学位論文要旨



No 115205
著者(漢字) 朴,永朝
著者(英字)
著者(カナ) バック,ヨンジョ
標題(和) Al/サファイヤ表面活性化常温接合体の力学特性および破壊挙動
標題(洋)
報告番号 115205
報告番号 甲15205
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4700号
研究科 工学系研究科
専攻 材料学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 榎,学
 東京大学 教授 岸,輝雄
 東京大学 教授 相澤,龍彦
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 助教授 市野瀬,英喜
内容要旨 I.緒言

 従来,金属,半導体,セラミックスなどの直接接合は,多くの場合加熱を行うことで接合材料間に拡散や反応を生じさせている.それに対して,表面活性化常温接合法(1)は,超高真空中で清浄かつ活性な表面を作製し,相互接触させることによって接合を実現する新技術として注目を浴びている.ところで,現在までの常温接合についての研究は,主に接合条件を変数とした接合性の解明を中心として行われて,界面形成のメカニズムや破壊挙動についてはまだ十分に研究が行われていないのが現状である.そこで本研究は,常温接合において課題点となっている接触変形の定量化および破壊挙動の力学的考察を目的とした.

II.Al/サファイヤ常温接合体の作製および接合面積率のシミュレーションII.1目的

 常温・低圧・短時間下で行われる常温接合において,両材の接触をもたらす決定的な因子である塑性変形と接合面積率との関係は必ずしも明らかではない.そこで,接合圧力と接合時間を変化させ,接合面積率を変えた試験片作製を行い,シミュレーションの結果と直接観察で測定した接合面積率を比べて,接触変形の定量化を試みた.

II.2実験方法

 供試材および常温接合 供試材として用いた多結晶Al(純度99.999%)は平面研磨処理したものである.研磨の際生じたひずみの除去および接合性向上の目的で,250℃と400℃で30min真空焼鈍(それぞれHT1材,HT2材)を施した.サファイヤはC面が表面粗さRa2.5nmに予め加工されたものを用いた.超高真空中でAr原子を照射し表面層を除去した.接合圧力はHT2材の降伏応力である30MPaより小さい20MPaと,より大きい40MPaとし,接合時間は10minと60minとし,合計4種類を作製した.接合面積率は共焦点型レーザー顕微鏡により,透明なサファイヤ側から直接測定した.

 接合面積率のシミュレーション 圧接の際のAlの塑性変形能と接合面積率の関係を汎用構造解析プログラムを用い,数値シミュレーションによって求めた.Alの表面形状および粗さの周期と振幅は原子間力顕微鏡(AFM)と共焦点型レーザー顕微鏡観察にづいてFig.1のように仮定した.尚メッシュはすべて4節点軸対称要素で構成されるものとした.

Fig.1 Surface Shapes for the Simulation(a)sine(b)saw(c)pot
II.3結果および考察

 250℃で30min焼鈍を施したHT1材は一部に偏った接合面を呈することに対して,400℃で30min焼鈍を施したHT2材は全面的に均一な接合面を有することが観察された,そこで,以下ではHT2材の接合結果について述べる.20MPa接合体(Fig.2(a))で観察される界面欠陥は約10mから100mまでの大きさであり,ほぼ規則的に分布していた.一方,40MPa接合体(Fig.2(b))は90%以上の接合面積率が認められた.HT2材の接合荷重と接合時間による接合面積率の測定値およびシミュレーション結果をFig.3に示す.HT2材の降伏応力より低い20MPaで10min保持した場合の接合面積率は0.56であり,降伏応力より高い40MPaの場合は0.91に上昇した(Fig.3(a)).Fig.3(b)は表面形状がsaw-typeの場合において,外部応力と接合面積率の関係を調べた結果である.HT2材(n=0.4)の場合接合面積率は,接合圧力20MPa(/y=0.67)と40MPa(/y=1.33)においてそれぞれ0.54〜0.58,0.86〜0.94と計算され,実測値とほぼ一致した.また,粗さの周期が同じであれば,振幅が低いほどよい接合性を示す.拡散機構で予測される接合時間(2)よりはるかに短時間で接合が得られ,拡散とクリープが起こりにくい常温接合においては,接合をもたらす決定的な因子は塑性変形であると結論付けられた.

Fig.2 CSLM Observation of As-bonded Joint for 10 Minutes Bonding Time(a)at 20MPa(b)at 40MPaFig.3 Bonded Area Fraction(a)mensured(b)simulated
III.AE法による微視破壊の定量的非破壊評価III.1目的

 反応生成物のない接合体の破壊に伴うAE源は界面破壊と母材破壊に限定される,実験観察と原波形解析の組み合わせにより,微視破壊の定量的非破壊評価を行う.

III.2実験方法

 純度99.5%(2nine)と99.999%(5nine)の2種類のAlを用いて,界面欠陥の分布や寸法の異なる接合体を作製した.き裂進展を容易にさせる目的で厚さ1mのAlフォイルを接合体の界面端に挟んで接合した.今回の研究では伝達関数を原波形が既知であるシャープペンシルの圧折によって実験的に求めた.

III.3結果および考察

 はく離試験を行った結果,90%以上の接合面積率が得られたAl5nineの40MPa接合体ではき裂は進展しなかった.そこで,以下ではき裂進展に伴うAEの検出ができたAl2nineの40MPa(2nine-40MPa材)接合体と5nineの20MPa接合体(5nine-20MPa材)の試験結果を述べる.AE源とき裂進展に対する界面欠陥の影響を詳しく調べるため,き裂進展直後除荷した試験片のき裂先端部観察を行った(Fig.4).両方ともき裂前面の領域で界面はく離による界面欠陥の成長が観察された.破断面のSEM観察で,2nine-40MPa材のサファイヤ側ではAlの接痕が見つからなかったことから,界面はく離のみによってき裂が進んだことが分かった.一方,5nine-20MPa材の場合はAlの接痕がサファイヤ側に観察され,き裂進展は界面とAlの内部をジグザグに進むことが認められた.また,接合まま材の接合面積より小さい接痕により,界面はく離による未接合部の成長・合体が起きたことが推定される.原波形解析(3)の結果をFig.5に示した.割れ速度と割れ半径の分布から2nine-40MPa材の結果は一つの破壊機構,即ち界面欠陥の成長・合体と判断された.一方,5nine-20MPa材の解析結果は三つのグループに分けられた.Group Aは最も高い割れ速度を見せて荷重の低い初期段階から発生していることから,接合の不均一性からできた弱い接合部の界面はく離と考えられる.Group Bは2nine-40MPa材と同じ割れ速度範囲を示していることから界面欠陥の成長・合体を,Group Cは最も低い割れ速度を持つAl自体の破壊に相当する信号であると推定できた.

Fig.4 Lasermicrographs of Propagating Crack Observed through Transparent Sapphire(x700)(a)2nine-40MPa(b)2nine-40MPaFig.5 AE Source Characterization(a)2nine-40MPa(b)5nine-20MPa
IV.Al/サファイヤ常温接合体の界面欠陥成長に関する破壊力学的考察:はく離試験および有限要素法による解析IV.1目的

 常温接合において,多くの場合界面欠陥の存在は避けられない弱点となっている.そこで,界面欠陥を有する接合体のはく離試験と数値計算を行い,破壊機構解明と破壊クライテリオンの導出を試みた.

IV.2解析方法

 実験で測定した破壊荷重での界面欠陥の応力拡大係数は次の二つの方法でそれぞれ導出し,試験での観察と比較することによってその妥当性の検討を試みた.まず,方法Iとしては有限要素のメッシュに界面欠陥を導入しない条件で,主き裂による応力場を計算し,その結果を界面欠陥への境界条件として用い,次式によって界面欠陥の応力拡大係数を求めた.ここで,aは界面欠陥の半径,は異材間の接合体の適合性を特性付ける=(1/2)in((1-)/(1+))のバイメタル定数である.次に,方法IIのシミュレーション方法は,主き裂からの距離(dc)に大きさ2aの界面欠陥を導入し,仮想き裂進展法を用いて界面欠陥成長に伴うJ積分を求めた.この際界面欠陥の塑性鈍化を避ける手段として,接合界面のAl側にはSSVモデル(4)による厚さhの弾性層を設けた.

 

IV.3結果および考察

 主き裂の応力場による界面欠陥成長のクライテリオン 面欠陥がないときの主き裂による応力場を有限要素法で計算して,主き裂から任意の距離にある界面欠陥での応力拡大係数を求めた.界面欠陥成長に関する特性値および定義をTable1にまとめた.臨界大きさである半径5mの界面欠陥を用いて臨界応力拡大係数は0.3MPa m1/2程度と判定された(Fig.6(a)).また,接合まま材の最大欠陥大きさ約30mの欠陥は,こうして求められた臨界応力拡大係数の条件では成長領域は約200mになって,除荷試験片で実験的に観察された臨界距離と一致した.

Table 1 Characteristic Values for the Determination of Critical Stress Intensity Factor

 J積分による界面欠陥成長のクライテリオン SSVモデルの仮定に基づいて,接合界面に沿うAl側の弾性層は母材Alと同じ弾性係数およびポワソン比を有するものとした.このような弾性層の導入は材料に存在する転位の平均間隔を考慮した計算結果から行われた.また,延性材料のき裂先端での塑性鈍化を伴わない応力集中を説明する目的で行われてきた.Fig.6(b)には界面欠陥近傍で行われたJ積分の結果を示した.最大欠陥大きさと実験の破壊荷重から得られる臨界エネルギー開放率は1.3-2.3J/mm2程度となった.サファイヤ単体の破壊エネルギーは12J/mm2であり,界面欠陥の成長は界面に沿う経路を持つことを意味する.

Fig.6 Stress intensity factor(a)and J-integral(b)of 2nine-bonded at 40MPa
V.Al/サファイヤ常温接合体の界面欠陥成長に関する破壊力学的考察:引張り試験および有限要素法による解析V.1目的

 接合性の不均一性の原因を明らかにし,さらに,引張り試験時の破壊源に着目した接合強度と接合性の不均一性の関係を調べた.

V.2実験方法

 接合体界面部の応力場解析を容易にするため直方体の一端を円柱型に加工して接合面とした.引張り試験の際,破壊過程を透明なサファイヤ側からのビデオマイクロスコープで収録し,破壊源の位置判断および破壊荷重の測定に用いた.

V.3圧縮変形および引張り負荷時の界面部応力場の数値計算

 圧縮変形のシミュレーション Alがサファイヤに対して接合圧力で押される時生じる応力場を数値計算した.異材間の圧縮負荷による界面のすべり問題であるため,摩擦形式,摩擦係数および着脱条件を考慮に入れた(6).

 界面欠陥の応力特異の計算 実験で測定された破壊荷重での界面欠陥の応力拡大係数の導出は二つの段階で行った.まず,界面欠陥のない完全接合体において外部荷重による界面部の応力場を計算した.次に軸対称の中心に界面欠陥を導入した要素を構成し,実験の観察で判定された破壊源の位置での応力が,導入した界面欠陥にかかるように境界条件を与えた.

V.4結果および考察

 圧縮変形のシミュレーション結果 半径方向の接合性の不均一の原因として,接合圧力を加えたとき周辺部で高い応力場が生じることが考えられる.これを定量的に求めたシミュレーション結果をFig.7(a)に示した.20MPaを与えたときの値は1よりは小さいものの,周辺部で高い分布を有することから,この部分では塑性変形が中心部より有利であることが推定された.

 接合体の破壊挙動 ビデオマイクロスコープによる連続収録から,破壊源の位置は界面欠陥が多く分布している中心部ではなく,やや周辺部寄りに判明された.Fig.7(b)は外部荷重を加えた時界面部に発生する引張り応力の分布を出した結果であるり,中心部で低く界面端近傍で最大値を有る.実際観察された破壊源の位置は応力場の最大値のところより内部側に移るのは,前章で考察したように周辺部には界面欠陥がほぼ存在しないためである.

Fig.7 Stess developed at the interface(a)compressed for bonding(b)tensile loaded

 界面欠陥成長のクライテリオン 破壊源の位置は中心から約1mmの距離であり,見かけ上の破壊応力がかかったとき破壊源の界面部応力は40MPa程度と計算された.そこで,界面欠陥のない要素構成で中心部が40MPaになるように境界条件を求めて,界面欠陥を導入した要素構成で界面欠陥近傍の応力場を計算した.界面欠陥の応力特異性を次式を用いる近似によって応力拡大係数を求めた.

 

 ここで,Q= log(r/(r+2a))である.近似の結果,K1とK2がそれぞれ0.1MPam1/2とゼロ程度が得られた.モードIIの成分がゼロになるのは界面欠陥を中心に設けたことから予想される結果である.そこで,界面部における引張り応力に対するせん断応力の比を計算した.破壊源の位置である中心から1mmの距離の前後では,その比は2と3の間にあることが認められ,実際の臨界応力拡大係数は,上で得られたK1とその1/3-1/2の値を有するK2を用いて0.15MPam1/2程度と計算された.一方,同じ接合体のはく離試験による臨界応力拡大係数は0.3MPam1/2程度となって,今回の引張り試験による値の約2培であった,その原因として,20MPa接合体の接合面積率は0.6であるため,真破壊応力は見かけ上の破壊応力より大きいことが考えられる.

VI.Al/サファイヤ常温接合体における接触変形による残留応力の破壊挙動への影響VI.1目的

 常温接合体を実製品としての応用を目指す上で,実際の使用環境下での力学特性および破壊挙動を調べることが望まれている.そこで,400℃で熱処理を施した接合体の引張り試験を行い,熱処理による母材および界面欠陥構造変化の観察と接合残留応力を含めた解析を試みた.

VI.2実験方法

 最高温度と保持時間をそれぞれ400℃,30minとする5回の繰り返し熱処理を施した(CHT).これとは別に最高温度は同じ400℃で保持時間を0minとする1回だけの熱処理を施した接合体も用意した(SHT).

VI.3接合変形による残留応力の数値シミュレーション

 接合変形に伴い接合界面,特に界面欠陥近傍には局所的残留応力の発生が推測される.シミュレーションにはFig.1の表面形状モデルを用いた.接合界面の観察結果を基に,圧接により形成された接合面積は除荷後も維持されると仮定した.

VI.4結果および考察

 接合強度の増加 20MPa接合体は,接合まま材の界面破壊から熱処理後には母材破壊に変わって接合強度の増加が認められた.また,熱処理条件に関係なくほぼ一致する荷重変形挙動と引張り強度(Su)を示した.接合強度増加の原因としては,(1)熱処理によるAl母材の力学特性変化,(2))面欠陥構造の変化,(3)接合残留応力の緩和などが考えられる.同じく母材破壊を示す40MPa接合まま材と熱処理した20MPa接合体の引張り強度(Su)はほぼ一致した.熱処理前後に硬さの変化も全くないことが測足され,Al母材の軟化は引張り強度とは直接関係しないことが推測される.一方,熱処理した20MPa接合体における接合強度の増加は,母材の軟化による界面欠陥への応力集中の緩和と考えられた.一方,CHT条件で繰り返し熱処理後の界面観察を行い,界面欠陥の縮小,即ち接合面積率の増加が認められた.その結果40MPa接合体のように,臨界応力拡大係数を越える応力集中を有する大きい界面欠陥が消失し,界面破壊から母材破壊に変わったと考えられた.

 接合残留応力の数値計算および破壊力学的考察 界面欠陥先端に生じる残留応力の特異性を表す応力拡大係数を求め,接合強度に及ぼす影響を破壊力学的に調べた.異種材界面の円盤型き裂による垂直応力場は次式に表れることが知られている.

 

 残留応力はほぼモードIであるため(6),k2はゼロを仮定した.Fig.8に幾つかの応力拡大係数(K1)に対する式(3)による応力場と本研究のシミュレーションから得られた残留応力場を示した.両者の分布を比較し,残留応力による応力拡大係数は0.05-0.1MPam1/2程度と認められた.以上の結果は同じ系のはく離試験を行い得られた界面欠陥成長の臨界応力拡大係数約0.3MPam1/2より小さい値であり,純金属とセラミックスの接触において妥当な値であると考えられた.界面欠陥構造の変化が認められなかったSHT熱処理による母材破壊は母材の軟化と残留応力の消失に起因することと結論できた.

Fig.8 Estimation of stress intensity factor due to residual stress
VII.総括

 表面活性化常温接合法によるAl/サファイヤ接合体の作製において,接合条件を変化させ接合面積率のコントロルが可能な接触変形の定量化が得られた.はく離試験,引張り試験およびAE原波形解析を行い,界面欠陥成長が主き裂進展に先行する破壊機構が明らかになった.また,有限要素法による数値計算と実験観察を合わせ,界面欠陥成長のクライテリオン導出ができた.破壊力学的考察を行い,熱処理接合体の接合強度の増加と接合残留応力との関係を明らかにした.

参考文献
1.T.Suga,Y.Takahashi,H.Takagi,B.Gibbesch and G.Elssner:Acta metall.mater.,40(1992),S133-S1372.K.Takahashi and T.Onzawa:JHPI,35(1997),159-1643.M.Enoki and T.Kishi:International Journal of Fracture,38(1988),295-3104.Z.Suo,C.F.Shih and A.G.Varias:Acta metall.Mater.,5(1993)1551-15575.MARC Manual:ver.K7,Volume A Theory and User Information6.Y.J.Park,M.Enoki,T.Suga and T.Kishi:J.Japan Inst.Metals,submitted
審査要旨

 表面活性化常温接合は,超高真空中で清浄かつ活性な表面を作製し,相互接触させることによって接合を実現する新技術として注目を浴びている.現在までの常温接合についての研究は,主に接合条件を変数とした接合性の解明を中心として行われて,界面形成のメカニズムや破壊挙動についてはまだ十分に研究が行われていない.そこで本研究は,常温接合において課題点となっている接触変形の定量化および破壊挙動の力学的考察を目的として行われた

 第2章ではトピック1の常温接合体の作製および接合面積のシミュレーションを行った.常温・低圧・短時間下で行われる常温接合において,両材の接触をもたらす決定的な因子である塑性変形と接合面積率との関係は必ずしも明らかではない.そこで,接合圧力と接合時間を変化させ,接合面積を変えた試験片の作製を行い,シミュレーションの結果と直接観察の測定値を比べ,接触変形の定量化を試みた.

 供試材として多結晶Al(純度99.999%)とC面-サファイヤを用いた.接合圧力はAl母材の降伏応力である30MPaより小さい20MPaと,より大きい40MPaとした.接合面積率は共焦点型レーザー顕微鏡により,透明なサファイヤ側から直接測定した.圧接の際のAlの塑性変形能と接合面積率の関係を汎用構造解析プログラムを用い,数値シミュレーションによって求めた.

 20MPa接合体の場合は,約10mから100mまでの界面欠陥の分布を示した.一方,40MPa接合体の場合は90%以上の接合面積が認められた.接合面積率はそれぞれ0.56,0.91と測定されたシミュレーションによる接合面積率は,20MPaと40MPa接合体においてそれぞれ0.54〜0.58,0.86〜0.94と計算され,実測値とほぼ一致した.また,粗さの周期が同じであれば,振幅が低いほどよい接合性を示した.拡散機構で予測される接合時間よりはるかに短時間で接合が得られ,常温接合において接合をもたらす決定的な因子は塑性変形であることが定量的に理解された.

 第3章,4章,5章ではトピック2の破壊機構および破壊クライテリオンの解明を試みた.常温接合において,多くの場合界面欠陥の存在は避けられない弱点となっている.そこで,界面欠陥を有する常温接合体の破壊機構解明と破壊クライテリオンの導出を目的とした.はく離試験片はき裂進展を容易にさせる目的で厚さ1mのAlフォイルを接合体の界面端に挟んで作製した.一方,引張り試験片は接合体界面部の応力場解析を容易にするため直方体の一端を円柱型に加工して接合面とした.AE波の計測および透明なサファイヤ側からの破壊過程のその場観察を行い,微視破壊の定量化,破壊源の位置判断,破壊荷重の測定に用いた.

 界面欠陥成長のクライテリオン導出は,応力クライテリオンとエネルギークライテリオンの二つの立場から行い,お互いを比較検討した.まず,応力法は実験で得られた特性値と数値計算により求めたき裂進展開始荷重での応力場を用いて,界面欠陥の応力拡大係数を導出する.一方,エネルギー法は仮想き裂進展法を用いて界面欠陥成長に伴うJ積分を求める.この際界面欠陥の塑性鈍化を避ける手段として,接合界面のAl側にはSSVモデルによる弾性層を設けた.

 AE源とき裂進展に対する界面欠陥の影響を詳しく調べるため,き裂進展直後除荷した試験片のき裂先端部を観察した結果,界面欠陥の成長が認められた.AE原波形解析による割れ速度と割れ半径の分布から,界面欠陥の成長が先行してA’自体の破壊が後を次ぐ微視破壊のメカニズムが明らかになった.応力法による界面欠陥の臨界応力拡大係数は0.3MPam1/2程度と判定された.一方,エネルギー法の場合は0.4-0.5MPam1/2が得られ,応力法による値より弱間大きい.これは,主き裂と界面欠陥の相好作用(interaction)を考慮しなかった応力法に対して,エネルギー法はその影響を考慮出来たことのためであり,従ってエネルギー法の方がより精度が高い解析であると考えられる.引張り試験の際破壊源の位置に関する考察として,接合時の圧縮応力分布による界面欠陥構造の不均一性と破壊試験時の引張り応力分布を比較検討を行い,予測と一致する破壊挙動が認められた.

 第6章ではトピック3の接合体の熱処理および接触残留応力の破壊挙動への影響を調べた.常温接合体を実製品としての応用を目指す上で,実際の使用条件である動的熱環境下での力学特性および破壊挙動を調べることは重要である.また,接合時の接触変形による残留応力の評価が必要されている.

 最高温度と保持時間をそれぞれ400℃,30minとする5回の繰り返し熱処理を施した(CHT).これとは別に最高温度は同じ400℃で保持時間を0minとする1回だけの熱処理を施した接合体も用意した(SHT).0時間処理は反応が可能なkineticsを与えない,ただ接触変形による残留応力を緩和させる条件である.

 接合変形に伴い接合界面,特に界面欠陥近傍には局所的残留応力の発生が推測される.シミュレーションには接合じと同じ表面形状モデルを用いた.接合界面の観察結果を基に,圧接により形成された接合面積は除荷後も維持されると仮定した.

 20MPa接合体は,接合まま材の界面破壊から熱処理後には母材破壊に変わって接合強度の増加が認められた.接合強度増加の原因としては,(1)熱処理によるAl母材の力学特性変化,(2))面欠陥構造の変化,(3)接合残留応力の緩和などが考えられる.まず,接合まま材の場合のはっきりした降伏現象に対して熱処理材では回復が起こり,A型的なAlの変形曲線に戻った.即ち,母材の軟化が界面欠陥への応力集中を緩和させることで,接合強度の増加に寄与した.一方,CHT条件で繰り返し熱処理後の界面観察を行い,界面欠陥の縮小,即ち接合面積率の増加が認められた.その結果臨界応力拡大係数を越える応力集中を有する大きい界面欠陥が消失し,界面破壊から母材破壊に変わる要因の一つになった.界面欠陥先端に生じる残留応力の特異性を表す応力拡大係数を求め,接合強度に及ぼす影響を破壊力学的に調べた.異種材界面の円盤型き裂による垂直応力場の理論値と本研究のシミュレーションから得られた残留応力場を比較し,残留応力による応力拡大係数は0.05-0.1MPam1/2程度と認められた.

 研究の総括および工学的意義としては,表面活性化常温接合法によるAl/サファイヤ接合体の作製において,接合条件を変化させ接合面積率のコントロルが可能な接触変形の定量化が得られた.また,はく離試験,引張り試験およびAE原波形解析を行い,界面欠陥成長が主き裂進展に先行する破壊機構が明らかになった.さらに,有限要素法による数値計算と実験観察を合わせ,界面欠陥成長のクライテリオン導出ができた.破壊力学的考察を行い,熱処理接合体の接合強度の増加と接合残留応力との関係を明らかにした.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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