No | 115650 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Dhakal,Rajesh Prasad | |
著者(カナ) | ダカール,ラジェッシュプラサド | |
標題(和) | 鉄筋コンクリートの高非弾性領域に適用可能なファイバーモデルと耐震性能評価 | |
標題(洋) | ENHANCED FIBER MODEL IN HIGHLY INELASTIC RANGE AND SEISMIC PERFORMANCE ASSESSMENT OF REINFORCED CONCRETE | |
報告番号 | 115650 | |
報告番号 | 甲15650 | |
学位授与日 | 2000.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4766号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 入力地震動に対する構造応答と構成材料の挙動を時間領域で詳細に追跡する動的非線形応答解析を用いることにより,鉄筋コンクリート(以下RC)の耐震性能を総合的に判定する技術の確立が,実務設計段階において強く要請されるに至っている。この際には,コンクリート並びに鉄筋・鋼材の大ひずみ領域での挙動を,現実に則して精度よくモデル化することが,応答解析精度と信頼性を向上させる上での技術的課題である。本研究は,RC柱・梁および杭部材要素をモデル化した3次元ファイバーモデルの精度向上を目的とし,かぶりコンクリートの剥離,交番応力を受ける埋め込み鉄筋の大変位挙動(横方向へのはらみ出しと鉄筋破断,構造幾何非線形性,鋼材のフーチングからの抜け出しを,分散ひび割れモデルを基礎として定式化を与えたものである。あわせて,任意3方向の地盤振動下での非弾性RC部材・杭の曲げ応答を,最終崩壊に至るまで追跡する数値解析システムの構築を行なったものである。 第一章は序論であり,平面保持の仮定に基づく有限要素ファイバーモデルの既往の研究を総括し,現時点での適用範囲について論じ,最終崩壊に至るまでの過程を追跡するために解明しなければならない材料非線形挙動について整理を行なっている。 第二章では,RC柱部材中に埋め込まれた鋼材の平均応力と表面近傍のかぶりコンクリートの剥離を,要素内に展開する平均ひずみから算出する方法とモデル化について論じた。かぶりコンクリートの剥離現象と鉄筋の横方向へのはらみ出しの相互作用は,構造解析において直接的には考慮されていないのが一般である。そのため,鋼繊維補強コンクリートを使用する際の高靱性化を合理的に説明するに至っていない。本研究では,両端回転固定の条件下にある鉄筋単体に対して,塑性以後の大変形領域の挙動について,実験並びに有限要素解析にて検討を行なった。座屈に関する特性長,鋼材強度,寸法に関する系統的な解析を実施し,のかぶりコンクリートの剥離のKinematicsに破壊力学パラメータを新規導入することで,鋼材座屈の局所化領域を合理的に算定する方法を与えている。数量化モデルの妥当性については,極端にかぶり量を大きく設定した試験体等も作成して,精度と適用範囲の検証を行なった。 第三章では,第二章にて定量化された高圧縮塑性かつ高幾何学的非線形領域での鉄筋を,要素内の平均ひずみと平均応力によって定式化し,交番載荷を受けるRC部材の繰り返し挙動に対して検証を行なった。特に,部材に作用する軸圧縮力が高い場合には,曲げ圧縮域での局所化や座屈発生の時期を,検証の対象とした。検証の対象には,高軸力・高強度コンクリートを使用した部材実験も含めた。荷重条件として,動的外力と静的交番載荷履歴を対象とした。その結果,鉄筋座屈を生じた後の交番繰り返し挙動について,既往のモデル化と比較して,大幅な精度向上を図ることが可能となった。 第四章は,幾何学的非線形性がRC部材の耐震性能に及ぼす効果について,系統的な検討を行なっている。幾何非線形性が極めて卓越しかつ主鉄筋が破断し,以後の崩壊に至る過程を追跡するとともに,実験結果との比較を行なった。解析においては破断に至る変形と水平復元力が転換する変位が幾分,過少評価されているが,最終崩壊までの過程を適切に捕らえることに成功した。また,実構造を想定した高橋脚の耐震性能について検討を行い,山間部に建設される40mを越える高橋脚では、せん断破壊を回避できても,幾何非線形性を無視できないことを定量的に示した。 第五章は,かぶりコンクリート部分に引張破壊靱性に優れる鋼繊維補強コンクリートを適用する際にも,提案したかぶりコンクリート剥離一鋼材大変位挙動をモデル化できることを実証したものである。鋼繊維混入によってかぶり部コンクリートの剥落が強く押さえ込まれ、鋼材の横方向のはらみ出しが拘束されることによって,部材靱性の大幅な改善が達成される機構を定量的に捕らえ,耐震性能評価に繋げることができたものである。 第6章では,地中に埋設されるRC杭の非線形応答の予測と,地盤-杭システムを用いた実験による検証について議論している。杭構造は,部材寸法に比較して、主鋼材径とかぶり量が相対的に大きいため,鉄筋座屈とかぶりコンクリートの剥離は,全体挙動に大きな影響を有する。特に中空断面ではかぶり崩落と鉄筋座屈が杭の内部と外周の両者に発生するため,軸耐荷力にも直接的な影響となって現れるのである。さらに群杭の数値解析上の扱いなどについても検討を行い,地盤-杭-構造物の3者非線形動的応答解析の一般的な枠組みを提供した。 第7章は結論であって,本研究全体の成果を総括した。 図1 かぶりコンクリートの剥離と埋め込まれた鉄筋の大変形挙動モデルの組み合わせ 図2 RC柱部材を使用した検証例 図3 鋼繊維補強コンクリートに対するかぶりコンクリートの剥離条件 | |
審査要旨 | 入力地震動に対する構造応答と構成材料の挙動を時間領域で詳細に追跡する動的非線形応答解析を用いることにより,鉄筋コンクリート(以下RC)の耐震性能を総合的に判定する技術の確立が,実務設計段階において強く要請されるに至っている。この際には,コンクリート並びに鉄筋・鋼材の大ひずみ領域での挙動を,現実に則して精度よくモデル化することが,応答解析精度と信頼性を向上させる上での技術的課題である。本研究は,RC柱・梁および杭部材要素をモデル化した3次元ファイバーモデルの精度向上を目的とし,かぶりコンクリートの剥離,交番応力を受ける埋め込み鉄筋の大変位挙動(横方向へのはらみ出しと鉄筋破断,構造幾何非線形性,鋼材のフーチングからの抜け出しを,分散ひび割れモデルを基礎として定式化を与えたものである。あわせて,任意3方向の地盤振動下での非弾性RC部材・杭の曲げ応答を,最終崩壊に至るまで追跡する数値解析システムの構築を行なったものである。 第一章は序論であり,平面保持の仮定に基づく有限要素ファイバーモデルの既往の研究を総括し,現時点での適用範囲について論じ,最終崩壊に至るまでの過程を追跡するために解明しなければならない材料非線形挙動について整理を行なっている。 第二章では,RC柱部材中に埋め込まれた鋼材の平均応力と表面近傍のかぶりコンクリートの剥離を,要素内に展開する平均ひずみから算出する方法とモデル化について論じている。かぶりコンクリートの剥離現象と鉄筋の横方向へのはらみ出しの相互作用は,これまで構造解析において直接的に考慮されていなかった。そのため,鋼繊維補強コンクリートを使用する際の高靭性化を合理的に説明するまでに,耐震性能評価の水準は向上していない。本研究では,最初に両端回転固定の条件下にある鉄筋単体に対して,塑性以後の大変形領域の挙動について,実験並びに有限要素解析にて検討を行なった。座屈に関する特性長,鋼材強度,寸法に関する系統的な解析を実施し,かぶりコンクリートの剥離のKinematicsに破壊力学パラメータを新規導入することで,鋼材座屈の局所化領域を合理的に算定する方法を与えている。数量化モデルの妥当性については,極端にかぶり量を大きく設定した試験体等も作成して,精度と適用範囲の検証を行なった。 第三章では,第二章にて定量化された高圧縮塑性かつ高幾何学的非線形領域での鉄筋を,要素内の平均ひずみと平均応力によって定式化し,交番載荷を受けるRC部材の繰り返し挙動に対して検証を行なった。特に,部材に作用する軸圧縮力が高い場合には,曲げ圧縮域での局所化や座屈発生の時期を,検証の対象とした。検証の対象には,高軸力・高強度コンクリートを使用した部材実験も含めた。荷重条件として,動的外力と静的交番載荷履歴を対象とした。その結果,鉄筋座屈を生じた後の交番繰り返し挙動について,既往のモデル化と比較して,大幅な精度向上を図ることが可能となった。 第四章は,幾何学的非線形性がRC部材の耐震性能に及ぼす効果について,系統的な検討を行なっている。幾何非線形性が極めて卓越しかつ主鉄筋が破断し,以後の崩壊に至る過程を追跡するとともに,実験結果との比較を行なった。解析においては破断に至る変形と水平復元力が転換する変位が幾分,過少評価されているが,最終崩壊までの過程を適切に捕らえることに成功した。また,実構造を想定した高橋脚の耐震性能について検討を行い,山間部に建設される40mを越える高橋脚では、せん断破壊を回避できても幾何非線形性を無視できないことを定量的に示した。 第五章は,かぶりコンクリート部分に引張破壊靱性に優れる鋼繊維補強コンクリートを適用する際にも,提案したかぶりコンクリート剥離一鋼材大変位挙動をモデル化できることを実証したものである。鋼繊維混入によってかぶり部コンクリートの剥落が強く押さえ込まれ、鋼材の横方向のはらみ出しが拘束されることによって,部材靱性の大幅な改善が達成される機構を定量的に捕らえ,耐震性能評価に繋げることができたものである。 第6章では,地中に埋設されるRC杭の非線形応答の予測と,地盤・杭システムを用いた実験による検証について議論している。杭構造は,部材寸法に比較して、主鋼材径とかぶり量が相対的に大きいため,鉄筋座屈とかぶりコンクリートの剥離は,全体挙動に大きな影響を有する。特に中空断面ではかぶり崩落と鉄筋座屈が杭の内部と外周の両者に発生するため,軸耐荷力にも直接的な影響となって現れるのである。さらに群杭の数値解析上の扱いなどについても検討を行い,地盤-杭-構造物の3者非線形動的応答解析の一般的な枠組みを提供した。 第7章は結論であり,本研究の成果を取りまとめている。平面保持を前提とした3次元fiberモデルの適用範囲と限界を整理し,今後,面外せん断の卓越する部材に対する技術展開の方向についても言及し,本論文のまとめとしている。 鉄筋コンクリート構造物の耐震性能評価に3次元地盤振動の効果を取り込む際には,これまで数値解析上の制約から,間接的方法を前提としてきた。そのため,偏心荷重を受ける場合や,非対称形状を有する構造系の耐震性能を正しく表現することが出来なかった。性能設計の枠組みと計算環境の整備が進み,これらの障害が取り払われてきた今日,本研究の成果は時機を得たものであり,社会基盤工学の発展に寄与すること大である。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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