No | 115676 | |
著者(漢字) | 張,剣波 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ツァン,ジャンボ | |
標題(和) | 超音速キャビテイ流れの実験的数値的研究 | |
標題(洋) | Experimental and Computational Investigation of SupersonicCavity Flows | |
報告番号 | 115676 | |
報告番号 | 甲15676 | |
学位授与日 | 2000.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4792号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 航空宇宙工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は、Experimental and Computational Investigation of Supersonic Cavity Flows (和訳 超音速キャビティ流れの実験的数値的研究)と題し、本文四章よりなっている。 流体力学の分野においてキャビティ流れは、形状の単純さにもかかわらず流れが複雑なことと、工学上の応用において広範囲に現れることから、学術的な関心と実用的な重要性の両面を有する、基本的な流れ場となっている。本論文は、流れの物理をより深く理解し、流れを確実に予測し、さらに最終的にそれを制御するために、実験と計算の両方の手法によってキャビティ流れを研究するものである。 第一章は序論であり、これまでの研究や本研究の目的について要約した。キャビティ流れについては過去数十年にわたり数多くの実験が行われ、圧力分布や音場などについて調べられてきた。亜音速から極超音速までの幅広い流速範囲の研究が行われている。実験的研究の結果、基礎的なキャビティ流れの一般的な特徴が明らかにされている。支配的なパラメータは、キャビティ形状(長さ L、深さ D、幅 Wの比率)、一様流のマッハ数と乱れ、及び、上流側境界層の厚みであることが知られている。幅の広いL/Wが1以下のキャビティ流れは実質的に二次元であるが、それ以外は三次元的な流れ場になる。キャビティは、アスペクト比(L/D)が1より小さい、深いキャビティと、1より大きい、浅いキャビティに分類される。浅いキャビティについてはさらに、アスペクト比が10より小さい開放形、10と13の間の遷移形、13以上の閉鎖形に分類される。 開放形のキャビティ流れは、剥離せん断層、キャビティ後縁、及びキャビティ中の渦間の複雑な干渉ために、強い自励的な圧力・速度変動を示し、実構造物においては疲労から破損を招く可能性がある。閉鎖形のキャビティ流れにおいては、複雑な膨張波と衝撃波が存在し、それらの相互干渉や境界層との干渉が相俟って、キャビティ底面に沿って強い逆圧力こう配が生じ、圧力抵抗が増加し、搭載物の分離放擲が困難になる。キャビティ流れを受動的・能動的に制御しようとする試みもなされており、キャビティ形状の修正、上流境界層の制御、あるいは吹き出しや吸い込みなどの手法が考えられている。 キャビティ流れの研究については、数値シミュレーションも行われてきた。多くは代数的な乱流モデルによって二次元のナビエーストークス方程式を解くものである。Wilcoxによるκ−ω乱流モデルが適用され、シミュレーション結果が改善されている。最近では、三次元計算も行われ、LESによってキャビティ流れを解くことも行われている。キャビティ流れの特徴が概略捕えられ、圧力波の離散周波数についても計算と実験はよく一致している。しかしながら、キャビティ周りの時間平均の表面圧力と音圧レベルの推定値は不十分なものでしかなかった。数値シミュレーションによって様々な制御方法についても検討されている。 実験や計算による研究とは別に、解析的に非定常キャビティ流れを研究する方法もある。Rossiterは、開放形キャビティ流れに関する自励的な振動が、音響フィードバックの結果であることを示し、振動の離散周波数を予測する半経験式を提案した。広範囲な流れ条件において実験と一致し、キャビティ流れの研究ではよく参照されている。二次元矩形キャビティの周波数と圧力変動現象のより厳密な数学的なモデルは、Tamによって提案されている。解析的研究は適用範囲が制限されるということに留意する必要がある。単純化のために仮定により重要な物理的要素が失われ、現在のところ、経験則を用いてほぼ的確に予想できるのは、流れ振動周波数のみである。 第二章では実験手法およびその結果について要約した。マッハ数M=1.94、レイノルズ数Re=4.2x107/mの超音速キャビティ流れをまず実験的に調べた。シュリーレン写真や表面のオイルフローによる可視化、スキャニバルブを用いた平均圧力測定、表面に取り付けられた圧力センサーによる非定常圧力測定等を行った。オイルフロー法による表面流れの可視化は、深さ8mmのキャビティについては、6、13、14、15、16のアスペクト比について、深さ15mmのキャビティについては、3、6、9.3のアスペクト比について実験を行った。