本研究は白血病の発生や進展において重要な役割を演じていると考えられる染色体転座により生じるキメラ遺伝子の解析を、11q23転座型白血病のうちの10;11転座型白血病、および11p15転座型白血病において行い、以下の結果を得ている。 1.MLL遺伝子再構成を有する10;11転座型白血病患者6例中5例からMLL-AF10を、1例からMLL-ABI-1を検出し、AF10だけでなく、ABI-1も10;11転座型白血病においてreccurentに転座を起こす重要な遺伝子であることを明らかにした。MLL-AF10融合転写産物が検出された5例とMLL-ABI-1融合転写産物が検出された症例の臨床像を比較し、同じ10;11転座型白血病でもMLLの相手遺伝子により予後が異なる可能性があり、治療の上で両者の鑑別が必要であることが示された。 2.マウスAbi-1遺伝子を新たに単離し、以前に報告されていたものの塩基配列の誤りを明らかにした。同時にABI-1の配列がヒトとマウスで高度に保存されていることが示された。 3.ABI-1遺伝子は、白血病由来の細胞株と固形腫瘍由来の細胞株でアイソフォームの発現パターンが大きく異なっており、それぞれの組織で特有の機能を有する可能性が示された。また、今まで報告されていなかった新たな2つのアイソフォームが見い出された。 4.11p15転座を有する15症例の解析を行い、11症例中9例にNUP98遺伝子のsplitを確認した。既にNUP98の関与が報告されているt(7;11)、inv(11)、t(2;11)、t(4;11)以外に、新たにt(8;11)とt(11;12)にNUP98の関与が見い出された。 5.11p15転座を有する15症例の臨床像について解析し、検討できた14例のうち、12例が死亡し、寛解に入った10例のうち9例が再発していたことから,11p15転座型白血病は予後不良であることが示された。 6.t(11;12)におけるNUP98の新たな転座相手遺伝子単離を試みる過程で、相手遺伝子の候補であるHOXC遺伝子のうち、今まではとんど配列が判明していなかったHOXC8、C9、C10の配列の一部が決定された。 7.MLLの再構成のある白血病細胞株とない白血病細胞株との間のHOX遺伝子の発現の差を比較検討し、リンパ性白血病の細胞株において、特に癌化との関与が知られているHOXB8の発現がMLLの再構成のあるすべての細胞株で有意に減弱していることが明らかになった。このことから11q23転座型白血病において、HOX遺伝子の発現の変化が重要な役割を果たしている可能性が示された。 以上、本論文は10;11転座を有する患者検体を解析し、形成されるキメラ遺伝子により臨床像が異なること、およびABI-1遺伝子の関与する転座がrecurrentに起こっていることを明らかにした。11p15転座型白血病についても、NUP98遺伝子の関与を検討し、新たな転座相手染色体を見い出しており、今後の遺伝子解析および診断、治療に役立つと考えられる。また、ABI-1遺伝子の発現パターンについて検討し、組織における役割の違いを示唆したこと、およびMLLの再構成の有無によるHOX遺伝子の発現の変化を示したことはMLLの関与する腫瘍化のメカニズムの解明に貢献すると考えられる。以上のことから本論文は学位の授与に値するものと考えられる。 |