No | 115585 | |
著者(漢字) | 岩男,弘毅 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イワオ,コウキ | |
標題(和) | 多時期・多解像度衛星画像の自動幾何補正手法の開発に関する研究 | |
標題(洋) | Development of geometric correction method of multi temporal and resolution satellite imageS | |
報告番号 | 115585 | |
報告番号 | 甲15585 | |
学位授与日 | 2000.07.13 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4744号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 数多くのリモートセンシング衛星が打ち上げられ様々な解像度および地図投影法で表現される衛星データ、地形データが供給されるにつれ、それらを組み合わせて必要な情報を得る手法の重要性が大きくなりつつある。また一方で地形標高データや土地利用データなどの多様な地理情報の整備が進み、地理情報とリモートセンシング画像データを組み合わせた解析も常識となってきた。したがって衛星データの処理を正確かつ効率よく行うことが人工衛星によるリモートセンシング技術において最も重要なものの一つであり,衛星観測データから抽出される諸情報の信頼性及び総合高次利用の可能性を直接に左右する。特に衛星画像を共通の地図座標系上で対応付けることは衛星データを利用した各種研究の精度に直接影響を与えるだけでなく様々な衛星データを組み合わせて解析を行う上でも基盤となる重要な処理といえる。しかしながら従来、衛星の姿勢情報から得られる地図座標との対応情報だけでは高精度の対応付けが出来ず、実際には高精度の幾何補正を必要とする場合、人間が介在することにより衛星画像と地図座標との対応付けを行う必要があった。人間が介在するこの作業で幾何補正を行うということは幾何補正後の衛星画像を用いた研究(分類精度)等にクリティカルに影響を与えることが考えられる。さらに多数の隣接する画像あるいは、時期の異なる画像を正確に幾何補正しようとすると変換式を独立で決定する従来の手法ではオーバーラップした範囲で本来対応するべき画像同士でずれが生じる場合がある。その際、ある地点のずれを補正しようとすると別の地点で新たな誤差が発生し、最終的に画像間でのずれを除去することは事実上困難であった。人間が介在する問題、画像ごとに補正を行うことによって生じる画像間での誤差の問題を解決するためには正確かつ自動的に幾何補正できるシステムが必要とされている。一方、幾何補正された画像を利用者の要求する座標系へ正確に切り出す作業も必要となる。 そこで本論文では多様なセンサから得られる大量の衛星画像を自動的に幾何補正するシステムの開発を目指して、以下のような研究目標を設定している。 1)自動幾何補正システムを構築する。 その際、従来人間が行ってきた画像と地図との対応付け(絶対標定)を自動で行う手法を構築する。 また、画像と画像との対応付けとして隣接画像間での対応、データの取得時期が異なる画像間での対応、解像度の異なる画像間での対応(相互標定)を自動で行う手法を構築する。 2)利用者が指定した地域に対応した画像を切り出す(リサンプリング)機能を構築する。 従来のリサンプリング処理では画像のフットプリントと地上のグリッドとの対応関係を中心点の位置関係だけで計算している。しかし,センサによってフットプリントの形状や大きさが大きく異なる場合には,中心点だけに着目した対応付けは大きな誤差を生じる。そこで,幾何補正の精度に対応した正確で高速なリサンプリング手法の開発が必要となる。 上記2点を開発目標にLandsatTM,MSS画像,NOAA AVHRR画像を用いてシステムの開発のための各種検証を行った。 本論文は10章より構成される。第1章は序論である。研究の背景,目的,本研究の特徴、及び論文の構成を示している。第2章は今回システムを開発するにあたって関連のある従来の幾何補正処理法、リサンプリング手法を整理しその問題点の指摘を行っている。第3章は今回新たに提案した幾何補正パラメータの同時決定手法のシステムについて全体構成を示した。第4章は第3章で新たに提案したシステムで必要となる隣接する画像、重なり合う画像を相互に接続するためのタイポイントを自動で取得システムについて述べてある。タイポイント取得に際しては画像相関法を用いているが隣接画像間であってもデータの取得された季節や年度の違いを考慮する必要がある。ここでは提案手法が多くの場合、良好な精度を示すことを実データを用いて検証している。第5章は緯度経度情報をもった地図から地上基準点を抽出し,これと衛星画像との対応を自動的に行う手法について述べている。ここでも実データにより精度の検証を行い、海岸線、大河川を用いた地上基準点の自動取得で,良好な精度を示すことを示し、人的介在の軽減化を図ることが出来た。第6章では第3章で提案した手法を用いた多数シーンの同時幾何補正手法の精度結果についてまとめてある。第7章は高分解能衛星画像を利用した低分解能衛星画像の地上基準点の自動認識について述べている。ここでは画像間のタイポイント取得手法を解像度が異なる場合にも拡張することで詳細な位置合わせが可能な分解能の高い衛星画像(ここではLandsatTM画像)を基準として分解能が相対的に低い衛星画像(Landsat MSS,NOAA AVHRR)の幾何補正精度の向上を実データをもとに検証し良好な精度を示した。 第8章では本研究で提案したリサンプリング手法について述べている。今回新たにフットプリントとグリッドとの包含関係を正確に表現するために,フットプリントを境界線で囲まれた図形として表現する「ピクセル境界モデル」を提案している。一方で計算効率を向上させるため重なりや包含関係の判定として境界線分を直線近似で表現することでセンサの解像度が大きく異なる場合でも正確にフットプリントの位置関係を求めることが可能となった。処理速度に関しても従来手法がリサンプリングするグリッドの個数(グリッドの大きさの2乗)に比例するのに対し,提案手法では,グリッド境界線の上に乗っているピクセル数(グリッドの大きさ)に比例することが示された。 第9章は本研究を用いたケーススタディである。東南アジア地域モザイク画像を1990年代LandsatTM,1980年代LandsatTM,1970年代LandsatMSSを合計約170シーン用いて同時幾何補正を行った。その結果、作業効率が大幅に向上し、同時に補正精度も確保していることが示された。第10章は結論である。本研究を通して得られた成果(自動幾何補正システムと高速高精度のリサンプリングシステム)と今後の展開を述べ結論としている。 | |
審査要旨 | これから5年間程度の間に、数多くの地球環境リモートセンシング衛星が打ち上げられることが予定されている。さまざまなセンサから得られる情報を総合化することで、地球環境変化のダイナミクスに関する知見が一層深まることが期待されている。しかしながら、その一方で多量のデータを迅速に処理するシステムの整備が不十分であるとも指摘されており、「先月観測したデータを解析するのは来年」というような事態が生じる可能性もある。 衛星画像の幾何補正、すなわち画像中の各ピクセルが地上のどの範囲に対応するかを正確に推定する作業は特に重要なデータ処理の一つである。地表面との対応関係を正確に捉えることができれば、他のセンサによる観測結果や地上での観測結果などと突き合わせることが容易になる。しかしながら、正確な幾何補正は画像と地図などとの対応付けを必要とするため、手作業に依存する部分が大きい。また多数の衛星画像を正確に幾何補正しようとすると、画像間のずれも同時に除去することが必要となり、作業は一層困難となる。そのため、多数の多様な衛星画像を、正確かつ自動的に幾何補正できるシステムが望まれている。 本論文は、多様なセンサから得られる多量の衛星画像を自動的に幾何補正するシステムの開発をめざして、以下のような研究目標を設定している。 1) 解像度や撮影時期の異なる多数の衛星画像をできるだけ自動的に幾何補正できる手法を開発する。 2) 異なる解像度の衛星画像について、フットプリント同士を正確に対応づけることができる手法、あるいは地上に設定された格子(グリッドセル)に置き替えることのできる手法を開発する。 2)はリサンプリングとも呼ばれる処理である。従来のリサンプリング処理では、センサの瞬間視野が対応する地表面上の範囲(フットプリント)を中心点の位置で表現し、異なるセンサのフットプリントや地上のグリッドデータとの対応関係をその中心点の位置関係だけで計算している。しかし、センサによってフットプリントの形状や大きさが大きく異なる場合には、中心点だけに着目した対応付けは大きな誤差を生じる。そこで、幾何補正の精度に対応した正確で高速なリサンプリング手法の開発が重要になる。 本論文は10章より構成されている。第1章は序論である。研究の背景、目的、及び論文の構成を述べている。第2章は従来の幾何補正処理法、リサンプリング手法を整理し、問題点の指摘を行っている。第3章は自動幾何補正システムの全体構成を述べ、特に幾何補正パラメータの同時決定手法を提案している。第4章は、隣接する画像、重なり合う画像を相互に接続するためのタイポイントを自動取得する手法について述べている。タイポイントの取得に際しては、画像の撮影季節や年度の違いなどを考慮する必要がある。ここでは提案手法が多くの場合、良好な精度を示すことを実データを用いて検証している。第5章は地図から地上基準点を抽出し、画像と自動的に対応付けを行う手法について述べている。ここでも実データにより、精度の検証を行っている。第6章はインドシナ半島を対象として収集された多数のランドサット画像を利用して、多数シーンの同時幾何補正手法について、精度検証などを行った結果についてまとめている。第7章は、特に解像度の異なる衛星画像の位置あわせ手法を提案している。これは画像間のタイポイント取得手法を解像度が異なる場合にも拡張したものであるが、詳細な位置あわせが可能な分解能の高い衛星画像を基準にして、低分解能衛星画像の幾何補正精度を向上させるためにも有効である。実データとして、高分解能衛星画像(Landsat TM)と低分解能衛星画像(Landsat MSS,NOAA AVHRR)を利用し、精度の検証を行っている。 第8章では本論文で提案したリサンプリング手法について述べている。フットプリント同士の重なりや包含関係などを正確に表現するために、フットプリントを境界線で囲まれた閉図形として忠実に表現したモデル(ピクセル境界モデル)を提案している。また、重なりや包含関係の判定を高速で行うために境界線分を直線により近似表現している。センサの解像度が大きく異なる場合でも正確にフットプリント相互の位置関係を求めることが可能になった。また、処理速度も従来手法がリサンプリングするグリッドの総数に比例にするのに対し、提案手法は、平方根に比例するに留まっていることが示された。第9章は提案手法を用いたケーススタディである。インドシナ半島を対象としたランドサット画像(TM及びMSS画像)約170シーンを用いて同時幾何補正を行った。その結果、作業効率が大幅に向上し、同時に精度も手作業による場合に比べて遜色のないことが示された。第10章は結論である。本研究を通して得られた成果と今後の課題を述べ結論としている。 以上をまとめると本論文は衛星画像の幾何補正に初めて同時調整(ブロック調整)の考え方を持ち込み、タイポイントの取得や地上基準点との位置あわせ作業をほぼ自動化することで多量の異種衛星画像を幾何補正する作業を大幅に効率化することに成功している。また、ピクセル境界モデルという新しい考え方を導入することで、幾何補正済みの衛星画像を、解像度が大きく異なる場合でも正確に重ね合わせることを可能にしている。この2つの手法が開発されたことによって、撮影時期や解像度などが多様な衛星画像を統合して利用するシステムの基礎が構築された。本論文は、衛星リモートセンシング工学の発展に大きく寄与すると判断できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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