近年,コンビナトリアルバイオケミストリーなどの研究が大きく発展し、微生物にあける物質生産のメカニズムを解明することは、今まで以上に大きな意義を持つようになってきている。したがって放線菌の二次代謝産物生合成の研究は、基礎研究、応用研究の両面から重要な知見となることが期待される。 本論文はこのような背景に基づき、構造及び生合成経路が単純なホスホマイシンに注目し、Streptomyces wedmorensisを用いてその生合成を研究した結果、生合成反応の未知の部分を解明し、生合成遺伝子クラスター内のいくつかの遺伝子の機能を明らかにしたものであり、5章よりなる。 第1章は、ホスホマイシン生合成の最終段階を触媒する酵素、Fom4の反応機構について解析しており、Fom4の反応に重要なアミノ酸を見出し、またOrfDタンパクの関与についても述べている。 図表 第2章では、ホスホマイシン生合成遺伝子クラスターからホスホマイシン耐性遺伝子を探索、同定し、その機能の解析について説明している。大腸菌を用いて探索を行った結果、orfAとorfBのどちらか、あるいは両方がホスホマイシン耐性遺伝子であることを明らかにした。orfA、orfBの両方を含むプラスミドを保持する大腸菌の無細胞抽出液中に、ATP存在下でホスホマイシンを不活化する活性を見出し、さらにその不活化物はアルカリフォスファターゼ処理により再びホスホマイシンに変換可能な物質であることを明らかとした。その不活化物をイオン交換、ゲル濾過クロマトグラフィーにより単離、精製し、核磁気共鳴スペクトル、質量分析スペクトルを用いて構造決定を行った結果、図に示したホスホマイシン一リン酸、ホスホマイシン二リン酸、c-FMであることが明らかとなった。 これら3種類の不活化物のうち、ホスホマイシン一リン酸、ホスホマイシン二リン酸のみがアルカリフォスファターゼ処理によりホスホマイシンに変換されることを示し、これらが真の不活化物であると説明した。続いて、精製OrfA、OrfBタンパクを用いてそれぞれの機能を解析した結果,OrfAがホスホマイシンをリン酸化するホスホマイシンホスホトランスフェラーゼ、OrfBがホスホマイシシ一リン酸をリン酸化するホスホマイシシ一リン酸ホスホトランスフェラーゼであることを明らかにし、さらにそれぞれの酵素学的性質を明らかにした。 第3章はホスホマイシン生合成遺伝子クラスターの下流領域の塩基配列の解析に関するものである。生合成調節遺伝子やホスホマイシンの排出を担う遺伝子の探索を目的として約6.7kbの塩基配列の解析を行った結果、orfG、orfH、orfI、orfJ、orfKの5個の新たな読み枠を見出した。これらの遺伝子がコードしているタンパクの相同性検索を行い、OrfHは生合成調節遺伝子、OrfIJKは大腸菌のホスホン酸トランスポーターと相同性を示すことを明らかにした。 第4章ではorfHの機能について論じている。ビアラホスの生合成調節遺伝子と相同性を示すorfHの破壊株を作成し、そのホスホマイシン生産性を親株と比較した結果、orfHの破壊株ではホスホマイシンの生産量が約半分に減少してことを明らかにした。この結果から、orfHがホスホマイシン生合成調節遺伝子である可能性があると論じている。 第5章ではorfI、orfJ、orfKの機能について論じている。ホスホマイシン生合成閉鎖株を用いてorfI、orfJ、orfKの破壊株を作成し、培地にヒドロキシプロピルホスホン酸を添加した場合、親株に比べて生産量が約10分の1に減少していることを明らかにした。この結果から、orfI、orfJ、orfKによってコードされているトランスポーターが、ヒドロキシプロピルホスホン酸の取り込みを担うものであると論じている。 以上本論文は、ホスホマイシン生合成において、生合成反応、自己耐性機構、生合成調節機構,生合成中間体の取り込み機構と多岐にわたる研究の結果、それぞれの役割を担う遺伝子とその機能を明らかにしたものであって,学術上、応用上寄与するところが少なくない。よって、審査委員一同は本諭文が博士(農学)の学位論文として価値のあるものと認めた。 |