学位論文要旨



No 115660
著者(漢字)
著者(英字) Sarvi,Majid
著者(カナ) サルビ,マジッド
標題(和) 都市内高速道路の合流部交通容量に関する研究
標題(洋) A Study on Merging Capacity of Urban Express ways
報告番号 115660
報告番号 甲15660
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4776号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 篠原,修
 東京大学 教授 原田,昇
 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 教授 柴崎,亮介
内容要旨 要旨を表示する

本研究は、首都高速道路において容量上のボトルネックとなる合流部の交通容量を、交通条件(大型車混入率、合流比率など)と道路幾何構造(車線数、合流角度、マーキングなど)と関連づけて定量的に分析したものである.合流部における交通解析は、以前から内外で行われているが、自由流状態におけるサービスレベル(LOS)に関する研究がほとんどで、交通容量に関してマーキングによる合流部の車線構成やゼブラマーキング配置などの交通運用策と関連づけられた定量的な解析はない.

本研究では、まず車両感知器データおよびビデオ観測に基づいて、数種類の異なった幾何構造を持つ合流部の交通容量と車両の合流挙動の観測を行った.交通容量に関するマクロ分析では、容量と加速車線長、テーパー長、合流部縦断勾配、合流比率との関係を定量的に分析した.その結果、合流部の容量は単路部と比較して約10%程度低いこと、テーパー長が長いほど容量が増加する傾向にあることを示した.しかし、縦断勾配と合流比率とは明確な関係が観測できなかった.

次に、ビデオ観測に基づいた車両挙動の解析として、合流部における追従・合流挙動をモデル化した.車間距離、速度、相対速度、前方・後方ラグを説明変数候補として、合流車の加速度を説明するモデルを解析した結果、相対速度のみを変数とする比較的シンプルなモデルが妥当であることがわかった.

 上記の車両挙動モデルは、時間軸に沿って積分すれば、合流車の速度(V)は車間距離(S)で説明できることを示しているので、このS-V関係を基本に合流部のシミュレーションモデル(FMCSP:Freeway Merging Capacity Simulation Program)を構築した.合流部を含む約200メートル区間をいくつかのサブセクションに分割し、そのサブセクションごとに、ビデオ観測で得られたS-V関係を設定した離散的なシミュレーションモデルである.観測データとシミュレーション結果を検証した結果、十分な再現性が確保できていることを確認した.

本シミュレーションモデルを用いて容量と道路幾何構造、交通条件との関係を分析した.その結果、大型車混入率が増加するにしたがい容量が低下すること、合流車線数を2車線-2車線、2車線-1車線、1車線-1車線の3種類に分けて交通容量と安全性について考察した結果、2車線-1車線、1車線-1車線の場合には、2車線-2車線に比べて容量の増加が期待できる結果となった.このシミュレーション結果を確認することを,目的に、谷町JCTにおける車線数変更の前後における容量の比較を参照したが、谷町JCTは交通量の車線分布がかなり偏在する地点のため、観測結果からは明確な違いは計測できなかった.さらに、合流部の前後における車線変更の規制を行った場合に容量がどのように変化するのかについて解析を行ったが、車線変更を減少させることが容量増加につながるという結果を得た.ただし、このような規制は現実には皆無であるため、実現象との突き合わせは行えなかった.これらの結果は、100%の確信を持てるものではないので、今後フィールドにおける実験を行い、検証する必要はある.ただし、本研究で提案したシミュレーションモデルはどのような交通運用策が交通容量増加に期待がもてるのであろうかという第1次の分析ツールとしては有効なものである.

最後に、合流部における運転挙動の計測ツールとして本シミュレーションモデルをドライビングシミュレータに組み合わせる実験を行った.ドライビングシミュレータは、別途に大阪大学で開発されたものであるが、複数の車両が相互に影響しあう合流部の運転挙動を計測するためには、被験者の車両だけでなくその周辺車両の挙動を再現する必要があるので、その部分に本提案シミュレーションモデルを用いたわけである.この本シミュレーションモデルとドライビングシミュレータを組み合わせたシステムにおける被験者の運転挙動を、実走行実験における運転挙動と比較した結果、本システムが合流部のように車両が錯綜する区間の運転挙動計測ツールとしても有効であることが示された.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、首都高速道路においてボトルネックとなっている合流部の交通容量を、交通条件(大型車混入率、合流比率など)と道路幾何構造(車線数、合流角度、マーキングなど)と関連づけて定量的に分析したものである.合流部における交通解析は、以前から内外で行われているが、自由流状態におけるサービスレベルに関する研究がほとんどである.本研究は、マーキングによる合流部の車線構成やゼブラマーキング配置などの交通運用策と交通容量の関係を定量的に分析しており、時宜を得た主題であると同時に新規制が十分に認められる.

 本研究では、まず車両感知器データおよびビデオ観測に基づいて、交通容量に関する実証的なマクロ分析を行い、容量と加速車線長、テーパー長、合流部縦断勾配、合流比率との関係を定量的に明らかにしている.次に、ビデオ観測に基づいたミクロな車両挙動の解析を行い、合流車の加速度を説明する車両挙動モデルを構築した.さらに、このモデルを用いて合流部のシミュレーションモデルを構築し、観測データとシミュレーション結果を検証した結果、十分な再現性が確保できていることを確認している.

 本シミュレーションモデルを用いて容量と道路幾何構造、交通条件との関係を分析している.その結果、大型車混入率、合流車線数、車線変更規制、ゼブラマーキングなどと交通容量の定量的か関係について考察を加えている.これらの結果は、100%の確信を持てるものではないので、今後フィールドにおける実験を行い、検証する必要はあるものの、本研究で提案したシミュレーションモデルはどのような交通運用策が交通容量増加に期待がもてるのであろうかという事前の分析ツールとしては実務上有効なものである.

 最後に、合流部における運転挙動の計測ツールとして本シミュレーショシモデルをドライビングシミュレータに組み合わせる実験を行っている.ドライビングシミュレータは、別途に大阪大学で開発されたものであるが、本システムが合流部のように車両が錯綜する区間の運転挙動計測ツールとしても有効であることが示された.

 以上のように本論文では、首都高速道路の合流部交通容量に関して、長期間の車両感知器データに基づいたマクロ解析、ビデオ観測に基づいた車両挙動のモデル化とシミュレーションモデルへの組み込み、さらに容量改善策の評価を行っている.合流部の交通容量を再現できるモデルは、これまでに例がなく学術的な新規制と独創性が認められる.本研究は、合流部容量の解明に有用な成果を上げているだけでなく、新設および既存の道路容量を改善する実用的な方策についても提案しており、実務的にも有用な知見を得ている.よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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