同じアスペクト比L/D=6において、異なる深さのキャビティの実験では、表面のフローパターンやシュリーレン写真には有意の変化は認められず、アスペクト比L/Dがキャビティ流れを特徴付ける重要なパラメータであることが分かった。 深さ8mmでアスペクト比が5、7.5、10、12、13.5、13.75、14、14.5、15、17.5、20および後ろ向きステップについては、中心線に沿って、また前面と後面のスパン(幅)方向に沿って、スキャニバルブを用いて平均圧力を測定した。スパン方向測定により、流路中央部分の二次元を確認した。 シュリーレン写真とキャビティ底面中心線に沿った圧力分布から、超音速キャビティ流れは三つの形に分類できた。アスペクト比L/D=5、7.5、10は開放形、L/D=15、17.5、20は閉鎖形、及び、L/D=10、 12 、13.5は遷移形である。開放形のキャビティ流れと対照的に、閉鎖形の流れは強い逆圧力こう配を有する。閉鎖形キャビティ流れのシュリーレン写真では、キャビティ後面での衝撃波が明瞭である。圧力分布については従来の研究と比較して妥当な値を与えている。 開放形のキャビティからアスペクト比を増大させると、キャビティ前面からの膨張波が発生するが、後面に向かう凹面状の主流と剥離流れの境界に沿って圧縮波が見られ、流れが遷移形に移行する。さらにアスペクト比を増大させると、前面からの膨張波は底面に達し、底面に沿った流れは後面で衝撃波を形成して、閉鎖形のキャビティとなることが実験から説明できる。 アスペクト比の十分大きい閉鎖形のキャビティから、アスペクト比を減じると、前面から発生した膨張波の底面入射部分で発生する圧縮波と、後面の衝撃波前方で生じる圧縮波の干渉が始まり、底面に付着した境界層がより強い逆圧力にさらされる。アスペクト比をさらに減じると、底面に沿う境界層は消失してキャビティ全域が一つの剥離循環領域となって遷移形に移行する。 前面と後面の剥離領域長さの和で推定する従来の経験式では、遷移形への移行が生ずる臨界アスペクト比が小さめとなるのは、以上のような二つの剥離領域の干渉を考慮しないためと考えられる。 閉鎖形キャビティ流れに伴う逆圧力こう配を緩和するために、いくつかの制御法について実験を行った。深さ8mmアスペクト比L/D=15のキャビティを基本形状として選定した。 キャビティ側壁に沿って、長さ96mm直径6mmの管を置いた。各側壁にそって一対の管を配置し、ついで各側壁に沿って三対の管を置いた。シュリーレン写真と中心線に沿った圧力分布から、流れが閉鎖形から遷移形に移行したことが明確に観察できた。流入部の衝撃波と出口側衝撃波は合体して、圧縮波として一体のものになり、逆圧力こう配は、著しく減少し、圧力差は無制御の場合の約半分となった。 高さ2mmおよび4mmの板をキャビティ底面に流れに直角方向に設置した実験では、中央部に配置したものが逆圧力こう配を減少させるのに最も有効であった。板の存在によって流れ場が遷移形に移行したためである。この場合も圧力差は約半分となった。 キャビティ前面からの吹き出しによって、膨張波や衝撃波を制御する試みは若干の効果が認められたが、有効な制御のためには流量をさらに増やす必要がある。 非定常圧力測定については、まず圧力変動が問題となるL/D=5の開放形キャビティの場合について、離散周波数がRossiterの式で予測できることを確認した。L/D=15の閉鎖形のキャビティについては、衝撃波の付け根部分で約10Hzの緩やかな振動を観測した。また、管を用いた制御においては、圧力変動が増加しないことを確認している。 閉鎖形のキャビティ流れについては、膨張波や衝撃波に関する実験的な情報(角度あるいは位置)を援用することによって、解析的に圧力分布を計算でき、これは基本的な圧力分布を十分予測するものである。 第三章では数値解析による研究について述べた。計算領域については、単一領域として扱う方法と多ブロック法による方法を用いた。支配方程式は乱流モデルを使用するナビエーストークス方程式を用い、セル中心の有限体積法を利用した。非粘性流束のスキーム、粘性項の扱い、時間進行などについて検討を加えた。計算においては、四種類の乱流モデルを選定し、キャビティのシミュレーションについて、それらの効果をテストした。Baldwin-Lomaxの代数モデル、Spalart-Allmarasの一方程式モデル、Wilcoxの二方程式κ-ωモデル及び、Menterの二方程式えκ-ω-SSTモデルは実験と比較の結果妥当なものであることが分かった。境界条件の取り扱いについてもこれまでの研究を整理、本研究での手法について述べた。計算コードは、基本的な平板境界層などの実験結果と比較して妥当性を事前に検証した。 本研究の開放形、遷移形および閉鎖形のキャビティについて計算を行い、遷移形以外は実験結果とほぼ一致することを確かめた。遷移形の場合は計算での再現は、計算コードに依存する部分とアスペクト比の設定に依存しているものと考えられ、チューニングによる再現は可能であると推察できる。 第四章は要約と結論であり、定常及び非定常の圧力測定、シュリーレン写真とオイルフロー法による流れの可視化、開放形及び閉鎖形のキャビティが遷移に至る場合の物理的なメカニズムの要約、管や板による圧力こう配の軽減、計算による流れ場の解明、乱流モデルの効果について要約した。 | |
審査要旨 | 修士(工学)張,剣波(Zhang Jianbo)提出の論文は、Experimental and Computational Investigation of Supersonic Cavity Flows(和訳 超音速キャビティ流れの実験的数値的研究)と題し、本文四章よりなっている。 キャビティ流れは、複雑さと工学応用の面から、学術的な関心と実用的な重要性の両面を有する、基本的な流れ場となっている。本論文は流れの物理をより深く理解し、流れを予測し、さらに最終的にそれを制御するために、実験と計算の両方の手法によって超音速キャビティ流れを研究したものである。 第一章は序論であり、これまでの研究や本研究の目的について述べている。キャビティ流れについては過去数十年にわたり数多くの実験が行われ、圧力分布や音場などについて調べられてきた。キャビティ流れは、アスペクト比が小さい場合の開放形、中間の遷移形、大きい場合の閉鎖形に分類される。本研究では、遷移形への移行メカニズムを観測から明らかにすることを目的の一つに挙げている。 開放形のキャビティ流れは自励的な圧力速度変動を示し、閉鎖形のキャビティ流れは底面に沿って強い逆圧力こう配が生じるなどの問題がある。キャビティ流れを受動的・能動的に制御しようとする試みもなされている。キャビティ流れについては、数値シミュレーションも行なわれてきた。解析的に非定常キャビティ流れを研究する方法もある。 以上の観点から、本論文は実験や数値解析により流れ場の特徴を把握することに加えて、圧力抵抗の受動的・能動的制御法について幾つかの手法を試みることも目的としている。 第二章では実験手法およびその結果について述べている。マッハ数約2の超音速キャビティ流れを対象としている。シュリーレン写真や表面のオイルフローによる可視化、スキャニバルブを用いた平均圧力測定、非定常圧力測定等を行なっている。 シュリーレン写真とキャビティ底面中心線に沿った圧力分布から、超音速キャビティ流れは三つに分類できることを確認している。実験模型のアスペクト比で、10以下の開放形、15以上の閉鎖形、および10-13.5の遷移形である。開放形あるいは閉鎖形キャビティから遷移形への移行は、膨張波部分と衝撃波部分の相互干渉などが関係しており、観測に基づいた遷移メカニズムの物理的解釈を試みている。 閉鎖形キャビテイ流れに伴う逆圧力こう配を緩和するために、幾つかの新しい制御法を試みている。アスペクト比15のキャビティを基本形状として選定している。 キャビティ側壁のバイパス管によらて流れを循環させる方法を試みている。シュリーレン写真と中心線に沿った圧力分布から、流れが閉鎖形から遷移形に移行したことを観察している。逆圧力こう配は著しく減少し、圧力差は無制御の場合の約50%となることを明らかにしている。 遮蔽板をキャビティ底面に流れに直角方向に設置した実験では、中央部に配置したものが逆圧力こう配を減少させるのに最も有効であることを明らかにしている。板の存在によって流れ場が遷移形に移行したためで、この場合も圧力差は50%以下となっている。 キャビティ前面からの吹き出しによって、膨張波や衝撃波を制御する試みは若干の効果が認められたが、有効な制御のためには流量をさらに増やす必要があることを述べている。 非定常圧力測定については、まず圧力変動が問題となるアスペクト比5の開放形キャビティの場合について、離散周波数がRossiterの式で予測できることを確認している。アスペクト比15の閉鎖形キャビティについては、衝撃波の付け根部分で約10Hzの緩やかな振動を観測している。また、バイパス管を用いた制御においては、圧力変動が増加しないことを確認してその有効性を明らかにしている。 閉鎖形のキャビティ流れについて、解析的に圧力分布を計算する方法を提案し、基本的な圧力分布が十分予測できることを示している。 第三章では数値解析による研究について述べている。計算領域については、単一領域とマルチブロックを用いている。乱流モデルを用いたナビエーストークス方程式により、セル中心有限体積法を利用した解析を行なっている。非粘性流束スキーム、粘性項の扱い、時間進行などについて検討を加えている。乱流については、Baldwin-Lomaxの代数モデル、Spalart-Allmarasの一方程式モデル、WiIcoxの二方程式κ-ωモデル、Menterの二方程式κ-ω-SSTモデルの効果を評価している。多少の優劣が存在するものの、結果はほぼ妥当なものであることを明らかにしている。計算コードは、基本的な平板境界層などの実験結果と比較して妥当性を検証している。開放形、遷移形、および閉鎖形のキャビティについて計算を行い、遷移形以外は圧力分布が実験結果とほぼ一致することを確かめている。 第四章は結論であり、キャビティの圧力測定、シュリーレン法とオイルフロー法による流れの可視化、キャビティ遷移の物理的なメカニズム、バイパス管や遮蔽板、吹き出しによる圧力こう配の軽減、乱流計算による流れ場の解明について要約している。 以上要するに、本論文は超音速流中のキャビティについて、実験的・数値的に流れ場の特徴を解析し、かっ幾つかの圧力抵抗低減法を提案・実証したもので、航空宇宙工学の発展に貢献するものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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