No | 115567 | |
著者(漢字) | 渡辺,達郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ワタナベ,タツオ | |
標題(和) | 「平家物語」の構造と展開 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 115567 | |
報告番号 | 甲15567 | |
学位授与日 | 2000.06.12 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(文学) | |
学位記番号 | 博人社第285号 | |
研究科 | 人文社会系研究科 | |
専攻 | 日本文化研究専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 小論は『平家物語』の諸本・本文研究として、対象とした異本の組成・構造を認識し、諸異本の展開相を把握することを目標に、考究を加えたものである。 序章では、従来の研究史を概括し、異本の全体的把握を進行するような検討の方向性を確認した。 第一章では、『平家』成立伝承のひとつ『平家勘文録』が当道座において成立した伝承叙述であることを指摘し、それは語り本系の異本屋代本、覚一本の存在が反映したものと考察した。 第二章では、語り本系異本屋代本が、この系統の異本の中で最も古態を保存した異本であることを、その本文内容や巻構成の諸点から説明した。これは語り本系異本の原初の姿を示したものと考えられる。 第三章では、覚一本が屋代本からの発展、展開を示した語り本系異本であることを、読み本系異本本文の増補という観点から、言及した。その増補の材料となったのは諸異本中最古態異本の位置が確立されている延慶本に近似する異本であると考える。 第四章では、覚一本の一章段「青山之沙汰」の成立について検討した。従来田楽能の演目に影響を与えたと考えられてきたこの章は、実はその関係は逆で、田楽能から示唆を受けて本文叙述をなしたものと捉えた。この結論により、覚一本の成立時期が南北朝期の書写時点に認められることになる。 第五章では、四部本と『平家勘文録』の関係に言及した。第一章で考察したように、『勘文録』と語り本系異本の関連を述べることが可能であるとなると、従来四部本と関連すると考えられてきた『勘文録』の叙述もその関係を逆に考えることができるようになる。四部本とは、『平家』成立伝承から示唆を与えられて成立した異本ではないか、という可能性について言及した。 第六章では、前章に続く考察として四部本の付属資料とされる『平家族伝抄』・『平家打聞』の成立について、やはり四部本と同様に『勘文録』という伝承叙述の中にその根拠を見出し得ることを述べた。 第七章では、四部本及び四部本と先後・依拠関係が想定される真名本『曽我物語』という二書の関連について、従来四部本先行と捉えられ勝ちであったことを疑問とし、真名本『曽我』先行と認め得ることに言及した。四部本成立の契機として真名本『曽我』に記された別の伝承叙述の存在についても述べた。 第八章では、『平家』諸異本群の変遷・展開過程について、諸異本の巻構成に注目することにより、跡付けを行なった。その中で、現存しない想定異本の変遷経過についても言及を加えた。 | |
審査要旨 | 本論文は、『平家物語』の錯綜する諸異本の生成と展開を、主要な三種の異本を中心に据えて、それらの組成や構造の視座から解明することを意図したものである。従来の研究史の中で確定されてきた異本の位置付けを参照しつつも、通説に寄りかかることをせず、従来の検討過程の中で比較的等閑に付されてきた観点から、あらためて考究をすすめ、おおむね通説を裏付ける結論に達するが、その間に新たな解釈や、通説と異なる伝本間の関係を見いだすなどの大きな成果を挙げた。 従来、何らかの『平家物語』作者を示す伝承と捉えられていた『平家勘文録』を、語り本系異本の成立を伝承の形式をとって叙述したものとする。古態性の評価に揺れのある屋代本を語り本の最古態本と確定し、覚一本は屋代本に古態の読み本系異本で増補した本文であるとする結論を導いている。その関連の中で、従来の芸能史研究では、『平家物語』が田楽能に影響を与えたとされてきたが、逆に田楽能が『平家物語』に影響を与えたと見るべきことを実証した。古態性を残すとも言われてきた四部本が、『平家勘文録』の伝承を基礎に製作された異本であり、真名本『曽我物語』に依拠して作られたことを論証し、通説と逆の先後関係を結論する。 真名本の成立理由などはさらに検討が必要とされるであろうが、本論文は、以上のように、多数の異本の存在の中で混迷し袋小路に入っている感のある『平家物語』伝本の展開に、新たな照明を当てたものとして高く評価しうるものである。よって、審査委員会は、本論文が博士(文学)の学位に相当するものと判断する。 | |
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