学位論文要旨



No 115190
著者(漢字) 程,衛英
著者(英字) CHENG,Weiying
著者(カナ) テイ,エイエイ
標題(和) 渦電流探傷法による表面欠陥の定量評価
標題(洋) Study on Quantitative Evaluation of Surface Breaking Flaws by Eddy Current Testing
報告番号 115190
報告番号 甲15190
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4685号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 宮,健三
 東京大学 教授 中澤,正治
 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 教授 上坂,充
 東京大学 教授 前田,宣喜
 東京大学 講師 出町,和之
内容要旨

 渦電流探傷法(Eddy Current Testing:ECT)は低コスト、高速などの優れた特徴を持ち、原子炉配管から航空機の部品に至るまで広い分野で用いられている非破壊検査手法の一つである。たゆまぬ研究の結果、現在では放電加工によってつくられた人工的な欠陥であれば、信号から欠陥形状の再構成を行うことが可能となっている。

 ECT研究における最終的な目標とは、加圧水型原子炉の蒸気発生器細管に発生した自然欠陥を検出し、得られた信号から欠陥形状を再構成する手法の確立である。実機での欠陥は狭い範囲に集中して発生するという特徴があり、また各々の導電率も未知であるため、数値的な取り扱いは難しい。さらに外部構造物によるノイズの影響も無視できるものではなく、それがまた問題をよりいっそう困難なものとしている。このような現状をふまえ、本論文ではECT技術の高度化のために

 ・複数の欠陥による信号の定量的評価およびそれらの逆問題解析手法の確立。

 ・線形磁性体を含む体系における渦電流解析を行うための数値解析コードの開発。

 という2つの主題に沿って研究を行った。現在のECT研究の大きな流れとして、ひとつには欠陥の検出とその定量的評価、もうひとつには適用分野の拡大というものがあるが、これらはそれぞれ前者、後者に対応づけられるものである。

 本論文は5つの章から成る。まず第1章においては、主に原子炉蒸気発生器細管の渦電流探傷試験への適用という立場から本研究の背景および目的が述べた。続く第2章では、モデリング、数値解析、逆問題解析、そして信号処理というECTにおいては欠かすことのできない4つの技術それぞれについて、それらの理論的背景の解説が行われている。特に重要である数値解析手法については、A-法支配方程式に基づいた有限要素法-境界要素併用法、体積積分法、そしてこれら2つの手法を発展させた高速順問題解析手法の3つについて詳細に述べている。また、信号の計算手法については、ファラデーの法則、ビオサバール則、そしてローレンツの相反定理に基づくアプローチそれぞれについて解説した。

 第3章と第4章が本研究の主な成果である。

 第3章は主に複数欠陥の定量的評価という問題を取り扱っており、信号解析、信号処理、そして逆問題解析という大きく分けて3つの研究から成っている。A-法に基づいた有限要素法-境界要素併用法の数値計算コードによる数値解析の結果、近接した2つの欠陥による信号は互いに干渉し単純な重ねあわせは成り立たないということ、その影響は欠陥間の距離とともに指数関数的に減少するということなどが明らかになった。また、このような複数欠陥の問題に対しては今回新たに製作された差動式の4センサー型のプローブが有効であることが判明した。さらに、複数欠陥の問題を取り扱うためにフーリエ変換を利用した欠陥の分離手法を提唱し、欠陥の数、位置、および各々の長さを容易に推定できることを示した。最後に、複数の欠陥の形状再構成が行われている。欠陥は板状の導電率0の領域として取り扱われており、その境界を決定づけるパラメータベクトルに対し、共役勾配法を用いた反復計算によって最適化を行う。複数の欠陥を再構成する際には複数の走査線上からの信号を用いることが有効であることが判明し、本手法によって複数の欠陥それぞれの位置、形状ともに高精度での再構成が可能であることを示している。

 第4章では磁性体問題についての研究結果がまとめられている。従来の数値解析コードでは、例えば磁性材料からなる蒸気発生器細管支持板部や管板部などでの問題は取り扱うことができなかった。このような条件を克服するため、今回新たにベクトルグリーンの定理を用いてA-法支配方程式を離散化し、磁性体問題の境界条件を考慮にいれた数値解析コードを開発した。ベンチマーク問題を用いた検証の後、蒸気発生器細管支持板部に発生した欠陥についての数値解析を行った。得られた信号は支持板からの雑音を含むものであったが、多周波数演算法を用いて欠陥信号のみを抽出することで、逆問題解析が可能となることを示した。本章の最後で、ローレンツの相反定理に基づいて磁性体中の欠陥を評価する試みについて述べる。

