学位論文要旨



No 115577
著者(漢字) 竹上,智浩
著者(英字)
著者(カナ) タケノウエ,トモヒロ
標題(和) 大腸癌に対する抗癌剤の感受性 : 5-fluorouracil(5FU)代謝関連酵素からの検討
標題(洋)
報告番号 115577
報告番号 甲15577
学位授与日 2000.06.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1675号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 上西,紀夫
 東京大学 教授 深山,正久
 東京大学 助教授 江里口,正純
 東京大学 講師 森山,信男
 東京大学 講師 中川,恵一
内容要旨 要旨を表示する

本研究の目的

5-fluorouraci1(5FU)は大腸癌に対する第一選択の抗癌剤として30年以上使用されているが、進行大腸癌に対する奏効率は20%前後であり、下痢、色素沈着、骨髄抑制などの副作用も認められる。昨今5FUの感受性の予測にさまざまな研究が行われてきたが、本研究では5FU代謝関連酵素であるthymidylate synthase(TS)、dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)に注目し、この2つの酵素を様々な方法で評価し、5FUの効果の予測となりうるかどうかを明らかにすることを目的とした。

大腸癌でのDPDの組織免疫染色上における特徴及び、蛋白発現量との関連性の研究

抗DPDモノクローナル抗体を用いて、結腸癌組織および正常組織での免疫染色法でのDPDの分布および、免疫染色強度と蛋白発現量との関連を検討した。DPDは癌組織、または間葉系の単核球の細胞質に高発現していた。免疫染色強度は蛋白発現に有意な相関を示していた。また組織免疫染色により、癌細胞におけるDPDの発現を特異的に検出できた。

大腸癌細胞株のTS蛋白発現、DPD酵素活性と、5FUまたはLV/5FU療法に対する感受性との関連性の検討

TS発現、DPD活性と5FUまたはLV/5FU療法に対する感受性との関連、及び5FUまたはLV/5FU療法の際のTS,DPD発現の変化を様々なTS発現またはDPD活性を有する大腸癌細胞株を用いて検討した。5FU感受性に対しては、DPD活性は有意に相関したが、TS発現は相関がみられなかった。またLV/5FU療法は、殺細胞効果、TS阻害両面においてTS低発現の細胞株には5FU療法に対して有効ではなかった。TS発現量、DPD活性の測定により5FUまたはLV/5FU療法の感受性を予測できると考えられた。

治癒切除結腸癌に対する組織免疫染色法を用いたTS、DPD発現と予後及び術後化学療法の検討

治癒切除した結腸癌のTSまたはDPD発現量と生存率及び、TSまたはDPD高発現群および低発現群での化学療法の効果との関連を免疫染色法でretrospective studyにて検討した。TSは独立予後因子であり、また化学療法施行群ではDPD低発現群が高発現群に比べ有意に予後良好であった。術後化学療法はむしろTS高発現、DPD低発現群に最も有意義であり、他の群には有意な相関を示さなかった。

まとめ

5FU代謝関連酵素であるTS,DPDについて、in vitroの実験では5FU療法への感受性はDPD活性に相関し、またLV/5FU療法はTS高発現、DPD低活性の腫瘍にもっとも有意義と考えられた。抗DPDモノクローナル抗体を用いた免疫染色により、DPDの組織免疫染色上の特徴および蛋白発現との関連が明らかになった。治癒切除結腸癌を対象としたTS、DPD発現と、全体予後及び術後化学療法の効果との関連をretrospectiveに検討した結果、TSは治癒切除結腸癌における独立予後因子であり、TS低発現群は生存率が良好であり術後化学療法は不要であった。化学療法施行群ではDPD低発現群が高発現群より予後良好であり、結腸癌術後の化学療法は、TS発現群で、DPD非発現群に最も有意義であると判明した。

TS,DPDを用いて、進行大腸癌に対する5FUまたはLV/5FU療法の感受性の予測および治癒切除の大腸癌に対する術後化学療法の適用の決定が可能であると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は大腸癌に対する抗癌剤である5FUの作用機序を明らかにするため、その代謝関連酵素であるTS(thymidylate synthase)、DPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)と、5FUまたはleucovorin(LV)/5FU療法に対する感受性及び術後生存率との関連性を検討したものであり、下記の結果を得ている。

1、DPDのモノクローナル抗体を用いた大腸癌の組織免疫染色の特徴として、DPDが癌細胞の細胞質または間葉系の単核球に高発現すること、また染色強度が蛋白発現と有意に相関することが挙げられ、DPDの免疫染色が、5FUの感受性予測に適用できると考えられた。

2、大腸癌細胞株を用いてTS発現量およびDPD活性と、5FUまたはLV/5FU療法に対する感受性の検討を行った。その結果、1)5FU療法に対する感受性はDPD活性と相関したが、TS発現量とは相関しなかった。2)LVによる5FUのmodulationは、TS発現量の低い腫瘍には効果的でないと考えられた。

3、治癒切除結腸癌に対し、TS、DPDの組織免疫染色を行い、その発現強度と術後生存率および5FUによる術後化学療法の意義を検討した。その結果、1)TSはその発現自体が術後生存率に対する有意な独立因子であり、術後化学療法はむしろTS高発現群に有効であった。2)術後化学療法はDPD低発現群で有効であり、DPD高発現群に施行すべきでないと考えられた。3)結腸癌術後の化学療法は、TS高発現群かつDPD低発現群に最も有意義であった。

以上、本論文は 1)TS発現量、DPD活性と、5FUまたはLV/5FU療法の感受性との関連および 2)治癒切除結腸癌の組織免疫染色法によるTS、DPD発現量と術後生存率及び術後化学療法との関連 を明らかにした。大腸癌に対する5FUによる化学療法の適応の決定および術後生存率の予測に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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