学位論文要旨



No 115194
著者(漢字) 曺,尚鉉
著者(英字)
著者(カナ) チョウ,サンヒョン
標題(和) セルラ・オートマトン法による凝固組織予測に関する研究
標題(洋)
報告番号 115194
報告番号 甲15194
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4689号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 梅田,高照
 東京大学 教授 佐久間,健人
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 前田,正史
 東京大学 教授 月橋,文孝
内容要旨

 各種鋳造プロセスの凝固組織制御は重要な課題であり,凝固組織予測の必要性が増し,凝固組織予測の試みが活発に行われている.本論文ではコンピュータ計算による金属材料の凝固組織予測方法の開発及び,その際に用いられる核生成・成長に関して検討した.そして,計算中に凝固環境を考慮した核設定法が開発され,凝固組織が計算され,既存の方法と比較された.本論文は以下の6章より構成される.

第1章

 これまでに凝固解析は主に伝熱及び湯流れ計算などのマクロレベルの計算により行われた.それに比べ最近ミクロレベル計算を用いた凝固組織予測が活発になりつつある.また,ミクロレベルの計算は上記のマクロ計算(伝熱計算)と連成されている.ミクロレベルの連成による凝固組織計算は決定論,そして確率論に基づく方法に大別され,現在は確率論が持つ長所から,確率論に基づくミクロ-マクロ計算の連成による凝固組織予測法の開発が進んでいる.確率論が持つ長所としては1)結晶の優先成長方位の概念を考慮,2)熱流方向と結晶成長方向の関係を考慮.3)結晶間の成長競争による結晶間選択(Grain Selection)の考慮などがある.

 また,凝固組織計算に重要である核生成に関しては,今まで核生成を温度,凝固時間などによる関数として扱う方法が報告されている.本章ではこれらの方法が持つ特徴が述べられた上に,既に報告されている凝固組織予測方法の特徴を比較し,本研究の背景を記述した.

第2章

 本研究で開発された凝固組織予測法では以下のことが考慮された.まず,核生成過程において

 1) ガウス分布を用いて,不均質核生成を表現する.

 2) 核生成場所はランダムに決定される.

 3) 核の優先成長方位を考慮する.

 また,結晶の成長過程においては

 1) 結晶の優先成長方位と熱流方向の関係,成長中の結晶間の成長競争,そしてそれに伴う結晶間選択を考慮する.

 2) 結晶成長の駆動力については結晶先端の過冷度を考慮する.

 本章では以上のことを考えた上,マクロの伝熱計算に直接差分法(Direct Finite Difference Method),そして凝固組織計算のミクロ計算にはセルラ・オートマトン法(Cellular Automaton Method)を用いて,両法を連成した凝固組織予測法(CA-DFD)を2次元及び3次元で開発し,その詳細を記述した.そして,CA-DFD法は1)鋳造実験から得られた凝固組織及び冷却曲線と計算結果の比較,2)既に報告されている実験結果と計算結果の比較,3)報告されている計算結果との比較,4)有機物質における結晶間選択に関して実験と計算結果が比較され,いずれの結果からも実際の結果と一致する結果が得られ.CA-DFD法による凝固組織予測が健全であることが検証された.

第3章

 CA-DFDでは核生成に関して,核生成に要する過冷度の平均値とその偏差ならびに各過冷度において生成する核数(密度)がガウス分布により取り扱われた.これは一定の温度区間で連続的に核が生成する連続核生成であり,ガウス分布の内,核生成平均過冷度の偏差を0Kとすることにより瞬間核生成による凝固組織計算も可能となる.しかし,核生成に関する情報(核密度,核生成温度など)は実験から直接に求めることは不可能であることから本章ではCA-DFDを用いてAl-7wt%Si合金の核生成が凝固組織に及ぼす影響の詳細を検討した.結果からは,鋳物表面における核生成パラメータは全体の凝固組織に及ぼす影響は小さく,それに比ベバルクの核生成パラメータは大きく凝固組織を左右することが確認された.特にバルク中における平均核生成過冷度は柱状晶,等軸晶の形成ならびにその遷移に及ぼす影響が著しく,またその偏差は結晶粒の均一度及び粒度比などに影響を及ぼす.また,核生成過冷度の偏差及び最大核密度の変化によって,図1に示すように,広い核生成温度範囲を持つ核生成の場合は,設定核が実際の結晶粒として現れる有効性が半分以下になっていて,また設定核密度が高くなるほど実際に生成する結晶粒への有効性は劣る.これは実際に有効である(核生成する)核数は図1と同様に変化し,生成した核は結晶粒として成長することが確認された.その他,同一の優先成長方位を有する異結晶間では結晶間合体(coalescence)が確認された.その頻度として2次元計算では生成核に対しほぼ10%の結晶間合体が起こり,3次元計算では一旦生成した核のほとんどが結晶粒として成長することが確認された.このことから実際の凝固組織ではほとんど結晶間合体が起こらないと思われる.

Fig.1 Grain number ratio
第4章

 凝固組織における柱状晶,等軸晶の形成に関して,液相金属の温度勾配,または結晶先端の成長速度などから検討した.本章では柱状晶,等軸晶の形成,そしてそれら間の遷移を検討するために一方向凝固による凝固組織が計算・予測された.計算では鋳造温度・抜熱能力,平均核生成過冷度,最大核密度などの変化による凝固組織の変化が検討され,それらの結果が述べられた.また,柱状晶,等軸晶,そして柱状晶-等軸晶遷移に関して,Huntモデルに基づく結果とCA-DFD計算による凝固組織を用いた固・液界面における温度勾配及び結晶の成長速度の関係が比較され,互いに一致する結果が得られた.

第5章

 前章までにCA-DFDによる凝固組織予測を行う際,各種核生成パラメータが持つ意味及び凝固組織への影響が検討された.その結果から核設定・核生成・結晶粒の相互関係が明瞭となった.

 3章と4章では全ての核生成に関するパラメータが計算の初期条件として設定され,計算中においては予め初期条件として設定された核生成パラメータを用いて凝固組織計算を行っている.本章では核生成パラメータを計算中に凝固環境に応じて変更する方法を提案した.すなわち,核生成に関する条件が計算中において凝固条件に応じて設定される逐次核生成設定法(Successive Nucleation Setting Method)を開発し,この方法による凝固組織を予測した.この方法では以前の最大核生成密度の代わりに計算ステップ毎に設定される核生成率Aを導入し,また最大組成的過冷度はバルク中で得られ,成長中の結晶周辺では核生成が難しいことを考慮している.逐次核設定法によって柱状晶,等軸晶および柱状晶-等軸晶の遷移が正しく予測された.更に,以前の計算で初期条件として核を設定する方法が伝熱条件を十分に反映し切れないことに比べ,逐次核設定法による凝固組織では冷却条件の変化に応じて,生成する核の数が変化し,凝固条件を反映する計算結果が得られた.

第6章

 以上の結果がまとめられ,本研究の成果が述べられた.

審査要旨

 凝固組織制御によって材料特性を向上させる必要性が増し,凝固組織予測の試みが活発に行われている.本論文ではセルラーオートマトン法による金属材料の凝固組織予測を試み,核生成・成長,各種凝固組織の生成,新たな核生成法などについて検討し,6章より成る.

 第1章では,既往の研究を概観し,特に核生成に関する取扱法が述べられた.

 第2章では,本研究では凝固組織予測法の開発に当って以下のことが考慮された.核生成過程では1)ガウス分布を用いて,不均質核生成を表現し,2)核生成場所はランダムに決定され,3)核生成の優先方位を考慮し,成長過程では1)結晶の優先成長方位と熱流方向,または同時に成長中の結晶間の成長競争,そしてそれに伴う結晶間選択(Grain selection)を考慮する,2)結晶成長の駆動力には結晶先端の過冷度を考慮した.以上のことを考えた上でマクロの伝熱計算は直接差分法(Direct Finite Difference Method),そして凝固組織計算のためのミクロ計算にはセルラ・オートマトン法(Cellular AutomatonMethod)を用いて,両法を連成した凝固組織予測法CA-DFDを2次元及び3次元で開発し,その詳細を記述した.そして,CA-DFD法による凝固組織予測が健全であることが検証された.

 第3章では,CA-DFDでは核生成に関して,核生成に必要とする過冷度とその偏差ならびに各過冷度における生成する核数(密度)をガウス分布により与えた.核生成に関する情報は実験から直接に求めることはできず,したがって本章ではCA-DFDを用いてAl-7wt%Si合金の凝固組織予測の計算実験を通じ,核生成が凝固組織に及ぼす影響の詳細が検討された.特にバルク中において平均核生成過冷度は柱状晶,等軸晶の形成ならびにその遷移に及ぼす影響が大きく,その偏差は結晶粒の均一度及び粒度比などに影響を及ぼす.結果によると設定する核数に対し,核生成過冷度の偏差及び最大核密度の変化によって,実際生成する核密度は大きく変化する.一旦生成した核は結晶粒として成長できることが確認された.

 第4章では,柱状晶,等軸晶の形成に関して凝固条件との関係で検討した.柱状晶,等軸晶,そして柱状晶-等軸晶遷移に関して,Huntモデルに基づく結果とCA-DFDにより計算された条件とが比較され,互いに一致する結果が得られた.

 第5章では,凝固条件に応じて核生成させる方法を検討した.これまでは,全ての核生成に関するパラメータは初期条件(ミクロ-マクロ速成計算開始以前)として設定されていたが,核生成パラメータを計算中に凝固環境に応じて変更する方法が提案された.すなわち,逐次核生成設定法(Successive Nucleation Setting Method)を開発し,この方法による凝固組織が予測され,以前計算初期のみ核生成の情報が設定される方法による結果と比較された.逐次核設定法によって柱状晶,等軸晶および柱状晶-等軸晶の遷移が正しく予測された.計算には,核生成不可能域を組成的過冷条件から自動的に設定ならびに最大核生成密度の代わりに計算ステップ毎に設定される核生成率Aを導入した.計算初期条件として核を設定する以前の方法が伝熱条件を十分に反映し切れないことに比べ,逐次核設定法による凝固組織では冷却条件の変化に応じて,生成する核の数が変化し,凝固条件を反映した計算結果が得られた.

 第6章は本論文の総括である.本研究は,凝固組織予測法に関して新たな知見を得たもので,金属工学の発展に有益である.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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