学位論文要旨



No 115652
著者(漢字)
著者(英字) BALAKRISHNAIYER, KANDASAMYIYER
著者(カナ) バラクリシュナアイヤー,カンダサミイアイヤー
標題(和) 大きな繰返し載荷を受ける礫の変形特性のモデル化
標題(洋) Modelling of Deformation Characteristics of Gravel Subjected to Large Cyclic Loading
報告番号 115652
報告番号 甲15652
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4768号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 山崎,文雄
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は、異なる初期状態から異なる応力経路のもとで大きな繰返し載荷を受ける礫の変形特性に着目している。密な礫を対象とした信頼性の高い試験結果に基づいて、多様な応力状態に適用できる応力ひずみ関係のモデル化を行うことを目的としている。特に、地震時などに適用するために、大振幅の除荷・再載荷が繰返された場合の変形特性について主に検討している。さらに、密な礫の結果を他の粒状体材料と比較する検討もあわせて実施している。

 礫は、工学的に重要な地盤材料の一つであり、通常の実務においても広く用いられている。しかしながら、この材料の単調載荷時および大きな繰返し載荷時の応力ひずみ関係を、多様な初期条件と応力経路に対して適用できるようにモデル化する手法は十分には確立していない。

 実地盤と同程度の高い密度となるように室内で強く締固めて作成した密な礫の変形挙動を明らかにするために、系統的な排水三軸試験を実施した。試験材料は栃木県産の砂岩を母材とした砕石である。三軸セルの内部に設置した荷重計と供試体の側面に局所的に設置した局所変形計測装置(LDT)を用いて、軸摩擦とベッディングエラーの影響を受けない正確な応力とひずみの測定を行った。供試体は高さ57cm, 断面23×23cmの直方体として、LDTを鉛直方向だけではなく水平方向にも設置した。供試体は全て等方圧密した後、三軸圧縮側または三軸伸張側から始まる異なる応力経路でせん断した。その後、さまざまな応力状態となるように大きな除荷・再載荷を繰返し行った。いくつかの応力状態では、弾性的な変形特性を調べるために微小振幅の繰返し載荷を鉛直および水平方向に行った。最後に、拘束圧を一定に保った三軸圧縮または伸張せん断を、供試体が破壊に至るまで行った。この最後のせん断で得られた試験結果に基づいて、三軸圧縮側と三軸伸張側での破壊包絡線を求めた。

 前述した微小振幅の繰返し載荷試験結果に基づいて、弾性的な変形特性の定式化を行い、可逆的・弾性的なひずみ成分を算定した。これを用いて全ひずみ量の計測値から非可逆的・塑性的なひずみ成分を分離し、単調載荷時および大きな繰返し載荷時に生じるひずみのモデル化を行った。

 まず、応力パラメーターとして動員内部摩擦角(φ)mobの関数であるsin(φ)mob[=(σv-σh)/(σv+σh)]を、ひずみパラメーターとして塑性せん断ひずみγP[=εvp-εhP]を用いた場合の応力ひずみ関係のモデル化について検討した。三軸圧縮および伸張側での単調載荷時のモデル化には、一般化された双曲線モデルを用いた。次に、これらを骨格曲線にしてMasingの第2法則を適用することにより、大きな除荷・再載荷時のモデル化を行った。さらに、応力ひずみ関係が中立軸に対して非対称となることと、繰返し載荷中にひずみ硬化が生じることの影響を考慮するために、Masingの第2法則を一般化したProportional ruleと、生じたひずみ量に応じて骨格曲線を移動させるDrag ruleを適用した場合の検討も実施した。試験値との比較により、Proportional ruleとDrag ruleの導入によりモデル化の精度が向上することを示した。

 異なる初期条件から異なる応力経路でせん断した場合には、sin(φ)mobとγPをパラメーターとして用いると一意的な応力ひずみ関係が得られない場合がある。そこで、多様な初期条件と応力経路に適用できる一般性の高い応力ひずみ関係を得るために、sin(φ)mob/sin(φ)peakとΣ(dγP/γr)を新たな応力・ひずみパラメーターとしてモデル化した場合の検討を行った。ここで,sin(φ)peakはsin(φ)mobのピーク値,γrは基準ひずみでγr=τpeak/Go,τpeakはピーク応力状態におけるせん断応力、Goは微小ひずみレベルでのせん断弾性係数である。ただし、正規化に用いたsin(φ)peak,τpeak,Goは一定値ではなく、前述した破壊包絡線と弾性的な変形特性の定式化結果に基づいて各時点での平均応力σm[=(σv+σh)/2]に応じて変化する値として設定した。

 上記の新しいパラメーターを用いることによって、異なる条件下での単調載荷で得られた密な礫の応力ひずみ曲線のばらつきが著しく低減した。この結果に基づいて統一的な骨格曲線を設定し、前述したProportional ruleとDrag ruleを用いて大きな繰返し載荷時のモデル化を行った。これらのモデルによる計算値が、試験値とよく整合することを示した。

 異なる粒状体材料の応力ひずみ関係の比較検討も行った。豊浦砂,Hostun砂,Ham River 砂,および徳島県で採取した乱さない礫試料の既往の試験結果を対象とした。豊浦砂の一部の結果は平面ひずみ試験で得られたものであり、他の結果は三軸試験で得られたものである。前述した新しいパラメーターを用いることによって、sin(φ)mobとγPを用いた場合よりも、応力ひずみ曲線のばらつきは小さくなった。しかしながら、同じ材料でも試験条件(三軸または平面ひずみ条件)が異なる場合、あるいは同じ試験条件でも材料が異なる場合には、必ずしも統一的な応力ひずみ曲線は得られなかった。これらは、中間主応力の相対的な大きさや、材料の粒度分布,粒子形状等の影響を受けているものと考えられる。

 前述した密な礫の試験では、繰返しせん断によって弾性的な変形特性が劣化する場合があり、計算値と試験値の整合性が必ずしもよくなかった。そこで、弾性的な変形特性の劣化を考慮した計算を行い、試験値との整合性が向上することを示した。

 本研究の成果を実際に適用する際には、せん断時のダイレタンシー特性に関するモデル化も必要となる。この観点から密な礫の試験結果を分析し、試験ケース毎に異なる係数を設定する必要はあるが、Roweのストレス・ダイレタンシー則がほぼ成立することを示した。係数がばらついた理由としては応力経路の違いや密度の影響等が考えられ、一般性の高い関係を得ることが今後の検討課題である。

 以上の検討の成果として、大きな繰返し載荷時の応力ひずみ関係の一般性の高いモデル化が可能であることを、密な礫の試験結果に基づいて検証することができた。他の粒状体材料の異なる試験条件下での応力ひずみ関係のばらつきも、同じ手法により小さくできることを示した。本モデルとRoweのストレス・ダイレタンシー則と組み合わせることにより、個々の応力・ひずみ量を算定できることを示した。計算値が試験値とよく整合したことから、提案したモデル化は、大きな繰返し載荷を受ける実際の地盤の変形挙動を予測する際に適用できると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

 構造物を地盤上あるいは地盤中に建設する際には、構造物からの荷重に加えて、掘削による除荷、盛土荷重の載荷、地下水位の変化に起因する除荷,載荷などの様々な応力状態の変化が地盤中で生じる。その結果、比較的大きな振幅の繰返し応力が地盤に作用する場合がある。

 本研究では、構造物の支持地盤として利用されることが多い密な礫を対象として、上記のような繰返し応力を受けた場合の変形特性を、多様な応力経路のもとで系統的な大型三軸試験を実施することにより測定し、そのモデル化について検討している。

 第一章は序論であり、既往の研究を整理したうえで研究の背景や目的を説明するとともに、論文の構成を記述している。

 第二章では、試験に用いた材料と試験装置、および試験方法と試験条件を記述している。

 第三章では、得られた試験結果のうち微小ひずみレベルにおける弾性的な変形特性について記述している。ヤング率とポアソン比が、初期異方性と応力状態誘導異方性を考慮した亜弾性モデルによって説明できることを示している。

 第四章では、上記の亜弾性モデルを適用して試験で得られたひずみ量を弾性成分と塑性成分に分離し、単調載荷時および大きな繰返し載荷時に生じる塑性ひずみのモデル化について検討している。その結果、「一般化された双曲線モデル」により単調載荷時の応力せん断ひずみ関係をモデル化できること、Masingの第2法則を一般化したProportional ruleを用いれば応力ひずみ関係が中立軸に対して非対称となる場合でも繰返し載荷中の挙動をモデル化できること、および、生じたひずみ量に応じて骨格曲線を移動させるDrag ruleを適用することによってモデル化の精度が向上することを示している。

 第五章では、ダイレイタンシー特性に着目して試験結果を整理している。試験ケース毎に異なる係数を設定する必要はあるが、Roweのストレス・ダイレタンシー則がほぼ成立することを示している。

 第六章では、異なる応力経路に対しても適用できる−意的な応力ひずみ関係について検討している。正規化を行って新たに定義した応力・ひずみパラメーターを用いると、異なる条件下での単調載荷で得られた密な礫の応力ひずみ曲線のばらつきが著しく低減することを示している。さらに、この結果に基づいて設定した統一的な骨格曲線と前述したProportional ruleおよびDrag ruleを適用することにより、複雑な応力経路下での繰返し載荷時の変形挙動も妥当にモデル化できることを示している。

 第七章では、異なる粒状体材料間で応力ひずみ関係を比較している。豊浦砂,Hostun砂,Ham River砂,および徳島県で採取した乱さない礫試料の既往の試験結果を対象とした検討を行い、前述した新しい応力・ひずみパラメーターを用いると応力ひずみ関係のばらつきが小さくなることを示している。ただし、同じ材料でも中間主応力に関する試験条件が異なる場合、あるいは同じ試験条件でも材料が異なる場合には、必ずしも統一的な応力ひずみ曲線は得られず、今後の検討が必要である点を指摘している。

 第八章では、結論と今後の課題を記述している。

 以上を要約すると、本研究は、異なる初期状態から異なる応力経路のもとで大きな繰返し載荷を受ける礫の変形特性をモデル化する方法を提案し、その妥当性を検証したものであり、地盤工学の発展に貢献するところが大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク