学位論文要旨



No 115388
著者(漢字) 苅田,達郎
著者(英字)
著者(カナ) カリタ,タツロウ
標題(和) 医用高分子材料表面における石灰沈着の発生機序に関する研究
標題(洋)
報告番号 115388
報告番号 甲15388
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1574号
研究科 医学系研究科
専攻 生体物理医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,譲二
 東京大学 教授 中村,耕三
 東京大学 教授 高本,眞一
 東京大学 教授 輕部,征夫
 東京大学 教授 上野,照剛
内容要旨 1.研究の背景と目的

 セグメント化ポリウレタン(以下PU)は、その優れた生体適合性と機械的特性から、臨床において人工心臓およびそのコーティング材、人工血管、ペースメーカーのリード線など広く使用されている。補助人工心臓は、術後心機能が回復するまでの間、拍出量を保持するものであるが、欧米では3000例以上、日本でも300例以上の使用があり、移植までのブリッジとして使われる人工心臓は補助人工心臓と完全人工心臓を合わせて、3000以上の症例がある。ペースメーカもわが国だけでも年間1万件以上の使用がされている。また、人工弁は、日本では年間約7000個使用されており、生体弁と機械弁があるが、動物実験では弁にPUを使う試みもなされている。しかしながら、長期の生体内埋込み使用で、材料表面と血液との反応により材料表面に血漿タンパクの吸着、血栓形成、石灰沈着、パヌス形成、溶血を生じる。なかでも石灰沈着による医用生体材料の劣化は、血栓形成と同様に機械的特性の変化に大きな影響をもたらすので、生体への致命的な影響が大きな問題となっている。

 石灰沈着は、リン酸カルシウム沈着あるいはアパタイト形成とも言い換えることができるが、長期間埋め込まれた心循環装置の血液接触表面以外に、生体内では骨や歯などの硬組織や、アテローム性動脈硬化を起こした血管壁、異所性の筋腱内石灰沈着、腎結石、尿路結石などにもみられる。一方で、アパタイトは細胞接着性が優れており、特にハイドロキシアパタイト(以下HAp)を高分子材料表面にコーティングした材料は細胞適合性や骨親和性が向上すると考えられており、整形外科領域では、人工関節、人工骨などに応用されている。アパタイトコーティングの有用性としては、骨組織に強固な接着性を付与し、生体適合性の優れた人工材料を得ることが出来る利点がある。また、組織接着材料にコーティングして利用し、その創傷治癒機転を促進させるという試みもなされている。このように、アパタイトは人工物長期埋入の際の石灰化沈着物でもあると同時に骨の約70-80%を占める無機物質でありかつ、細胞接着性を有する生理活性物質である。しかしながら、石灰沈着の機序には不明な点が多い。

 PUの石灰沈着に関しては、材料表面の化学的性質と、物理的性質など様々な要因が考えられてきた。特に、生体内の石灰沈着では、タンパクやリン脂質などの生体内高分子、血栓、生物の年齢、ホルモンレベル、種、などが影響し石灰沈着の過程を複雑である。従来のin vitroの系では石灰沈着の再現に長時間を要し、満足のいく速く石灰沈着を起こさせるモデルが強く切望されていた。

 石灰沈着の加速系としての交互浸漬法

 交互浸漬法は、工業的にアパタイト形成をより速やかにおこなう方法として新しく開発された方法であるが、生体温度でアパタイト形成が可能である。濃度を調整したカルシウムイオンを含む溶液に材料を浸漬した後に、リン酸イオンを含む溶液に浸漬し、この過程を、1サイクルとして繰り返すことにより、アパタイトの核形成と成長を行いアパタイト層を形成する。今回の実験では、27mm径で膜厚300mの円形のPUフィルムを調整し、これを溶液中に浸漬した。カルシウム溶液は、200mMの塩化カルシウムCaCl2と緩衝材としてlMのTris(hydroxymethly)aminomethaneを超純水に溶解し、温度を37℃に、HClにてpHを7.4に調整したものを用いた。リン酸溶液は、120mMのリン酸水素2ナトリウムNa2HPO4を超純水に溶解し、温度を37℃に、HClにてpHを7.4に調整したものを用いた。サンプルを、Step l:カルシウム溶液に1分間浸漬した後、37℃の超純水にて30秒洗浄しさらに風乾を行い続けて、Step 2:リン酸溶液に1分間浸漬し、洗浄、風乾するというサイクルを次繰り返すことで交互浸漬をおこなった(図)。

図 交互浸漬法

 本研究の目的は、新しく開発された交互浸漬法をPUに対する石灰沈着の加速系として初めて用い、高分子材料への石灰沈着の動態を細胞接触のない条件下で解析すること。および、石灰沈着を速く起こすモデルとして交互浸漬法が妥当かどうかを検討することにある。

2.方法

 実験に用いた材料

 セグメント化PUとして、当研究室の人工心臓及び人工弁に使用しているK-III(日本ZEON)、商業的に広く使われているPellethane(R)2363-80AE及びPellethane(R)2363-55DE(Dow Chemical Co.)を用いた。K-IIIは、ソフトセグメントがpoly(tetramethylene)glycol(PTMG)と,4,4’-methylenebisphenyl diisocyanate(MDI)からなり、ハードセグメントはMDIと鎖延長材として、l,4-butanediol(BDO)を用いて生成される。さらに、K-IIIの合成過程で、dimethyl diacetoxy silane(DMDAS)とmethyl triacetoxy silane(MTAS)が用いられ調整されるので、K-IIIは、polydimethyl siloxane(PDMS)すなわちシリコンを多く含むことになる。一方、Pellethane(R)2363は、K-IIIと同様にMDI、PTMG、BDOから合成されるPUである。

1.長期間人工心臓ポンプに用いた人工弁のアパタイト沈着の解析

 完全人工心臓を装着したヤギに使用し、414日目に交換したPU製人工弁に沈着した石灰沈着物の解析を透過型電子顕微鏡顕(HR-TEM)と電子線回折を用いて行った。

2.アパタイト沈着へのシリコンの影響

 PUに対して初めて交互浸漬法を用い、PUの化学的性質としてPUに含まれるシリコンに着目し、シリコンの石灰沈着に対する影響を反映しうるかを検討した。シリコンを多く含むPUとしてK-IIIを用い、シリコンを含まないPUとしてPellethane(R)2363-80AEとPellethane(R)2363-55DEを用いた。Siの分析には、X線光電子分光法(XPS)を用いた。沈着物量は真空乾燥重量より計算し、沈着物の性状は走査型電子顕微鏡(SEM)、X-ray microanalyzer(EDX)を用いて分析した。

3.血漿タンパクのアパタイト沈着に及ぼす影響

 血漿タンパクの石灰沈着に対する影響を同様に評価した。血漿タンパクとして、Bovine serum albumin(BSA)、-globulin、fibrinogenを用いた。タンパクをPUフイルムに吸着した後、交互浸漬法により石灰沈着をおこなった。石灰沈着物は、ラマン光分析、薄膜X線回折、SEM、EDXを用いて観察した。カルシウム沈着量はorthocresolphtaleincomplexone法を用いて測定し、タンパク吸着量はmicro protein assay kitを用いて比色法により測定した。

3.結果3.1長期間人工心臓ポンプに用いた人工弁のアパタイト沈着の解析

 EDXの分析により沈着物はリン酸カルシウムであることが判明した。Ca/P比は2.2であった。PU薄膜上の沈着物の部位は引っ張り応力のかかる部位と一致していると考えられた。

 試料のHR-TEMでの5万倍画像には直径数m程度の黒色と白色の粒子が認められ、黒色部と白色部を制限視野電子線回折により分析したところ、黒色部ではリング状の回折パターンがみられ、白色部では完全なハローパターンがみられた。これより黒色部では微量の結晶が存在するが、白色部では完全な非晶質な領域であると判断された。黒色部の結晶を同定するために、回折リングより面間隔を算出し、結晶データベースであるJoint Committee on Powder Diffraction Standards(JCPDS)カードで検索した結果HApが含まれると判断した。さらに、黒色部の20万倍拡大像より、各粒子は長さ数10nm、輻数nm程度の線維状(fibril状)の粒子の集合体であった。線維状の微細な粒子の向きはランダムであり、これらの粒子以外に特徴的な粒子像はみられなかった。HApは六方晶系に属すが、HAp以外のアパタイトは室温で結晶構造の対称性が低く単斜晶であり比較的容易に双晶を示すことが予測されるが、画像上でそのような形態は認められなかった。以上の回折リングおよび形態的な分析より、黒色物質はHAPであると判断された。

3.2アパタイト沈着へのシリコンの影響

 交互浸漬したPU上にはEDX分析によりリン酸カルシウムの形成が確認された。形成量の増加と交互浸漬回数との関連をみると、K-IIIでの形成量は4回以降で直線的に増加した。シリコンを多く含むK-IIIの表面には、10回の交互浸漬後、約20g/cm2lの石灰沈着が形成され、シリコンを含まないPellethane (R)2363-80AEやPellethane(R)2363-55DEよりも多かった。

3.3血漿タンパクのアパタイト沈着に及ぼす影響

 EDXによる分析から沈着物はリン酸カルシウムであり、Ca/P比は1.5〜1.7でアパタイトであると判断された。交互浸漬した後のPU上のカルシウム量は、タンパクを吸着させたPUの方がタンパクを吸着させないPUより有意に多かった。fibrinogenを吸着させたPU上でのアパタイト形成量はいずれのPUでも多い傾向にあった。fibrinogenを吸着させ10回交互浸漬を行ったK-III上のアパタイトにはラマン光分析でHap由来のOH基のOH伸縮振動のピークが3570cm-1付近に認められた。fibrinogenを吸着させた後、200回交互浸漬したK-III上には、薄膜X線回折装置(TH-XRD)を用いた解析により回折像のパターンがHApの結晶格子面の002、211,112,300,202,310面に一致しており微量で結晶性は低いがHApが形成されていることが判明した。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた表面の観察で、アパタイトの形態は吸着したタンパクの種類と基材とで明らかに異なっていた。例えば、fibrinogenを吸着したK-III上には小さな球状の集合物がみられたが、fibrinogenを吸着させたPellethane(R)2363薄膜上には小さな金平糖形の集合体が観察された。

4.考察4.1長期間人工心臓ポンプに用いた人工弁のアパタイト沈着の解析

 長期間人工心臓ポンプに用いた人工弁上の石灰沈着物にHApが含まれていることが判明し、これは生体弁や心血管埋入物の石灰沈着物にHApが含まれている報告と一致すると考えられた。EDXの結果、Ca/P比は2.2であり沈着物の全てがHApであるとは考えにくく、この理由としてEDX分析の際の散乱線による影響や、MgやFeなどの微量金属やCO32-がカルシウムに一部置換している可能性が考えられた。生体弁や心血管埋入物の石灰沈着物には不活化された細胞や細胞の破片、細胞内の小胞様の構造物などが指摘され、ALPや他のフォスファターゼの作用によりリン酸カルシウムの生成を促進すると考えられている。さらに、生体内の一部に人工循環系を代用した特殊な条件下でのアパタイト沈着の影響もあると考えられ、病態生理的な要因も考慮する必要があが、今回サンプルとなった成ヤギでは臓器の変性が少なく、術後経過からも長期生存したヤギは循環動態や生化学検査などの生理的な長期安定性は保たれており石灰沈着との関連は不詳であった。一方、化学的要因として、リンとカルシウムとの核形成と成長という要因もあげられ、特に血液中ではイオンが吸着する材料や生体高分子の性状、体液のイオン強度が影響をしてくると考えられる。石灰沈着物の組成や結晶構造については、生体弁や人工血管についての報告はみられるが、人工弁や人工心臓での報告がない。今回、PU弁上の石灰沈着物にHApが含まれていたことは新しい知見で意義があると考えられた。

4.2アパタイト沈着へのシリコンの影響

 アパタイト形成量の増加と交互浸漬回数との関連をみると、K-IIIでは、交互浸潰4回以降に形成量は浸交互潰回数の増加とともに直線的に増加した。これは、交互浸漬の1〜2回でK-III表面上にカルシウムとリンイオンによるアパタイトの核形成を生じ、さらにアパタイト層が成長していくためと考えられた。Pellethane(R)2363-55DEにおいては、6回の交互浸漬以降に増加が見られたがK-IIIと比較して少なかった。これは、カルシウムイオンとリンイオンの吸着がPellethane(R)2363-55DE上では少ないためと考えられる。一方、Pellethane(R)2363-80AEでは、アパタイトの形成がほとんど見られず、交互浸漬4回以降は、K-IIIととの間に有意差があり、Pellethane(R)2363-80AE上ではカルシウムやリンイオンの吸着が起こりにくいことを示唆する。沈着物形成にはカルシウムやリンイオンと直接接しうるタンパクやリン脂質が関与すると考えられているが、これらの生体分子のあるなしに関わらず生体材料表面とカルシウムやリンの溶液との接触によりアパタイトの形成が化学的にコントロールされるとも考えられている。化学的要因としてカルボキシル基やリン酸基がアパタイトの形成に促進的に働く報告があり、表面上の陰荷電がアパタイトの形成に促進的に働くことを示唆している。また、最近PDMSで修飾をしたセラミックスが効果的にアパタイトを形成したという報告もあり、以上の結果よりPU内のシリコンは、石灰沈着物の形成に寄与している可能性があると考えられた。交互浸漬法を用いることにより、基材自体の特性に応じたアパタイト形成を反映しうると考えられた。

4.3血漿タンパクのアパタイト沈着に及ぼす影響

 アパタイト形成量と交互浸漬回数との関連は3.2と類似していた。これは、初期の段階(1回から4回)でカルシウムとリンイオンがPU上のタンパクに吸着し核形成が生じ、引き続いて成長が起こるためだと考えられた。タンパク溶液に浸漬したサンプルで有意にアパタイトの形成量が大きく、アパタイト形成はタンパクにより促進されたと考えられた。これは、タンパクが基材に吸着した際、タンパクの構造に変化が生じ、カルシウムやリンイオンの濃度が核形成のエリアとなる部位で高くなるため核形成が促進されると考えられる。タンパクの構造の変化がアパタイトの核形成に重要な役割を演じていると考られているが、交互浸漬の系においてもin vitroでの再現が可能だと考えられた。その他の要因として、膜の表面電位やタンパクの等電点なども関連すると考えられる。SEMで観察された形態の相違は、タンパクの構造の変化や基材それ自体の物理化学特性に起因するものと考えられ、このモデルにてタンパクの影響を反映しうることが示唆された。

4.4総合考察

 交互浸漬法が生体内でのアパタイト沈着と共通すると考えられる点は、アパタイトの核形成と成長の過程を再現している点である。交互浸漬法により形成されるアパタイトがHApである点も、長期間の生体内埋人後の埋入物にHApが形成されるの点と類似している。一方、異なる点として、交互浸漬法は従来の方法や生体内でのアパタイト形成に比べて短時間でアパタイトが形成できる点である。これは、溶液中のカルシウムやリン濃度が、熱力学的に安定なHApが形成できやすいように濃度比を調整しているためであるカルシウムイオンとリンイオンを同一溶液に混合していないため、イオンが単体で材料に容易に吸着ないしは進入し、核形成が生じやすくアパタイトを形成しやすい理由と考えられる。この溶液中には、通常体液中に含まれるマグネシウムや鉄などの微量元素は含まれておらず、ナトリウムやクロール、カリウムといった電解質の組成も生理的条件とは異なっている。また、細胞成分や酵素などの生理活性物質の混入がなく、このモデルの結果が生体内での複雑な石灰沈着の機序に直接的には適用できるものではないという限界をふまえることが重要である。しかし、体内での材料表面のアパタイト形成に何らかの材料自体の化学組成、物理的性質の影響があることも否定できず、単純化したモデルで得られた結果が今後のアパタイト合成メカニズムの解明に少しでも役に立つことを期待され、アパタイト形成の評価法の一つの手段として短期間で石灰沈着の生じる加速系として用いることは意味のあることだと考える。今回、未だなされていなかった交互浸漬モデルでのポリウレタンに対する石灰沈着の基礎データを初めてとることが出来たことは意義があると考えられた。

5.結語

 長期間人工心臓として使用されたPU上に生じた石灰沈着物にHApが含まれていることを明らかにした。これは、414日間にわたる人工心臓駆動後のPU上に生じる石灰沈着物の解析として貴重であると考えられる。さらに、新しく開発された交互浸漬法を初めてPU薄膜の石灰沈着の加速系として用いリン酸カルシウムの沈着を確認し基礎データを採取した。本研究が、物理化学的見地からの医用生体材料の評価、新しい材料開発への応用、石灰沈着機序の解明に寄与する手法を与えるものとして意義があると考えられる。

審査要旨

 本研究は生体内に埋入された医用生体材料の破損の重要な原因の一つと考えられている石灰沈着の機序を明らかにするため、長期間生体内に埋入された人工心臓ポンプに生じた石灰沈着物の構造解析を行い、石灰沈着を速やかに行うために新しく開発された方法を用いて、人工心臓弁に使用されているポリウレタン(PU)上に石灰沈着物を形成し新しいモデルの構築を試みたものであり、下記の結果を得ている。

 1.長期間(414日間)人工心臓弁としてヤギに装着したPU薄膜上に生じた石灰沈着物の性質を、高分解能透過型電子顕微鏡及び制限視野電子線回折で解析した結果、リン酸カルシウムで、その中には微量で結晶性が低いもののハイドロキシアパタイト(HAp)が含まれていることが判明した。これは、従来生体弁や心循環系埋入物し生じた石灰沈着物の結晶構造と一致した。さらに、石灰沈着物のPU薄膜上での沈着部位は引っ張り力のかかる部分であることが示唆された。

 2.石灰沈着の形成系として工業的視野から新しく開発された交互浸漬法を用いて、シリコンの含有の異なるPU上に石灰沈着物を形成し、PUの化学的性質がこの方法で反映しうるかを検討したところ、シリコンを多く含んだPU薄膜上では含まないPU薄膜よりも有意に多いリン酸カルシウム沈着物の形成をみた。

 3.血漿タンパクが石灰沈着に及ぼす影響を交互浸漬法で反映されうるかをみるために、PU上にalbumin、-globulin、fibrinogenを吸着させた後にこの方法を用いて石灰沈着物の形成を行ったところ、タンパクを吸着させたPU上にはタンパクを吸着させていないものより有意に多いリン酸カルシウム沈着物が形成された。fibrinogenを吸着させたPU上には、リン酸カルシウムの形成が多い傾向にあった。200回交互浸漬を行ったシリコンを多く含むPU上に形成されたリン酸カルシウムは、薄膜X線回折解析により、HApであることが判明した。さらに、走査型電子顕微鏡による観察で、タンパクの種類やPUの材質によりリン酸カルシウム沈着物の形態が異なることが見いだされた。

 以上、本論文は長期間人工心臓として使用されたPU上に生じた石灰沈着物にHApが含まれていることを明らかにした。これは、414日間にわたる人工心臓駆動後のPU上に生じる石灰沈着物の解析として貴重であると考えられる。さらに、新しく開発された交互浸漬法を初めてPU薄膜の石灰沈着の加速系として用いリン酸カルシウムの沈着を確認し基礎データを採取した。本研究は、物理化学的見地からの医用生体材料の評価、新しい材料開発への応用、石灰沈着機序の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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