No | 115615 | |
著者(漢字) | 崔,龍鎮 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チェ,ヨンジン | |
標題(和) | 感温性膜を用いた温度スウイングセパレーション | |
標題(洋) | Thermal Swing Separation Using Thermosensitive Membranes | |
報告番号 | 115615 | |
報告番号 | 甲15615 | |
学位授与日 | 2000.09.21 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4752号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学システム工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | サイズにより分離する限外ろ過法では、同等のサイズを持つ溶質の分離は困難である。吸着サイトを利用するアフィニティー吸着法を膜法に応用した例も報告されているが、サイトが全て使われた後に破過するため、脱着のための溶離液の使用が不可欠であり、高い生産性は得られない。さらに、脱着時の変性やコンタミネーションの影響も深刻な系が存在する。本研究で提案する温度スウィング分離システムでは、膜材質と溶質との相互作用を利用し、かつ溶離液を使用せず外部環境変化に応答して分離を行う。pH、イオン強度、温度など環境変化により可逆的に溶質の吸脱着性を示す素材が報告されているが、本研究ではこの外部環境応答素材を用いた分離システムを開発する。 1. 新規温度スウィング分離システムの提案 膜と溶質との相互作用は疎水相互作用であり、細孔表面に数℃の温度変化により親疎水性が大きく変化する感温性の高分子鎖を固定する。高温で膜表面が疎水性の時には疎水性の溶質が細孔表面に吸着し、膜中で高濃度に濃縮され、親水性の溶質だけが透過する。この後、温度を変化させ膜細孔表面が親水性に変化すると脱着が起こり、膜中に高濃度に濃縮していた溶質が大量に透過する。この温度変化を繰り返すことにより、膜が吸脱着しながら特定成分だけが透過側にパルス的に精製及び濃縮される。また、このシステムに膜表面だけに薄いゲート膜を固定し、組み合わせることにより、より効率的な分離が行えるだろう。吸着時には膜細孔(ゲート)が開き、供給液が膜内を流れ、脱着時にはゲートが閉じることにより、供給液の透過側への漏れを防ぐことができる。本システムでは供給液を常に流す連続操作が可能であり、吸脱着間隔を制御すれば吸着容量にはあまり左右されない。膜表面に固定する材質として、32℃付近で可逆的な親疎水性変化を示すN-イソプロビルアクリルアミド(NIPAM)3)を用いる。プラズマグラフト重合法により4)NIPAMを多孔性基材中の細孔表面に固定した膜を作製する。本研究では吸脱着用膜およびゲート膜の2種類の膜を開発する。吸脱着用膜では細孔表面に短いNIPAM鎖を固定し、グラフト鎖膨潤時にも細孔を閉塞せずに細孔表面の親疎水性を変化させる。ゲート膜では細孔表面に長いNIPAM鎖を固定し、膨潤・収縮により細孔を開閉し、閉塞時には溶質の透過を阻止する。この2種類の膜を組み合わせ、上記分離システムを検討する。 2. 感温性多孔膜の構造制御および評価 吸着用膜とゲート膜では、それぞれ異なる機能が必要であり、適した構造も異なる。ここではプラズマグラフトフィリング重合法を用い、多孔基膜の細孔表面に感温性グラフト鎖を固定した。吸着膜では吸着容量を増やすために、ある程度厚い膜厚の基膜に、均一にグラフト鎖を形成する必要がある。さらにグラフト鎖膨潤時にも細孔径をある程度維持し、脱着時の透過抵抗を下げる必要がある。ゲート膜ではグラフト鎖膨潤時に細孔を閉塞し阻止性能を示すとともに、グラフト鎖形成部を薄くしゲート機能を示す領域を薄膜化することにより透過抵抗を下げる必要がある。それぞれの用途のためのグラフト鎖形成部の制御を行った。 ゲート膜に関しては、多孔性ポリエチレン薄膜基材に対して、モノマー溶媒を変化させることにより制御を行った。プラズマグラフト重合反応ではモノマー溶媒の組成を変えることにより反応速度を大きく変えることができる。膜厚が数十ミクロンと薄く細孔径が数十ナノメートルと小さい多孔膜の場合には、モノマー溶媒を変化させることにより細孔内での反応またはモノマー拡散を律速段階とすることができ、グラフト重合相分布の制御が可能であった。 吸着膜に関しては、膨潤時に細孔が閉塞せず吸着容量を確保できるよう、細孔径が数百ナノメートル、膜厚100μm_以上の基材を用いた。細孔径が0.3μmの基材では、プラズマ照射条件を制御することにより、グラフト重合相分布を制御することができた。プラズマ照射電力を大きくすると細孔内でも細孔表面が活性化され、110μmの厚みまでグラフト重合相を均一に形成することに成功した。 このようにゲート膜、吸着膜の両方に関して、必要とされる膜構造を得るための製膜指針を明らかにした。さらに、上記で作成した膜の透水性能、阻止性能、界面活性剤による吸着挙動も詳細に検討し、膜構造が性能に与える影響を予め考察した。 3. 界面活性剤を溶質モデルとした分離システムの実証 親水性の異なる非イオン性界面活性剤を溶質として用い、温度スウィング分離実験を行った。親水性界面活性剤であるNP20では予想通りに吸着性が低く供給液が透過側にそのまま透過したのに対して、比較的疎水性の高いNP10では温度変化により吸脱着し、概念に従って透過側にパルス的に濃縮した。 親水性および疎水性界面活性剤の混合溶液を用いシステムの性能を検討した結果、概念に従って疎水性溶質がパルス的に透過が輪に濃縮し、本研究で提案した分離システムが機能することを確認した。 吸着膜とゲート膜を組み合わせたシステムでは、脱着の際に供給液中の溶質を阻止し、透過側では膜に吸着した溶質を濃縮することにも成功した。