PAN(puromycin aminonucleoside)腎症のタンパク尿の原因の一部に糸球体上皮細胞(GECs)障害が考えられている。本研究はPANにより腎臓の培養GECsに障害を与え、その障害がapoptosisによるものであることを検証した。 PAN腎症は、ヒトの腎炎のMinimal change nephrotic syndrome(MCNS)、いわゆる、微少変化群のモデルとされている。PANによるタンパク尿の出現はGECs障害によるものであるとされ、その機序として、活性酸素種が関与していることが示唆されている。これらのことを検証するための実験を試み、下記の結果を得ている。 1.ラットの糸球体を単離し、コラーゲン膜上にGECsを培養した。Confluentに生育した培養GECsに、PANを投与したところ培養GECsがコラーゲン膜から剥離し、浮上してくることが認められた。DCF前投与を行った場合は認められなかった。この現象はラットの培養メサンギウム細胞では認められず、培養GECsに特異的に認められた。 2.PAを投与した培養GECsを回収し、電気泳動を行った。培養GECsの電気泳動ではPAN10-3M添加後48時間経過後で最も明瞭なDNA ladderが認められた。また。培養メサンギウム細胞の電気泳動では経過時間とPAN濃度に関わらず、いずれもDNA ladderは認められなかった。 3.培養GECsの核染色による細胞形態の変化や、TUNEL法による染色法による検出では、PAN10-3M添加後48時間経過後でApoptosisを示した細胞の割合が最も高かった。 4.電子顕微鏡による形態学的観察において、PAN10-3M添加後48時間経過後の培養GECsで核の縮小化や断片化が観察され、Apoptosisを示した細胞が認められた。 5.培養GECsのCaspase-3(-like)protease活性は、蛍光光度計で測定した結果、PAN10-3M添加後48時間経過後で最も高く、培養メサンギウム細胞においては殆ど認められなかった。 6.PAN10-3M添加後48時間経過後での培養GECsのCaspase-3(-like)protease活性は、DCF前投与により抑制された。 以上の実験結果より、PANによりラットの培養GECsは障害され、その障害にはApoptosisが関与していると考えられる。さらにこの障害は活性酸素が関与していると考えられ、この活性酸素を抑制すると推定されるDCF前投与によりCaspase-3(-like)protease活性が抑制されたことにより、PANによるタンパク尿の原因の一部に糸球体上皮細胞のApoptosisが関与していることが示唆された。本研究は、これまで未知とされているPAN腎症におけるタンパク尿の原因の機序の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |