学位論文要旨



No 115515
著者(漢字) 船越,正太
著者(英字)
著者(カナ) フナコシ,ショウタ
標題(和) 正則パラメタを持つマイクロ関数の層でのあるクラスの微分方程式の可解性
標題(洋) Solvability of a class of differential equations in the sheaf of microfunctions with holomorphic parameters
報告番号 115515
報告番号 甲15515
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第135号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 片岡,清臣
 東京大学 教授 大島,利雄
 東京大学 教授 谷島,賢二
 東京大学 教授 中村,周
 東京大学 教授 新井,仁之
内容要旨

 この論文は,2-analytic function,即ち正則パラメタを持つmicrofunctionの層でのあるクラスの微分方程式の可解性を研究するものである.また,あるクラスの微分方程式の解の特徴づけを与える.特に,transversally elliptic operator等従来の第2超局所解析の理論では扱うことの困難な作用素を考察する.

 第2超局所化の理論はさまざまな線型偏微分方程式の解を調べるのに非常に有用な方法となる.柏原正樹はmicrolocalization functorを正則関数の環の層Oxに2回適用して2-microfunctionの層を構成した.詳しい事はKashiwara-Laurent[3]を参照.この層はmicrofunctionの第2超局所特異性の分解よりも大きいので,Kataoka-Tose[5]とKataoka-Okada-Tose[4]はそれぞれの新しい部分層,所謂small 2-microfunctionの層の定義を与えた.後にSchapira-Takeuchi[6]はbimicrolocalization functorを導入して同じ層を構成した.また,[1]において著者は片岡清臣のアイディアに基づいたsmall 2-microfunctionの層の簡単な再構成を与えた.我々のの構成を用いて台定理の結果に達した.即ちに係数を持つ解複体が導来圏の中で局所的に消滅するための簡単な十分条件を与えた.

 初めにMを原点を含むRnの開集合,XをCnでのMの複素近傍,Y={z∈X;zn=0}とする.またx=(x1,…,xn),z=(z1,…,zn)をそれぞれM,Xの座標とする.さらにV,をそれぞれ次のXの正則包合的,Lagrangian部分多様体とする.

 

 但し,X=X\Mである.またx=(x’,xn),x’=(x1,…,xn-1),z=(z’,zn),z’=(z1,…,zn-1),=(’,n),’=(1,…,n-1)と置く.

 M上定義された実解析関数を係数とする微分作用素Pがの点po=(0,)の近傍でtransversally elliptic,即ち,あるl∈Nに対してpoの近傍で条件

 

 を満たすと仮定する.ここで(P)はPの主要表象を意味する.Grigis-Schapira-Sjostrand[2]はこの作用素Pに対するpoを通過するVのbicharacteristic leafに沿う解析的特異性の伝播定理を与えた.

 一方,Pがあるk,l∈Nに対してpoの近傍で条件

 

 を満たすと仮定する.著者は[1]において我々のの構成と台定理を用いて,この作用素Pに対するでの一意可解性を証明した.この場合,Pu=fのSato microfunctionの層CMでの解の構造が2-analytic functionの層でのそれに帰着するため,Grigis-Schapira-Sjostrand[2]の定理を含んでいる.更に,Lagrangian特性を持つ1階のあるクラスの微分方程式の,CMでの可解性を示した([1]を参照).

 これらの作用素に関連して,M上定義された実解析関数を係数とする微分作用素

 

 の新しいクラスを導入する.但し=(’,n)=(1,…,n)∈Nnに対してとする.

 点po=(0,)∈における任意の芽f(x)∈は正則関数の境界値として得られることに注意する.ある>0に対し

 

 但し

 

 であり,またF(z)∈O(×Ur)である.

 さて,この作用素に対してつぎの条件を仮定する.

 

 この時,poでの作用素P:の核の特徴づけに関する次の結果を得ることができる.

 定理 1.微分作用素(1)に対して(3)を仮定する.u∈に対してPu=0ならばu∈である.但しは複素部分多様体Y上のmicrofunctionの層である.

 また条件

 

 を仮定する.この時,poでの作用素P:に対する可解性に関する次の定理を得ることができる.

 定理 2.微分作用素(1)に対して(4)を仮定する.さらに,(2)で表される芽f∈が次の増大度条件を満たすとする.正数p<1,Cが存在して

 

 が成立する.このときPu=fの解u∈が存在する.

 本論文では,これらの定理を次の方法で証明する.

 定理1ではCauchy-Kowalewskiの定理によって2-analytic functionの定義関数を解析接続する.定理2ではFourier変換を利用して2-analytic functionの定義関数を扱いやすい積分表示の形にする.そのために定義関数の定義域をある増大度条件が成り立つように拡張する.そこではHormanderによるL2評価式と作用素に対する存在定理等を利用する.次に,積分変数をパラメタとみなして,パラメタを持つ微分方程式を考える.パラメタに関して解を重ね合わせることにより,ついに真の解を得る.この時,パラメタを持つ解が劣指数型,即ち緩増加であることが必要になる.このために近似解を見つけ出して,余りをパラメタを持つCauchy-Kowalewskiの定理における優級数を用いて評価する.ここでCauchy-Kowalewskiの定理において正則解の存在域はパラメタに依存しないで決まる.

 これらの定理の証明では,微分作用素の主要表象と正則解の存在域の関係が重要な役割を果たしている.