 本研究のまとめは最終第5章に述べられているが、その主なものを列挙すると以下のようになる。

 ・近接した欠陥は互いの信号に影響をおよぼしあい、それゆえ単純な加算則は成立しないということを数値解析の結果から具体的に示した。

 ・新しく開発された差動式4センサー型プローブが分解能という点で優れており、複数欠陥の検出には有効であることを示した。

 ・欠陥の数、位置、そして長さを容易に決定できる欠陥分離手法を開発した。

 ・データーベース法を用いて複数の欠陥の同時再構成を行った。

 ・要するに、磁性体を考慮することのできる数値解析コードを開発し、支持板部に発生した欠陥についての数値解析およびその再構成方法を確立した。

審査要旨

 本論文では、加圧水型原子炉の蒸気発生器細管に発生した自然欠陥を検出し、得られた信号から欠陥形状を再構成することを最終目標とする渦電流探傷法(Eddy Current Testing:ECT)研究の高度化を目指し、

 ・複数欠陥による信号の定量的評価およびそれらの逆問題解析手法の確立

 ・線形磁性体を含む体系における渦電流解析のための数値解析コードの開発という2つの主題に沿って研究を展開している。

 本論文は5つの章から成る。まず第1章においては、主に原子炉蒸気発生器細管の渦電流探傷試験への適用という立場から本研究の背景および目的が述べられている。続く第2章では、モデリング、数値解析、逆問題解析、そして信号処理というECTにおいては欠かすことのできない4つの技術について、それらの理論的背景の解説が行われている。特に重要である数値解析手法については、A-法支配方程式に基づいた有限要素-境界要素併用法、体積積分法、そしてこれら2つの手法を発展させた高速順問題解析手法の3つについて詳細に述べている。また、信号の計算手法については、ファラデーの法則、ビオサバール則、そしてローレンツの相反定理に基づくアプローチのそれぞれについて解説している。

 第3章と第4章が本研究の主な成果である。

 第3章は主に複数欠陥の定量的評価という問題を取り扱っており、信号解析、信号処理、そして逆問題解析という大きく分けて3つの研究から成っている。A-法に基づいた有限要素-境界要素併用法の数値計算コードによる解析の結果、近接した2つ以上の欠陥による信号は互いに干渉し単純な重ねあわせは成り立たないということ、その影響は欠陥間の距離とともに減少するということなどが明らかにされている。また、このような複数欠陥の問題に対しては今回新たに製作された差動式の4センサー型プローブが有効であることを検証している。さらに、複数欠陥の問題を取り扱うためにフーリエ変換を利用した欠陥の分離手法を提唱し、欠陥の数、位置、および長さを推定している。最後に、複数欠陥の形状再構成が行われている。欠陥は板状の導電率0の領域として取り扱われており、その境界を決定づけるパラメータベクトルに対し、共役勾配法を用いた反復計算によって最適化を行っている。複数欠陥を再構成する際には複数の走査線上からの信号を用いることが有効であることを確認し、本手法によって複数欠陥それぞれの位置、形状がともに高精度で再構成できることを示している。

 第4章では磁性体問題についての研究結果がまとめられている。従来の数値解析コードでは、例えば磁性材料からなる蒸気発生器細管支持板部や管板部などでの問題は取り扱うことができなかった。このような条件を克服するため、今回新たにベクトルグリーンの定理を用いたA-法支配方程式の離散化、及び磁性体問題の境界条件を考慮にいれた数値解析コードを開発し、ベンチマーク問題を用いて検証した後、蒸気発生器細管支持板部に発生した欠陥についての数値解析を行っている。得られた信号は支持板からのノイズを含むものであったが、多周波数演算法を用いて欠陥信号のみを抽出することで、逆問題解析が可能となることを示した。本章の最後で、ローレンツの相反定理に基づいて磁性体中の欠陥を評価する試みについて述べられている。

 第5章は本研究の結論であり、以下のようにまとめられている。

 ・近接した欠陥は互いの信号に影響を及ぼしあい、それゆえ単純な加算則は成立しないということを数値解析の結果から具体的に示した。

 ・新しく開発された差動式4センサー型プローブは分解能の点で優れており、複数欠陥の検出には有効であることを示した。

 ・欠陥の数、位置、そして長さを容易に決定できる欠陥分離手法を開発した。

 ・データーベース法を用いて複数欠陥の同時再構成を行った。

 ・磁性体を考慮することのできる数値解析コードを開発し、支持板部に発生した欠陥についての数値解析およびその再構成方法を確立した。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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