本研究は、血中の抗HCVコア領域ペプタイド抗体、および抗HCVコア領域タンパク抗体が、慢性C型肝炎に対するインターフェロン(interferon:IFN)治療効果判定における新しい指標として有用かどうかを明らかにするため、患者血清を検体としてELISA法とRT-PCR法を用いて検討したものであり、下記の結果を得ている。 1:HCVコア領域(1-191a.a.)の範囲で、15残基長ずつに合成したペプタイドに対する血中のIgG型抗体の陽性率を測定し、epitope mappingを行った。この中で陽性率が最も高い値を示したのは、N末端付近のコアペプタイドP2(11-25a.a.)であった。HCVコア領域タンパクにおける抗体のエピトープ(immunodominant region)は、このP2部位であると推察された。 2:HCVコアタンパクとして既に使われている抗原JCCを用いて、コアペプタイドP2の抗原特異性を検討した。慢性C型肝炎症例において、IgG型抗JCC抗体価とIgG型抗P2抗体価には、有意な相関関係が認められた。さらに、JCCとP2を添加抗原として、IgG型抗体の相互吸収実験を行ったところ、抗P2抗体は添加抗原JCCによって吸収され、両者が共通配列を持つ裏付けが得られた。したがって、抗P2抗体は、HCV感染者においてはHCV抗原特異性の高い抗体であると考えられた。 3:IFN治療の前後で、抗原JCCおよび抗原P2に対する抗体価を、IgG型、IgM型、IgA型各分画、およびIgGサブタイプ型の抗体別に測定した。IFN治療前の陽性率の点では、IgG型抗体とIgG1型抗体が優れていた。慢性C型肝炎症例を著効群と無効群とに分けて、治療前後の抗体価変動を比較したところ、治療終了直後の時点では、IgG1型抗P2抗体価でのみ、著効群における低下傾向が認められた。治療終了6ヶ月後においても、著効群で低下傾向を示した抗体中、その低下幅が最も大きかったのはIgG1型抗P2抗体価であった。 4:IgG1型抗P2抗体価の低下幅が、著効群においても例外的に小さい症例が3例あった。そのうち1例がIFN治療終了6ヶ月後も高感度コア領域PCRにてHCV-RNA陽性であった。治療終了2年後、HCV-RNAが消失したのに伴って、同抗体価も減少した。 以上、本論文は抗HCVコア領域ペプタイド抗体である、IgG1型抗P2抗体価を測定することにより、慢性C型肝炎に対するIFN治療の効果判定を行うことができる可能性を示唆した。現在のIFN治療においては、治療終了後6ヶ月以内の再発が多く、より早期に正確な判定を行うことができる指標が求められている。本研究は、その開発に重要な貢献をすると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |