審査要旨 | | 本研究は,記載的で幅広い疾患概念を持ち,様々な腫瘍を合併することが知られている多巣性Castleman病,或いはCastleman病変について,多巣性Castleman病及びCastleman病関連腫瘍の症例の解析を通じ,実態を明らかにすることを試みたものである.具体的には,多巣性Castleman病における濾胞樹状細胞の形態異常の関連,ヘルペスウイルスとの関連について検討した.またCastleman病を合併する腫瘍としてFollicular dendritic cell sarcoma(FDC sarcoma),Vascular Neoplasia complicating with hyaline vascular Castleman’s disease(VN-HVCD)の2腫瘍について,病理学的特徴を示し,さらにCastleman病変への関与を特にサイトカイン(IL-6,VEGF)に着目し検討した.なおFDC sarcomaについては研究の課程で精神分裂病との関係が想定されたためその検証も同時に行った.これらについて下記の結果を得ている. 1.多巣性Castleman病について A.濾胞樹状細胞の形態を正常群(type1),異常群(type2,3)に分類し,多巣性Castleman病で観察される所見(8項目)との比較を行った結果,異常群は正常群に比べ,濾胞内への血管侵入及び暗殻の層状構造形成の程度が強く,濾胞間の形質細胞のシート状の増生が弱い傾向がみられた.組織像においてplasma cell type及びhyaline vascular typeを両極として,濾胞樹状細胞の異常が病変をhyaline vascular typeへ移行させる可能性が考えられた. B.ヘルペスウイルスとの関連を検討した.KSHV陽性例は3例で,光顕上特異的に,やや大型の異型細胞が濾胞暗殻にみられた.これらの細胞はKSHVの免疫組織化学による陽性細胞の分布からKSHV感染細胞と考えられた.所見との比較からは濾胞内侵への血管侵入の程度が強い傾向がみられ,また濾胞樹状細胞の形態は異常(type2,3)であった.これらからKSHV感染細胞が濾胞内への血管侵入,濾胞樹状細胞の異常を引き起こし,結果としてCastleman病変を引き起こしている可能性が考えられた.一方EBV陽性例は11例で,1例では多数の細胞に陽性像を認めた.全体として関連は乏しいが,EBVも多巣性Castleman病の原因の1つである可能性が示唆された. 2.Castleman病関連腫瘍について A.全国調査を行った結果,国内には9例のFDC sarcomaがみいだされた.Castleman病合併例は1例のみでその関係の検討は行えなかった.精神分裂病合併例は2例で,精神分裂病有病率と比較した結果,合併率は有意に高かった.合併例と非合併例の組織像を比較した結果,既存のリンパ濾胞の有無,腫瘍細胞の形態において違いがみられ,何らかの関係が疑われた.ただ,全体で9例と数は乏しく,それらの解明には今後の症例の集積を待つ必要があると考えられた. B.典型的なhyaline vascular typeのCastleman病変を伴うVN-HVCDについて病理学的検討を行った結果,肉腫様部分の免疫組織化学で上皮系マーカーであるCytokeratin8の陽性像が得られた.また特に異型の強い部分において,原発巣,転移巣ともにp53蛋白の過剰発現がみられ,腫瘍の悪性化,転移に関与している可能性が示唆された.染色体分析からは47,XXYを中心とする様々な異常がみられた.多巣性Castleman病或いはCastleman病と関連するとされているIL-6,VEGFは腫瘍の初代培養細胞上清において著しい高値を示し,さらに免疫組織化学では腫瘍細胞に陽性像を認めた.このことからCastleman病変は肉腫が産生したサイトカインにより形成されている可能性が示唆された. 以上,本論文は,症例の解析から,多巣性Castleman病の幅広い組織形態に関与する因子,また疾患原因が複数にわたっている可能性,さらにCastleman病変の一部が腫瘍の続発病変である可能性を示した.本研究は,原因不明の単一疾患と考えられてきた多巣性Castleman病或いはCastleman病が,多くの疾患原因と,それらが作るサイトカイン環境から生じる共通の組織反応形態である可能性を示し,疾患の解明に重要な貢献をなすと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる. |