学位論文要旨



No 115481
著者(漢字) 柳澤,比呂子
著者(英字)
著者(カナ) ヤナギサワ,ヒロコ
標題(和) 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の原因遺伝子と発症機構
標題(洋)
報告番号 115481
報告番号 甲15481
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第1667号
研究科 医学系研究科
専攻 国際保健学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 北,潔
 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 助教授 郭,伸
 東京大学 助教授 福岡,秀興
 東京大学 助教授 金井,克光
内容要旨

 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は、常染色体優性の遺伝様式を示す神経変性疾患であり、翻訳領域のCAGリピート伸張に起因するトリプレットリピート病の一つである。同様に翻訳領域のCAGリピート伸張に起因する疾患として、ハンチントン舞踏病や脊髄小脳変性等があり、同一の分子機構により神経細胞死が生じると推定される。実際、培養細胞系で伸長CAGリピートを強発現すると、伸長ポリグルタミンが凝集体を形成し、アポトーシスを引き起こすことが示され、一方、患者脳組織やモデル動物で核内封入体が認められ、凝集体形成あるいは凝集性が細胞死の分子機構と考えられている。しかし、変性死する神経細胞の集団(脳の部位)が疾患毎に異なる機構については明らかではない。また、DRPLA蛋白の正常機能についても、不明である。

 DRPLAの原因遺伝子と相同性の高い遺伝子を検索した結果、同様なアルギニンとグルタミン酸の繰り返し配列を有するESTExpressed-Seaquence-Tagの一つ(M78755)が存在することがわかった。スプライシングの構成因子であるSR蛋白間の相互作用の機序と同様に、アルギニンとグルタミン酸の繰り返し配列を介する相互作用により、正常な機能を担っている、あるいは、病態に至る神経細胞死の組織特異性に関与している可能性があると考えられた。そこで、DRPLAと相同性が高いEST(M78755)遺伝子の全長を単離し、DRPLA蛋白との関連を中心にその遺伝子産物の機能解析を行なった。DRPLA蛋白と同様にC末端領域にR(アルギニン)、E(グルタミン酸)が交互に繰り返す配列を有していることから、この遺伝子産物を-arginine glutamic acid repeats encording protein-略してRERE蛋白と名づけた。RERE蛋白は、ポリグルタミンを含まず、1566アミノ酸をコードし、DRPLA蛋白とはC末端領域が67%の高い相同性を示した。RERE蛋白とDRPLA蛋白がRE配列を介し相互に会合するかを、in vitro binding assayにより解析した。RERE蛋白とDRPLA蛋白がproximal側のRE配列を介して自分自身及び相互に結合できることを明らかにした。RERE蛋白とDRPLA蛋白の相互作用がポリグルタミンの伸長により変化するのかを検討した結果、伸長したポリグルタミンを持つ変異型DRPLA蛋白の方が正常型DRPLA蛋白に比べRERE蛋白とより強く結合した。培養細胞系、患者脳組織やモデル動物における凝集体形成あるいは凝集性が細胞死の分子機構と考えられていについては明らかではない。また、DRPLA蛋白の正常機能についても、不明である。

 DRPLAの原因遺伝子と相同性の高い遺伝子を検索した結果、同様なアルギニンとグルタミン酸の繰り返し配列を有するESTExpressed-Seaquence-Tagの一つ(M78755)が存在することがわかった。スプライシングの構成因子であるSR蛋白間の相互作用の機序と同様に、アルギニンとグルタミン酸の繰り返し配列を介する相互作用により、正常な機能を担っている、あるいは、病態に至る神経細胞死の組織特異性に関与している可能性があると考えられた。そこで、DRPLAと相同性が高いEST(M78755)遺伝子の全長を単離し、DRPLA蛋白との関連を中心にその遺伝子産物の機能解析を行なった。DRPLA蛋白と同様にC末端領域にR(アルギニン)、E(グルタミン酸)が交互に繰り返す配列を有していることから、この遺伝子産物を-arginine glutamic acid repeats encording protein-略してRERE蛋白と名づけた。RERE蛋白は、ポリグルタミンを含まず、1566アミノ酸をコードし、DRPLA蛋白とはC末端領域が67%の高い相同性を示した。RERE蛋白とDRPLA蛋白がRE配列を介し相互に会合するかを、in vitro binding assayにより解析した。RERE蛋白とDRPLA蛋白がproximal側のRE配列を介して自分自身及び相互に結合できることを明らかにした。RERE蛋白とDRPLA蛋白の相互作用がポリグルタミンの伸長により変化するのかを検討した結果、伸長したポリグルタミンを持つ変異型DRPLA蛋白の方が正常型DRPLA蛋白に比べRERE蛋白とより強く結合した。培養細胞系、患者脳組織やモデル動物における凝集体形成あるいは凝集性が細胞死の分子機構と考えられていを引き起こし、神経細胞死に至るとも考えられる。一方、DRPLA蛋白およびRERE蛋白が核と細胞質の間をシャトルし、核外移行運搬蛋白CRM1とも相互作用する可能性を提示した。今後さらに、DRPLA蛋白およびRERE蛋白、PML蛋白、CRM1蛋白の相互関係における知見が得られれば、細胞死に至るカスケードが明らかになると思われる。本研究は、RE配列を介して蛋白-蛋白の相互作用が可能になることを、初めて示した研究成果であり、RE配列を介する相互作用の機能として神経変性疾患に関与するだけでなく、他の複合体形成にも関与している可能性も考えられ、これらの検討も今後必要と思われる。

 -序論の内容の一部は、以下の通り、すでに発表した。

 Dentatorubural and pallidoluysian atrophy expansion of an unstablc CAG trinucleotide on chromosome 12p.

 Nagafuchi,S.,Yanagisawa,H.,Sato,K.,Shirayama,T.,Ohsaki,E.,Bundo,M.,Takeda,T.,Tadokoro,K.,Kondoh,I.,Murayama,N.,Tanaka,Y.,Kikushima,H.,Umino,K.,Kurosawa,H.,Furukawa,T.,Nihei,K.,Inoue,T.,Sano,A.,Komure,O.,Takahashi,M.,Yoshizawa,T.,Kanazawa,I.and Yamada,M.(1994).Nature Genet.,6,14-18.

 Structure and expression of the gene responsible for the triplet repeats disorder,dentatorubral and pallidoluysian atrophy(DRPLA).

 Nagafuchi,S.,Yanagisawa,H.,Ohsaki,E.,Shirayama,T.,Tadokoro,K.,Inoue,T.and Yamada,M.(1994)Nature Genet.,8,177-182.

 A unique origin and multistep process for generation of expanded DRPLA triplet repeats.

 Yanagisawa,H.,Fujii,K.,Nagafuchi,S.,Nakahori,Y.,Nakagome,Y.,Akane,A.,Nakamura,M.,Sano,A.,Komure,O.,Kondo,I,,Jin,K.D.,Srensen,A.E.,Potter,T.N.,Young,R.S.,Nakamura,K.,Nukina,N.,Nagao,Y.,Tadokoro,K.,Okuyama,T.,Miyashita,T.,Inoue,T.,Kanazawa,I.&Yamada,M.(1996)Hum.Mol.Genet.,5,373-379.

 Different origins of expanded repeats for Haw River syndrome and dentatorubral-pallindoluysian atrophy.

 Potter,T.N.,Yanagisawa,H.& Yamada M.(1996)Lancet,347,1271.

 -本論の内容は、Human Molecular Geneticsに投稿中である。

審査要旨

 本研究はトリプレットリピート病の一つである歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の神経細胞死に至る機序を明らかにするため、また、DRPLA蛋白の正常機能を明らかにすることを目的とし、アルギニンとグルタミン酸の繰り返し配列を持ちDRPLAの原因遺伝子と相同性の高い遺伝子を単離し、DRPLA蛋白との関連を中心にその遺伝子産物の機能解析を行ない、下記の結果を得ている。

 1.DRPLAと相同性が高いEST(M78755)遺伝子の全長を単離した。DRPLA蛋白と同様にC末端領域にR(アルギニン)、E(グルタミン酸)が交互に繰り返す配列を有していることから、この遺伝子産物を-arginine glutamic acid repeats encording protein-略してRERE蛋白と名づけた。RERE蛋白は、ポリグルタミンを含まず、1566アミノ酸をコードし、8035塩基配列を決定した。DRPLA蛋白とはC末端領域が67%の高い相同性を示した。

 2.RERE蛋白とDRPLA蛋白がRE配列を介し相互に会合するかを、in vitro binding assayにより解析した。RERE蛋白とDRPLA蛋白がproximal側のRE配列を介して自分自身及び相互に結合できることを明らかにした。さらにRERE蛋白とDRPLA蛋白の相互作用がポリグルタミンの伸長により変化するのかを免疫沈降法を用いて検討した結果、伸長したポリグルタミンを持つ変異型DRPLA蛋白の方が正常型DRPLA蛋白に比べRERE蛋白とより強く結合した。

 3.変異型DRPLA蛋白の凝集体にRERE蛋白が含まれていないかを、培養細胞系で免疫染色法にて検証した。変異型DRPLA蛋白の凝集体とRERE蛋白の分布は一致し、凝集体とRERE蛋白が関与することを示した。さらにDRPLA蛋白、及びRERE蛋白が脊髄小脳失調症1型の原因蛋白ataxin-1と同様に核マトリックス上に存在するのかを、核マトリックス上に存在するPML蛋白を指標として免疫染色を行なった。DRPLA蛋白、及びRERE蛋白は核マトリックス上に存在し、変異型DRPLA蛋白の凝集体形成細胞では、内因性PML蛋白の局在が凝集体と同一の分布に変化したことを見出した。

 4.核外移行が可能であるのかを、核外移行を阻害する物質(レプトマイシンB)を添加し検討した。すると、約3時間でDRPLAおよびRERE蛋白は核内に集積し、DRPLA蛋白とRERE蛋白は、核と細胞質をシャトルする蛋白質であることが示された。

 以上、本論文はIn vitro binding assay、免疫染色法の結果からRE配列を介してDRPLA蛋白およびRERE蛋白は結合能を有していることを明らかにしたものである。また、免疫沈降法によりCAGリピート伸長の程度によってRE配列を介するDRPLA蛋白およびRERE蛋白の相互作用がより強固になることを示し、RERE蛋白がDRPLAの発症機序に関わっている可能性を想定させる結果を得た。本研究は、RE配列を介して蛋白-蛋白の相互作用が可能になることを、初めて示した研究成果であり、神経変性疾患の原因究明に関与するだけでなく、他の複合体形成の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク