学位論文要旨



No 115611
著者(漢字) 若松,英士
著者(英字)
著者(カナ) ワカマツ,エイジ
標題(和) 圧延加工の温度解析
標題(洋)
報告番号 115611
報告番号 甲15611
学位授与日 2000.09.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4748号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木内,学
 東京大学 教授 西尾,茂文
 東京大学 教授 横井,秀俊
 東京大学 助教授 柳本,潤
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
内容要旨 要旨を表示する

 圧延技術の発展はめざましく,熱片装入,溶湯直接圧延,連鋳直結圧延,連続圧延焼鈍,加熱冷却クラウンコントロール,熱加工履歴制御圧延等の技術開発が行われ,生産性の向上,エネルギー原単位の低減に大きく寄与している.その中の多くの技術は,被圧延材ならびにロールの温度が深く関与しているにもかかわらず,それらの温度に関する系統的な研究が十分には行われていないのが現状である.また,今後製品品質の高度化推進していく面からさらに厳しい温度管理が求められることが予想され,より正確に温度を把握する必要性が高まりつつある.そこで圧延中の被圧延材およびロールの温度を系統的かつ正確に予測することを目的として本研究を遂行した.

 温度解析手法としては,形状に対する自由度の大きい有限要素法を用いることとし,温度の経時変化を見るため,非定常解析手法を導入した.被圧延材の変形解析には剛塑性有限要素法を用い,それによって得られる被圧延材の形状変化および速度場を温度解析に取り込むため,空間固定のオイラー表示を行うこととした.変形解析より得られる,ひずみ,ひずみ速度場から加工発熱量を算出し,接触面圧および相対すべり速度から摩擦発熱を算出して,温度解析に取り入れた.

 圧延の温度解析においては,ロール,被圧延材ともに移流方向(ロール:周方向,被圧延材:圧延方向)の速度成分が大きく,熱伝導方程式の中の熱伝導の項に比べ移流の項の方が遙かに大きく,それに起因する振動解が得られる.この問題について,本研究では,中央差分と同様の形をとなる通常のガラーキン法(Petrov-Galerkin法)ではなく,風上差分と同様の形となる重み付けガラーキン法(Bubnov-Galerkin法)を採用することにより,解決できることを明らかにした.移流方向以外の方向に対しては,通常のガラーキン法で解析を行うことができることを示したが,温度変化の急激な表面近傍においては,十分細かな分割が必要となることを系統的に明らかにした.

 有限要素法は計算とその準備に時間を要するため,温度をすぐに知りたい場合の解析手法としては適さない.そこで,本研究では,板圧延の粗圧延1番スタンド,粗圧延最終スタンド,仕上圧延1番スタンド,仕上圧延最終スタンドにおいて,圧下率,初期板厚,圧延速度,被圧延材初期温度,ロール径,炭素含有量,自由表面熱伝達率,接触熱伝達率,板幅,ロール温度をそれぞれ変化させて解析を行い,それらの結果を分析して当該スタンド出口,次スタンド入口における表面幅中央,表面幅端部,板厚中央幅中央,板厚中央幅端部ならびに平均温度について,簡便に温度を知ることを可能とする一連の予測式を作成し提示した.

 次に,本研究により開発した解析手法を棒・線材圧延へ適用した.棒・線材圧延は板圧延と被圧延材の断面形状が異なるため,要素分割に工夫を要する.横断面は円形形状をはじめ,様々な形状となるため,単純に分割すると表面における要素形状がいびつになり,適切な結果が得られない場合がある.そのため,断面の中心部分は矩形に,表面部分は扇形に分割することにより,上述の問題が回避できるを明らかにした.

 接触面における要素分割についても,温度変化が急激な領域であり,圧延が極めて高速の場合もあるため,注意を要する.本研究では,一連の試行錯誤を通して,ロールと接触している温度解析用の分割節点の速度は内挿のいかんによらず必ず接平面に平行になるように与えなければならないこと,内部の節点についても速度ならびにその方向が急激に変化しないように与えなければならないことを明らかにした.

 棒・線材圧延についても,粗圧延1番スタンド,中間圧延13番スタンド,仕上圧延24番スタンドについて,各種圧延条件因子を変化させて解析を行い,それらの結果の分析を通して,当該スタンド出口ならびに次スタンド入口におけるトップ部,サイド部,中心,平均温度について予測式を作成した.圧延方式はそれぞれ粗圧延1番スタンドがスクエア・ダイヤ,中間圧延13番スタンド,仕上圧延24番スタンドがともにラウンド・オーバルである.粗圧延1番スタンドについては公称圧下率,孔型軸比,ロール初期温度,被圧延材初期温度,ロール径,ロール周速,中間圧延13番スタンドは公称圧下率,孔型半径,被圧延材初期温度,ロール周速,ロール径,ロール初期温度,仕上圧延24番スタンドは公称圧下率,孔型半径,被圧延材初期温度,ロール径,変形抵抗に乗じる係数,ロール初期温度を変数とする温度予測式である.

 最後に板材圧延における粗圧延1番スタンド,仕上圧延1番スタンド,仕上圧延最終スタンドについて,ロールの温度解析を行った.粗圧延1番スタンドは8回,仕上圧延1番スタンドは50回,仕上圧延最終スタンドは10回までロールを回転させて解析を行い,入口おけるロール表面の温度上昇量を調べた.それぞれの結果より飽和温度を予測し,粗圧延1番スタンドは約35℃,仕上圧延1番スタンドは約115℃,仕上圧延最終スタンドは約55℃であることを示した.また,仕上圧延1番スタンドについては半径方向の温度分布を調べ,5回転,50回転のいずれの場合も入口と出口では約3℃の平均温度の相違があり,より正確なサーマルクラウンの予測には3次元解析が欠かせないことを明らかにした.本研究で明らかにした成果は,以下の諸問題に利用できると考えられる.

(1)エッジ部の温度低下をも考慮した被圧延材の長手方向伸びの幅方向分布のより正確な把握とその結果に基づく板形状の予測

(2)ロールの熱膨張量の正確な把握によるサーマルクラウンの適確な予測と制御

(3)ロール表面温度の正確な把握とロールの熱疲労および摩耗の予測

(4)棒・線材圧延における被圧延材の変形挙動のより正確な把握とその結果に基づく製品寸法精度の向上ならびに適切な孔型設計の実現

(5)ロールの熱応力解析が可能となり,耐熱疲労強度向上に適するロール材質設計の推進(6)被圧延材とロール間の摩擦条件の適確な把握と潤滑剤の適正化の実現

(7)所望の特性を製品に持たせるための圧延時の温度管理,温度制御以上,要するに本論文は,熱間圧延時の被圧延材およびロールの温度の微細な変化までをも体系的に明らかにできる手法を開発すると同時に,多くの解析事例を分析し,生産現場で簡便に利用できる被圧延材各部の温度の予測式を提案し,熱間圧延技術の改善,高度化,新技術の開発等に大きく貢献できる成果を得たものである.

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、圧延中の被圧延材およびロールの温度を系統的かつ正確に予測する技術および手法を開発し広く実用に供することを目的として行われたものである。

 本研究は、温度解析手法として、形状に対する自由度の大きい有限要素法を用い、温度の経時変化を見るため、非定常解析手法を導入している。被圧延材の変形解析には剛塑性有限要素法を用い、それによって得られる被圧延材の形状変化および速度場を温度解析に取り込むため、空間固定のオイラー表示を行っている。変形解析より得られるひずみおよびひずみ速度場から加工発熱量を算出し、更に接触面圧および相対すべり速度から摩擦発熱を算出して、温度解析に取り入れている。

 圧延の温度解析においては、ロール、被圧延材ともに移流方向(ロール:周方向、被圧延材:圧延方向)の速度成分が大きく、熱伝導方程式の中の熱伝導の項に比べ移流の項の効果が遙かに大きく、それに起因する振動解が発生することが多い。この問題について、本研究では、中央差分と同様の形となる通常のガラーキン法(Petrov-Galerkin法)ではなく、風上差分と同様の形となる重み付けガラーキン法(Bubnov-Galerkin法)を採用することにより、解決できることを明らかにした。なお、移流方向以外の方向に対しては、通常のガラーキン法で解析を行うことができることも示している。加えて、温度変化の急激な表面近傍においては、十分細かな分割が必要となることを系統的に明らかにした。

 有限要素法は計算とその準備に時間を要するため、温度をすぐに知りたい場合の解析手法としては適さない。そこで、本研究では、板圧延の粗圧延1番スタンド、粗圧延最終スタンド、仕上圧延1番スタンド、仕上圧延最終スタンドにおいて、圧下率、初期板厚、圧延速度、被圧延材初期温度、ロール径、炭素含有量、自由表面熱伝達率、接触熱伝達率、板幅、ロール温度をそれぞれ変化させて解析を行い、それらの結果を分析し、当該スタンド出口、次スタンド入口における板表面幅中央、板表面幅端部、板厚中央幅中央、板厚中央幅端部の温度ならびに平均温度について、簡便に予測することを可能とする一連の予測式を作成し提示している。

 次に、本研究では、開発した解析手法を棒・線材圧延へ適用し、結果を示している。棒・線材圧延は板圧延と被圧延材の断面形状が異なるため、要素分割に工夫を要する。横断面は円形形状をはじめ、様々な形状となるため、単純に分割すると表面における要素形状がいびつになり、適切な結果が得られない場合がある。そこで本研究では、断面の中心部分は矩形に、表面部分は扇形に分割することにより、上述の問題が回避できることを明らかにした。

 接触面における要素分割についても、温度変化が急激な領域であり、圧延が極めて高速の場合もあるため、注意を要するが、本研究では、一連の試行錯誤を通して、ロールと接触している温度解析用の分割節点の速度は、内挿のいかんによらず必ず接平面に平行になるように与えなければならないこと、内部の節点についても速度ならびにその方向が急激に変化しないように与えなければならないことなどを明らかにしている。

 棒・線材圧延についても、粗圧延1番スタンド、中間圧延13番スタンド、仕上圧延24番スタンドについて、各種圧延条件因子を変化させて解析を行い、それらの結果の分析を通して、当該スタンド出口ならびに次スタンド入口におけるトップ部、サイド部、中心部の温度・並びに平均温度について予測式を作成し、提示している。圧延方式はそれぞれ粗圧延1番スタンドがスクエア・ダイヤ、中間圧延13番スタンド、仕上圧延24番スタンドがともにラウンド・オーバルである場合を想定している。粗圧延1番スタンドについては公称圧下率、孔型軸比、ロール初期温度、被圧延材初期温度、ロール径、ロール周速、中間圧延13番スタンドについては公称圧下率、孔型半径、被圧延材初期温度、ロール周速、ロール径、ロール初期温度、仕上圧延24番スタンドについては公称圧下率、孔型半径、被圧延材初期温度、ロール径、変形抵抗に乗じる係数、ロール初期温度を変数とする温度予測式を得ている。

 最後に板材圧延における粗圧延1番スタンド、仕上圧延1番スタンド、仕上圧延最終スタンドについて、ロールの温度解析を行っている。粗圧延1番スタンドについては8回転、仕上圧延1番スタンドについては50回転、仕上圧延最終スタンドについては10回転までロールを回転させて解析を行い、入口におけるロール表面の温度上昇量を調べている。そして、それぞれの結果より飽和温度を予測し、粗圧延1番スタンドでは約35℃、仕上圧延1番スタンドでは約115℃、仕上圧延最終スタンドでは約55℃であることを示している。また、仕上圧延1番スタンドについては半径方向の温度分布を調べ、5回転、50回転のいずれの場合も入口と出口では約3℃の平均温度の相違があり、より正確なサーマルクラウンの予測には3次元解析が欠かせないことを明らかにした。

 このように、本研究が得た成果は、圧延技術の高度化にかかわる以下の諸問題に対し、大きく貢献しうるものと考えられる。

(1)エッジ部の温度低下をも考慮した被圧延材の長手方向伸びの幅方向分布のより正確な把握とその結果に基づく板形状の予測

(2)ロールの熱膨張量の正確な把握によるサーマルクラウンの適確な予測と制御

(3)ロール表面温度の正確な把握とロールの熱疲労および摩耗の予測

(4)棒・線材圧延における被圧延材の変形挙動のより正確な把握とその結果に基づく製品寸法精度の向上ならびに適切な孔型設計の実現

(5)ロールの熱応力解析による耐熱疲労強度向上に適するロール材質設計の推進

(6)被圧延材とロール間の摩擦条件の適確な把握と潤滑剤の適性化の実現

(7)所望の特性を製品に持たせるための圧延時の温度管理、温度制御以上、要するに本論文は、熱間圧延時の被圧延材およびロールの温度の微細な変化までをも体系的に明らかにできる手法を開発すると同時に、多くの解析事例を分析し、生産現場で簡便に利用できる被圧延材各部の温度の予測式を提案し、熱間圧延技術の改善、高度化、新技術の開発等に大きく貢献できる成果を得たものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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