No | 115678 | |
著者(漢字) | 崔,潤基 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チェ,ユンキ | |
標題(和) | 離散コサイン変換に基づく電子透かし法 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 115678 | |
報告番号 | 甲15678 | |
学位授与日 | 2000.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4794号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電子情報工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年、マルチメディア化やインターネットの発展により、画像という形式はますます重要な位置を占めてきている。ユーザーはこれらのデータをインターネットやディジタル放送、CD-ROM、DVD-ROM等の経路でディジタルデータのまま大量に入手することが可能になったほか、大容量ハードディスクやCD-R、DVD-RAMなどに品質を保ったまま簡単に蓄積することができる。しかも、静止画像や動画像を自由に編集できる高度な機能を持ったソフトも簡単に入手できるようになり、価値のある画像データが複製・編集されて再利用されると言った著作権問題を引き起こした。このような背景から、著作権情報をコンテンツの見えない領域に密かに埋め込む電子透かし技術が提案されている。これは、違法にコピーまたは入手したコンテンツから電子透かしを抽出して著作権を主張したり、コンテンツに埋め込まれている電子透かし情報によってコンテンツのコピーを制御することを目的としている。 本論文では、著作権保護を目的とした電子透かし法として、離散コサイン変換に基づいた電子透かし法について述べる。ます、静止画像のDCT係数のブロック間相関を利用して透かし情報を埋め込む手法を提案し、本手法をJPEG画像と動画像に拡張する。また、コンテンツに埋め込まれた透かし情報をより正確に取り出せる、確率に基づいた透かし情報の判定法を提案する。 DCT係数のブロック間相関を利用した電子透かし法 インターネットやデータベースなどの不特定多数の画像を対象にした電子透かし法は、原画像や埋め込み強度として使われたパラメータなどを参照せずに埋め込まれてある透かし情報を取り出せるほか、埋め込み過程は複雑で処理時間がかかっても、埋め込まれた透かし情報の取り出し過程では簡単かつ短い処理時間で正確に取り出せることが要求される。これらの条件を満たす、DCT係数のブロック間相関を利用した電子透かし法の埋め込み過程は次のようである(図1)。 まず、原画像のRGB信号をYCbCr信号に変換し、輝度領域に対して8×8DCT変換を行なう。そして、その変換係数の3×3ブロックをグループ付けする。すなわち、一つのグループには3×3ブロック、24×24DCT係数が存在する。1ビットの透かし情報は、グループの中央ブロックに存在する一つの係数、Ch,(i0,j0)を変更することによって埋め込まれる。 ・埋め込む透かしビットが0の場合、C'h,w(i0J0)に変更を加えMh,ωより小さくする。 ・埋め込む透かしビットが1の場合、C'h,ω(i0,j0)に変更を加えMh,ωより大きくする。 ここで、Mh,ω(i0,j0)はCh+m,ω+η(i0,j0)(m,η=士1)の平均値、Vh,ωは透かし情報の埋め込みによる画像への変更量を決める値で、攻撃への耐性を決定づける。この新しい係数C'h,ωをCh,ωと入れ換え、IDCT変換を行なった後、YCbCr信号をRGB信号に戻す。以上の処理を全てのブロックに対して行なった結果が透かし情報を埋め込んだ画像になる。埋め込み強度Vh,ωに関しては、周辺DCT係数の標準変差を用いる方法とエッジ情報を用いた方法を提案し、標準画像を用いて実験を行なった。 その結果まず、透かし情報の埋め込みによる画質の劣化に関しては、画像の輝度値の変化が激しい領域では強く、変化が少ない領域では弱く埋め込まれることが確認できた。同じパラメータを使って同じ透かし情報を埋め込んでも、画像によって、また領域によってその変更量が変わるので、第三者による埋め込み位置の推定は困難である。また、JPEG圧縮、ノイズ、ガンマ補償などの攻撃への耐性を調べた結果、攻撃後でも埋め込んだ透かし情報を高い性能で取り出せることが確認できた。最後に、埋め込み過程で用いられる三つのパラメータと攻撃への耐性との関係について調べ、それぞれのパラメータ値によって攻撃耐性の性質が変わることを確認した。 