学位論文要旨



No 115646
著者(漢字)
著者(英字) ISLAM, G.M.TAREKUL
著者(カナ) イスラム,タレクル
標題(和) 二重蛇行複断面水路の定常流および非定常流の三次元流れ構造に関する研究
標題(洋) Three-dimensional Flow Fields in a Doubly Meandering Compound Channel under Steady and Unsteady Flow Conditions
報告番号 115646
報告番号 甲15646
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4762号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 玉井,信行
 東京大学 教授 渡邉,晃
 東京大学 教授 磯部,雅彦
 東京大学 教授 小池,俊雄
 東京大学 助教授 沖,大幹
内容要旨 要旨を表示する

自然河川はしばしば蛇行形状を呈する.洪水調節や航行や環境保護の目的でその両岸に堤防が築かれることも多く,その結果として蛇行複断面河道が現出する.このような複断面河道は自然環境面で利点があり,低水時に水深が確保されるので魚や野生生物のハビタットを提供できるとともに航行にも役立つ.洪水時には高水敷で容量が確保される.蛇行している低水路の両側に蛇行した堤防があると,二重に蛇行した複断面河道が生じる.外側の堤防の蛇行は低水路の蛇行と位相が異なるかもしれない.既往の研究によると直線複断面河道でも流れは十分複雑である.ましてや蛇行複断面河道では,流れの三次元性や低水路と高水敷流れの相互作用などから解析はますます難しくなる.直線複断面河道の流れの特性はよくわかっているが,蛇行複断面河道の研究は緒についたばかりである.蛇行している低水路と高水敷の流れの分布がわかれば河道と高水敷の管理にも役立つし,洪水緩和策を考えるのにも役立つ.

本研究は,低水路と外側堤防が位相差をもって蛇行する二重蛇行複断面水路の流れ場を三次元的に調べようとするものである.研究は定常流を対象とする部分と非定常流を対象とする部分に分けられる.定常流については,二次流の発達・減衰過程のメカニズムを明らかにすること,水深や縦断勾配が低水路と高水敷での二次流の位置と強さに与える影響を明らかにすることが目的である.縦断方向の流速分布が水深と勾配によりどう変わるかも明らかになった.非定常流については,流れ場の空間的時間的変化を調べ,定常流の場合と比較した.

二重蛇行複断面水路の流れ場は水深や勾配により変化し,直線高水敷の複断面蛇行水路の流れ場とも異なることがわかった,主流方向の流れは,高水敷上では低水路側に,低水路では高水敷側にそれる傾向にある.そのそれ方は水深が浅いときの方が大きく,最大は円弧間直線部で現れる、低水路から高水敷への流れ,高水敷から低水路への流れは流速を弱める.弱まる度合は高水敷からの流れの強さに左右され,その強さは高水敷上の水深によって左右される.すなわち,水深が小さいほど流れは弱められる.高水敷上の水深が深くなると大流速線は低水路蛇行頂部の内岸よりに移動する.水深が浅い場合には最大流速線は水面の内岸近くに現れて蛇行どうしの最短距離を通るが,深くなるとvelocity-dip現象により水面より下に移る.縦断河床勾配が大きくなると,流速コンターはより複雑になる,水深平均流速の流れ方向の分布をみると,二重蛇行複断面水路の流れの構造は高水敷高さでの水平せんだん層の存在により特徴づけられる.このせんだん層は高水敷上流れが浅いときの方が深いときより強い.勾配がきついとまた強くなる.

低水路と高水敷の間の運動量交換が二重蛇行複断面水路の水理学的性質を規定する.水深が浅い場合,蛇行頂部の断面で低水路に入る流れの量は出て行く量より大きい.深い場合はその逆である.つまり,高水敷上の水深が大きいと,低水路と高水敷の間の混合を規定する流れの構造は弱い.

低水路と高水敷の間の交換により低水路と高水敷に二次流セルが発生する.反時計回りのセルが低水路内岸に沿って発達し,円弧間直線部と蛇行頂部の間でピークに達し,蛇行頂部の直上流で急に減衰する.次の蛇行では逆の現象が生じる、二次流の発達・減衰過程は水深が浅い場合も深い場合も定性的に同じであるが,セルの位置と強さは異なる.急勾配では二次流の構造はもっと複雑である.緩勾配で生じる低水路右岸の反時計回りの二次流セルに加えて左岸にも同じタイプのセルが発生する.このセルは蛇行頂部の外岸で生まれ,頂部と円弧間直線部の間まで発達する.水深の影響は緩勾配のケースと一緒である.

高水敷に流れが乗ると,水位にも変化が生じる,水深が浅い場合には,円弧間直線部の低水路右岸と堤防の間で水位が低下し,蛇行頂部の低水路と高水敷の境界で水位が上昇する.水深が深くなると,相互作用が弱くなるので水位低下部分と水位上昇部分は外壁方向に移動する.

低水路外岸の蛇行頂部と外側堤防の側壁の間には水平渦がみられる.高水敷上の水深が大きくなると,主流が全域で卓越するのでこの水平渦は小さくなる,渦の場所と強さは縦断河床勾配にも依存する.勾配が急になると渦は小さくなり蛇行頂部の上流に限定される,非定常流の水位−流量関係はループを描くが,その形状は直線水路のものとははっきり異なっている.低水路と高水敷で水位ピークに時間差があり,前者の方が早くピークに達する.縦断水位勾配は上昇時の方が下降時よりもきつくなる.水深平均した断面と直角方向の断面内流速分布は高水敷上の水深により異なる.蛇行頂部で左岸から内岸に向けて小さくなってゆく流速の最小値は,浅い場合には左岸から遠く,深い場合には左岸に近い.上昇時と下降時の流速を比べると,水深が小さいとその差も大きく水深が大きいと差が小さい.断面内の流速場は水位変化に伴って変化するが,上昇時と下降時では異なる,特定の深さで測ると,上昇時の方が縦断方向流速が大きいがその偏差は小さい,=次流の向きは時間の経過,すなわち流量の変化と共に逆になる,二次流の構造は定常流の場合とも異なり,もう一つの時計回りセルが円弧間直線部の左岸に形成される.このセルは浅い場合に強く,水深が増えると弱くなる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「Three-dimensional Flow Fields in a Doubly Meandering Compound Channel Under Steady and Unsteady Flow Conditions(二重蛇行複断面水路の定常流および非定常流の三次元流れ構造に関する研究)」と題し、現実の河川下流部の断面形に近い形状の水路における流れの基本的な特性を実験的に明かにしたものである。本論文では、互いに蛇行している低水路と高水堤防との法線形が有する位相差が流れに及ぼす影響、および非定常流の場合にそれがどのように変化するかを中心に研究が展開された。

 定常流実験においては水位を三種類、勾配を二種類変化させてその挙動を測定した。水位は、低水路満杯水位、高水敷上の高低二種類の水位を代表例とし、各種の実験を通じて同一の水位に対しで計測した。二重蛇行複断面水路の流れ場は水深や勾配により変化し、直線複断面水路の流れ場とも異なることが分かった。二重蛇行複断面水路では低水路と高水敷の流れの相互作用が重要である。流れが低水路から高水敷に乗り上げたり、また、高水敷から低水路に戻る箇所が交互に現れる。相互作用は低水路水深が浅いときに強く現れ、また、縦断方向に関しては蛇行の接続部で強くなる。高水敷上の水深が大きくなると高速の主流線は低水理蛇行頂部の内岸寄りに移動する。水深が浅い場合には、最大流速は水面付近に現れるが、水深が大きくなると水面下に移行する。水路勾配が大きくなると、低水路と高水敷との間の相互作用はより強くなり、等流速線はより複雑になる。

 低水路と高水敷の間の相互作用、すなわち運動量交換が二重蛇行複断面水路の水理的性質を規定する。高水敷上の水深が小さい場合、蛇行頂部の断面で低水路に入る流れの量は出て行く量より大きい。水深が大きい場合はその逆である。こうした差異により、縦断方向の流速分布、水位分布、二次流の分布などが規定されて行くことが分かった。

 蛇行する主流線に作用する遠心力に、低水路と高水敷の間の運動量交換が加わり、二重蛇行複断面水路においては複雑な二次流が形成される。反時計回りのセルが低水路内岸に沿って発達し、隣合う蛇行の接続部でピークに達し、蛇行頂部の直上流で急に減衰する。次の蛇行では、左右岸が逆となった現象が生ずる。二次流の発達・減衰過程は水深が浅い場合も深い場合も定性的には同じであるが、セルの位置と強さは異なっている。急勾配の場合には、緩勾配で生じる低水路右岸の反時計回りの二次流セルに加えて、左岸にも同じ形式のセルが発生する。このセルは蛇行頂部の外岸で生れ、蛇行接続部に至るまで発達する。

 高水敷に流れが乗ると、水位分布にも変化が生ずる。水深が浅い場合には、蛇行接続部の低水路右岸と高水堤防の間で水位が低下し、蛇行頂の低水路と高水敷の境界で水位が上昇する。水深が深くなると、相互作用が弱くなり水位低下部分と上昇部分は高水堤防方向に移動する。低水路外岸の蛇行頂部と高水堤防の間には水平渦が見られる。水路勾配が大きくなると水平渦は小さくなり、発生域は蛇行頂部の上流側に限定される。

 非定常流の水位-流量曲線は閉曲線を描き、流量は水位に対して二価関数となる。しかし、その形状は直線水路のものとは異なっている。低水路と高水敷では最高水位の出現時刻が異なり.前者の方が早く最高水位に達する。縦断水位勾配は上昇時の方が下降時よりも大きくなる。上昇時と下降時の流速を比べると、水深が小さいとその差が大きく、水深が大きい場合にはその差は小さくなる。断面内の流速場は水位に伴って変化するが、上昇時と下降時では異なる。特定の深さで比較すると、縦断方向流速は上昇時の方が大きいが、断面内偏差は小さい。二次流の向きは時間経過、すなわち流量の変化とともに逆転する。二次流の構造は定常流の場合と異なり、もう一つの時計回りのセルが蛇行接続部の左岸に形成される。このセルの強さは水深が浅い場合に強く、水深が増すと弱くなることが分かった。

 本論文は二重蛇行複断面水路の定常流および非定常流の三次元流れ構造を綿密な測定により、実験的に明かにした。以上要するに、本論文で得られた成果は河道設計法に対して有力な情報を与えるものであり、河川工学に寄与するところが大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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