学位論文要旨



No 115541
著者(漢字) 鵜坂,智則
著者(英字)
著者(カナ) ウサカ,トモノリ
標題(和) マルチサーバアーキテクチャによる分散仮想博物館のためのマルチユーザ仮想環境システム
標題(洋) A Multi-User Virtual Environment System for Distributed Virtual Museums with Multi-Server Architecture
報告番号 115541
報告番号 甲15541
学位授与日 2000.04.10
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3844号
研究科 理学系研究科
専攻 情報科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 萩谷,昌己
 東京大学 教授 平木,敬
 東京大学 教授 西田,友是
 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 講師 品川,嘉久
内容要旨 要旨を表示する

 近年、デジタルアーカイビング技術が、博物館関係者の注目を集めている。これは、博物館が所蔵する学術資料をデジタルデータ化することで、資料の半永久的な保存が可能となるとともに、その資料をネットワークなどを利用して公開することで、全世界の人々に公開することが可能となるためである。

 このようなデジタルアーカイブの公開手法として、我々はマルチユーザ仮想環境システムを利用した仮想博物館に着目した。マルチユーザ仮想環境システムは多数のユーザが同時に利用できる共有仮想環境である。その中に仮想博物館を構築し、デジタルデータ化された資料を、仮想博物館の展示物として利用者に公開するのである。これにより、現実世界の博物館で行われているような、展示空間の体験、あるいは利用者同士の会話や討論などを、仮想博物館の中で行うことが可能となる。また、ネットワークを利用して、複数の仮想博物館を相互接続し、全体として一つの巨大な仮想博物館として機能する、分散仮想博物館を構築することで、利用者がより多くの展示物に触れる場を与えることも可能となる。

 さて、博物館が収蔵する学術資料は膨大な量になるので、それら資料を展示するための仮想環境もまた、非常に広大な仮想環境となる。そのため、仮想博物館全体をまとめて構築するのではなく、小さな部分毎に構築し、後でそれを統合して一つの仮想博物館をつくるための手法が重要となる。また、分散仮想博物館の構築のためには、各博物館で構築された仮想博物館を継ぎ目なく接続し、利用者から見た場合には、それらが一つの仮想博物館のようにみえる必要がある。さらに、博物館が新たな資料を収集した場合には、それをデジタル化したデータが追加され、それらを展示するために仮想博物館も拡張される。そのため、仮想博物館に利用される仮想環境は、拡張しやすいものでなくてはならない。また、広く一般の人々に仮想博物館を公開するために、システムは非常に多くのユーザが同時に利用できるものでなくてはならない。

 これらの要求を満たすために、本論文ではマルチサーバアーキテクチャによる分散仮想博物館のためのマルチユーザ仮想環境システムの提唱を行う。本システムはクライアントサーバシステムとして構築され、サーバはマルチサーバシステムとして構築される。各サーバは各博物館が構築した仮想博物館の管理を行ない、サーバ間の通信によって仮想環境は継ぎ目なく接続され、巨大な仮想博物館が構築される。仮想環境は、新しい展示室や他の仮想環境を、既存の仮想環境に接続することで、容易に拡張することができる。クライアント及びサーバが受け取る更新メッセージの数はサーバ数に依存しないため、このシステムはサーバ数を増やすことで非常に巨大で、多数のユーザが利用できる仮想環境を提供することが可能である。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、デジタルミュージアムのための分散マルチユーザ仮想環境システムのシステムアーキテクチャの提案と、その実装及び評価に関して論じたものである。

 本論文は7章から成り、第1章では本研究の背景と目的、および、本研究の貢献がまとめられている。まず、デジタルミュージアムのための分散マルチユーザ仮想環境システムが満たすべき要件として、(1)仮想環境は拡張しやすいものであること、(2)各博物館で構築された仮想博物館を継ぎ目なく接続するための機構があること、(3)非常に多くのユーザが同時に利用できるシステムであることの三点があげられている。

 以上の要件を満たすために、(1)本研究で開発したシステムの仮想環境は、新しい部屋や他の仮想環境を既存の仮想環境に接続することで、容易に拡張することができる。(2)本システムはクライアントサーバシステムとして構築され、サーバはマルチサーバシステムとして構築される。各サーバは各博物館が構築した仮想博物館の管理を行ない、サーバ間の通信によって仮想環境を継ぎ目なく接続することで、巨大な仮想博物館が構築される。(3)クライアント及びサーバが受け取る更新メッセージの数はサーバ数に依存しないため、このシステムはサーバ数を増やすことで非常に巨大で、多数のユーザが利用できる仮想環境を提供することが可能である。

 以上が本研究の貢献である。

 第2章では関連研究についてまとめられており、関連研究と比較して本研究の優れている点が詳しく議論されている。第3章においては、本研究で開発したデジタルミュージアムのための分散マルチユーザ仮想環境システムの概要が述べられている。

 第4章では、本研究で開発したデジタルミュージアムの仮想環境の構造について詳しく述べられている。仮想環境は部屋がゲートで繋がった構造をしており、ゲートを通して隣の部屋が見えるようになっている。既存の部屋と新しい部屋や他の仮想環境をゲートを通して接続することにより、仮想環境を容易に拡張することができる。

 第5章では、本研究で開発したデジタルミュージアムのシステムアーキテクチャについて詳しく述べられている。特に、通信マネージャについては、アバターを追跡するためのメッセージ、ツールを操作するためにメッセージ、および、それらのメッセージを削減する方法が詳しく述べられている。

 第6章では、本研究で開発したデジタルミュージアムの評価が行われている。特に、仮想環境の拡張の容易さと、変更メッセージの量に関する評価が行われている。

 最後に第7章では、本論文の結論と今後の研究課題が述べられている。

 なお、本論文は、坂村健氏、由良俊介氏、森洋久氏、藤森和彦氏との共同研究に基づいているが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 従って、博士(理学)を授与できると認める。

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