本論文は「Al2O3繊維強化Al2O3複合材料の力学特性に及ぼすマトリックス結晶粒の影響」と題し、6章より構成されている。近年、全てが酸化物系材料よりなるオールオキサイド繊維強化セラミックス(以後、OCFCCと記す)が注目されている。本論文は、OCFCCの力学特性に対する理想的な界面、複合化組織などを提案するために実験及び理論的解明を試みたものである。 第1章は序論であり、OCFCCの特性発現機構およびOCFCCの特徴と現状について従来の研究を整理して述べ、OCFCCの特性を有効に引き出すために界面に要求される条件と検討すべき課題を整理するとともに本論文の目的を明確にした。 第2章では、従来からOCFCCの界面制御に最もよく用いられてきたコーティング法による界面制御をOCFCCに適用することの可能性を検討した。炭素をコーティング層に持つSiC繊維強化Al2O3をモデル材料として用い、プッシュアウト試験を用いることにより界面での摩耗を詳細に観察した。その結果、コーティング層表面には滑り方向に平行にスクラッチが発生しており、従来の界面の表面粗さの振幅の減少とは異なる様式のアブレシブ摩耗を受けていることを明らかにするとともに、その結果をもとに界面の摩耗現象の理論モデルを構築した。この理論により、界面の滑り抵抗に及ぼすアブレシブ摩耗の影響を定量的に理解することを初めて可能にした。さらに、コーティングによる界面制御では、界面の摩耗の問題を避けることは出来ないと結論し、従来技術の延長上にない新たな界面制御方法が必要であると結論している。 第3章では、界面制御の研究には結晶粒単位の局所的な応力を破壊の進行中に測定する必要があると考え、短時間で二次元的に結晶粒単位の分解能で応力を測定できる装置を設計、試作した。試作した装置はAl2O3中のCr3+から発生する蛍光のピーク波数がAl2O3に働く応力によって変化することを利用したものである。収束させたAr+レーザー光を多結晶Al2O3試料上で二次元に走査させることにより発生した蛍光を分光し、二次元CCDカメラを用いて検出するという既存の装置にはない新しい機構が導入されている。この装置の実現により二次元の応力分布を短時間で測定することを可能にした。 第4章では、Al2O3繊維強化Al2O3複合材料を対象とし、摩耗の影響を受けない界面制御法として硬さの等しい繊維とマトリックスが直接接触するギャップ界面をMoを利用したフュージティブコーティング法によって形成する界面を提案するとともに、摩耗に対する界面の有効性を検討した。プッシュアウト試験後の滑り界面を詳細に観察した結果、用いた材料の界面は全く摩耗を受けておらず、この界面が摩耗に対して有効であることを明らかにした。ギャップの幅を変化させた結果、ギャップ幅により界面せん断滑り応力を制御できることを示した。さらに、Cr3+の蛍光のピーク波数がAl2O3に働く応力によって変化することを利用して界面近傍に働く繊維半径方向の応力を測定し、界面近傍の繊維軸に沿った応力変化の周期はマトリックスに用いたAl2O3の結晶粒のオーダーと一致していることを明らかにした。この結果から、界面のせん断滑り抵抗は繊維とマトリックス結晶粒の局所的な接触により発生し、また接触点での繊維半径方向圧縮応力はマトリックスの異方性と凹凸の大小によって不均一になっていることを実験的に示した。この結果を発展させ、異方性を持った緻密な多結晶セラミックスをマトリックスとする複合材料では、結晶粒単位のマトリックス微細組織を考慮に入れた界面せん断滑り抵抗の制御が必要であり、従来から用いられている摩擦係数と繊維半径方向の締付け応力を用いた解析では議論が難しいことも明らかにした。 第5章では、第4章で得られた実験結果に基づき、界面でマトリックスの結晶粒と繊維がランダムに弾性接触したモデルを導入し、界面せん断滑り抵抗に及ぼすマトリックスの結晶粒径の影響についてシミュレーションを行った。さらに、その結果を用いて、OCFCCのマトリックス中のクラックが不安定に進展し始める応力とOCFCCの最大引張り応力を求めた。その結果、界面せん断応力を最大にする結晶粒径が存在することが明らかになった。この結果を利用して複合材料中のマトリックスクラックが進展し始める引張り応力と材料の最大引張り応力はどちらも界面せん断応力の影響を受け、両者を最大にする結晶粒径が存在することを示した。 第6章では得られた結果を総括した。 以上を要するに、本論文はオールオキサイド系複合材料の界面制御の手法を実験及び理論の両面から検討し、緻密な多結晶体マトリックスと繊維が直接接触した界面制御法を提案するとともに、複合材料の力学特性を最大にする結晶粒径の最適条件を提案することを通して、複合材料開発の指針を与えるものであり、複合材料工学の発展に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |