No | 115662 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | PIMANMAS,AMORN | |
著者(カナ) | ピマンマス,アモン | |
標題(和) | 非直交クラックの相互作用と予め損傷を受けた鉄筋コンクリート部材のせん断挙動に関する研究 | |
標題(洋) | NON-ORTHOGONAL CRACK INTERACTION AND RESPONSE OF PRE-CRACKED REINFORCED CONCRETE IN SHEAR | |
報告番号 | 115662 | |
報告番号 | 甲15662 | |
学位授与日 | 2000.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4778号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 鉄筋コンクリート部材には,環境条件を含めた包括的で多方向性を有する非比例載荷経路荷重が作用することにより,様々なひび割れが導入される.過去の荷重作用によって導入されたひび割れは,それ以降に入力される荷重作用によってもたらされる応答挙動に対して,構造的な影響を与えるのである.本研究の目的は,RCの挙動に及ぼす,既に発生している先行ひび割れがもたらす構造的な影響を総合的に検討し,これを数値解析によって定量評価する手法を開発することである. 予め部材軸に直交方向にひび割れを導入した梁のせん断挙動に関する実験を行った.先行ひび割れが梁の挙動に及ぼす大きな影響(耐力と剛性)が認められ,先行ひび割れの角度とひび割れ幅に依存することが明らかとなった。部材軸に直交する先行ひび割れは,ひび割れのないRC部材に比較して,高いせん断耐力を示す場合があることを実証した.耐力のみならず,破壊形態や荷重−変位関係が著しく異なるものである。先行ひび割れと斜めひび割れの,相対的な変形特性に由来するひび割れ相互作用が,部材挙動に大きな役割を果たしていることが分かった。先行ひび割れによって,せん断ひび割れの進展が抑止され,迂回させる機構が明示された.1本の斜めひび割れの進展を妨げ,せん断耐力の上昇とせん断破壊の延滞を招くのである.一方,部材軸に対して斜めに導入された先行ひび割れを有する梁では,新しい斜めひび割れの発生を見ず,先行ひび割れ自体がさらに進展することによって,せん断耐力を低下させることを見出した. すべての実験的事実を矛盾なく説明することができる統一的解釈について,検討を行なった.これらを合理的に説明するには,少なくとも主応力ベクトルと主ひずみベクトルの独立性を認める構成モデルを前提とすることが肝要である.先行ひび割れ表面に沿ったせん断伝達作用が存在しない場合,主応力ベクトルは主ひずみベクトルと同一には回転せず,先行ひび割れの存在する位置では新しい斜めひび割れは形成されない.先行ひび割れは,付与されたせん断変形をひび割れ方向に沿ったせん断すべりとして吸収する。しかし,せん断伝達が卓越する場合には,先行ひび割れが存在する領域においても第2のひび割れが発生することとなる.本研究では,これらの要件を満足する構成モデルとして,多方向固定ひび割れモデルを採用することとした。 既にひび割れた梁の挙動解析に対して,3点の問題について厳密な扱いを試みた。即ち,(1)相互作用を有する多方向ひび割れ(2)一般的な非比例載荷経路(3)先行ひび割れ面に沿ったせん断挙動である. 採用した構成モデルでは,RC部材の環境作用や載荷の履歴を表現する経路依存性が構造解析の過程で記憶され,載荷段階において逐次,考慮される.引張軟化(モードI)と骨材の噛み合わせ効果(モードII)の明確な取り扱いを行い,主応力ベクトルと主ひずみベクトルの独立性を数値解析の上で確保し,先行ひび割れ面に沿ったせん断の異方性を解析モデルに組み込んだ.この解析手法によって,実験結果を精度良く再現することができた. 検証された解析手法を武器に,RCはり部材のせん断挙動に及ぼす載荷経路(軸引張力とせん断力の組み合わせ)の影響について検討を行なった.従来,その効果が実験的には必ずしも明確に整理されていなかった,せん断耐力に及ぼす軸引張力の効果は,本研究において以下のようにまとめられる. (1)軸引張力はせん断ひび割れ発生を促進する。 (2)一方,軸引張力は部材軸直交方向に貫通ひび割れを誘発し,これが斜めせん断ひび割れの進展を阻害する要因にも働く。 したがって,軸引張力とせん断力の作用する経路により,せん断耐力が異なることが明確に示された。先行して導入される引張力が比較的大きく、コンクリート強度と鉄筋比が小さい場合には,(2)の効果が卓越するため,軸引張力が作用している梁の耐力が却って高まることが解析的に示された。これらは既往の200ケースにのぼるデータからも裏付けられた。 本研究で得られた知見,即ちひび割れの相互作用の包括的理解から,せん断補強鉄筋を用いずに,せん断耐力を向上させる新たな試みに挑戦した。RCの現行設計法は,主として主鉄筋とせん断補強筋を配置することによって,曲げとせん断抵抗機構を別個に達成させるべく行なわれる.その結果,せん断補強筋の過度な使用から過密配筋を招き,ひいてはコンクリートの充填不良を誘発し,コンクリートの品質低下をもたらすことが報告されている.ひび割れの進展を停止し迂回させる現象を利用して,先行ひび割れを模擬してせん断耐力を上昇させるために,ACD (Artificial CrackDevice)と呼ぶ平滑板を埋め込む方法を提案した.この装置の目的は,ひび割れの局所化と進展を制御することにある.基本制御は,(1)ひび割れ進展の停止,(2)ひび割れ進展の迂回作用,(3)ひび割れ発生の操作を含む. これらすべてのひび割れ制御が,実験において確認された.剛性の低下を招くこと無く,50%以上のせん断耐力の増加も可能となる.ひび割れ進展停止機構を果たす境界面の平滑さを形成する観点からは,ACDの素材は非金属でも良い。これは製作や取り扱いが容易になるのと同様に,長期耐久性の観点から見ても有利である.力学的な視点からすると,RC部材中に埋め込まれたACDは局所的せん断異方性を呈し,著しく破壊経路形態が改善されるのである.ACDに対しては,接合要素を適用することにより,有限要素法で破壊過程を精度良く追跡できることが分かった. ACDを前提とするせん断設計法も合わせて提案した.数値解析により,ACDと従来のせん断補強鉄筋を組み合わせる場合,修正トラス理論が適用できることが示された。ACDを用いるRC設計の新しい概念は,幅広い規模でひび割れ特性を制御することを目指すものである。 | |
審査要旨 | 鉄筋コンクリート部材には,環境条件を含めた包括的で,しかも多方向性を有する非比例載荷経路荷重が作用することにより,様々な方向にひび割れが導入される.過去の荷重作用によって一旦,導入されたひび割れは以後消えることはなく,それ以降に入力される荷重作用によってもたらされる応答挙動に対して,構造的な影響を及ぼし続ける.本研究の目的は,RCの挙動に及ぼす先行ひび割れがもたらす構造的な影響を総合的に検討し,これを数値解析によって定量評価する一般化手法を開発したものである. 第1章は序論であり,本研究の目的と技術的背景について纏めている。 第2章では,予め部材軸に直交方向にひび割れを導入した梁のせん断挙動に関する実験から,先行ひび割れが梁の耐力と剛性に及ぼす影響を新たに見出し,先行ひび割れの角度とひび割れ幅に依存することを明らかにしている.部材軸に直交する先行ひび割れは,ひび割れのないRC部材に比較して,高いせん断耐力を示す場合があることを実証し,耐力のみならず,破壊形態や荷重一変位関係が著しく異なるものであることを示した.先行ひび割れと斜めひび割れの,相対的な変形特性に由来する相互作用が,部材挙動に大きな役割を果たしているのである.先行ひび割れによってせん断ひび割れの進展が抑止され,迂回させる機構が実証されたのである.一方,部材軸に対して斜めに導入された先行ひび割れを有する梁では,新しい斜めひび割れの発生を見ず,先行ひび割れ自体がさらに進展することによって,逆にせん断耐力を低下させることも新たな知見として見出された. 第3章で,すべての実験的事実を矛盾なく説明することができる統一的解釈について,検討を行なった.主応力ベクトルと主ひずみベクトルの独立性を認める構成モデルが挙動解明の鍵となることを指摘し,先行ひび割れが付与されたせん断変形を,ひび割れ方向に沿ったせん断すべりとして吸収する機構を厳密に考慮するために,多方向固定ひび割れモデルを採用している。引張軟化(モードI)と骨材の噛み合わせ効果(モードII)の明確な取り扱いを行い,主応力ベクトルと主ひずみベクトルの独立性を数値解析の上で確保し,先行ひび割れ面に沿ったせん断の異方性を解析モデルに組み込んだ.この解析手法によって,実験結果を精度良く再現することに成功したのである. 検証された解析手法を武器に,第4章でRCはり部材のせん断挙動に及ぼす載荷経路(軸引張力とせん断力の組み合わせ)の影響について検討し,以下の結論を得ている. (1)軸引張力はせん断ひび割れ発生を促進する。(2)一方,軸引張力は部材軸直交方向に貫通ひび割れを誘発し,これが斜めせん断ひび割れの進展を阻害する要因にも働く。 先行して導入される引張力が比較的大きく、コンクリート強度と鉄筋比が小さい場合には,(2)の効果が卓越するため,軸引張力が作用している梁の耐力が却って高まることが解析的に示された。これらは既往の200ケースにのぼるデータからも裏付けを得ている。 第5章において,本研究で得られた知見,即ちひび割れの相互作用の包括的理解から,せん断補強鉄筋を用いずに,せん断耐力を向上させる新たな試みがなされた。RCの現行設計法は,主として主鉄筋とせん断補強筋を配置することによって,曲げとせん断抵抗機構を別個に確保するのが一般的である.その結果,せん断補強筋の過度な使用から過密配筋を招き,ひいてはコンクリートの充填不良を誘発し,コンクリートの品質低下をもたらすことが,今日,問題となっている.ひび割れの進展を停止し迂回させる現象を利用して,先行ひび割れを模擬してせん断耐力を上昇させるために,ACD(Artificial Crack Device)と呼ぶ平滑板を埋め込む方法を提案した.この装置の目的は,ひび割れの局所化と進展を制御することにある.基本制御は,(1)ひび割れ進展の停止,(2)ひび割れ進展の迂回作用,(3)ひび割れ発生の操作を含む. これらすべてのひび割れ制御が有効であることが実験から証明された.剛性の低下を招くこと無く,50%以上のせん断耐力の増加も可能となる.ひび割れ進展停止機構を果たす境界面の平滑さを形成する観点からは,ACDωの素材は非金属でも良い.これは製作や取り扱いが容易になるのと同様に,長期耐久性の観点から見ても有利である.力学的な視点からすると,RC部材中に埋め込まれたACDは局所的せん断異方性を呈し,著しく破壊経路形態が改善されるのである.ACDに対しては,接合要素を適用することにより,有限要素法で破壊過程を精度良く追跡できることが分かった.ACDを前提とするせん断設計法も合わせて提案している.数値解析により,ACDと従来のせん断補強鉄筋を組み合わせる場合,修正トラス理論が適用できることが示された。ACDを用いるRC設計の新しい概念は,幅広い規模でひび割れ特性を制御することを目指すものである。 第6章は結論であり,本研究の成果を纏め,今後の課題と実用化のための方策について提言を行なっている。 本研究は多方向に分散配置されるひび割れの力学的な相互作用と,構造破壊に及ぼす効果を,実験的手法によって明確に整理し,これらの機構を全て取り入れた構成モデルと数値構造解析法を提示することに成功したものである。さらに,この知見を新構造形式の開発に応用し,従来のせん断補強鉄筋の大幅な低減を達成したこと,ACDを実務設計のラインに載せる設計法を提案したものである。機構解明と一般化,さらに実用にまで高めた一連の成果は,構造非線形力学と耐震構造工学の観点から,大きな知見と進歩をもたらしたと言える。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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