学位論文要旨



No 115643
著者(漢字) 熊谷,香太郎
著者(英字)
著者(カナ) クマガイ,コウタロウ
標題(和) 動的なシステム最適状態を達成する交通制御手法に関する研究
標題(洋) A Study on Traffic Management Methods for Dynamic System Optimization
報告番号 115643
報告番号 甲15643
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4759号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 森地,茂
 東京大学 教授 原田,昇
 東京大学 教授 清水,英範
内容要旨 要旨を表示する

 渋滞問題は都市が抱える最重要課題の一つであるが、交差点改良や道路幅員の拡大といったハード的な対策の推進が困難な現在、交通需要管理(TDM:Traffic Demand Management)が注目を浴び、様々な手法が提案あるいは実用化されている。しかし、最も重要かつ本質的な課題である「現実の動的な交通需要に対して、道路ネットワーク全体を最も効率的に利用するためには、どのような交通制御を行うべきか」という点に関して、これまで十分な検討が行われてきたとは言い難い。本研究では、動的に変動する交通需要に対して、ネットワークを最も効率的に利用する配分原則である動的システム最適(DSO:Dynamic System Optimum)配分とTDMの一つであるランプ流入制御に焦点をあて、問題の本質と、DSO配分とランプ流入制御の基本戦略を明らかにする。

 DSO配分は、ネットワークの総旅行時間最小化を目的関数とする最適化問題として容易に定式化できるものの、解析的に大域的最適解を求めることが困難であることから、既往研究では、条件を限定した分析やヒューリスティックな解の探索手法の開発が中心となり、問題の本質や同じ動的配分原則である動的利用者均衡(DUE:Dynamic User Equilibrium)配分や動的利用者最適(DUO:Dynamic User Optimum)配分との比較は行われてこなかった。

 ランプ流入制御に関する既往研究の多くは対象を高速道路に限定しているが、高速道路だけを対象とすれば、単に流入交通量調整するだけであり、問題は、総旅行時間最小化や総流入台数最大化といった目的関数を満足する制御解の求解に帰着する。また、多くの研究では、高速道路に容量以上の需要を流入させない容量制約条件を仮定しているが、高速道路を優先して渋滞させないことに対する合理的かつ理論的根拠は明らかにされていない。本研究では、動的な枠組みの中で、一般街路と高速道路をともに含むネットワークに対して、どのような流入制御を行えば総旅行時間を最小化することができるのか、という点を明らかにする。数学的には、動的な利用者均衡配分を制約条件に持ち、総旅行時間最小化を目的関数とする最適化問題となるが、DSO配分と同様、解析的に大域的最適解を求めることは困難である。そのため、本研究では、以下の3段階のステップに分けて検討を行った。ここで、何れのステップでも、需要は所与でピークを一つ持ち、出発時刻の変更は考慮しないとした。

Step 1

 高速道路と一般街路が併走するシンプルネットワークを用いて、待ち行列は物理的な長さを持たないPoint Queueとし、DSO配分とDUE配分の違いやDSO配分の基本戦略について検討する。

結論

 渋滞発生中のある時刻に需要を1単位変化させた時の総旅行時間の変化を動的限界費用と定義すると、DSO配分は動的限界費用の均衡問題に置き換えることができる。静的な場合、経路の限界費用は経路を構成するリンクの限界費用の総和になるが、動的な場合は、ある時刻に需要を変化させた影響は渋滞が解消するまで持続するため、経路の限界費用はリンクの限界費用の総和にはならず、待ち行列毎に分割した区間単位で評価した限界費用の総和になる。

 高速道路と一般街路が併走するシンプルネットワークに対して、動的限界費用を用いて検討した結果、自由旅行時間の小さい経路から順番に容量を使い切るように需要を配分することが、DSO配分の基本戦略となる。DSO配分では、遠回りさせられ損をする利用者が存在するにもかかわらず、ネットワーク全体としての効率性は、利用者間で公平性が保たれるDUE配分よりも優れている点が確認された。

Step 2

 Step 1と同じネットワークに対して、DUE配分のもとでランプ流入制御の実現可能性と基本戦略について検討する。

結論

 一般街路も含めたネットワークを対象とすると、ランプ流入制御は特定リンクの容量を絞ることでネットワークの効率性を向上させることから、容量パラドックス問題の一種であると考えられる。そこで、Step 1と同じネットワークを用いて、ランプ流入制御の実現可能性、すなわち、流入制御によって総旅行時間が減少する条件について考察した結果、高速道路と一般街路の自由旅行時間に差があり、全需要が高速道路の容量よりも大きく、かつ、高速道路本線に需要が存在することが必要である。このような条件を満足する時、自由旅行時間の短い経路から順番に容量を使い切るようにすることがランプ流入制御の基本戦略となる。この結果は、高速道路のみを対象とした既往研究に見受けられる容量制約条件を裏付けたことになる。

Step 3

 一般化の準備として、待ち行列が物理的な長さを持つPhysical Queueとした場合、ODパターンがMany-to-Manyの場合についての問題点を考察した後、基本戦略を実際のネットワークに検証し、有効性を検証する。

結論

 終点が複数で存在しても、高速道路と一般街路が併走し、高速道路本線上にボトルネックが一つ存在し、その上流にオンランプが複数存在するネットワークであれば、上流に位置するオンランプから流入する需要の方が自由旅行時間差は大きいと考えられるため、ボトルネックに近い下流側のオンランプから流入制御を行った方が総旅行時間減少の効果は大きくなる。より一般的なODパターンがMany-to-Manyでボトルネックが複数存在するネットワークにおいて、現実的にランプ流入制御が有効であると考えられるのは、高速道路には待ち行列が発生しているが、一般街路には余裕がある状況であり、これは、近年、首都高速道路公団によって実施された流入規制実験で着目された交通状況と同じである。

 Physical Queueの場合、待ち行列がオンランプを超えて上流へ延伸すると、オンランプから流入する車両の旅行時間は一定でも、高速道路の本線を走行してきた車両の旅行時間は増加し、最も極端な場合、一般街路を選択する需要が存在しないグリッドロックと呼ばれる現象が起こり得る。しかし、基本戦略を用いれば、このような状況を避けることができるが、オンランプから伸びた待ち行列が一般街路に新たなボトルネックを生じる可能性もある。この点に関しては、今後の課題とである。

 最後に、ランプ流入制御の基本戦略を街路網交通シミュレーションモデルAVENUEに組み込み、シンプルネットワークと首都高速道路3号渋谷線と国道246号からなるネットワークを用いて検証した結果、一般街路を選択する需要は増えるものの、流入制御によって高速道路の旅行時間は大きく減少するため、ネットワーク全体の総旅行時間は減少することが確認された。

 以上から、待ち行列がPhysical Queueの場合にはなお検討の余地があるものの、DSO配分を達成するための基本戦略、ランプ流入制御によって総旅行時間が減少するための条件と基本戦略に関して、一般性のある結論が導き出すことができた。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、動的な枠組みに基づいたシステム最適交通量配分と、そこから得られた知見に基づいて高速道路オンランプにおける流入制御について、制御方策の提案を行ったものである.

 まず、動的システム最適配分(DSO)、ランプ流入制御に関する既往の研究をレビューしている.そこから、動的システム最適配分が、動的利用者均衡配分に対してどのような定性的な違いを持つものであるのかについては、未だ十分に解明されていないこと、ランプ流入制御については、高速道路のみを対象とした研究がほとんどであって、一般街路をも対象とした場合には、どのような制御によって総費用を減少させることができるのかについて研究が不十分であることを明らかにしている,

 本研究の前半は、動的システム最適配分(DSO)に関する解析であるが、DSOで重要な役割を果たすある時刻における動的マージナルコストを定義し、それが当該時刻以後の交通に依存することを明らかにし、動的マージナルコストを均衡させることがDSOを達成させることを示した.また、高速道路と一般街路が平行する単純なネットワークを用いて、DSOの基本戦略を明らかにした.

 次に、DSO基本戦略に基づいて、ランプ流入制御の戦略を提案している.DSOでは、利用者は計画者の指示に従って行動するが、ランプ流入制御では各利用者の旅行費用を最少にするように経路を選択するという設定である.本研究では、ランプ流入制御の基本戦略を提案すると同時に、より一般性のあるネットワークヘの拡張性についても考察を加えている.これらDSO、ランプ流入制御の基本戦略の提案は、従来の研究には全く見られず、新規制が高いと判断される.

 以上の解析は、物理的な長さを持たないPoint-Queueを用いた解析であったので、交通シミュレーションモデルAVENUEを利用して現実のPhysical-Queueによる渋滞延伸を考慮した場合の流入制御の留意点と、今後の課題について整理している.また、首都高速道路3号線と平行する国道246号からなるネットワークを用いて、提案した戦略を検証し、総旅行時間の減少が期待できることを確認している.

 以上のように本論文では,動的システム最適配分(DSO)と一般街路も考慮したランプ流入制御について解析を行ったものであるが、学術的な独創性と新規制が十分に認められるとともに、実ネットワークに適用した検証も行っており、実務上も有用な知見を得ていると判断できる.

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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