学位論文要旨



No 115651
著者(漢字)
著者(英字) NOOR,MUNAZ,AHAMD
著者(カナ) ヌール,ムーナズ,アハメド
標題(和) 流動コンクリートの3次元個別要素シミュレーション
標題(洋) THREE-DIMENSIONAL DISCRETE ELEMENT SIMULATION OF FLOWABLE CONCRETE
報告番号 115651
報告番号 甲15651
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4767号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 目黒,公郎
 東京大学 助教授 岸,利治
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は定性的と定量的の両者を考慮した粒子モデルを用いて高い流動性を持つコンクリート(以後HPC)の数値解析的モデルの考えを述べたものである。フレッシュコンクリートは複合的なモデルでなく粒子が浮遊したとして考えることができる。浮遊状態であれば粒子と液相の定義が多く存在することになる。たとえば、液相のモルタル(水とセメントと細かな粒子)内の粗骨材、もしくは液相のペースト(水とセメントとセメント粒子程度の粒子)内の細骨材である。粒子の大きさに依存したレオロジーの調査が必要となる。

 数値解析的手法は今までのものよりも新しいものが必要となる。個別要素法(以後DEM)は土質力学の分野で粒の集合体の特性を調査するのに用いられていたものであり、土や岩石の集合体のようにコンクリート内の骨材間の相互作用を調査する事が可能であると考えられた。しかしながらコンクリートもまた様々な状態で特に高い流動性をもつコンクリートであれば流体の連続体としての性質を持つことになる。それ故に、連続体の影響を取り入れたDEMの修正版は必要不可欠であり、フレッシュコンクリートにおける修正DEMの妥当性もまた実証する必要がある。配合の観点から容易にワーカビリティーを予測するために、実験により配合からDEMパラメータを予測する必要がある。新しい数値解析的アプローチの進歩は、存在する様々な種類のコンシステンシー試験をシミュレートし、今までの方法では説明できなかったフレッシュコンクリートの流動メカニズムを説明することである。一般的に数値解析的シミュレーションの最終目的は実際のコンクリートのレベルにおいて可能な予測手法を確立することにある。もし、数値解析的シミュレーションの方法が、たとえば新材料の使い方と新しい特別な建設方法が実行された時に実際の建設現場で十分に予測できる情報を与えられたら、大きな労働と巨額なコストを削減できる。

 このモデルは粒子個々が独立的に配置されており、その粒子同士が接触した時のみ相互作用するとしている。粒子の流動モデルは流動性の仮定に基づいている。粒子は堅いものとして扱っているため、接触は非常な小さな領域で起こる。しかし、コンクリートに適用する場合には重なり合いをある程度許すことが可能である。重なりあいの大小は引力の法則によって接触力に依存し、すべての重なりあいは粒子のサイズの関係で小さくなる。結合力は粒子間の接触したところに存在する。数値解析シミュレーションで使われるすべての粒子は球形である。

 実際の施工の前に自己充填コンクリートの挙動を予測するいくつかのモデルを構築するごとは重要なことである。本研究では、様々な場合における自己充填コンクリートの挙動をシミュレートするために、新しい方法として3次元個別要素法を使用した。本研究の目的は自己充填コンクリートの流動と変形を推測するシミュレーション手法を確立することである。流動に必要なエネルギーは内部応力により消費されることは事実である。その結果、粗骨材粒子が障害となるため、エネルギーを多く消費する粗骨材の量を減少させれば、この手の封鎖現象はなくなると考えられる。様々な状況の下におけるフレッシュコンクリートの封鎖挙動を予測するために作動力もまた発生する。まず、自己充填コンクリートの定性的なシミュレーションを完成させた。定性的なシミュレーションの完成のために、自己充填コンクリートの様々なコンシステンシーとレオロジーテストの定性的なシミュレーションを行った。ここではスランプフロー、ボックステスト、V字管テストにおいて数値解析手法によりシミュレーションを行った。いくつかのモデルを大きなスケールで行う前に、いくつかの結果をだした。つまり、適切なモデルのパラメータの選定や現実的なモデルにとって必要な非常に多い粒子の数を減少させたりする事である。この研究で現実的な骨材、モルタル、最終的にはフレッシュコンクリートの挙動を得るために必要なDEMパラメータを選出するためガイドを見いだした。

