学位論文要旨



No 115193
著者(漢字) 杜,文博
著者(英字)
著者(カナ) ドゥ,ウェンボ
標題(和) 制御破砕成形によるアルミナ線材の再焼結性に関する研究
標題(洋) Resintering Behavior of the Alumina Wire on the Route of Controlled Fracture Forming Process
報告番号 115193
報告番号 甲15193
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4688号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 相澤,龍彦
 東京大学 教授 林,宏爾
 東京大学 助教授 幾原,雄一
 東京大学 教授 香川,豊
 東京大学 教授 影山,和郎
内容要旨

 典型的な長繊維強化金属基複合材料(Metal Matrix Composite:MMC)の作製プロセスとして,浸透法と鋳造法及びfoil-fiber-foil法,プラズマスパッタリング法と物理気相沈積法などが挙げられる。これらのプロセスの特徴は,高温において金属マトリックスと強化繊維の拡散結合により固化されることとセラミック繊維そのものの製造が必要である。さらに,鋳造法は熔点が低い金属マトリックスに限られる。foil-fiber-foilなどの法は成形圧力によってセラミック繊維が破壊し易いことである。これらの問題点を克服するために,制御破砕成形(Controlled Fracture Forming:CFF)プロセスが提案された。

 CFFプロセスは冷間塑性加工法を利用して,金属被覆材の拘束の下で強い圧縮応力を作用させながら,セラミック材料を破砕し流動させて,その微視的構造の改善及びnear-net shapingできる新たな成形プロセスである。この方法を用いて,セラミック強化MMCを作製できる。アルミナが高力学性能,安定な化学特性などの優れた特性を持っているので強化材として利用できる。CFFプロセスでアルミナ強化したステンレス鋼基複合材料を製造した。このプロセスには,二つステージがある。即ち,一つはアルミナ予備焼結体をステンレス被覆材に入れて,冷間スウェージングによる複合線材の作製である,もう一つは再焼結によるアルミナ線材の緻密化と金属マトリックスの同時固化である。アルミナ線材は緻密化によってその強度を増加し,金属マトリックスに強化効果を与える。CFFプロセスの特徴は次のように総括できる。(1)簡単でかつ低コストである,(2)アルミナ線材の緻密化と金属マトリックスの固化が同時に進行されるので,アルミナ線材を予備作製する必要がない,(3)金属マトリックスの固化に際して,線材の破壊がないのでその強度が保証される。

 CFFプロセスでMMCを製造する要点は,再焼結によって,緻密で小さい結晶粒を持つ高強度なアルミナ線材を作製できることである。従って,本研究では,冷間スウェージングで作製したアルミナ線材の再焼結性を調べることを目指している。即ち,再焼結におけるアルミナ線材の緻密化,粒成長及び再焼結微視構造の変化する挙動を解明し,支配機構を検討する。そして,冷間スウェージングが再焼結プロセスに与える影響及びCFFで作製したアルミナ線材の力学的特性を検討することも本研究の目的である。

 本論文は八章より構成されている。

 第一章では,本研究の背景と目的を総括した。

 第二章では,冷間スウェージング加工を用いるCFFプロセスにおけるアルミナグリーン線材の圧密挙動,粒子の破砕挙動,そして加工後のアルミナ線直径の均一性を詳細に検討した。

 Al2O3/SUS 304の複合線材が断面積減少率(加工率)98%まで成形でき,加工後の被覆材料にはき裂が無いことが分かった。なお,加工率98%以上の加工も可能であるが,焼結挙動の研究のためには一定以上の試料寸法が必要なので,これ以上の加工は行なわなかった。加工率の増加と共にアルミナは圧密され,98%で約77%の理論密度(TD)に達した。これは冷間加工度を増加させることによりアルミナの破砕と破砕した粒子の流動あるいは再配列によって,大きな気孔が滅小するためと考えられた。一方,冷間加工における被覆材料の塑性変形によって生じる圧縮応力を計算すると,約20%の加工率で圧縮応力がアルミナ単結晶の破壊強度と同じなることが分かった。従って,この高圧縮力によってアルミナの粒子と凝集物が破砕されると考察された。この破砕機構によってアルミナ粒子は加工率の増加と共に減少し,加工率98%の粒子径は予備焼結したアルミナの半分(0.17m)にまで微粒化した。

 CFFプロセスによってセラミック線材強化MMCを製造する場合,被覆金属の中にセラミック線材が均一な太さで連続していなければならない。太さが不均一になると,再焼結時に線材のクラックが生じる。セラミック線材径の均一性を確認するために,相対密度と直径を線材の長さ方向に沿って測定した。その結果,先端部を除いて,アルミナ線材の直径は均一で被覆金属中に連続していることが分かった。

 以上の結果により,冷間スウェージングを用いたCFFプロセスがセラミック材料に対して高いグリーン密度と小さい粒子を持ち,均一で連続な線材を成形できることを明らかにした。この結果は,CFFプロセスでMMCの製作できることを実証した。

 第三章では,加工率98%の冷間スウェージドアルミナ(cold-swaged Al2O3:CS-Al2O3)線材の微視的構造,すなわち気孔の大きさ,分布,形状及び配位数を検討した。これらの因子は,アルミナの再焼結に大きな影響を与えるからである。

 加工率98%がさらに均一な微視構造を作るために必要であることが分かった。このCS-Al2O3の気孔サイズは小さく,そして0.05mから0.45mまでの狭い気孔分布が得られた。これら小さい気孔は冷間スウェージングプロセス中に破砕した粒子の充分な流動と再配列によって,大きい気孔は小さくなると考えられた。さらに,気孔の形状が長くて,大きいアスペクト比を持ち,配位数が12より少なくなった。熱力学によって,これら気孔が再焼結中に収縮しやすいと考えられた。

 一方,EDXの実験によって,加工後のアルミナ線材には,被覆材料の不純物が検出されなかった。これは冷間加工中に被覆材料の内表面層が剥離しでも,アルミナ予備焼結体と被覆金属界面に挿入した純Al箔により破砕アルミナ中に混入が防止されたことを示した。これによって,CS-Al2O3線材の再焼結時にアルミナの緻密化と結晶粒成長に及ぼす被覆金属元素の影響が無視できる。

 本章の結果によって,作製されたCS-Al2O3線材には小さな気孔が均一に分布し,気孔分布も狭い範囲に限られていることを明らかにした。

 第四章では,CS-Al2O3線材の再焼結における緻密化挙動を調べると共に緻密化の支配機構を評価し,緻密化に及ぼす微視的構造の影響も検討した。

 加工率98%のCS-Al2O3線材を1573Kで1h再焼結すると,相対密度98%TD以上に緻密化し,微結晶粒のアルミナ焼結体が得られた。しかし,伝統的な金型で成形したアルミナ(conventionally processed Al2O3:CP-Al2O3)圧粉体は同じ焼結条件で焼結密度が96%TDにで,異常粒成長が見られた。CS-Al2O3線材の焼結性を高めた原因は,小さな気孔と狭い気孔分布がであった。これらの気孔全体が熱力学的に不安定であり,理論的に完全収縮できると考えられた。

 一方,CS-Al2O3線材の焼結動力学の分析結果によって,アルミナ緻密化が結晶粒界拡散に支配されていることが分かった。従って,粒子サイズの減少,即ち全体粒界面積の増加と共に物質拡散が容易に進行できると考えられる。

 これらの結果によって,CS-Al2O3線材は比較的に低温の再焼結で完全に緻密化できると結論できた。

 第五章では,異常粒成長はアルミナ線材の強度を低下させるので,CS-Al2O3線材の再焼結における粒成長挙動を調べると共に粒成長の動力学と制御機構を検討した。

 加工率98%のCS-Al2O3線材は1573Kで1hの再焼結で,アルミナの結晶粒径が0.44mを示した。この値は,同じ条件で焼結したCP-Al2O3の結晶粒径の半分である。そして,CS-Al2O3線材は97.5%TDまでアルミナの粒成長が認められないのに対して,CP-Al2O3は93%TD以上で急速に粒成長することが分かった。以上の結果から,CS-Al2O3線材は再焼結に粒成長が抑制され,微細結晶粒のアルミナ線材が製造できることが示された。

 粒成長の動力学によって,CS-Al2O3線材の粒成長は粒径と時間の関係が立方関係(n=3)を示した。この関係はCP-Al2O3にも認められたが,その粒成長速度がどの再焼結温度でもCS-Al2O3より高かった。CS-Al2O3線材の低い粒成長速度の原因を検討して,CFF加工で得られた均一に分布した小さな気孔が結晶粒界の移動と反対方向に抑制力を与えるため,粒界の移動速度を減少させることが分かった。そして,小さな気孔の数が多ければ,気孔抑制力が大きくなることも分かった。理論解析によって,CS-Al2O3線材の小さな気孔数はCP-Al2O3の約4倍になることが分かった。さらに,気孔の移動度(mobility)と粒界の移動度の比率計算から,CS-Al2O3線材のそれがCP-Al2O3の25倍になった。これによって,CS-Al2O3線材の気孔は結晶粒界に付きやすく,アルミナの異常粒成長を抑制できると考察された。

 これらの結果により,CS-Al2O3線材の粒成長が均一に分布した小さな気孔に抑制されるという気孔粒成長制御機構を明らかにした。

 第六章では,再焼結したCS-Al2O3線材の微視的構造及び気孔の形態はアルミナ線材の強度に大きな影響するので,これらの因子を検討した。

 加工率98%のCS-Al2O3線材は1573K-1hで再焼結した後,ほぼ全体気孔が消滅され,結晶径は均一であった。そして,再焼結温度と時間が増加と共に異常結晶粒が見つかれなかった。しかし,CP-Al2O3は高温で長時間(1723K-5h)の再焼結をして気孔が消滅できず,さらに,異常粒成長が観察された。

 一方,再焼結中に気孔が粒界との相互作用,即ち凝集と粒界から分離することが観察された。CS-Al2O3線材には,96%TDまでに少々気孔凝集が見られた。凝集した気孔が粒界の交差点に存在しているので,粒成長の抑制に有益な影響を与えると考えられた。CP-Al2O3には,大きな結晶の粒界にある気孔が粒界から分離することが観察された。この分離によって,CP-Al2O3の最終焼結密度が制限された。

 これらの結果により,CFFプロセスで均一な微視的構造を持ち,緻密なアルミナ線材が作製できることを明らかにした。

 第七章では,CFFプロセスを用いて作製したアルミナ線材の力学的特性を検討した。

 残留気孔率がアルミナ線材の力学的特性に著しい影響を与えることが分かった。気孔率が2%より小さい場合,ビッカース硬度が2100(21GPa),破壊靭性が4.0MPa・以上,破壊強度が1.1GPaの力学的特性が得られた。

 破断面の観察によって,気孔率は破断モードを制御することも示した。すなわち,気孔率が8%と高いの場合には,破断が粒界破壊モードとなり,即ち,き裂は結晶粒界を沿って発展した。この場合,き裂が粒界に存在する気孔を連結してpore-to-poreのように進展した。気孔率が2%と低い場合には,破断は粒内破壊モードになった。この場合,き裂は結晶粒を横切って発展しなければならない。従って,粒界破壊では破断強度が低く,粒内破壊では破断強度が高くなった。

 一方,CP-Al2O3はCS-Al2O3線材に比べて力学的性能が低下した。その原因は大きい残留気孔の他に,異常粒成長であると考えられた。

 以上の結から,CFFプロセスを用いて優れた力学的性能を持つアルミナ線材を作製することができた。通常の化学製造方法と比較すれば,このプロセスは簡単で,しかもコストが低いなどのメリットが挙げられる。

 第八章は,本研究の総括である。

 本研究ではアルミナを用いたが,得られた結果は他のセラミック材料においても適用できることから,本CFFプロセスは各種のセラミック繊維強化MMCの製造法として期待できる。

審査要旨

 金属基複合材料はセラミック基複合材料とともに、航空機をはじめとして高強度、高機能が要求される構造体に広く使用されている。しかし、その製造プロセスはかならずしもコストパフォーマンスに優れたものとは言えず、特にセラミック繊維強化金属基複合材料に関しては、高強度繊維を高い信頼度で創製できるプロセス研究が不可欠である。本研究は、アルミナ繊維強化複合材料創製に注目し、アルミナ繊維を制御破砕成形プロセスにより製造することで、高いコストパフォーマンスが達成できることを明らかにした。論文は8章からなる。

 第1章は序論であり、市販のアルミナ繊維製造法と製造したアルミナ繊維特性について紹介するとともに、製造法の問題点ならびに制御破砕成形プロセスの長所を総括し、研究課題としてのポイントを示している。第2章は冷間スエージングによるアルミナ線材創製であり、ステンレス鋼SUS316材をシース材料としてアルミナ複合線材を創製している。その中で、冷間加工率に伴う緻密化挙動、粒微細化、均一変形特性などについて検討している。第3章は冷間スエージングにより得られたアルミナ線材の微細組織評価である。アルミナ粉末から直接作製した線材(CP材)と冷間スエージングにより制御破砕成形した線材(CS材)に関してその微構造を調べ、後者ではポアサイズ分布が低粒子径方向にシフトし、また分散も狭く、また配位数分布も同様に低配位数サイドにシフトし、最大配位数もCP材における21から12へと大きく低下していることを明らかにした。これらの特性は後述するように、再焼結特性に大きく影響することになる。さらに、EDSを用いて金属シース材料界面の元素分析を評価位置などを変えて詳細に検討し、この制御破砕成形プロセスでは金属シース構成元素のコンタミネーション(汚染)はほとんどないことを明らかにした。第4章は再焼結プロセスによる緻密化挙動の解明である。冷間加工率変化させて作製したアルミナ線材に対して、ディラトメータにより焼結収縮挙動を詳細に検討し、冷間加工率の上昇にともなって大きく焼結特性が向上していることを実証した。特に、同一温度であれば短時間で高緻密化が計らえることを実験的に明らかにし、その原因としてアルミナ構成粒子径の微細化と配位数分布の狭小化を挙げ、微細なポアでかつ最大配位数<12であるために、焼結が促進されるとしている。第5、6章は再焼結プロセス中の粒成長挙動の解明と再結晶材料組織観察である。アルミナ粒子径の微細化は大きな粒成長を伴うと想像されるが、CS材ではCP材と同様に粒界拡散支配型の焼結挙動を示しながらも、粒成長速度係数が1/6以下となるため、粒成長は大幅に抑制され、顕著な粒成長が観察される相対密度もCP材よりも高密度サイドにシフトすることを明らかにしている。その原因として、冷間加工率増大に伴うポアの微細化・一様分散化を挙げ、再焼結したCP材の微細組織観察により、CP材では大きな粒が観察されず、ほぼ等軸粒組織が実現されていることを明らかにしている。第7章は創製したアルミナ線材の機械的試験評価である。微小硬さ試験ならびに単一の複合線材の引張り試験を行い、硬さ2000Hv以上、破壊靭性値4MPa・m1/2、破壊強度1200MPa以上を得ており、市販アルミナ繊維と同等の力学特性を獲得している。第8章は総括である。

 要するに本論文は、アルミナ繊維複合材料プロセス法として、冷間強加工をベースとして制御破砕成形法の有用性を総合的に検討し、その結果として従来のアルミナ繊維の力学特性と同等の特性値を獲得できることを明らかにしており、材料加工学上の寄与が著しい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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