No | 115555 | |
著者(漢字) | 呉,海洲 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ゴ,カイシュウ | |
標題(和) | 相乗的組み合わせによる新しい分析方法の開発 | |
標題(洋) | Development of new analytical techniques by synergistic combinations | |
報告番号 | 115555 | |
報告番号 | 甲15555 | |
学位授与日 | 2000.05.18 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4736号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 応用化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.緒論 分析科学においては各種の装置、試薬などが用いられるが、複雑な試料の分析に対して単一の装置、試薬などのみでは分析することが難しいため、近年いくつかの装置、試薬などを組合わせることがなされている。目的に応じた新しい組み合わせにより有効な分析法を開発することは今後の研究方向の一つであると考えられる。本研究では、複雑な試料に対して各種の装置、試薬などを組合わせて、新しい分析法を開発することを目的とし、HPLC/ETV(Electrothermal Vaporization)/ICP-MSの組み合わせによる高純度希土類元素試料中微量希土類元素の高感度分析、溶離液HIBA(2-hydroxy-2-methylpropanoic acid)/グリコール酸の組み合わせによる高純度希土類元素Y、Dy試料中微量Dy、Yの分離並びにFIB(Focused Ion Beam)/AES(Auger Electron Spectroscopy)/TOF-SIMSの組み合わせによる電子材料ワイヤボンディング微小接合界面部の元素分布の解析を実現した。 2.HPLC/ETV/ICP-MSの組み合わせによる高純度希土類元素試料中微量希土類元素の高感度分析 希土類元素の個別定量と相互分離法の研究は、宇宙・地球化学の分野で古くから進められ、また、新素材産業においても高純度希土類化合物の利用が進んだため、その分析が不可欠となっている。しかしながら特に高純度希土類元素材料中の低濃度希土類元素の分析に関しては、実用上十分に確立されているとは言い難い。今後も高純度希土類元素の応用分野はさらに広がると予想されるため、高純度希土類元素の分析法を発展させることは重要である。従来分析法として、AAS、ICP-AES、ICP-MS、NAA、XRFSなどが用いられてきたが、高純度の希土類中不純物の分析はこられの単一の方法のみでは解決できていない。その中で特に、ICP-MSは高感度、同時多元素定量に用いられるため、希土類元素の分析方法としてよく使われている。ICP-MSによる高純度希土類の分析時には以下の問題がある。1)希土類元素は多同位体の元素なので、希土類元素の分析においては、異種元素の同位体とその酸化物、水酸化物などによりピークが重なる。特に高純度希土類元素中の不純物を分析する時には、これらの妨害が著しい。2)主成分によりマトリックス妨害が生じる。 以上の問題を解決するために、次の組み合わせを考案した。まず、異種元素の同位体による妨害を排除する分離法として、迅速、高性能などの特徴を持ち、希土類元素分析中の分離法としてよく利用されているHPLCを用いる。検出には高感度多元素同時定量のできるICP-MSを用いるが、その組合わせから生じる新しい問題として、以下の点があげられる。1)分離した希土類元素を含む溶出液の体積は微小体積の注入量に比してかなり大きくなるので、希土類元素の溶液が希釈され、ICP-MSに導入する場合には相対的に分析感度が低くなる。2)HPLC分離時に使われる溶離液は高濃度の有機塩を含むので、マトリックス妨害で、直接ICP-MSに導入して分析することが困難である。これらの問題を解決するために、濃縮と有機塩の除去が可能なETVを組み合わせることにした。 上記の組み合わせに基づいて、Fig.1に示すHPLC/ETV/ICP-MSシステムを設計・試作して、評価実験を行った。溶離液として、Y、Dy以外の高純度希土類元素の分離ができるHIBAを用いた。Fig.2に示すTG曲線からETVの電気加熱階段で溶離液中の有機物を蒸発、除去できことが分かった。検出下限は0.1M HNO3溶液をブランクとしてETV/ICP-MSに20μL注入し、10回くり返し測定の結果で検討した。Table1中央のように20μL注入量の検出下限(3σ)は0.007〜0.2pg/mLであった。この検出下限から、主成分Gd100μgをHPLCに注入して分析する時、溶出液分取量をY,Dyに対しては一緒に2.0mL、他の元素に対しては1.0mLとする時、HPLC/ETV/ICP-MSの組み合わせにおける主成分Gdに対しての検出下限は0.07〜2ng/g Gdであると計算された(Table1右側)。この結果から、純度7N〜8Nの高純度希土類元素試料中微量希土類元素の分析ができると考えられる。高純度希土類化合物としてGd2O3を用い、分析を行った結果をTable2に示す。主成分Gdによる妨害のため従来のネブライザーICP-MS法では分析不可能だったLu、Yb、Tm、Tbを分析できた。本法中のLa、Ce、Smは溶離液中の濃度(Table2右側)が高いので、結果の誤差が大きくなったが、ほかの元素はほぼネブライザーICP-MSの結果と合ったことにより、HPLC/ETV/ICP-MS法の正確さを評価できた。 以上の結果から、HPLC/ETV/ICP-MSの組み合わせによりICP-MS分析法中の主成分からのマトリックス妨害、同位体および酸化物、水酸化物などのピークの重なりの妨害を避け、HPLCで分離時の測定物の濃度低下による感度不足の問題、分離用有機塩などの妨害も改善した。 3.溶離液HIBA/グリコール酸の組み合わせによる高純度希土類元素Y、Dy試料中微量Dy、Yの分離 希土類元素は外殻の電子分布が似ているため、相互分離は分離科学上の難題である。特にYとDyの分離は最も難しい。HPLCは迅速、高性能などの特徴を持っているので、希土類元素分析中の分離法としてよく利用されているHIBAは希土類の良い分離特性と安定性があるために溶離液としてよく使われているが、HIBAを溶離液としても、YとDyの分離はまだ不十分である。特に高純度のY、Dy中微量Dy或はYの分離は不可能であった。 YとDyの分離不十分の主な原因は各試薬のYとDyの金属錯体の安定度定数の差がかなり小さいためである。Y-HIBA錯体の安定度定数はDy-HIBA錯体の安定度定数より大きいので、YはDyの前に溶出する。ここでYとDyに対する安定度定数がHIBAと逆の順序となる溶離液を組入れ、総合的なYとDyの安定度定数の差が大きくなる可能性を考えた。Y-グリコール酸の金属錯体の安定度定数はDy-グリコール酸の金属錯体の安定度定数より小さく、HIBA時の順序と逆であるため、グリコール酸を溶離液として組み入れることが有効な選択と考えた。 以上の考えから、HIBA/グリコール酸の組み合わせにより高純度Y、Dy中微量Dy,、Yの分離を行った。この二つ溶離液の混合比などを調整して、高純度のY、Dyそれぞれの中微量Dy、Yの分離が可能となった(Fig.3)。 4.FIB/AES/TOF-SIMSの組み合わせによる電子材料ワイヤボンディング微小接合界面部の元素分布の解析 ワイヤボンディングはLSIなど半導体素子の機能を外部へ接続発揮するための技術として半導体産業において必須である。この方法により、半導体基板上のAl電極をリードフレームに連結する。ワイヤボンディングの接合部(Fig.4)は長期間高温環境におかれると界面化合物の生成によって、接合部の抵抗増加、強度低下、断線などの問題が起こる。この接合界面部の元素分布の解析は界面化合物の生成メカニズムの究明に必要である。 ワイヤボンディングの界面接合部は小さく、また界面生成物の分布が不均一である。解析方法としては、従来EPMA、AES、TOF-SIMSなどが用いられている。これらの方法には以下の問題があり、ワイヤボンディング界面の詳細な解析がなされていない。1)普通EPMAなどで分析する前に試料界面と垂直な断面を機械加工で作り出し、この垂直断面を分析していたが、近年構造が微小化したため、ワイヤボンディングの接合部がさらに小さくなり、この微小接合部の解析にとってEMPAなどでは分解能が不足している。2)従来の解析には普通機械研磨などの方法で断面を作り出して分析するが、機械研磨などの方法により断面の汚染、破壊の可能性があるので、正しい情報が得られない。