 本研究においてまず、定性的に異なったパラメータの値で計算を行い、モルタルと骨材のシミュレーションを別々に行った。定性的なシミュレーションのために簡単なモデルを提案した。最終的にモルタルと骨材のシミュレーションから選ばれた値をもちいて、コンクリートとレオロジーテストのシミュレーションを成し遂げた。単一相モデルは粒からなる材料の流動シミュレーションのためには十分であるといえる。しかしながら、フレッシュコンクリートは単一相モデルでは不可能であり、多相物質としてのモデルでなければならない。DEMにおいて、相数の増加とセメントや砂のような小さな粒子サイズを考えるとシミュレーションと計算速度が非常に遅くなってしまう。今までのモデルでは同一要素内で骨材とモルタルの特性を含めた単相か二相のモデルであった。本研究においては二相モデルを採用したが、異なった方法によるものとした。ここに、骨材とモルタルは別々の要素を用いたモデルとした。モルタル要素はシミュレーション上では仮想の要素とした。フレッシュコンクリートの定性的挙動を得るために、球引き抜き試験を選定した。研究は3つの主要な部分に分割した。数的実験より得られた最初の結果は分離した要素はフレッシュコンクリートにおいて見られる定性的挙動を再現した。それらの予備的な結果は分離した要素モデルの手法がフレッシュコンクリートの定性的挙動をシミュレートするための非常に適したツールと考えられる。

 二つ目に、配合とレオロジーパラメータの関係をえるためにいくつかの実験を行った。その結果から定性的な解析を行った。この段階で開発したモデルの立証と使用したモデルの妥当性を確認した。この研究では、レオロジーを研究し、高流動性コンクリートの伝統的な試験方法との関係を研究した。一般的にレオロジーの研究は流体と固体の間に当たる性質をもつ物質で調査する。物質としてのフレッシュコンクリートはこの範囲の中のどこかにあると考えられる。

 さらに様々なコンクリートのレオロジー定数を計測するために、これらのレオロジー定数のモデルについても調べ、次の2つのタイプのモデルを用いた。a)Farris方程式の論理 b)経験的に構築された方程式である。すべてのモデルに対して同じ入力パラメータを用いた。測定した特性から決定した骨材のパラメータを固体部の体積をφ、最大体積をφmとした。この研究で使用するモデルはFarrisモデルとした。Farrisモデルは浮遊した固体相を含めた粒子が二つか多くの明確なサイズに分けられるという理論に基づいている。つまりコンクリートも一般的に粗骨材と細骨材とセメントに分けられるということから、このモデルを適用した。ビンガムモデルで材料の降伏値を予測するモデルはこれまでになかったので、本研究ではそれを可能にするようにした。

 このレオロジーの研究は二つのテスト、つまり一つはモルタル、もう一つはコンクリートで行った。モルタルは以前行ったコンクリートの特性と同じモルタルを用いた。別々に練る代わりにウエットスクリーニングを用いてモルタルを得た。ウエットスクリーニングの過程では、時間は混ぜ合わせからの時間を必要とし、バイブレーションは粗骨材からモルタルを分離するために必要とした。それら二つは混ぜ合わせの時間の間にモルタルの特性に影響を与える。モルタルを準備する主な目的は、コンクリートの中と同じモルタルを保持することである。これはコンクリートがビンガム流体と仮定して、配合からレオロジーの一般的な式を作成することが目的である。HFCはビンガムモデルでないことが分かった。さらにフレッシュコンクリートやモルタルのビンガム係数は最近の研究で貢献に値する方法を用いた配合の要因から決定することができた。トライアンドエラーで得られたデータに基づくと、満足できる正確さでレオロジー値からDEMパラメータを予測することができた。

 定性的なシミュレーションの後、流動性コンクリートの挙動をシミュレートするためのDEMの妥当性を確かめるレオロジーと定性的な研究はフレッシュコンクリート、モルタル、骨材の球引き抜き試験によって証明された。いくつかのコンクリートの配合は実用されている高流動性コンクリートを可能な限りの範囲で実現した。骨材中の球引き抜き試験とDEMシミュレーションの計算結果との応力−変位曲線の比較を行った。二つの結果は良好であり、このモデルの妥当性を確認した。モルタルおよびコンクリートにおける実験と修正DEMモデルの結果は同一性が満足できる率であったことからモデルの妥当性を証明できた。実験と数値解析シミュレーションによる応カ−変位曲線の結果が良好であったことから予測手法は妥当であるといえた。

 DEMの方法の検証とDEMのパラメータの研究によって、様々な種類の数値解析シミュレーションでさまざまなフレッシュコンクリートの特性を評価する試験を異なった粒子のテストによっておこなった。スランプフロー、T−ビーム、ボックス試験に関してこのモデルを用いてシミュレートした。同軸の円筒粘度計の円筒内の粘性勾配についてもシミュレートした。流動性コンクリートのシミュレートによりDEMの妥当性についても評価できた。最後に、L−ボックスは流動している時に観測される閉塞と分離のシミュレーションもシミュレートできた。

審査要旨 要旨を表示する

 近年、高流動コンクリートは多くの構造物に適用されるようになり、中でも自己充填型コンクリートは土木構造物において広く利用されている。高流動コンクリートには自己充填型以外にも種々のコンクリートが含まれているが、その他の高流動コンクリートの場合は自己充填型コンクリートとは異なり種々の問題点を有している。その一つが材料分離による弊害である。このような材料分離の問題に対しては多くの対応策が講じられ、自己充填型コンクリートが開発されたといういきさつがあるが、材料分離に伴う弊害のメカニズムについては必ずしも理論的に十分明らかにされていない。このような間題を理論的に解析するためには、材料分離も生じるより広範囲のフレッシュコンクリートの挙動までも解析できる手法を構築することが必要である。このような手法を構築することかできれば、自己充填型コンクリートとの違いも明らかになり、より確実に所要の品質のコンクリートを製造することができるようになる。

 以上のことを考慮して、本研究は高い流動性を有するコンクリートを3次元の個別要素法により解析する数値解析的モデルを構築し、骨材による閉塞状況等を再現できる定量的なシミュレーションを提案しているものである。

 第1章では、本研究が行われた背景および位置付けと研究の目的を説明している。もし定量的な数値シミュレーションを行うことができるようになれば、実際のコンクリートの挙動を予測することができ、実大実験等を行わなくても適切な配合であるか否かを判断することができる可能性を秘めていることなどを説明している。

 第2章では、今まで行われている流動解析モデルを説明するとともに、それぞれの手法が有する問題点を明らかにしている。また、個別要素法については、今まで主に土質力学の分野で粒の集合体の特性を調査するのに用いられていたが、特に高い流動性をもつコンクリートに適用するためには、コンクリートの配合を考慮したモデルを構築することが必要であることなどに言及している。

 第3章では、高流動コンクリートの中でも自己充填型コンクリートを取り上げ、その利点と欠点を含めた特徴ならびに現在行われているコンクリート材料の選定と配合設計方法について説明している。

 第4章では、今までにフレッシュコンクリートに適用されているレオロジー理論について説明を加え、コンクリートのモデル化に必要な粘性や降伏値をどのように求めているかを概説している。

 第5章では、高流動コンクリートの流動挙動を個別要素法でどの程度まで解析することができるかを確かめるために、粒子モデルとしてどのようなものが望ましいかを検討するために、3次元個別要素法による定性的な解析を行っている。即ち、単一相モデルは材料の流動シミュレーションのためには十分であるが、多層材料からなるコンクリートの分離現象を表現できないこと、現実のコンクリートにあわせたような粒子分布とすると粒子数が多くなりすぎて計算することができないことなどを考慮して、本研究では少なくとも粒度を考慮した骨材とモルタルからなる二層モデルであることが必要であることを明らかにしている。このため、コンクリートを表現するために計算可能で現実的に必要な粒子の数を減少するための検討と、二層モデルでフレッシュコンクリートの挙動をシミュレートすることが可能であるかを明らかにするための球引上げ試験、スランプフロー試験、ボックス試験、V字ロート試験などの定性的な数値解析を行っている。

 第6章では、数値解析を行うために必要な諸数値を求めるためのモルタルならびにコンクリートの実験を行い、フレッシュコンクリートの粘性と降伏値を定量的に求める手法を明らかにしている。従来の研究では、コンクリートの配合から直接これらの数値が求められているが、練混ぜ等の影響を加味するとレオロジー特性からその数値を求めるほうが望ましいことや、使用する測定器の違いによってその値は異なる場合があることなどを明らかにしている。

 第7章では、3次元二層モデルを用いた個別要素法でフレッシュコンクリートの挙動を定量的に数値計算するために必要な諸数値の求め方について説明している。未知数が多いため、基本的には数値解析と実験結果から求めることになるが、計算経験の少ない者でも容易に求めることができるように、モルタル試験で求められた粘性と降伏値がこれらの諸数値によってどのように変化するかを算出し、逆に数値解析に使用すべき諸係数を求めることができる方法も提案している。また、ここで提案した手法を用いれば高い精度でフレッシュコンクリートの挙動をシミュレートすることができることを説明している。

 第8章では、第7章までで構築したモデルを用い、T型梁底部への充填、頂版への充填、鉄筋による閉塞状況などの既往の研究で明らかにされた問題をシミュレートし、本モデルの妥当性を明らかにしている。

 第9章は、本研究の結論をまとめており、将来の展望について述べている。

 以上、本研究は今まで行うことができなかった流動性の高いフレッシュコンクリートの流動挙動ならびに材料分離による閉塞現象を、定量的に数値計算でシミュレートする手法を明らかにし、これからのフレッシュコンクリートの解析ならびに施工上の問題を解決する上で多大な貢献を果たしている。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク