No | 115685 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | MIHALACHE, OVIDIU MATIUS | |
著者(カナ) | ミハラケ,オビデウ,マリウス | |
標題(和) | 磁性材料の非破壊検査における順問題及び逆問題に関する研究 | |
標題(洋) | Direct and Inverse Analyses in Nondestructive Testing ofFerromagnetic Materials | |
報告番号 | 115685 | |
報告番号 | 甲15685 | |
学位授与日 | 2000.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4801号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では,原子炉構造材料のなどの溶接部に発生したき裂の形状を電磁的手段により非破壊検査する手法の開発を行っている。原子炉を含む鉄鋼材料構造体において,疲労などによるき裂が最も発生しやすいのは溶接部であり,溶接部のき裂診断は原子炉等の保全にとって必要不可欠なものである。しかし従来,一般の非破壊検査で多用されている超音波診断や渦電流探傷法は,溶接部の持つ結晶構造の特殊性および溶接部の有する磁性のため,その適用が困難とされてきた。本論文では,磁束漏洩法に着目し,磁気ヨークにより溶接部に直流磁場を印加したときのき裂周辺における磁場分布の乱れ(漏洩磁場)から,磁気ヨークから見て内側(ID)・外側(OD)・内部(ED)の3種類のき裂形状推定手法を開発することに成功した。漏洩磁場からのき裂形状推定には,ニューラルネットワークを用いている。ニューラルネットワークにおける教師データの作成は,今回新たに開発した磁性体を含む体系を対象とした,ベクトルポテンシャル法に基づく磁性体中磁化分布シミュレーション手法によって行った。さらに,実験により開発した手法の検証を行い,厚さ25mmの溶接部模擬試験において充分な精度でのき裂形状推定に成功している。本論文の構成は次の通りである。 第1章は本研究の背景と目的で始まる。また本研究に関連する研究のレビューとして,幾つかの非破壊診断手法とその原子炉構造材への適用について述べている。 第2章では磁性体における磁化分布シミュレーションの理論的背景について解説している。まず,非線形磁場解析における非線形性および強磁性の取り扱い手法について述べ、続いて非線形磁気特性を有する磁性材料用に改良したベクトルポテンシャル法とヒステリシスモデルに基づく数値シミュレーションの2次元・3次元モデルについて,支配方程式の導出と有限要素法・境界要素法の連成による離散化を詳解している。また,本手法をベンチマーク問題に適用し,シミュレーション結果と正解とを比較することにより本手法の検証を行った。 第3章は,軸対称2次元体系における磁化分布シミュレーション手法を用いて求めた,き裂周辺における漏洩磁場のシミュレーション結果について述べている。解析体系はき裂を含むリング形状の溶接部であり,き裂が磁気ヨークに対してODき裂の場合について,き裂の深さ・長さ・幅を変えた場合の漏洩磁場を求め,き裂が存在しない場合との漏洩磁場の差〓Bについて感度解析を行っている。 第4章では,平板形状の溶接部を対象とした磁化分布シミュレーションを行っている。き裂は溶接部の溶接方向に平行な長さ20mm深さ25mmの面内に存在するID・OD・EDき裂であり,前章と同様にき裂の深さ・長さ・幅を変え,き裂が存在しない場合との漏洩磁場の差〓Bについて感度解析を行った。個の結果,〓Bが数G〜数10Gと現有のホールセンサまたはフラックスゲートセンサにより充分検出可能な値となるという知見を得ることが出来た。また溶接部の厚みを25mm〜45mmまで変化させた一場合についても〓Bの感度解析を行い,その結果から検出限界となる溶接部厚みを求めている。さらに,数10mmと狭い溶接部領域に0.5丁程度の強い外部磁場を与えるために,従来のU字型ではなく凸字型の磁気ヨークを提案し,ヨークの材質と寸法に関する最適設計を行った。 第5章では,ニューラルネットワークを用いたき裂形状推定について,その手法と推定結果を詳解している。ここではき裂形状が9×5分割したメッシュの任意の組み合わせにより構成されるとし,き裂の直上でリフトオフ=0.5mmの走査線上の21点における〓Bを入力データ,き裂形状を出力データとして200〜400組の教師データを作成し,ニューラルネットワークのトレーニングを行っている。き裂を有する溶接部の磁化分布シミュレーションから得られる〓Bを測定磁場と仮定し,ニューラルネットワークにより形状推定を行ったところ,ID,OD,EDき裂共に,ほとんどの形状について正解に近い推定に成功した。また〓Bが0〜20%のノイズを含むを場合についてもニューラルネットワークのトレーニングを行い,測定信号がノイズを含む場合にもき裂形状推定にとって本手法が有効であることを示した。 第6章では,実験による本手法の検証を行った。溶接部を模擬する試験片にはオーステナイト鋼の溶接部材である磁気軟鋼(K-M35FL,東北特殊鋼)の平板を用い,これに放電加工により長さ15mm,幅0.5mm,深3mm,6mm,9mm,15mmの楕円状き裂を作成した。漏洩磁場はホールセンサにより測定し,これをニューラルネットワークにおける入力データとしてき裂の形状推定を行った結果,ID,ODき裂の両者に関してき裂形状の高い精度での推定結果が得られた。 第7章では本研究の結論を述べている。本研究により得られた結論は以下の5つである。 a)磁性体を含む体系における非線形磁場シミュレーション手法として,FEMに基づく軸対称2次元,および3次元シミュレーションコードの開発をおこなった。 b)き裂の深さ・長さ・幅に関して,き裂寸法の漏洩磁場に対する感度解析を行った。また溶接部の厚さに関する感度解析では,検出限界となる溶接部厚みを得た。 c)漏洩磁場のき裂に対する感度を増大させるため,凸字型磁気ヨークを提案するとともに,磁気ヨーク材質と寸法に関する最適設計を行った。 d)ニューラルネットワークを用いたき裂形状推定シミュレーションではID・OD・EDき裂に対して仮定したき裂の形状を高い精度で推定することができた。また本手法が0〜20%のノイズを含む場合にも有効であることを示した。 e)実験による本手法の検証を行った。磁気軟鋼(K-M35FL)を溶接部材の模擬試験片としてID,ODき裂周辺で測定した漏洩磁場から,き裂形状を高い精度で推定することに成功した。 | |
審査要旨 | 本論文では,原子力構造材料のなどの溶接部に発生したき裂の形状を電磁気的手法に基づいた非破壊検査によって特定する手法の開発が行なわれている。原子力プラントを含む鉄鋼材料構造物において,応力腐食割れや疲労などによってき裂が最も発生しやすいのは溶接部であり,溶接部のき裂診断は原子力プラント等の保全にとって極めて重要なものである。しかし従来,一般の非破壊検査で多用されている超音波診断や渦電流探傷法は,溶接部の持つ結晶構造の異方性および溶接部の有する磁性のため・その適用が困難とされてきた。本論文では,磁化磁束の漏洩に着目し,磁気ヨークにより溶接部に直流磁場を印加したときのき裂周辺における磁場分布の乱れ(漏洩磁場)から,磁気ヨークから見て内側(ID)・外側(OD)・内部(ED)の3種類のき裂形状を推定する手法を開発することに成功している。漏洩磁場からのき裂形状推定には、ニューラルネットワークが用いられている。ニューラルネットワークにおける教師データの作成は,今回新たに開発した磁性体を含む体系を対象としたベクトルポテンシャル法に基づく磁性体中磁化分布シミュレーションコードによって行っている。さらに開発した手法の妥当性を実験との比較により行い,厚さ25mmの磁性体模擬試験片を使用して充分な精度でき裂形状を推定することに成功している。 本論文の構成は次の通りである。 第1章は本研究の背景と目的を述べている。また本研究に関連する研究めレビューの中で関連する非破壊診断手法と原子力構造材への適用について述べている。 第2章では磁性体における磁化分布シミュレーションの理論的背景について述べている。まず,磁場解析における非線形性および強磁性の取り扱い方法から始めて,続いて非線形磁気特性を有する磁性材料用に改良したコードに基づいて2次元・3次元モデルの数値シミュレーションを行なうことを想定し,それを具体化するため支配方程式の導出と有限要素法・境界要素法の連成による離散化について詳述している。また,本コードをベンチマーク問題に適用し,シミュレーション結果と正解とを比較することにより本手法の妥当性を検証をしている。 第3章は,軸対称2次元体系における磁化分布シミュレーション手法を用いて求めた,き裂周辺におけそ漏洩磁場のシミュレーション結果について述べている。解析体系はき裂を含む溶接部であり,き裂が磁気ヨークに対してODき裂の場合について,き裂の深さ・長さ・幅を変えた場合の漏洩磁場を求め,き裂が存在しない場合との漏洩磁場の差〓Bについて感度解析を行っている。 第4章では,平板形状の溶接部を対象とした磁化分布シミュレーションを行っている。き裂は溶接部の溶接方向に平行な長さ20mm深さ25mmの面内に存在するID・OD・EDき裂であり,前章と同様にき裂の深さ・長さ・幅を変え,き裂が存在しない場合との漏洩磁場の差〓Bについて感度解析を行っている。この結果,〓Bが数G〜数10Gと現有のホールセンサまたはフラックスゲートセンサにより充分検出可能な値となるという知見が得られている。また溶接部の厚みを25mm〜45mmまで変化させた場合についても〓Bの感度解析を行い,その結果から検出限界となる溶接部厚みを求めている。さらに,数10mmと狭い溶接部領域に0.5丁程度の強い外部磁場を与えるために,従来のU字型ではなく凸字型の磁気ヨークを提案し,ヨークの材質と寸法に関する最適設計を行なっている。 第5章では,ニューラルネットワークを用いたき裂形状推定について,その手法と推定結果を詳述している。ここではき裂の直上でリフトオフ=0.5mmの走査線上の21点における〓Bを入力データとし,き裂形状を出力データとして200〜400組の教師データを作成し,ニューラルネットワークのトレーニングを行っている。き裂を有する溶接部の磁化分布シミュレーションから得られる〓Bを測定磁場と仮定し,ニューラルネットワークにより形状推定を行ったところ,ID,OD,EDの3種のき裂共に,ほとんどの形状について正解に近い推定に成功している。また〓Bが0〜20%のノイズを含むを場合についてもニューラルネットワークのトレーニングを行い,測定信号がノイズを含む場合にもき裂形状推定にとって本手法が有効であることが示されている。 第6章では,実験による本手法の検証を行っている。溶接部を模擬する試験片にはオーステナイト鋼の溶接部材を模擬する磁性軟鋼の平板を用い,これに放電加工により長さ15mm,幅0.5mm,深3mm,6mm,9mm,15mmの楕円状き裂を作成している。漏洩磁場はホールセンサにより測定し,これをニューラルネットワークにおける入力データとしてき裂の形状推定を行った結果,ID,ODき裂の両者に関してき裂形状の高い精度での推定結果が得られている。 第7章では本研究の結論を述べている。本研究により得られた結論は以下の5つである。 a)磁性体を含む体系における非線形磁場シミュレーション手法として,FEMに基づく軸対称2次元,および3次元シミュレーションコードの開発をおこなった。 b)き裂の深さ・長さ・幅に関して,き裂寸法の漏洩磁場に対する感度解析を行った。また溶接部の厚さに関する感度解析では,検出限界となる溶接部厚みを得た。 c)漏洩磁場のき裂に対する感度を増大させるため,凸字型磁気ヨークを提案するとともに,磁気ヨーク材質と寸法に関する最適設計を行った。 d)ニユーラルネットワークを用いたき裂形状推定シミュレーションではID・OD・EDき裂に対して仮定したき裂の形状を高い精度で推定することができた。また本手法が0〜20%のノイズを含む場合にも有効であることを示した。 e)実験による本手法の妥当性の検証を行った。磁性軟鋼を溶接部材の模擬試験片としてID,ODき裂周辺で測定した漏洩磁場から,き裂形状を高い精度で推定することに成功した。 以上のように本論文では、これまで困難とされてきた非線形磁性材料におけるき裂一の再構成を行なう非破壊検査手法の開発に成功し,かつ実験によりその実証もしており,工学的応用への貢献度は高い。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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