学的性質や結晶構造に関する特徴が述べられるとともに、同位体効果についてまとめられている。

 第2章では、本論文の目的と論文の構成が述べられている。

 第3章では、同位体組成の異なる大型のボロン単結晶試料の作成について述べられている。すなわち、粉末冶金法により調整された99.5%10B濃縮、99%11B濃縮、同位体混合(50%10B+50%11B)、同位体混合(70%10B+30%11B)及び天然ボロンの5種類について、FZ溶融法を適用し単結晶育成が行われている。作成した単結晶試料については、概観接写、電子顕微鏡、断面の光学顕微鏡、並びにX線ラウエ法による成長方位の確認が行われるとともに、DMS並びにICPMSによって同位体組成比及び化学不純物の分析が行われている。その結果、フォノン物性を実際に測定するために十分な品位とサイズを併せ持つボロンの-菱面体晶相の結晶を得ることができた、としている。

 第4章では、第3章で作成した同位体組成比の異なる-rh.B単結晶試料を用いた赤外分光が行われている。得られた赤外活性な振動モードと同位体組成との関係を考察した結果、11Bの波数を基点とした予測値と10B濃縮結晶の実験値が一致することや、天然-B105結晶の波数が11Bの波数と10Bの波数を結ぶ直線上に存在するという実験結果と、赤外振動に関する理論的考察から、天然-rh.B結晶の光学モードが調和的であり、周波数のずれは平均質量数のみに依存していることを明らかにしている。また、各振動モードから-rh.Bの結合力定数の評価が行われている。また、42at%10B並びに70at%10Bの2種類の単結晶試料については、極微量に固溶しているTaが赤外振動モードに対して及ぼす影響が議論され、ユニットセル中央の単一B原子の振動、サブユニットB12内部の振動、B12-B12間の振動に分離して考えることができるとしている。また、赤外吸収スペクトルについての議論を深めるためには、ボロンの微視的構造におけるトータルイメージを把握することが不可欠であることから、量子化学計算を行い、本論文において結晶構造をクラスター的に考えることに対する理論的妥当性を与え、それを補章としてまとめている。

 第5章では、3種類の-rh.B単結晶(93at%10B、99at%11B及び天然同位体組成)に関する低温熱伝導度測定が行われ、熱伝導度に及ぼす同位体効果とその原因となるフォノンの同位体による散乱効果について研究されている。その結果、93at%10B、99at%11B試料の熱伝導度は、約41Kで天然試料よりも40%大きい値をとること、熱伝導度に及ぼす同位体効果は天然Bに対する11B濃縮試料によく現れること、10B濃縮結晶の熱伝導度は高温側においても他の2種類の試料よりも高い熱伝導度を維持することなどを明らかにしている。さらに、Callaway modelを用いた理論的考察が行われ、熱伝導度の温度依存性に及ぼす同位体効果についての半定量的な議論が加えられている。

 第6章は結論であり、本論文をまとめている。

 以上要約すれば、本論文は、ボロン結晶のフォノンに及ぼす同位体効果とその機構を解明するために十分な高品位の単結晶試料を作成し、実験と理論の両面から赤外振動特性ならびに熱伝導度特性に及ぼす同位体効果を明らかにしたものであり、システム量子工学に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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