学位論文要旨



No 115458
著者(漢字) 久保,正英
著者(英字)
著者(カナ) クボ,マサヒデ
標題(和) 多発性筋炎・皮膚筋炎における抗ヒストン抗体の存在および意義に関する研究
標題(洋)
報告番号 115458
報告番号 甲15458
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1644号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中村,耕三
 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 助教授 森田,寛
 東京大学 助教授 金井,芳之
 東京大学 助教授 相馬,良直
内容要旨

 多発性筋炎・皮膚筋炎においては抗Jo-1抗体など疾患特異的と考えられている自己抗体が検出されることが知られている。しかしながら、多発性筋炎・皮膚筋炎を除く膠原病で広くその存在が知られている抗ヒストン抗体の存在はいまだ知られていない。しかしながら、蛍光抗体間接法による抗核抗体検査で、均一型の蛍光を示す多発性筋炎・皮膚筋炎の症例を多数経験したため、多発性筋炎・皮膚筋炎患者でも抗ヒストン抗体が検出される可能性を考えた。このため、抗ヒストン抗体を同定し、抗ヒストン抗体の頻度および抗ヒストン抗体の主な対応抗原を明らかにし、臨床症状との相関を検討した。

 抗ヒストン抗体は多発性筋炎患者46例中8例(17%)で検出され、IgG型抗ヒストン抗体は7例で、IgM型抗ヒストン抗体は2例で検出された。これら抗ヒストン抗体が陽性となった8例では全て均一型の蛍光が認められ、吸収試験により、均一型の蛍光は吸収された。また、免疫プロット法により、主な対応抗原はヒストンH1にあることが明らかとなり、吸収試験により、ヒストンに対する反応性は消失した。IgG型抗ヒストン抗体の有無と臨床症状との有無の関連について検討を行ったが、症例数が少ないためか、臨床症状との関連性は認められなかった。

 以上の結果より、抗ヒストン抗体は他の膠原病においても多発性筋炎・皮膚筋炎においても一定の頻度で認められ、多発性筋炎・皮膚筋炎においてはIgG型抗ヒストン抗体が中心であることが明らかとなった。また、抗ヒストン抗体の主な対応抗原がヒストンH1にあることは自己抗体の産生機序におけるAntigen-driven仮説を支持すると思われる。臨床的な意義は今回の検討では見出すことが出来なかったが、抗ヒストン抗体の存在は多発性筋炎・皮膚筋炎における免疫異常の一端を示すものと考えられる。

審査要旨

 本研究は、膠原病に分類される多発性筋炎・皮膚筋炎において抗ヒストン抗体の検出、抗原特異性の解明および抗ヒストン抗体の臨床的意義の解明を試みたものであり、東大病院皮膚科を受診した多発性筋炎・皮膚筋炎患者46例由来の血清を用いて抗ヒストン抗体の検出をおこない、以下の結果を得ている。

 1.全ヒストンにより被覆されたマイクロタイタープレートを用いたELISA法により、IgG型抗ヒストン抗体およびIgM型抗ヒストン抗体を検出した。IgG型抗ヒストン抗体は46例中7例、すなわち15%の症例において、また、IgM型抗ヒストン抗体は46例中2例、すなわち4%の症例において存在していることが示され、IgG型またはIgM型抗ヒストン抗体は8例、すなわち17%の症例にみられることが示された。

 2.ELISA法により抗ヒストン抗体が示された8検体に対してHEp-2細胞を基質とした蛍光抗体間接法により核に均一型の蛍光が認められた。さらに全ヒストンにより、均一型の蛍光が吸収され、核および細胞質にごく弱い蛍光が残ることが示された。このことにより、多発性筋炎・皮膚筋炎患者においても抗ヒストン抗体により核に均一型の蛍光が認められることがあることが示され、さらに抗ヒストン抗体以外の自己抗体の存在が示唆された。

 3.ELISA法により、IgG型抗ヒストン抗体陽性と判定された7検体及びIgM型抗ヒストン抗体陽性と判定された2検体に対して免疫プロット法を施行し、抗ヒストン抗体の抗原特異性を検討したところ、IgG型では抗ヒストンH1抗体が7例全例で認められ、抗ヒストンH2A抗体および抗ヒストンH3抗体は2例で認められ、抗ヒストンH2B抗体および抗ヒストンH4抗体は3例で認められた。また、IgM型では2例中1例で抗ヒストンH1抗体、抗ヒストンH2A抗体、抗ヒストンH2B抗体、抗ヒストンH3抗体および抗ヒストンH4抗体が認められた。さらに全ヒストンにより吸収試験を行ったところヒストンに対する反応性は消失した。抗ヒストン抗体の抗原特異性の結果は"Antigen-driven"仮説にほぼ一致するものであり、自己抗体形成における同仮説を支持する結果となった。

 4.臨床症状および検査所見との相関を検討したが、有意な差は認められなかった。しかしながら、抗ヒストン抗体陽性患者8例においては多発性筋炎・皮膚筋炎の重篤な合併症である肺線維症および内臓悪性腫瘍の合併が認められず、今後のさらなる検索により、多発性筋炎・皮膚筋炎患者中で、抗ヒストン抗体陽性患者の臨床像が確立される可能性が示唆された。

 以上、本論文は多発性筋炎・皮膚筋炎患者における抗ヒストン抗体の存在およびその抗原特異性を明らかにした。本研究は多発性筋炎・皮膚筋炎においてこれまで報告されていなかった自己抗体を報告し、その臨床像の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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