学位論文要旨



No 115408
著者(漢字) 細田,徹
著者(英字)
著者(カナ) ホソダ,トオル
標題(和) 心筋分化の非常に早期に発現する未知の遺伝子のクローニング
標題(洋) Cloning Of A Novel Gene Which Is Expressed In The Very Early Stage Of Cardiomyocyte Differentiation
報告番号 115408
報告番号 甲15408
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1594号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 児玉,龍彦
 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 助教授 後藤,淳郎
 東京大学 講師 平田,恭信
内容要旨

 心臓の発生には多くの増殖因子や転写因子が関与する。その中で、心臓特異的転写因子Csxはホメオボックス遺伝子であり、心臓の分化に不可欠であると共に、心臓において最も早期に発現するマーカーの一つである。従って、Csx発現の制御機構を明らかにすることは、心筋分化の仕組みを解明する上で重要と考えられる。Csxの発現を制御する分子を同定するため、Csxより早期に発現する分子の単離を試みた。Csxは胎生の非常に早期に発現するため、P19 EC cellのsublineであるCL6を用いた。CL6はDMSOで処理すると、心筋特異的遺伝子を発現しつつ10日目には大半が心筋に分化し拍動する。転写因子であるCsx,GATA-4,MEF2CはDMSO処理後6日目から、収縮蛋白であるMHC,MLC2vは10日目から発現する。

 CL6を10%ウシ血清入りのmediumで培養した。分化させる際には1%DMSO入りのmedium中に、60mm dishあたり3.7x105個の細胞をまいてこの日をday 0とし、以降2日毎にmediumを交換した。分化後6日目(day 6)と未分化(day 0)の細胞のRNAに対してRT-PCRを行い、この際35S-dATPでラベルした。反応物を6% polyacrylamide gelで泳動し、autoradiogramにて、day 6にのみ見られたbandを切り出し、再増幅してsubcloningした。CL6のnorthern解析を行い、day 0では発現せず、day 6で発現するクローンを選び出した。その内の一つ、5A1について、マウスの胎仔及び成獣でもnorthern解析を行った。CL6 day 6のcDNA libraryを作成し5A1のscreeningを行った。更に、成獣の骨格筋由来のcDNA libraryをscreeningして、5A1の全長のcDNA配列を決定した。FASTA sequence analysis programを用いてhomology検索を行った。マウスの7.5dpc〜10.5dpcの胎仔について、5A1のsense,anitisense及びMLC2vのantisense(positive control)をprobeとして、whole mount in situ hybridizationを行った。5A1の5’側にHAを、3’側にMycを、それぞれepitopeとして付加したconstructを作成した。35mm dishあたり4x104個まいたCOS細胞にそれぞれtransfectし、免疫染色にてそれぞれの発現を調べた。

 Csxよりも早期に発現する分子を同定するため、CL6細胞についてdifferenitaldisplayを行い、5A1を同定した。5A1はCL6の分化後4日目から6日目に強く発現し、その後は弱く発現していた。マウス臓器のnorthern解析では、胎仔では心臓に、成獣では心臓と骨格筋にのみ発現していた。cDNA sequenceにより、5A1の全長は約6.4kbであり、約5kbのORFがあり、既存の遺伝子にはhomologyがなかった。マウス胎仔のwhole mount in situでは、5A1の発現は7.5日目の胎仔ではcardiac crescentに限局し、その後も10.5日目までは心臓に限局していた。HA及びMycを付加した5A1をそれぞれCOS細胞に導入し、抗HA抗体・抗Myc抗体で5A1蛋白の発現を調べたところ、核内に限局していた。

 同定された5A1は横紋筋組織に特異的に発現しており、心臓発生の非常に早期に、細胞の核に限局して発現していると考えられる。また、その後も発現が持続することから、心臓の発生だけでなく、筋組織の形質の維持にも重要な働きをしている可能性が示唆される。更に、5A1はCsxよりも早期に発現していると考えられ、心筋前駆細胞のマーカーとなる可能性も期待される。

審査要旨

 本研究は、脊椎動物の心臓発生のメカニズムを明らかにするため、心筋分化の早期に発現する遺伝子を探求したものである。マウス胚性腫瘍細胞(P19)の亜株であるCL6が、DMSO処理によって高率に心筋に分化する特徴を利用して、この系においてDifferential Displayを行い、下記の結果を得ている。

 1.CL6は、DMSO処理によって高率に心筋に分化し、分化6日目から心臓特異的転写因子であるCsx、GATA-4、MEF-2Cを発現し、10日目にはMHCやMLC2v等の構造蛋白を発現すると共に拍動を開始する。本研究ではDifferential Display法を用いて、未分化のCL6では発現しておらず、分化後6日目で発現する遺伝子として5A1を同定した。northern解析において、5A1はCL6の分化後4日目から6日目にかけて強く発現し、その後は弱く発現していた。マウスのnorthern解析においては、胎生期は心臓に限局して発現し、出生後は心臓と骨格筋にのみ発現が見られた。

 2.更にマウスのwhole mount in situ hybridizationで詳細に検討すると、5A1は7.5日目の胎仔のcardiac crescent(最も早期に見られる心臓原基)に限局して発現しており、その後の発現も10.5日目までは心臓に限局していた。

 3.CL6分化6日目のcDNA libraryを作成し、この1ibraryと、マウス成獣の骨格筋由来のcDNA libraryとを用いてscreeningを繰り返し、cDNA sequenceによって5A1の全長を同定した。5A1の全長は約6.4kbであり、約5kbのORFがあり、既存の遺伝子にはhomologyのない新規の遺伝子であった。

 4.HA及びMycを付加した5A1蛋白をそれぞれCOS細胞に発現させ、抗HA・抗Myc抗体を用いて免疫染色したところ、5A1蛋白の発現は細胞の核内に限局していた。

 以上、本論文は、マウスにおいて心筋発生の非常に早期に核内に限局して発現する新規の遺伝子5A1を同定したものであり、未解明の部分の多い心臓発生のメカニズムを明らかにする上で重要な貢献をなすと考えられる。また、同時に心筋前駆細胞の分子マーカーとなる可能性もあり、心筋細胞移植など、臨床面での応用も期待される。

 同定された5A1遺伝子の機能解析については、現時点では行き届かない部分もあるが、限られた期間において未知の遺伝子の機能の全貌を明らかにするのは困難である。一方、本研究は非常にユニークなものであり、また、基礎的研究を進めていく上で必要となる様々な実験手技を駆使した成果であり、学位に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク