侵入型元素フリー鋼(IF鋼)など純鉄に近い組成を有する鋼は,成形性、溶接性、省資源性、リサイクル性に優れることから、今後益々発展することが期待される。しかし、この系の鋼では、相変態前のオーステナイト()結晶粒界が観察しにくいこと、からフェライト()が生じる変態を途中で凍結することが困難なことなどから、相変態挙動に関する研究例が非常に少ない。また、この系の鋼に通常添加される極微量ボロン(B)の挙動も不明な点が多い。そこで、本研究では、まず、高温光学顕微鏡装置による→変態のその場観察、中性子照射にょるBオートラジオグラフィーや電子線後方散乱回折(EBSP)により、純鉄の→変態挙動の詳細、極微量Bの粒界偏析とフェライト粒界の性格との関係を明らかにすることを目的として研究を行っている。ついで、(+)2相域における極微量Bの挙動がほとんど分かっていないことから、2相型IF鋼を用いて、極微量Bの挙動と、実用鋼での添加元素であるシリコン(Si)、りん(P)の効果を明らかにすることを目的として研究を行っている。 第1章は、緒論であり、これまでになされた研究を総括して本研究の目的を明らかにしている。 第2章は、実験方法を述べたもので、自作した高温光学顕微鏡装置の構造および画像や温度の取り込み方法、中性子照射によるBオートラジオグラフィー、EBSP、熱処理方法などが説明されている。 第3章は、純鉄の→変態挙動に及ぼす冷却速度の影響および変態時における粒界と粒との関係に関する研究結果について述べたものである。まず、/相界面の移動速度、変態組織、生成温度、および→変態時間は、冷却速度に大きく依存することを明らかにしている。また、0.5〜18℃/sの冷却速度範囲で、粒が粒を横切って成長する様子が多く観察されることを、はじめて明らかにしている。これらの実験結果に基づいて、純鉄では冷却速度が多少速くなっても結晶粒径が必ずしも小さくならない理由を考察し、純鉄では結晶粒径が大きいこと、/相界面の移動速度がに速いこと、/相界面が容易に粒を横切って成長できることが考えられるとしている。さらに、冷却速度を5℃/sから150℃/sに増すと、粒界における小角粒界と双晶界面の割合が多くなること、150℃/s冷却ではBの粒界偏析が認められないこと、5℃/s冷却では小角粒界と双晶界面にはBの粒界偏析は認められないことも明らかにしている。 第4章は、Fe-1.5mass%Mn基本鋼にSiおよびPを単独添加、複合添加した鋼を用い、2相型IF鋼を域から冷却したときの極微量Bの挙動について詳しく調べた結果を述べたものである。まず、P添加鋼においては、前結晶粒界へのBの偏析の程度が小さく、P無添加鋼では、前結晶粒界へのBの偏析の程度が大きいことを明らかにしている。このことから、前結晶粒界へのPの偏析が、P-B間の反発的相互作用によってBの粒界偏析を妨げている可能性を指摘している。他方、前結晶粒径に及ぼすPとSi添加の影響を調べた結果、両者とも前結晶粒径を小さくするが、その効果はPのほうが大きいことが分かった。このことも、P添加鋼において前結晶粒界へのBの偏析の程度が小さいことに寄与する可能性も指摘している。また、前結晶粒界に偏析していたBの一部が、冷却中に結晶粒界および粒内へ移動することも明らかにしている。 第5章は、前章で用いたと同じ供試鋼を用い、2相型IF鋼の2相域加熱における極微量Bの挙動について詳細に調べた結果について述べたものである。まず、熱間圧延まま材を高温域に加熱すると、熱間圧延まま材に存在していたボライド(Fe3(C、B)、BN)の多くが固溶し、Bは粒界及び粒内へ移動し、空冷のように冷却速度が遅いと冷却中にボライドが新たに生成することを明らかにしている。さらに、そのようなボライドは/結晶粒界には殆ど認められないことから、ボライドは/結晶粒界には生成されにくいことを指摘している。次いで、2相域まで加熱すると、熱間圧延まま材に存在していたボライドはますます減少し、相中および/境界に新たにボライドが生じることを明らかにしている。また、Si、P複合添加以外の鋼においては、2相域での相と相における固溶B量の違いは、あったとしてもごく僅かであることを明らかにしている。これらの結果は、不明のままであるBの極微量域でのFe-B2元系状態図に対して、有力な知見を与えるものである。さらに、Si、P複合添加鋼では、2相域加熱時、固溶Bは相中により多く分配することも明らかにし、この理由を、生成元素であるSi、Pの相への分配とSi-B間およびP-B間の反発的相互作用を考えることにより説明している。 第6章は総括である。 以上を要するに、本論文はIF鋼など純鉄の組成に近い鋼の組織制御に関する多くの有益な知見を提示している。よって本論文は博士(工学)の学位論文請求論文として合格と認められる。 |