JPEG圧縮画像を対象にした電子透かし法 インターネットや画像データベースなどに使われている多くの画像がJPEG圧縮された形であることを考慮し、DCT係数の相関を利用した電子透かし法の埋め込み/取り出し過程を高速に行なうことが目的である。本手法による透かし情報の埋め込み過程とJPEG圧縮アルゴリズムの間に存在する共通処理部分に着目し、無駄な処理を省略し効率を高めた。 この結果、透かし情報の埋め込み過程においては、JPEG画像の量子化係数に応じて埋め込み強度を変えることで画質の劣化を押えることになり、透かし情報の取り出し面においては、JPEG画像を逆量子化をせずに透かし情報を取り出すことで高速な処理を可能にした。動画像を対象にした電子透かし法 静止画像を対象にしたDCT係数のブロック間相関を利用した電子透かし法を動画像を対象に拡張した。静止画像では、輝度値の空間的変化度に応じて埋め込み強度を変化させたが、動画像では、各フレームの輝度値の空間的変化度に加え、フレーム間の時間的変化度も考慮して埋め込み強度を変化させるよう工夫した。その結果、透かし情報の埋め込みによる画質の劣化は知覚されない。 透かし情報の取り出しでは、複数のフレームを用いた判定法を提案する。後にこの手法を、確率に基づく透かし情報の判定法として一般化する。実験では、MPEG圧縮とノイズ添加への耐性について述べる。本手法によって埋め込まれた透かし情報は、MPEG圧縮されたあとでも取り出せることを確認できた。DCT係数の相関を利用した電子透かし法の拡張 DCT係数の相関を利用した電子透かし法を拡張した手法を提案する。また、画像のエッジ情報を用いて透かし強度を決める方法を提案し、攻撃耐性は保ったまま、画質劣化は最大限に防ぐことができることを実験より確認する。確率に基づいた透かし情報の判定 コンテンツから取り出した透かし情報の判定には、相関値やBERを利用するのが一般的であるが、これらの値は、使用した透かし情報のビット数によってその数値が持つ意味が異なってしまい、透かし情報が埋め込まれている程度を正確に伝えることができない。そこで、確率に基づく透かし情報の判定法を提案する。本手法は、検査画像から取り出した透かし情報が、透かし情報を埋め込んでない自然画像から偶然取り出される確率を計算し、その確率に基づいて透かしの判定を行なう方法である。その確率の計算式は、積分を含む非線形式になるが、それを式(3)のような線形式に近似して求める方法について述べる。 この値は使用したオリジナル透かし情報のビット数に応じて変わり、取り出した透かし情報の信頼度が評価できる。この方式を用いた実験を静止画像と動画像に対して行ない、相関値やBERでは不可能な、透かし情報のビット数も含めた統一した信頼性の基準を与えてくれることを確認する。 図1 DCT係数のブロック間相関を利用した電子透かし法の埋め込み | |
審査要旨 | 本論文は、「離散コサイン変換に基づく電子透かし法」と題し、7章より構成されている。電子透かしは、著作権情報を画像コンテンツに見えないように密かに埋め込む技術であり、これにより違法コピーの著作権を主張したり、電子機器でのコピー制御を行うことができ乱本論文では、この電子透かしに対して、離散コサイン変換を利用する新たな手法として、ブロック間での係数相関を利用する電子透かし法の提案を行っている。この手法は、読み取るために原画像や強度パラメータを必要とせず、画像の局所的な特徴の強弱に応じて埋め込み強度を適応的に変えることができ視覚的に劣化が目立ちにくいという特徴を有す乱その提案方式を同じくDCTを用いる画像符号化標準であるJPEGに適用し、完全に復号せずとも電子透かしを埋め込む手法を導いている。また、提案する電子透かしの動画像への適用を行っている。さらに、取り出した透かしの判定のために、確率に基づく判定手法を新しく提案し、透かしの規模も含めた統一的な判定手法となることを示している。また、提案する手法の改善、拡張についても論じている。 第1章は、「序論」であり、映像メディアで現在コピー防止のためにどのような取り組みがなされているかについて述べ、電子透かしの紹介を行っている。実現されているかについてまとめ、電子透かしに必要とされる条件をまとめている。 第2章は、「電子透かし」であり、これまでに提案されてきた電子透かし手法をその前提条件により分類し、それぞれの得失を論じている。また、これまで提案されてきた手法を輝度領域、変換領域、動きパラメータへの埋め込み手法に分けて、各手法での透かし情報の埋め込み/取り出し過程についてまとめている。 第3章は、「DCT係数のブロック間相関を利用した電子透かし法」と題し、静止画像を対象にした提案方式について論じている。提案手法ではDCT係数に情報を埋め込み、その際に隣接するDCTブロックの対象係数の平均との人小関係に反映するように係数の変更を行う。透かし情報の埋め込みによるDCT係数の変更量は画像の局所的な特徴によって変化させ、画素の変動量が多いところでは強く、少ないところでは弱く埋め込まれるように制御することにより、視覚的な劣化が目立たない。本章では、この手法を詳述し、実験を通じての評価を行っている。透かしの埋め込まれた画像に対し、ノイズ付加、ガンマ補償(非線型輝度変換)、JPEG圧縮などを施し、透かしの耐性を評価している。なお、本手法は、原画像を参照せずに透かしを取り出せるため、インターネット上の不特定多数の画像への利用にも適している。 第4章は、「JPEG圧縮画像を対象にした電子透かし法」と題し、ブロック間相関を利用した電子透かし法を、JPEG圧縮画像に応用する方法について述べる。JPEG圧縮では、画像のDCT変換係数を量子化し、エントロピー符号化を行っている。現在、インターネットやデータベースの画像はほとんどがJPEG圧縮されたフォーマットを利用している。本章では、このJPEG画像を対象にし、JPEG符号領域で量子化係数の制御を行い、ブロック間相関を用いた電子透かしを利用する手法を導いている。これにより透かし情報の埋め込み/取り出しを高速かつ効率的に行なうことができる。 第5章は、「動画像を対象にした電子透かし法」と題し、提案したDCT係数のブロック間相関を利用した電子透かし法の動画像への適用について論じている。静止画像では、埋め込み強度を空間的変動量に応じて変化させていたのに対し、動画像では、空間的変動量にあわせ時間的変動量も考慮して埋め込み強度を変化させている。この制御により透かし情報を知覚されにくくかつ強く埋め込むことができる。なお、動画像では、透かしの判定に多数枚の画像からの読み取りデータを統合することができる。透かしを埋め込んだ画像に対し、ノイズ付加、LPF、ガンマ補償、MPEG圧縮を施し、透かし情報の取り出しを確認した。 第6章は、「確率に基づく透かし情報の判定」と題し、新しい透かし情報の判定手法について論じている。電子透かしの処理は、透かしの埋め込み、取り出し、判定の3つの過程からなる。透かし情報の埋め込み/取り出しの過程に関しては様々な手法が提案されてきた。これに対し、透かしの判定手段は限られており、取り出した透かしデータとオリジナルの透かしデータとの相関値やBER(ビット誤り率)が用いられている。ここでは、新しく確率に基づく透かしの判定を提案する。本手法では、対象画像から取り出した透かし情報に対し、オリジナル透かし情報が偶然埋め込まれている確率(すなわち誤って透かしの埋め込みを判定する確率)を計算し、取り出した透かし情報の信頼性を評価する。透かし情報の大きさも含めて確率が計算され、統一した信頼性の基準を与えてくれる。なお、これまでの相関値やBERでは、透かしの埋め込まれている信頼性を判定できない。確率に基づく判定をブロック間相関を用いた電子透かしに適用し、静止画、動画とも強力な判定基準になることを示した。なお、この判定手法は、様々な電子透かし手法に適用可能である。 第7章は、「DCT係数のブロック間相関を利用した電子透かし法の拡張」と題し、ブロック間相関を利用した電子透かし法の拡張について論じている。提案手法は、画像によっては部分的に目立つ歪みが現れる場合があり、この問題を解決するためエッジを利用して透かし情報を埋め込む手法を提案している。静止画、動画に対して検証を行い、動画に関しては、AD/DA、LPF、VHS 録画、MPEG圧縮を用いて検証している。また、前章にて提案した確率に基づく判定法に基づき、DCT係数の極性を利用した電子透かし法を新しく提案し、ブロック間相関を利用した電子透かし法と比較を行っている。 第8章は、「結論」であり、本論文の研究成果をまとめ、残された課題や提示された今後の研究の方向性について整理している。 以上、本論文では、電子透かしについて論じ、その新しい手法として、DCT係数のブロック間相関を利用した電子透かしを提案した。提案手法は、画像の局所的な特徴を反映した埋め込みを行い、視覚的な劣化を日立たせない。また、原画像、埋め込み強度パラメータを用いずに透かしの取り出しができる等の特徴を有する。この手法を、JPEG画像、動画像へ拡張しその有効性を示している。さらに、新しい電子透かしの判定手法として、確率に基づく透かしの判定を提案し、汎用的で強力な判定手法であることを示している。これらの新しい電子透かし手法は、将来の映像コンテンツの流通や著作権保護に寄与することが期待され、電子情報工学上貢献するところが少なくない。よっで本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 | |
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