学位論文要旨



No 115675
著者(漢字) 許,東亞
著者(英字)
著者(カナ) キョ,トウア
標題(和) 量産対応微細穴放電加工の実用化に関する研究
標題(洋)
報告番号 115675
報告番号 甲15675
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4791号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 助教授 川勝,英樹
 東京大学 助教授 新野,俊樹
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 毛利,尚武
内容要旨 要旨を表示する

1. 研究背景と目的

 最近、電子技術、機械技術などの進歩に伴って、ミクロンオーダの加工技術は不可欠になってきた。特に、インクジエットプリンタノズル、エンジン用噴射ノズル、紡糸用のノズル、医用機械、センサ部品などでは微細穴加工がますます重要になってきた。

 WEDGの方法によって数ミクロンの微細穴を加工することができる。しかし、放電による微細穴加工にはいくつの未解決の問題があるため、量産には依然としてあまり応用されていない。これらの問題のうち主要なものは以下の通りである。

* 微細穴の加工深さの制限がある。

* 電極の成形が長時間を要する。

* 連続的な微細穴加工が困難である。

* 電極素材交換の自動化が難しい。

従って、より低コスト、高精度な微細穴を量産する場合、上記の問題を解決しなければならない。本研究は、上記の問題点に対応して以下のような技術開発を行うことを目的とする。

微細穴の加工深さの制限に対して

ワイヤ放電研削とマイクロ放電加工を利用した横式微細深穴加工法により、加工液として純水を用い、従来の加工方式より微細穴の加工深さを改善できることが示されている。一方、加工くずの排出、気泡、加工液の供給などの問題でアスペクト比10以上の深穴加工は困難である。微細穴の加工深さを改善するために、上記方式に加えてジャンプによるフラッシングを強化したシステムを提案する。

電極の成形に長時間を要する問題に対して

 従来の加工方式では、単一WEDGユニットを用い、荒加工した後、改めて仕上げ加工を行っているが、より効率よく電極を成形する為に、2つのWEDGユニットを同時に用いることにより電極成形の効率化をはかる。

連続的な微細穴加工が困難であることに対して

放電加工は転写加工の一種であり、微細穴加工を行う前に、電極を成形する必要がある。

従来の微細穴加工では、電極成形した後、その電極を用いて微細穴加工を行う。この2つプロセスを順番に行うため、加工効率が低い。連続的に微細穴を加工するために、電極成形と穴加工を同時に進行させることができる加工システムを提案する。

電極素材の交換方法に関して

 一般の放電穴加工機は電極としてワイヤを用い、穴加工を行う。この場合、電極を成形する必要はないため、連続的に穴加工が可能である。しかし、φ100μm以下のワイヤを正確に保持することは困難であるため、直径数μm程度の微細穴加工は不可能である。そこで、従来の微細穴放電加工機は、主軸先端に備えられたホルダなどで電極素材を固定する構造になっている。このため、多数の微細穴加工を行った後、消耗した電極素材を新しいものに交換しなければならない。これには多くの労力と時間を要するため、多数の穴の連続的、自動的な加工を実現するための障害となっている。そこで、電極素材の突出した部分が消耗した際に素材を繰り出すような機構を導入することで、大量の微細穴加工の自動化をはかる。

 本研究の目的は、電極成形の高速化から、大量生産までの問題点を逐次に解決し、全自動微細穴放電加工装置を開発することである。装置を試作して上述の問題点を解決するとともに、今までに報告がない新しい加工方式の加工特性、加工精度や加工速度などについて調べる。

2. 加工原理

(1)ジャンプフラッシング加工システム

 ジャンプフラッシング工システムの加工原理を図1に示す。図1のように、微細穴の加工深さが深いほど、新しい加工液の供給のみならず、加工くずの排出もまた困難である。このため、放電状況が不安定になり、微細深穴を加工するのは不可能である。工作物に瞬間的にジャンプを与えれば、これにより生じる高速の液流により加工くずなどが放電ギャップから排出されるため、安定な加工を継続することが可能である。これによって、微細深穴を貫通することが可能であると考えられる。

(2)ツインWEDG加工システム

 ツインWEDG加工システムにより電極成形原理を図2に示す。図2に示すように、1つWEDGユニットは荒加工に、もう1つは仕上げ加工専用として使用することが特徴である。(以下WEDG A、WEDG Bと称する)電極を成形する際に、最初はWEDG Aだけで荒加工を行うが、加工した電極の長さが300μm(WEDGAとWEDGBの設定距離)を超えると、WEDG Bが同時に仕上げ加工も行うようになる。このようにツインWEDG加工システムでは従来の単一WEDGと違って、荒加工と仕上加工とを同時に行うことができる。

(3)タンデム型一貫マイクロEDMシステム

 タンデム型一貫マイクロEDM加工方式(Tamdem Micro-EDM System)の原理を図3に示す。電極の成形には、前節のツインWEDG加工システムを使用する。タンデム型一貫システムは3つ使用しており、2つは電極成形に、もう一方は穴加工専用として用いる。以下前者を電源A、B後者を電源Cと称する。図3のように、電源A、Bと電源Cとはマンドレル側に共通グランドを持ち、放電回路は電流Aと電流B、そして電流Cの3つの放電ループを構成する。

 電極成形においては、荒加工と仕上加工を両方同時に行う。成形された電極の長さがおよそ1.5mm(WEDGBと工作物の距離)を超えた時点で、穴加工を開始し、以降、電極成形と穴加工が同時に進行することになる。タンデム型一貫加工方式は、電極成形と穴加工を個別に行う従来の穴加工方式とは異なり、電極成形と穴加工を同時に行う。また、穴を貫通した後、電極の消耗分に相当する長さをツインWEDG加工システムで追加成形するため、電極の消耗長さを考慮する必要がない。従って、Tandem Micro-EDM Systemは一度の設定で連続的に多数の穴を加工することが可能である。

(4)自動的に電極供給システム

 シャープペンシルのメカニズムを用いた電極供給方式の特徴は、連続的に大量の微細穴を加工する場合、消耗された電極を自動的に供給できる。このメカニズムを用いたシステムの構成巻図4に示す。図4のように、ツインWEDG加工システムとタンデム型一貫システム両加工手法を併用する。

 大量の微細穴を加工する場合、ある数の穴を加工することにより電極の突出した部分が消耗してしまったら、シャープペンシルのメカニズムにより一定長さ電極素材を供給し、再び連続的に微細穴加工を行う。このように素材を供給しながら素材全体を使い尽くすまで穴加工を繰り返すことができるので、大量の微細穴を加工することが可能である。

3. 実験装置の概要と加工条件

(1)装置の概要

 上記で開発した4つの加工システムを統合することにより、電極供給から成形、穴加工まで一貫して連続加工可能な"量産型微細穴加工システム"を試作した。装置の構成を図5に示す。加工装置は水平面にX軸・Z軸(主軸)の2つの自由度もつと共に、主軸の回転ができるようになっている。XテーブルにツインWEDG加工システムが固定されており、リニアスケールを通して簡単に位置制御をすることができる。また、工作物は左右上下の方向に移動できるテーブルに取り付けられ、コンピュータで工作物の位置を制御する。試作装置の外観写真を図6に示す。

(2)ジャンプ機構

 市販の住友特殊金属(株)製のVCM(Voice Coil Motor)をジャンプ機構として使用する。VCMは本体、コイル、ドライバなどの部分から構成されている。可動部が軽量であるため、高速ジャンプが可能である。全体の構造を図7に示す。

(3)検出回路

 普通の微細放電加工機は1つ放電検出回路があれば十分対応できるが、本研究では3つの放電検出回路を用いて電極の荒加工、仕上加工そして穴加工などにそれぞれ専用の検出回路として使用する。加工中に3つの検出回路を同時に検出することができる。常に3つの放電状況を監視しながら比較し、どれかに異常放電が起こったら、コンピュータの制御で回転軸(Z軸)を後方に戻し、正常な放電状況に回復させる。

(4)マンドレル(主軸)

 従来の超微細穴放電加工機用のマンドレルは先端に備えられたホルダ等で電極を固定する構造になっている。電極素材を正確に保持できるが、多数の穴を加工する場合、頻繁に電極を交換しなければならない。本実験では、使用しているマンドレル(主軸)は従来の微細穴放電加工機に付属されている回転軸を改造したもので、電極素材を供給するシャープペンシルのメカニズムを応用した機能が付加されている。マンドレルの断面図と外観写真を図8に示す。

(5)加工条件

 加工液は灯油を用いてステンレス製の注射針から極間および周辺によく流すことにした。加工電圧80Vを設定する。荒加工、仕上加工そして穴加工側はそれぞれコンデンサ容量を22000PF、220PF、100PFに固定する。電極材料はφ300μmの超硬合金、工作物はSUS304板材を用いて実験を行った。(微細深穴を加工する場合、純水を加工液として使用している)

4. 実験結果

(I)微細穴の加工深さの改善--ジャンプフラッシング加工システム

図9に加工時の電極送り量の経時変化を示す。図から分かるように加工物をジャンプさせない場合、加工深さが800μmに達したところで、電極がハンティング状態になり、加工が進まなくなっている。一方、工作物をジャンプさせる場合、加工くずが排出されるため、厚さ1.5mmの深穴を貫通することが可能である。ジャンプ距離と穴の貫通時間の関係を図10に示す。図10から分かるように、ジャンプ距離が小さい場合、加工くずの排出効率が低下するため、深穴を貫通するのは困難である。厚さ1.0mmと1.5mmの深穴を加工する場合、それぞれ200μm、400μm以上のジャンプ距離を必要とする。ジャンプ距離と真円度の関係を図11に示す。ジャンプ距離が大きいほど、真円度が大きくなる。これはジャンプ距離が大きい場合、工作物の位置ずれが大きくなるためである。図11から分かるように、穴の真円度は約25μm以下に収まっている。貫通した微細深穴の外観を図12、図13に示す。

 (II)電極成形の高速化--ツインWEDGシステム

 図14に加工時の電極送り量の経時変化を示す。図から分かるように最初は荒加工だけであり、成形された電極の長さ300μmを超えたところで仕上加工が開始し、以降荒加工と仕上加工が同時に行われる。最初は荒加工だけを行うため、電極の成形速度は速いが、仕上加工を同時に行うと成形速度は遅くなる。また、荒加工径が大きいければ大きいほど仕上加工の量が増えるため、成形速度が著しく低下する。

 図14から分かるように、荒加工径が仕上加工径に近く設定すると、加工速度が大きくなる。仕上加工径が40μmの電極を成形する場合、荒加工径が50〜60μmに設定されるのが有利である。

 ツインWEDGの効果の再現性を調べるため、仕上げ直径40μmの超硬合金電極成形を10回行い、単一WEDGと比較した。実験の結果を図15に示す。図15から分かるように、ツインWEDG加工システムは従来の単一WEDGより電極の成形時間をおよそ48%短縮し、効果の再現性も良いことがわかった。ツインWEDG加工システムにより作成した微細工具の拡大写真を図16に示す

(III)連続的な微細穴加工--タンデム型一貫マイクロEDMシステム

 図17に加工時の電極送り量の経時変化を示す。図から分かるようにタンデム型加工方式では電極成形(ツインWEDG)の速度はほぼ一定であるが、電極の長さが1.5mm(WEDGと工作物の距離)超えると電極成形と穴加工を両方同時に加工しはじまり、加工速度が少し落る。一方、連続加工する場合は、2番目以降のタンデム型では電極が既に成形されたため、穴だけを加工する。従って、加工速度が速くなり、電極成形速度とほぼ一致である。穴を貫通してから、また再び電極を成形する。

図18に示すように最初は2mm以上の電極を成形しなければならないので、加工総時間が長くかかる。その後は加工時間が短くなり、貫通穴を加工するにはおよそ3分くらいである。

 タンデム型一貫加工システムによる微細穴の連続加工において、加工された穴の真円度を図19に示す。図19から分かるように、真円度は0.5μm以内で変化している。16個の穴を連続的に加工する場合、穴径のばらつきはおよそ1μm〜2μm以内に収まっている。穴径の測定結果を図20に示す。

(IV)電極供給の自動化--シャープペンシルのメカニズムの応用

 システム全体の動作状態を確認するため、連続的に4つの穴を加工した後、電極を切断してマンドレルをノックし電極を供給する実験を行った。このような繰り返し実験で合計16個の微細穴加工を行った。穴の貫通時間を図21に示す。図からわかるように、供給された新しい電極を再び成形する時に長時間を要する。穴のみの加工時間はほぼ一定である。加工した穴の入口と出口の分布を図22に示す。入口と出口の差のばらつきは約2μmから5μmである。この原因としては、マンドレルを繰り返しノックして回転軸の位置がずれると考えられる。穴の外観を図23に示す。また、真円度は前節と同様に約0.5μmの範囲内で変化している。

(V)大量の微細穴加工

 厚さ50μmのSUS304材を用いて、大量の微細穴を連続的に加工した。連続的に40個の微細穴を加工した後、電極を切断してマンドレルをノックし電極を供給する。また、ワイヤガイドと工作物の隙間にフラッシングすることを行う。このような手順に従って、繰り返し合計400個の微細穴加工を行った。加工した穴の入口の分布を図24に示す。穴径のばらつきは約5μmから6μmである。また、穴径の入口と出口の差は約1〜2μmの範囲内で変化している。穴の外観を図25に示す。

5.まとめ

本研究では、(1)微細穴の加工深さの改善、(2)電極成形の高速化、(3)タンデム型一貫加工システム、(4)電極素材の供給方式の開発についてそれぞれの加工特性、加工条件を明らかにした。また、上記の研究を基に一貫生産システムとして全自動微細穴放電加工機を試作した。本研究の成果を下記に示す。

ジャンプフラッシング加工システム

(1)ジャンプフラッシングの機構により加工くずの排出が促進されたため、厚さ1.5mmのSUS304材に直径100μmの微細深穴を貫通することができた。

(2)穴の深さが深いほどジャンプ距離を長くする必要がある。

(3)より高精度な微細深穴を加工するために、貫通可能な範囲で工作物のジャンプ距離を小さくする必要がある。

ツインWEDG加工システム

(1)荒加工と仕上げ加工を両方同時に加工できることを確認した。従来の単一WEDGと比べて、同様に真直度がよい細長い電極を加工することができる。

(2)ツインWEDG加工システムにより電極を成形する場合、加工効率が大きくなり、従来の単一WEDGより48%の時間短縮が得られた。

(3)成形した電極の外観図から分かるように、荒加工と仕上げ加工の表面がはっきり見られるので、荒加工回路は仕上回路に大きな影響は与えないと考えられる。

タンデム型一貫マイクロEDMシステム

(1)穴加工と電極成形を両方同時に行うことが可能である。

(2)加工した微細穴の真円度は0.5μm以下に収まっている。

(3)連続的に加工した穴径のばらつきは2μm以内に抑えられている。

(4)入口と出口における穴径の差は工作物の厚さに依存する。200μmの板に貫通穴を加工する場合、この差は2μm以内である。

電極素材供給の自動化

(1)シャープペンシルのメカニズムの応用で消耗された電極素材を供給することが可能である。

(2)シャープペンシルのメカニズムによる電極素材供給方法はタンデム型一貫加工方式と併用して、連続的な大量の微細穴加工が可能である。

(3)電極供給した直後には、再成形しなければならないため、次の微細穴を貫通するまでには長時間を要する。貫通までの時間は約30分である。その後は、微細穴のみを加工するため、穴の貫通時間は約3分である。

(4)案内機構の繰り返し精度が不十分な場合、電極素材を供給する際、電極素材の位置がずれる可能性がある。試作した装置の場合、電極径のばらつきは約5μmであった。その結果、連続的に加工した穴径にも5μmのばかつきがあった。

大量の微細穴加工

(1)長時間の微細穴加工を行う場合、マンドレルを繰り返しノックして電極素材を供給しなければならないため、シャープペンシル機構の位置がずれる可能性がある。従って、より高精度な大量の微細穴加工を行うには、マンドレルとシャープペンシル機構を確実に固定しなければならない。

(2)本手法においては狭い空間に2つWEDGヘッドと工作物が配置されているため、連続的に大量の微細穴加工を行う場合、ワイヤガイドと工作物の隙間に分解されたカーボンが堆積しやすく、連続加工が不可能になる。従って、大量の微細穴を加工するには、ワイヤガイドと工作物の隙間への加工液のフラッシングを強化するなどして堆積物の除去を促進する必要がある。

図1 ジャンプフラッシングの加工原理

図2 ツインWEDGシステムの加工原理

図3 タンデム型一貫加工システムの原理

図4 量産型の微細穴加工システムの原理

図5 量産型の微細穴加工システムの構成図

図6 量産型の微細穴加工システムの外観(2)ジャンプ機構

図7 VCMのジャンプ機構外観写真

図8 電極供給できるマンドレルの外観写真

図9 工作物のジャンプによる電極進行状況

図10 VCMのジャンプ距離と貫通時間の関係

図11 ジャンプ距離と真円度の関係

図12 厚さ1.0mmの板材の深穴加工の外観

図13 厚さ1.5mmの板材の深穴加工の外観

図14 ツインWEDG加工システムにより電極成形の加工進行状況(仕上径40μm)

図15 単一WEDGとツインWEDGの比較実験

図16 ツインWEDG加工システムによる成形した電極外観

図17 タンデム型一貫加工により連続的微細穴加工中の電極進行状況

図18 タンデム型一貫加工方式による連続的な微細穴の貫通時間

図19 タンデム型一貫加工方式による連統的に加工した微細穴の真円度

図20 タンデム型一貫加工により連続的に加工した微細穴径の分布

図21 連続的に微細穴の貫通時間

図22 連続的に加工した穴径の分布

図23 タンデム一貫型加工方式による連続的に加工した穴の外観

図24 量産型の微細加工システムによる貫通した穴径の分布---400個穴

図25 量産型の微細穴加工システムによる貫通した穴の外観---400個穴

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「量産対応微細穴放電加工の実用化に関する研究」と題し、全7章から成り立っている。

 第1章では、本研究の背景と目的について述べている。また、微細穴加工の重要性および要求について述べ、従来の微細穴の加工手法の問題点を比較し、説明している。放電による微細穴加工の問題を提起し、それらの問題を解決するための、本研究の基本方針、研究目的を明らかにしている。

 第2章では、従来の深穴加工の問題点を述べ、微細穴の加工深さを改善するために、ジャンプフラッシング加工ステムを提案している。加工装置の構成について述べると共に、装置の試作、加工特性の解析を行った結果を従来の深穴加工と比較しながら詳述している。

 実験結果より、従来の加工方式では貫通不可能なアスペクト比15程度の微細深穴の加工が可能になりたことを示している。他にも、厚さ2.0mmのSKD材にアスペクト比20の微細深穴を貫通したことを示している。これらよりジャンプフラッシング加工ステムの実用性を明らかにしている。

 第3章では、細長い微細工具の成形問題について述べ、より効率良く電極を成形するために、ツインWEDG加工ステムを提案している。まず、システムの基本構造を提案し、装置の試作、実験により加工特性を明らかにした。そして、単一WEDGとツインWEDGの加工結果と各パラメータを比較し、ツインWEDG加工ステムの実用性を検討した結果、ツインWEDG加工ステムにより荒加工と仕上げ加工を両方同時に加工できることを確認した。さらに、能率が向上したにもかかわらず従来の単一WEDGと比べて、同様に真直度がよい細長い電極を加工することが示されている。また、実験結果により、仕上加工径80μm程度のタングステン電極を加工する場合は、仕上げ用取り代を約10μmに設定すると、加工効率が大きく、従来の単一WEDGの訳1/2に加工時間が短縮された。仕上加工径が40μm程度の場合は、最適の仕上げ代は約5μmに減少し、この場合も加工時間は同程度に減少される。単一WEDGの実験データをもとにした計算と分析からも、ツインWEDG加工システムは従来の単一WEDGより電極の成形時間をおよそ1/2に短縮できることが示されており、実際の実験結果とほぼ一致している。

 第4章では、工具成形から穴加工までを一貫して同時に進行させる新しい加工ステムを提案し、その加工方式の原理、システム構成を説明している。また、試作装置により実際に連続穴加工を行い、加工特性、穴径の精度、電極送り量の影響などのパラメータを明らかにし、微細多数穴加工の実用性を検討している。このタンデム型一貫加工方式により、穴加工と電極成形を両方同時に行うことが可能でり、また、加工した微細穴の真円度も0.5μm以下に収まっているなど、良好な結果が示されている。

 第5章では、シャープペンシルのメカニズムを用いた電極供給方法を提案している。また、第3章のツインWEDG加工ステムと第4章のタンデム型一貫マイクロEDMシステムを併用した加工方式による連続的な微細穴加工実験も行っている。このシステムによる連続的な微細穴加工が可能であることを確認すると共に、加工速度、穴の精度などについて検討を行っている。シャープペンシルのメカニズムの応用で消耗された電極素材を供給することが可能であることを確認し、また、シャープペンシルのメカニズムによる電極素材供給方法はタンデム型一貫加工方式と併用して、連続的な大量の微細穴加工が可能であるとこを示している。連続的に大量の微細穴加工を行う場合、ワイヤガイドと工作物の隙間に分解されたカーボンが堆積するため、連続加工が不可能になる。従って、より大量の微細穴を加工するには、ワイヤガイドと工作物の隙間に加工液をフラッシングするなどして堆積物を除去する必要であることが明かとなった。

 第6章では、各章の加工方式を統合して全自動微細穴放電加工装置に発展させ、更に大量の微細穴の連続加工実験を行っている。試作装置の特性について明らかにすると共に、加工特性、穴の精度、加工時間などのパラメータを明らかにし、加工応用例が紹介されている。

 第7章では、以上の結果を総合して考察し、本研究で得られた成果をまとめ、今後の展望について述べている。

以上、本論文は,従来の微細穴放電加工機の問題点を克服することにより今まで実用不可能であった連続的な微細穴の大量生産が可能な手法を提案し、応用実験を含めその有用性を明らかにしており、放電加工の分野に画期的な新しい可能性を示したものといえる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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