学位論文要旨



No 115558
著者(漢字) 郭,在源
著者(英字)
著者(カナ) カク,ジェウォン
標題(和) 日本と韓国の新素材分野のR&D国際化による21世紀の協力方向の模索に関する研究
標題(洋)
報告番号 115558
報告番号 甲15558
学位授与日 2000.05.18
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4739号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岸,輝雄
 東京大学 教授 野口,悠紀雄
 東京大学 教授 児玉,文雄
 東京大学 教授 橋本,和仁
 東京大学 教授 橋本,毅彦
 東京大学 助教授 榎,学
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は日本と韓国の新素材分野を中心にして進められてきた産業・科学技術政策の歴史的な発展課程とその国際的な受容程度を、点検するとともに、21世紀を迎えて両国間の国際ネットワーク(network)を活用したR&D国際化のために、新素材分野の産業・科学技術政策の推進方向と国際化モデルを提示することに目的がある。

 本研究の出発は、新素材分野における日本と韓国の新素材産業・技術政策が国際的な受容性が低いという指摘と両国問の協力構図が弱くなりつつあるという評価からである。日本と韓国の新素材産業の国際的受容性と、今後の両国間の協力構図に関わる疑問点などは大きく五つに分けられる。

 第一、日本と韓国の既存の新素材分野産業・科学技術政策の国際的受容性は欧米の先進国家に比べては遥かに低い状態であり、特に、韓国の場合は日本型の成功的な拡散モデルに近いと評価されている。

 第二、国際的に基礎技術の需要が増えてきつつあり、その中でも代表的な分野として指摘されている新素材分野は、次第に国際的な共同技術革新の推進体制へ発展し、国際環境的な側面からも国際協力構図め実現性が拡大されつつあると指摘されている。

 第三、その他、どの分野よりも新素材分野においての日本の国際産業社会への技術革新への貢献および役割の増大に対する需要が対内外的に、高まっており、特にアジア地域における日本の求心的な役割と韓国の中間的な役割の当為性はますます大きくなりつつある。

 第四、21世紀に備えた国際的受容性の拡大次元で考えてみるとき、既存の日本の新素材産業・科学技術政策のモデルは限界があり、特に新素材分野の国際協力のためには韓国の新素材産業の発展に寄与してきた日本の役割モデルを中心に、新しい概念の方向転換が迫られるという主張も提起できよう。

 第五、新素材の国際的新革新体制NIS(New Innovation System)をネットワーク中心に構築するためには、何よりも日本の新素材産業・科学技術政策のモデルが既存の追撃形戦略から抜け出て国際的受容性の増大のための国際社会への寄与拡大戦略に転換すべきである。特に、日本は韓国との鉄鋼など新素材産業・技術協力のモデルの長所を生かす方向で国際化のモデルを確立してからその概念を東北アジア全体およびアジア地域に拡散する戦略を構想・推進する必要性が大きいと思われる。まず、韓国側の立場としては、日韓間の新素材技術協力方向を韓国の新素材技術協力に対する基本的な推進構図下で日本を中心にして協力して行く方向と、第三国家との協力を日本と共同に推進する方向、それから新国際秩序論を基にした実質的な技術協力方向を提示して見た。

 一方、日本中心の日韓間の技術協力方向としては日本の新素材分野の国際座業社会での役割重視の概念と日本の技術政策の国際的受容性を高める次元で、韓国と一次的に協力増大すべき必要性を強調した。そして日本のうちで地域別、それから機関別に新素材の国際技術協力モデルを分けて多元的な推進方向の提示と共に東北アジア地域を拡大して国際協力を進めるためには日本と韓国が一次的な技術協力の対象になるべきであるのを強調した。

 新素材分野においての日韓間の技術協力は日本の支援を通じて韓国の新素材(鉄鋼)産業発展によって、却って日本の新素材席業の活性化にも影響を与えた。従って、21世紀には日本と韓国の協力の増大による東北アジア地域の新素材産業の発展と世界的な技術発展の基地としての役割がもっと強調されているためである。

 日本と韓国の新素材分野の国際的受容性を増大させるための協力モデルの構想は、前にいろいろな角度から提示されてきた。新素材分野の両国間の国際技術協力の模索を通じて日本の国際産業社会への寄与の拡大と韓国の鉄鋼産業の成功要因が日本との協力であったことを周知させる方案を提示する。特に東北アジア地域での科学技術協力の増大と産業協力が拡大されなければ、21世紀に入っては成長の可能性を失うことになり、国際的な産業経済活動のもとになり、国家経済を導いていく両国の外部指向形の産業構造に比べたら、まだ多くの制約が予想される。これに効率的な対処をして行くためには、両国が中心に立って、主導的に新素材分野に関する技術開発の協力と国際的な受容性の拡大が絶対的に必要である。これに対して具体的な、しかも詳しい対策方向は国際的な協力モデルの完成と効率的な運営方案、そして両国間の協力およびその他の国家を含む協力などに対する戦略的な方向の設定がきっと必要な事項と言える。

 新素材分野における日本中心の日韓の国際的受容性の高いR&D推進モデルは推進体制と推進方法等、モデル別にその差と特徴的な項目を構想し、そのモデルそれぞれの国際的受容限界点、受容性の増大のための課題などを概念化させることである。

 このような5つの国際的な受容性の増大モデルがおのおの実施されるか、または複合的に実施される場合に日本型の新素材の国際R&D推進モデルが具体化できるし、段階ごとに実践しそれぞれのモデルごとに国際的受容性を維持、管理する方法で推進できる。

 勿論、国際的なモデルになるためには国家間の理解と文化的な差などを考慮しなければならず、何よりも日本がリーダー的な役割を担当するためにも参与国家に利益の幅と内容面でのインセンチブを設ける必要があろう。日本と韓国は、それぞれのモデルによって研究開発の国際化を積極的に推進してきたため、大規模の財源の投資を必要とする新素材の開発においては、その研究開発資金、研究人力、研究の効率的推進のために必要な情報の不足など、様々な難関があって、研究の効率性面で見ると、多難さを持っていたことも事実である。また、現在論じている国家間の研究開発の国際化の推進概念は東北アジア地域で主張されている技術従属及び地域化概念が相衝される現状を見せて、効率的な国際協力が推進されなくなったことも事実である。

 したがって、新素材技術の国際共同研究の推進モデル、その物自体の概念および実現可能性などが東北アジア地域では広く拡散されていないが、現在強く主唱されているグロバーリズムの視点と当為性面でみれば、今から日本と韓国は競争より新素材分野での協力を通じるお互いのメリットを確保して行くのが何よりも重要だと言える。

 日本が台湾、中国よりも韓国との研究開発協力の必要性が大きいといえる根拠としてはつぎの事項を挙げられる。

 ・日本と韓国の地理的な近接性、文化・社会・産業構造の類似性を持っているため、お互いいの効率的な共同研究の推進ができること。

 ・国際的に新素材基礎技術に係わる国際共同研究の心安性とその需要が増大されていること。

 ・お互いの共同研究の推進においてのその資金、人力など研究資源の投入がその他の国よりも易しい状態であること。

 日本の立場では、台湾とは研究開発協力より、産業協力をする方が良いと判断され、中国とは部分的な技術協力ができるが、長期的には日本と競争関係になる可能性があるから共同研究協力の大幅拡大には、ある程度の限りがあると言えよう。

 一方、韓国との研究開発協力は一般的に競争関係にあると認識されているが、現在の両国間の貿易量・人力の交流・技術協力などの増大趨勢をみると現美的に、すでに密接な協力関係が形成されていると考えられる。

 日本を中心にしたアジアの研究協力モデルの実現段階としては、韓国この協力モデルの定着してから(第1次)、両国中心の協力モデルに中国、台湾を含める東北アジア国家間の協力モデル構築(第2次)、北朝鮮・ロシアを抱き込むもっと広い東北アジア地域内の研究協力(第3次)、最後に第3次までに構築された協力モデル下で東南アジア・中東国家を含める全体アジア地域国家間の研究協力を推進して行く方案が現在の国家間の協力状況に照らしてみるとき、ある程度の妥当性を持っていると言える。

 日本の新素材分野においての技術・産業政策の国際的な受容性を高める方案としては韓国の浦項製鉄の成功の事例を教訓にすることができる。汎用性の新素材である鉄鋼を中心に日本の経験を移転すると同時に技術移転と技術協力さらには生産協力まで拡大させていくことにより韓国と日本が各々特化された産業を確保でき地域的に拡大再生産の構図を構築できると評価できる。

 これからは生産・操業技術の国際協力だけでなく、アジア地域での新素材の技術開発を主導すると同時に技術拡散を通じた地域発展に寄与するためには設計、素材技術等は勿論研究開発段階の技術協力を共同研究の形態に推し進める必要があると思う。日本中心の国際的な研究開発の事業が拡大されると、米国・ヨーロッパでも共同参与を拡大していくだろうし、21世紀において共通に必須的な基礎素材の開発と共同活用の拡大を主導していくだろう。

 日本の技術と産業協力によって韓国の浦項製鉄が発展してきたモデルは新素材技術の日韓間の発展モデルとして拡大される可能性が高いと判断される。すなわち、今までのように日本の技術を導入して活用する次元よりは、これを新素材における共同研究に拡大して行くとともに、国際的な共同研究の推進モデルとして発展させて行くのが東北アジアの新素材技術協力のための新たなモデルの構築において良い選択であるとともに以後の国際協力にも示唆することが大きいと言えよう。

 日韓両国間の国際共同研究モデルの内容はそれぞれを区分しなくて、アジア国際共同R&D推進体制の中で日本と韓国が主導的に協力して行く方向を模索するモデルと言えよう。この日韓間の新素材共同研究推進モデルはいわゆるネットワーク形モデルと言える。基礎分野を共同研究の対象にしている点ではリニアモデルとは違い、共同研究結果を活用に繋げることに重きをおいていない点ではノンリニアモデルの特性とは差異がある。

研究発表

口頭

(1)遠山暢之,ク ザホ,張 柄國,岸 輝雄:“形状記憶合金の回復力によるCFRPの損傷制御”,日本金属学会2000年春期(第126回)大会,Mar.30,2000

図1 日・韓間の新素材に関する国際R&D協力プリズムモデル

図1.開発手法の概念図

図2.TiNi合金繊維の回復力

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、日本と韓国の新素材分野における産業・科学技術政策の国際技術協力のモデルについて述べたものである。周辺諸国と協調する必要性の増大や、国際的受容性が重要となってきており、本論文において述べられているモデルのもたらす波及効果は、日本のみではなく、アジア諸国および欧米など、全世界的に強く影響を及ぼすと考えられる。本論文で述べているような新素材分野における日・韓両国のネットワークにより国際的受容性を高くするような国際技術協力のモデルは、世界的な拡大再生産体制の構築に大きく貢献できると思われる。日本の技術と産業協力によって韓国の浦項総合製鉄が発展してきた過程は、新素材技術の日・韓間の国際技術協力が発展するモデルとして、今後も活用される可能性が高いと著者は判断している。すなわち、日本の技術を導入して活用するレベルだけでなく、これを新素材分野における共同研究に拡大して行きながら、さらに国際的な共同研究の推進モデルとして発展させて行くことが、東北アジア地域の新素材技術協力のためのひとつの理想的なモデルと考えられ、今後の国際協力のありかたにも示唆するところが大きいと結論している。全6章からなる。

 第1章では、論文の概要として、日本と韓国の新素材産業の発展過程を分析すると共に、両国における新素材分野の国際化の推進の内容と計画を調査することにより国際的受容性を点検し、日・韓両国問の国際協力模索のための様々な方案の分析を通じて、お互いの協力・発展のための重要な点について研究する方法、あるいは予想効果などを示している。

 第2章では、国際技術協力のための技術革新体制及びネットワークに関する理論と技術融合、そして研究開発活動の国際化に対する理論を検討することにより、日・韓両国における新素材分野の技術協力の拡大と共同研究の推進概念について考えている。

 第3章では、韓国の新素材分野、特に鉄鋼産業の技術発展と国内技術協力及び国際的な技術協力方案に対して、細部的な分析を行うことにより、日・韓両国の望ましい技術協力方向、韓国の新素材分野における新しい国際技術協力モデルについて整理している。

 第4章では、国際的な新素材技術の発展と変化しつつある国際化の方向について、日・米・欧などの今までの政策推進動向を調査することにより、新素材分野の国際技術協力とその発展方向について分析している。

 第5章では、日本と韓国の素材技術協力方向に対する基本的な提案を、韓国の立場と日本を中心にした協力方向とに分けて、望ましい協力方案を提示している。日・韓間の新素材技術協力の方向について、韓国の新素材技術協力における基本構図をそのまま維持しながら、日本を中心にして協力して行く方向、第三国家との協力を日本と共同で推進する方向、さらに新国際秩序を基にした実質的な技術協力の方向などに分けてその予想効果を分析している。

 第6章は総括である。日本が中心になって韓国の鉄鋼産業を発展させてきたことと同様に、新素材分野においても日本を中心にした技術発展システムが構築されることにより、まず日本と韓国の新素材技術の発展、お互いの協力ムードの拡散を通じてその他の分野においても技術共同開発が増大されて産業発展へつながることが期待できることを述べている。さらにこれが基盤となりアジアは勿論、世界の技術協力の拡大の母胎に成る可能性が大きいという点から、日本を技術協力の中心に置くプリズム・モデルを提案しており、またその有用性についての分析を行っている。

 以上本論文では、日・韓間の新素材共同研究推進をひとつのネットワーク型モデルとして捕らえ、地域間ネットワーク構築、すなわち日本を中心に国際的協力を行い日・韓両国の共同利益の創出を図っていくモデルを考えている。さらにこれは、日本と韓国の協力を初めとして、北朝鮮、ロシア、東南アジア諸国を含めた国際共同研究推進のモデルに拡大・発展することが可能であり、すべてのアジア地域を緊密に繋げるネットワーク型モデルとして完成できることを提示しており、新たな国際協力の提案のあり方として意義があると考えられる。さらにこのモデルはアジアは勿論、世界の技術協力の拡大の母胎になる可能性が大きいという点で評価できるとともに、そのための様々な分析を新たに試みたことにも本研究の意義があると考えられ、またこのような方向での今後の持続的な研究が期待される。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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