また、接合部の化合物の生成は不均一なので、一つ断面からの情報が代表的だとは言えない。3)従来の方法では、界面と平行な断面を削り出せないので、界面内の面分析ができず、界面内の面内元素分布情報が得られない。 これらの問題を解決するためには接合界面に対する破壊や汚染が少なく、界面に対して平行な断面を精密に作り出せる方法をマッピング分析機能と組み合わせることが望ましい。FIBは微細加工機能を持つため、界面と平行な断面を作り出すことが可能である。FIBは0.1μm以下に収束可能であり、また電子ビームと同様の高い制御性を持っため、微小な構造の任意の位置に精密に断面を作り出せる。さらに分析断面とほぼ平行に入射させることにより、分析断面の損傷や汚染を少なくすることができる。この断面に対して、AESまたはTOF-SIMSでマッピング分析を行うことがワイヤボンディングの有効な解析方法と考えられる。 以上の考えから、FIB/AES/TOF-SIMSの組み合わせによりワイヤボンディングの界面接合の元素分布の解析を行った。接合部のFIB微細加工により損傷の殆どない、界面とほぼ平行な5つの断面を得た。これらの断面のTOR-SIMSマッピングにより、界面部の三次元元素分布の観察(Fig5)が実現した。 5.まとめ 本研究では複数の要素を組み合わせることで、1)高純度希土類元素材料中微量希土類元素の分析における問題点を除去した.2)従来の単一溶離液分離法で分離不十分なY、Dyは、Y、Dyの分離に対して異なる分離性能の溶離液HIBAとグリコール酸を組合せて、十分に分離可能とした.3)ワイヤボンディング接合界面の元素分布の解析について、従来法で得られない界面元素分布の解析を界面と平行な断面を削り出せる微細加工FIBをAES、TOF-SIMSと組み合わせて可能とし、さらに微小部位の三次元分析が実現した。 Fig.1 Schematic diagram of HPLC/ETV/ICP-MS system Fig.2 The relationships between the weight reduction and the temperature upon heating for HIBA and OS by a thermobalance (Sample=0.2g,heating rate=10℃/min,N2=0.7L/min.OS was used as hydrophobic agent in the HIBA eluent). Table 1 Detection limits obtained by ETV/ICP-MS and HPLC/ETV/ICP-MS Table 2 Analytical results of high-purity Gd2O3 Fig.4 Cross section of wire pad Fig.3 The comparison of the separation results (A:0.1M HIBA(0.01M OS,pH=4.00)B:0.5M HIBA(0.01M OS,pH=4.00),C:0.1Mglycolicacid(0.01M OS,pH=4.00) Fig.5 3D images of27Al+ | |
審査要旨 | 本論文は、「Development of new analytical techniques by synergistic combinations(相乗的組み合わせによる新しい分析方法の開発)」と題し、5章よりなる。 第一章は序論であり、本研究の背景及び目的の概要、本論文の枠組みに関してまとめている。分析方法の開発歴史から、分析の要求が次々に高まり、これらの要求に対して、解決の手法の一つとして、各試薬、装置、方法などを組み合わせることがなされてきた。しかし、一般的には組み合わせによりある分析上の問題を解決することが必ずしも適用対象の大幅な拡大や機能の大幅な改善にはつながってはいない。これに対して、新しい機能が生じたり、性能が飛躍的に向上するような組み合わせを「synergistic combination(相乗的組み合わせ)」と名付け、その重要性を指摘している。 本論文では、従来分析が不可能またはきわめて困難なの三つの分析について、相乗的組み合わせによる新たな方法を開発し、その有効性を実証している。 第二章は、HPLC/ETV(電気加熱気化)/ICP-MSの組み合わせによる高純度希土類元素試料中微量希土類元素の高感度分析について述べている。ICP-MSは高感度な同時多元素定量に用いられるため、検出方法として採用し、そこにHPLCを結合することにより、ICP-MSを用いて、高純度希土類中の微量希土類元素を分析する時に起こるピークの重なり、マトリクス妨害などの問題点を解決した。更にICP-MSの試料導入法として、高感度でありかつ溶離液を除くことができるETVを組み入れることにより、HPLC導入時に生じた有機塩によるマトリクス妨害、分離後溶離液の濃度の低下などの負の効果を避けた。組み合わせHPLC/ETV/ICP-MSのシステムを設計・試作して、評価実験を行った。この三つの要素を有機的に組み合わせて、相乗効果が生じ、検出下限は0.07ng/g Gd、全ての高純度希土類試料中(7-8N)全ての微量希土類元素の分析ができることが示された。 第三章は、溶離液HIBA/グリコール酸の組み合わせによる高純度希土類Y中の微量Dy、高純度Dy中の微量Yの分離について述べている。HIBAは良い希土類元素の分離特性と安定性をもつので、希土類元素の分離によく採用されている。しかし、Y-Dyの分離が不十分であることが問題となっていた。従来の改善手法として、希土類元素と錯体を形成する新しい試薬の合成がなされてきたが、それによる分離効果はさほど改善していない。ここに従来の考えと違い、二種類溶離液HIBA/グリコール酸の組み合わせを導入して評価実験を行った。HIBAを溶離液とした分離ではYはDyの前に溶出したが、グリコール酸を溶離液とした分離ではYがDyの後に溶出した。このYの分離に異なる特性を持つ溶離液の組み合わせを調整すれることにより、YとDyの分離効果が顕著に改善されたと同時に、GdとEu以外のすべての微量希土類の分離も十分にでき。これにより高純度Y、Dyの試料中Y、Dyの分離が実現した。この相乗的組み合わせの発想は他の難分離対象に関する課題にも重要な参考になると考えられる。 第四章は、FIB(収束イオンビーム)/AES(オージェ電子分光法)/TOF-SIMSの組み合わせによる電子材料ワイヤボンディング微小接合界面部の元素分布の解析について述べている。まず、ワイヤボンディングの製造プロセス、使用時の問題点及び分析の必要性に関してまとめている。次に現在用いられている分析法の問題点を挙げ、実現すべき機能は、接合界面に汚染や破壊を与えず、連続、精密に界面と平行な断面を削り出せる方法と、マッピング機能を持つ方法の組み合わせであることが指摘されている。この機能を実現するために、評価試験を行った。この組み合わせでは、まず、FIBは連続的かつ精密に汚染と損傷のない界面と平行な断面を削り出すことに用いる。次に、二次電子像から加工状況を判断して、分析の目的位置まで性格に加工する。最後に、削り出した断面に対してオージェ電子マッピング及びTOF-SIMSマッピングを行う。結果として、二次元Alパッド接合部のSi、Al、Auのオージェマップが得られ、これらの手順を繰り返すことにより、三次元元素マップの取得が可能であることが示された。オージェ電子マッピングと同様に、TOF-SIMSの二次元マップを取得し、接合部外側のAlが酸化されていることが示された。さらに、断面の削り出しとTOF-SIMSマッピングを繰り返すことにより、従来実現できなかった接合部のTOF-SIMSによる三次元Al、Siの元素分布マッピングが初めて実現した。このマップから、詳細な元素の分布が得られ、接合部金属間化合物の生成メカニズムの解明に適用されることがが期待された。 第五章においては結論を述べている。本研究では、複数の要素の相乗的組み合わせにより、従来実現不可能であった高純度希土類試料中微量希土類元素の分析、高純度Y中Dyの分離、高純度Y中Dyの分離及び電子材料ワイヤボンディング微小接合界面部の元素分布の解析を実現した。 以上本論文は新しいアイデアを基に新規性の高い相乗的組み合わせを設計・試作し、従来分析が不可能であった複雑な対象の分析を実現し、新しい分析方法の開発のため、評価試験を行ったものであり、応用化学、特に物質情報化学ならびに工業分析化学に対して貢献するところが大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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