参考文献[1]S.Funakoshi,Elementary construction of the sheaf of small 2 microfunctions and an estimate of supports,J.Math.Sci.Univ.Tokyo5(1998),no.1,221-240.[2]A.Grigis,P.Schapira,and J.Sjostrand,Propagation de singularites analytiques pour des operateurs a caracteristiques multiples,C.R.Acad.Sci.Paris Ser.I Math.293(1981),no.8,397-400.[3]M.Kashiwara and Y.Laurent,Theoremes d’annulation et deuxieme microloclisation,Prepublications d’Orsay,Univ.Paris-Sud,1983[4]K.Kataoka,Y.Okada,and N.Tose,Decomposition of second microlocal analytic singularities,D-modules and microlocal geometry(Lisbon,1990)(Berlin),de Gruyter,Berlin,1993,pp.163-171.[5]K.Kataoka and N.Tose,Some remarks in 2nd microlocalization,Surikaisekikenkyusho Kokyuroku(1988),no.660,52-63,Several Aspects of Algebraic Analysis(Kyoto,1987).[6]P.Schapira and K.Takeuchi, Deformation binormale et bispecialisation,C.R.Acad.Sci.Paris Ser.I Math.319(1994),no.7,707-712
審査要旨

 本論文提出者は 正則パラメーターをもつマイクロ関数の空間においてある種の線形偏微分方程式の可解性、及び斉次解の定義関数の解析性について研究した。例えば微分作用素

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 を考えるとその実特性多様体は

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 に一致し、115515f15.gif内のいわゆるラグランジアン部分多様体である。このような特性多様体を持つ場合はいわゆる横断的楕円型の方程式としてその斉次解の性質が主に論じられてきた。フランスのGrigis-Schapira-Sjostrandらは1981年にこの種の方程式の斉次解の解析的波面集合が上伝播することを示した。すなわち解析的波面集合は0または全体に(定義域の範囲で)一致する。この結果の証明は著者の一人のSjostrand氏が開発したいわゆる、FBI変換、なる積分変換を利用するもので、Hormander流のL2評価法により、解の解析波面集合をも評価してしまう、という思想である。これは1980年代に数々の超局所解析の問題解決に応用された大変強力な手法であるが一般的には解の正則性や特異性伝播を示すのにはよいが解の構成や表示という観点からは非力である。また方程式系など代数的に複雑な場合にはさらに非力である。これに対し佐藤幹夫の超関数論に基づく代数解析的な手法は常に方程式系にも議論を容易に拡張できる表現法を用い、また解の正則性や特異性伝播,存在を同時に扱える利点がある。特に後者は1985年に発表されたKashiwara-Schapiraの層のマイクロ台理論により完全に基礎付けられた。しかし残念ながら上のPのような作用素を層A2、すなわちx1,…,xnのマイクロ関数で変数x1,…,xn-1については複素近傍までマイクロ関数として拡張できるような関数の層、で考えるとうまくいかない。これはPに対しては層A2が一種のマイクロ関数の層とはいえ、解析関数の層と同様より基本的な層であってコホモロジーや代数的な操作だけではよい結果が導けない対象になっていることに起因する。これは他の大部分の代数解析の結果が古典的なCauchy-Kovalevskiの結果と、層のマイクロ台の理論という、層の一般論から代数的に導かれるのとは異なっている。ちなみに論文提出者は参考論文の中でこの種の作用素を通常の超関数やマイクロ関数の中で扱い、層のマイクロ台の理論を巧妙に応用して

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 が任意の右辺に対しmod A2で可解であることを示す事に成功した。従来のこの種の問題ではKashiwaraやBonyによる正則包合的多様体、すなわちd<nとして

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 に沿う第二超局所解析の理論があり日本でも、戸瀬、内田、岡田などの若い研究者による多くの研究がなされてきた。しかしより小さい集合であるラグランジアンに沿う第二超局所解析はより難しく、それに対してmod A2とはいえ具体的な結果を出せたことはこの分野では顕著な進歩であった。しかしmod A2の部分を解決しなければ最終的な解決とはいえない。しかも上記の通りmod A2の部分の解決には従来の手法は全く役立たなかった。

 論文提出者は上のPを含む、上で退化する十分一般的な作用素に対し、定理1においてそのA2における斉次解が正則マイクロ関数、すなわち層に属する事を示した。ここでX=Cn,Y={z∈X;zn=0}である。これは解の定義関数を解析関数の境界値で表現しておいて通常のCauchy-Kovalevski定理により存在域を解析接続する方法による。参考論文の結果と合わせれば上記のPのような作用素の通常の超関数における斉次解がやはり層に属する事、すなわち、ある無限階複素擬微分作用素Q(z,∂z)を使って

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 と書けることを意味する。

 定理2はこの論文のメインであって、任意の右辺に対するA2における解の存在を主張している。方法はまず、右辺f(x)∈A2の定義関数F(z)が

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 のようにMelin型の積分として表示されることを示す。次に各成分F±(Z1,…,zn-1;)に対してパラメーターを含んだ方程式を解き対応する解を最後に重ね合わせる。このとき通常のパラメーター付きのCauchy-kowalevskiの定理を直接適応するとについての緩増加性をもたない解となってしまい、最後の重ね合わせができない。論文提出者はここで最近の漸近解析の方法にアイデアを得、独特な方法でこの問題を解決した。

 上記の通りこの論文は新しい結果を導出しただけではなく、今後この方面の発展に大きく影響を与える独創的な方法を生み出したことは高く評価できる。よって、論文提出者船越 正太は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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