本研究は、AIDSの致死的な合併症として重要であるクリプトスポリジウム症における防御機構の詳細を明らかにするため、IFN-およびIRF-1遺伝子欠損マウスを用いた研究を行い、下記の結果を得ている。 1.IFN-遺伝子欠損マウス(GKO)にCryptosporidium muris(C.muris)を感染させ、オーシストの排泄パターンを調べたところ、野生型のC57BL/6、ヘテロ接合体およびGKO間の比較では、潜伏期、オーシスト数の最大値とそれを示す時期は同様であった。野生型は感染4週間以降にオーシスト排出が減少し感染から回復するが、GKOは引き続きオーシストを排出していた。したがって、IFN-が本原虫の排除に必須であることが示された。 2.C.muris感染後の野生型マウスの胃組織には、好中球とCD4+T細胞ならびにCD8+T細胞が集積していた。原虫を排除できないGKOでも野生型と同様にCD4+T細胞が集積していたことから、回復期の感染防御にはCD4+T細胞とIFN-の共存が必要であることが示唆された。 3.野生型におけるケモカインのMigとIP-10のmRNAは、それぞれ感染6日後と1日後より発現しており、MigやIP-10のレセプターでThl細胞に発現するといわれているCXCR3は感染13日後に発現していた。一方、GKOではIP-10の発現時期は野生型より短く、IFN-依存性であるMigの発現は認められなかった。以上のようにC.muris感染に伴う感染局所でのケモカインの発現動態が明らかになった。 4.C.muris感染に伴い発現が認められたIP-10は、遺伝子上流のIFN stimulatory response elementを介したIFN-からのシグナル伝達のほかにIRF-1の作用を受けていることから、IRF-1欠損マウス(IRF-1 KO)を用いた実験を行った。野生型は感染4週間以降にオーシスト排出が減少し感染から回復するが、IRF-1 KOは引き続きオーシストを排出し、GKOとほぼ同様のパターンを辿った。このことから、IRF-1はC.murisの排除に必須であることが明らかになった。 5.IRF-1 KOの感染後の胃組織では、GKOと同様に好中球とCD4+T細胞が認められ、MigとIP-10のmRNAの発現が感染9日後に認められた。GKOでIP-10が発現していることと併せて考えると、MigやIP-10が感染防御に果たす役割は低いものと考えられた。 以上、本論文はIFN-およびIRF-1遺伝子欠損マウスの解析から、C.muris感染における回復期の防御免疫機構には、IFN-及びIRF-1が関与していることを明らかにした。MigおよびIP-10の発現動態が明らかになったが、これらが感染防御に果たす役割は低いものと考えられた。本研究ではこれまで未知に等しかった、C.muris感染におけるケモカインやIRF-1の関与を調べたことで、新たな知見を提供するものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |