本研究はFGF-2の作用が骨形成のみならず、近年骨吸収促進因子としても注目され始めてきたことから、FGF-2の骨吸収促進作用の機序およびその直接作用による成熟破骨細胞細胞内情報伝達機構を研究したものであり、下記の結果を得ている。 1.培養したマウス頭蓋冠の組織学的所見 FGF-2(10-8M)は新生児マウス頭蓋冠培養系において、96時間で骨膜側の骨芽細胞様細胞の増殖を促進するのみならず、骨内膜側の破骨細胞による骨吸収を促進していた。培養した頭蓋冠の組織形態計測により,FGF-2は破骨細胞数を24時間では1.6倍、96時間では8.1倍と、そして骨吸収面を96時間で2.0倍と有意に促進した。 2.共存培養系におけるOCLs形成に対するFGF-2の効果 マウスPOBと骨髄細胞の共存培養系において、高濃度のFGF-2(10-8M)によりTRAP陽性多核のOCLsの形成が促進された。この共存培養系にNSAIDsを加えることによりFGF-2によるOCLsの形成とPG産生との関与を検討したところ、インドメタシンとNS-398(10-9〜-8M)がFGF-2(10-8)によるOCLsの形成を有意に抑制した。 3.FGF-2による培養新生児マウス頭蓋冠からの45Ca遊離系におけるCOX-2の関与 FGF-2(10-10M)が予め標識された培養新生児マウス頭蓋冠からの45Ca遊離を用量依存的に対照の1.8倍にまで促進することが報告されている。そこで、このFGF-2の骨吸収促進作用に対するPG産生とCOX-2誘導の関与を検討したところ、FGF-2(10-8M)の骨吸収促進作用はNSAIDsで有意に抑制され、この抑制効果はCOX-2に対する選択的不活化作用が強いものほど著明であった。 4.骨芽細胞と破骨細胞系におけるCOX-2の誘導 FGF-2によってCOX-2が誘導される細胞を同定するために、マウスPOBとOCLs、C7細胞におけるCOX-2mRNAレベルを比較検討した。結果として、POBではFGF-2によりCOX-2のmRNAの発現が強く誘導された。一方、OCLsやC7ではFGF-2によってCOX-2のmRNAの発現誘導は認められなかった。以上より、FGF-2のCOX-2促進作用の標的細胞は破骨細胞系細胞ではなく骨芽細胞系細胞であることが明らかとなった。 5.FGF-2による破骨細胞への直接作用とCOX-2の関与 FGF-2による破骨細胞への直接作用を調べるために、ウサギの長管骨から採取した単離成熟破骨細胞と全骨細胞による象牙片吸収窩形成系で用量反応を比較検討した。単離成熟破骨細胞においては、FGF-2は10-11Mをピークに約2倍に促進されたが、それ以上の濃度においては更に促進されることはなかった。このFGF-2による直接作用はNS-398では抑制されなかった。一方、全骨細胞においては、l0-10Mより低濃度では単離成熟破骨細胞における促進効果とほぼ同一で、それ以上の濃度である10-9M〜10-8Mでは9.7倍の吸収窩形成の促進がみられ、この効果はNS-398で約70%抑制された。 6.マウスPOBとOCLsにおけるFGFRsの発現 マウスPOBとOCLsにおけるFGFRs(FGFR1,2,3,4)の局在をRT-PCRとWestern blotを用いて検討したところ、mRNA、蛋白レベルでPOBではFGFR1,2,3,4のすべてが、OCLsではFGFR1のみ発現していた。 7.FGF-2によるOCLsへの延命効果 FGF-2のOCLsの寿命への関与を解明するために、単離したOCLsをFGF-2(10-11M)存在で48時間培養したところ、FGF-2には破骨細胞に対する延命効果がないことが示された。 8.FGF-2によるカテプシンKの誘導 RT-PCRを用いて単離OCLsにおけるmRNAの発現量の変化で検討したところ、FGF-2によってカテプシンKmRNAの発現は少なくとも3時間は維持されていた。 9.FGF-2によるOCLsタンパク質チロシンリン酸化 ウサギ単離成熟破骨細胞の象牙片吸収窩形成系において、FGF-2による骨吸収活性の上昇はチロシンキナーゼインヒビターであるハービマイシンAによって対照レベルまで抑制された。これより、FGF-2の骨吸収活性がタンパク質チロシンリン酸化を介するものであることが分かった。そこで、Kinase assay,Western blotを用いてOCLsにおけるFGF-2によるチロシンリン酸化を検討したところ、FGFR1が自己リン酸化された後、MAP kinaseを含む様々なタンパク質のチロシンリン酸化がみられた。さらに、FGF-2による骨吸収活性の上昇はMEK1インヒビターであるPD98059によって約60%抑制された。 以上、本論文は高濃度のFGF-2(10-9M)は骨芽細胞に作用し、未分化な間葉系細胞増殖を促進することによって骨形成を促進すると同時に、COX-2誘導とPGの産生を介して間接的に骨吸収を強力に促進することが示された。一方、低濃度のFGF-2(10-12M)は成熟破骨細胞に直接作用しFGFR1からの複数のタンパク質のチロシンリン酸化を促進することによって骨吸収促進作用を呈することが示唆された。本研究はFGF-2がその局所破壊や標的細胞によって骨形成にも骨破壊にも強力な促進作用を示し、骨代謝調節機構の中で中心的役割を果たしている因子の一つと考えられ、種々の骨代謝異常病態の解明および治療につながるものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |