内容要旨 | | 個々の細胞の形態の維持は、細胞骨格蛋白や膜蛋白を始めとする細胞内の物質の局在化によって達成される。この局在化には、細胞内物質輸送がかなり重要な役割を果たしている。細胞内物質輸送にはkinesin super family(KIF)をはじめとする一群の微小管依存性モーター蛋白の関与が知られている。しかしながら,そのregulationのメカニズムはまったく解明されてなく、さらにKIFが輸送するもcargoにどのような形態のものが存在するのかにも疑問な点が多い。 まず,過去の広川研での研究成果としてKIF1-5までの分子がcloningされ,機能解析が行われたがそれだけでは細胞内物質輸送のメカニズムが説明出来ないことが判明した。また,cloningの結果各モーター分子とcargoの結合に必要なdomainは個々のKIF familyによってまったく異なっていたために、それぞれのモーター分子のcargoとの結合の分子メカニズム,ならびにregulationについてはfamilyごとにまったく違うことが予想された。したがって,細胞内物質輸送を担う新しいモーター分子を分子生物学的手法によって同定し、細胞内において重要な役割を果たすと思われるものについて、分子細胞生物学的解析を行うことが必要となった。この研究ではPCR法を用いて新たに16個の新しいKIFを発見しcloningを行った。さらにmouseでの組織分布および,染色体上での遺伝子の位置,さらには分子進化的解析を行い,分類をした。 生物種間で,kinesin superfamilyのモーターdomain内のアミノ酸配列,IFAYGQT、とDLAGSEが保存されていることを利用して,これらの配列をもとにdegenerate oligo nucleotide primerを14個設計しmouseのさまざまな臓器のcDNA libraryをtemplateとして,RT-PCRを行うことで,新たに16個のKIFを発見することに成功した。新しいKIFは我々の提唱した分類に従い,KIF1C、KIF6、KIF7、KIF8,KIF9,KIF10,KIF11,KIF12,KIF13A,KIF13B,KIF14,KIF15,KIF16A,KIF16B,KIF17と命名した。kinesin superfamilyの中には細胞内物質輸送以外にも細胞分裂時に機能する一群のfamilyがあることが知られており,細胞内物質輸送に着目して研究を展開するには両者の間の分類が必要となった。northern blottingにより4週令のmouseでの組織ごとのRNAの発現パターンを解析した結果,あらゆる臓器に広範に発現しているKIFと,特定の臓器に限局しているものがあることが判明した。例えば,KIF12は腎臓,KIF6は精巣KIF15は精巣と脾臓に現局している.一方で,KIF13A、KIF13B,KIF1Cは広範な臓器で発現している。脾臓や精巣のように増殖性の臓器に現局しているKIFは細胞分裂に機能している可能性が高いと考察した。また,モーターdomainのアミノ酸配列をもとに分子進化的解析を行った結果,新しく発見したKIFのいくつかは他の生物種で細胞分裂で機能しているものであることが判明した。例えば,KIF11はXenopusのEg5の、KIF8はyeastのKIP1の,KIF8はhumanのCENP-Eの,それぞれhomologueであることがわかった。また,新しく発見されたKIFのいくつかは分子進化的にまったく新しいfamilyに属し,発現パターンからも細胞分裂以外の機能をもつことが強く示唆された。KIF1C,KIF12,KIF13A,KIF13B,KIF16A,KIF16B、KIF17などがある。これらまったく新しい、機能が未知のKIFについて詳細な解析を行うことによって,細胞内物質輸送の新しいconceptさらには個々のモーターのcargoを同定することにより,cargoとKIFの結合の分子メカニズムさらにはregulationについての理解が深まることが予想される。 またKIFはモーターdamainは相同性が高いがそれ以外のcargoとの結合に関与すると思われるdomainはfamilyごとにまったく異なっていることがこれまでのKIFの研究で知られているがそれが今回新たに発見されたKIFについても同様であるかも重要な問題である。果たして,non-motor domainに共通しているdomainが存在するのかという疑問も,全長のcDNAcloningによって明らかになる。このような大規模なKIFのfamilyの形成がglobin遺伝子のように染色体上でclusteringしているかどうかを調べるため,genomeDNAをprobeとして,FISHを行った。その結果,KIF5A,KIF5B,KIF5Cのように同一のfamilyに属し,アミノ酸レベルでの相同性の高い蛋白でも,それぞれ遺伝子はまったく異なる染色体上に存在することもあきらかになった。 上記のnew KIFのcloningのうち重要な機能を果たすことが予想されたKIF13Aについて全長のcloningを行い詳細な分子細胞生物学的解析を行った。 KIF13Aは1749アミノ酸よりなるN末端にモーターdomainのある分子量200kDaの蛋白であり,cargoとの結合部位と予測されるtail domainはもっとも分子系統樹上近いKIF1Aとも異なるため、これまでのモーターが輸送しているものとは異なる機能を持つことが予想された。また,KIF13Aは分子進化的に線虫からマウスに至るまで広範な生物種で存在すること,さらにマウスにおいては,全身に渡りさまざまな細胞種で発現していることより生物にとって基本的な細胞内物質輸送の過程に関与ことが予測されてた。KIF13Aについてはwestern blottingによりnorthern blottingと同様にあらゆる臓器に分布していることが確認された。蛍光抗体による免疫組織化学によって,KIF13Aが細胞内で核近傍並びに細胞質全体に点状に存在していることが判明した。生化学的分画分離(ナイコデンツ密度勾配遠心法)により生体内においてKIF13Aはfreeとvesicle boundの二種類の状態で存在することも判明した。したがって、KIF13Aが輸送しているものはvesicleであることが強く示唆された。Affinity chromatographyによってKIF13Aのモーターdomain以外のdomainと結合する110kDの蛋白を同定しアミノ酸配列を決定した結果beta1-adaptinであることが判明した。脳のlysateを用いての免疫沈降で共沈する事、recombinant KIF13Aとrecombinant beta1-adaptinがin vitroで結合しうる事、及びyeast two hybrid法を用いて結合に必要な分子内domainが決定された事より、KIF13Aとbeta1-adaptinとの結合が証明された。 Beta1-adaptinはclathrin-coated vesicleの形成に関わるadaptor蛋白AP-1のsubunitのひとつである。AP-1はGolgiで膜貫通蛋白であるmannose-6-phosphate receptor(M6PR)の細胞質側の領域、clathrinとそれぞれ結合し、Trans-Golgi networkで形成されるclathrin-coated budにM6PRを取り込みclathrin-coated vesicleの新生を担う事が知られている。KIF13Aに対する抗体でAP-1の他のsubunit,およびM6PRがKIF13Aと共沈することから。KIF13A/AP-1/M6PRはvesicle輸送中複合体を形成する事が強く示唆された。培養細胞でKIF13Aを過剰発現させたとき、通常、細胞の中心部位にあるGolgiに局在するAP-1/M6PRは微小管のplus端のある細胞周辺部に分散し、とくに突起の先端部ではKIF13A/AP-1/M6PRの集積が観察された。AP-2の局在には変化はなかった。このデータはKIF13AがAP-1/M6PRと複合体を形成しGolgiから細胞周辺部へvesicle輸送を介してM6PRを輸送していることを強く示唆する所見であり、上記in vitroの結合の結果が生理的に意義がある事が示された。これは、KIFとKIFが輸送するvesicleとの結合の分子メカニズムがvesicle上の膜蛋白ではなく細胞質に存在する可溶性の膜結合蛋白を介して行われていることの初の報告である。 |