これらをあわせ、本研究で提案した温度スウィング分離システムの有効性が確認できた。 4. 提案した分離システムのタンパク質分離のための基礎的検討 分離システムをタンパク質分離に応用するための基礎的な検討を行った。蛋白質の吸着平衡特性では、疎水性表面を持つポリオレフィン基材に対してBSAおよびγ-グロブリンはほぼ単分子層飽和となる吸着量を示したのに対し、親水性のミオグロビンでは低い吸着量を示した。細孔感温性グラフト鎖を固定した親水性時の表面では、25℃の親水性表面ではこれらの蛋白質のいずれにおいても低い吸着量を示し、表面特性による吸着量の違いが確認できた。 単成分系での蛋白質分離実験では、ミオグロビンは温度変化によらず吸着が起こらず、透過側に供給側と同程度濃度で透過した。それに対してγ-グロブリンは高温で膜に吸着し、その後表面がほぼ単分子層に蛋白質に覆われた後に低温にしたところ、細孔表面に吸着していたγ-グロブリンは脱着し、透過側に濃縮した。不可逆的な吸着および凝集の影響で、安定なフラックスは得られなかったが、分離システムの概念に従って温度スウィングによる吸脱着挙動が確認できた。 今後、固定する感温性グラフト鎖の相転移温度を制御することにより、本研究で提案した分離システムのタンパク質精製への応用の可能性が示された。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Thermal Swing Separation Using Thermosensitive Membranes(感温性膜を用いた温度スウイングセパレーション)」と題し、感温性高分子を多孔質基材の細孔内にプラズマグラフト重合した膜を新規に提案し、その製膜法、構造制御法を明らかにすること、温度変化による膜細孔内への吸脱着性の変化による分離方法を開発することを目的としたもので、6章からなっている。 第1章は緒論で、本研究の背景を述べ、感温性膜を用いる温度スイング分離法を提案し、本論文の目的および構成を述べている。 第2章では、製膜法、構造制御法の検討を行い、得られた膜の構造解析を行っている。多孔質基材にはポリエチレン多孔平膜を採用し、プラズマグラフト重合法によりその細孔内に感温性高分子であるN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)をグラフトしている。 膜の応用にあたっては膜庫方向に均一にグラフトした厚い膜(吸着膜)と、基材細孔入ロ近傍にのみグラフトした薄い膜(ゲート膜)とが必要であるが、この構造制御はプラズマ照射時の電力を変化させることで可能であることを新たに見いだしている。 第3章では、膜の基本特性として温度変化による透水性の変化、細孔表面の親疎水性変化による界面活性剤の吸着性の変化を測定している。NIPAMは32℃を境に低温で膨潤し親水性となり、高温で収縮して疎水性となる。この性質によりNIPAMをグラフトした膜は高温では膜透過流束は大きく、低温では小さくなることを明らかにしている。 また疎水性界面活性剤は高温では吸着するが低温では吸着量は小さくなること、親水性界面活性剤は高温でも低温でも吸着性をほとんど示さないことも明らかにしている。 第4章では、界面活性剤をモデル溶質とし、感温性高分子をグラフトした多孔膜を用い、温度スイング操作による親水性溶質と疎水性溶質の吸着分離、濃縮の可能性について検討している。 吸着膜を用い、疎水性界面活性剤であるNP-10を用いて温度スイング操作をした結果、高温時には原海は高流束で膜を透過しNP-10は疎水性相互作用により疎水性細孔表面に吸着し、透過液中にはNP-10は含まれなかった。膜の吸着容量に達して破過した後低温にすると膜透過流束は小さくなり、吸着していたNP-10は細孔表面が親水性となることから脱着し、透過側にパルス状に濃縮して得ることができた。これにより温度スイング操作による分離濃縮の可能性を示している。親水性溶質のNP-20、Triton X405では吸着はまったく起こっていない。 吸着膜は低温時でも細孔径が大きいので透過側濃度は原液濃度と同じとなり、2成分分離には不利である。そこで低温時には溶質が透過しない程度に細孔が小さくなるゲート膜を吸着膜に組み合わせることを提案」実験を行っている。その結果ゲート膜を採用することで透過側濃度は低温時にはほぼゼロになり、ゲート膜は有効であることを示している。 最後に親疎水性界面活性剤の混合系で分離実験を行い、混合系でも単成分系の結果と変化ないことを示し、感温性膜を用いた温度スイング分離法の有効性を明らかにしている。 第5章では、より高分子量の溶質への適用として、親疎水性タンパク質の分離を検討している。親水性タンパク質としてはミオグロビンを、疎水性タンパク質としてはγ-グロブリンを採用し、ミオグロビンは高温時も低温時も吸着しないこと、γ-グロブリンも低温時は吸着しないことを明らかにしている。γ-グロブリンは本論文の提案によれば高温時は吸着しなければならないが、実験結果では明確に示すことができていない。これは実験温度の36℃では変性が生じ、凝集による膜のファウリングが生じてしまったためとしている。感温性高分子をかえ、相転移温度をより低温化することが必要であるとしている。 第6章は総括で、本論文の内容をまとめている。 以上要するに、本論文は、多孔質基材の細孔内にプラズマグラフト重合法により感温性高分子をグラフトできることを示し、その構造制御法を新たに提案し、さらに温度スイング操作による透水性制御、溶質の吸着性変化による親疎水性溶質の分離濃縮の可能性を示したもので、分離工学および化学システム工学に大きな貢献をするものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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