本研究は、ユビキチン-プロテアソームシステムという選択的蛋白質分解システムにおいて、ユビキチンリサイクルにとって必須な脱ユビキチン化酵素(DUB)という、ポリユビキチン鎖あるいはユビキチン化蛋白を脱ユビキチン化させる酵素についてウシ脳を題材としてその分離・精製を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.ユビキチン蛋白のC末にペプチドを付けた人工的基質(Ub-PESTc)を用いて、ヨードラベル化したこの蛋白(125I-Ub-PESTc)を加水分解させる活性を測定することによりDUB活性を持つ蛋白をウシ脳の可溶性分画から抽出した。陰イオン交換カラム、ハイドロキシアパタイトカラム、ペパリンカラムによるクロマトグラフィー操作により、数十種類のDUBがウシ脳に存在する可能性が示唆された。更に、ユビキチン(Ub)をリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーにより、sDUB-1、sDUB-2と名付けた分子量約30kDaの2種類のDUBを抽出した。このsDUB-1、sDUB-2はそれぞれ免疫化学反応、部分アミノ酸解析からヒトUCH-L3およびUCH-L1のウシホモログである可能性が考えられた。 2.1.と同様の測定方法を用い、ウシ脳の膜画分からも、DUB活性をもつ蛋白を抽出した。非イオン性界面活性剤処理により可溶化した後、Ub-アフィニティークロマトグラフィーによりmDUB-1、mDUB-2と命名したDUBを精製し、更に各種クロマトグラフィー操作により、mDUB-3、mDUB-4と名付けたDUBも部分精製した。 3.(部分)精製した各DUBに対しUb-PESTc以外の基質に対する加水分解活性を調べた結果、それぞれは異なる酵素であることが示唆された。Ub融合蛋白の一つUb-DHFRに対する反応性の差からsDUB-1、sDUB-2とmDUB-1、mDUB-2とは別の酵素であり、更にUb類似蛋白を使ったNEDD8-gsPESTcに対する反応性の差からsDUB-1とsDUB-2とは、また一アミノ酸置換をさせたUb(G76A)-gsPESTcに対する反応性の差からmDUB-1とmDUB-2とは異なる酵素であることが示唆された。またNEDD8-gsPESTcとUb-DHFRの反応性の差からmDUB-3は他のDUBとは異なる反応特性をもち、阻害剤(Ub-CHO)による活性抑制の差も含めて考えるとmDUB-4も他とは異なる酵素であることが示唆された。 4.in vitroで作成したポリユビキチン化p53蛋白を基質として用いた実験から、mDUB-1とmDUB-3はポリユビキチン鎖を分解するアイソペプチダーゼ活性を持つ可能性が考えられた。 以上、本論文は、ウシ脳においてUb-PESTcに対する加水分解活性を追うことにより、可溶性分画、膜分画ともに多数のDUB活性が存在することを示した。特に今まで報告のなかった膜分画にもDUB活性の存在する可能性を示し、ユビキチン-プロテアソームシステムにおいてユビキチン前駆体のプロセシング反応およびユビキチン修飾システムの可逆性が細胞の可溶性蛋白のみならず膜蛋白にも、重要な意味を持つことを強く示唆する一根拠となると考えられ、学位の授与に値すると考えられる。 |