学位論文要旨



No 115693
著者(漢字) 金,奎植
著者(英字)
著者(カナ) キム,キュシキ
標題(和) ピロール含有液晶ポリマーおよび形状体の合成
標題(洋) Synthesis of Pyrrole-Containig Liquid-Crystalline Polymers and New Foms
報告番号 115693
報告番号 甲15693
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4809号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 畑中,研一
 東京大学 教授 西郷,和彦
 東京大学 教授 荒木,孝二
 東京大学 教授 加藤,隆史
 東京大学 助教授 工藤,一秋
内容要旨 要旨を表示する

 第1章 緒言

 新しい有機材料として注目を集めてきた液晶は、結晶と液体両方の性質を兼ね備えている。低分子液晶はデイスプレイ材料として有名である。一般的に高分子液晶はメソゲンがついている位置により主鎖型と側鎖型に分けられる。主鎖型液晶はその高い配向性により、強度や弾性率が高く、耐熱性が優れたため高性能材料として利用されている。側鎖型液晶は主鎖と側鎖のメソゲンの間に柔らかいスペーサーが存在しており、高分子の特徴と液晶的な機能の両方の特徴を生かすことが期待されている。特に側鎖の官能基を変えることににより、情報貯蔵・非線形光学・強誘電性・反強誘電性材料としての応用が期待されている。

 規則正しい高度な分岐を持たせた単一分子量のデンドリマーは、ワクチン、人工酵素、分子間エネルギー移動の媒体など様々な分野で応用の期待が高まており新しい応用を目指して研究されている。デンドリマーの特性はデンドリマーの核、枝、末端基によりきめられる。また末端部位の反応性により新しい官能基の導入ができる。最近の研究では水素結合やメソゲン含有により液晶性を見せるデンドリマーの研究が報告されている。

 本研究では側鎖型液晶高分子の末端に官能基としてピロール誘導体を付けることにより、分子配向性と電子機能性を秘めた液晶高分子の合成を試みた。またリジンデンドリマーの末端にメソゲンを持つピロール誘導体を付けることにより官能基を持つ液晶デンドリマーの合成を試みた。

 第2章 二官能性液晶モノマーによる選択的な反応

 目的 側鎖型液晶高分子は機能性材料として研究されている。側鎖はメソゲンとスペーサーでなりたち、官能基を付けることができる。ピロール高分子は高い導電性と一般環境下で優れた安定性を見せる。しかし、固有の非溶解性や非溶融性によりキャラクタリゼーションや加工は制限される。そのためスペーサーを付けることにより加工性を与える。まだ液晶性を与えることによりさらに物理的な特性を上げられる。本研究においては、アクリル基とピロール基を有する二官能性液晶モノマーを合成し選択的な重合を行い得られたポリマーの液晶性の調査を目的にした。

 結果と考察 官能性液晶モノマー、モデル化合物、アクリル高分子および、ピロール高分子の構造をScheme1に示す。ピロールを持つ化合物3そして官能基を持たない4は、官能基が液晶性に与える影響を調べるため合成した。モノマー1の構造は1Hと13C NMR分光法により調べた。ピロールに起因するピークが6.14と6.65ppmに、そしてアクリルに起因するピークが5.8-6.42ppmに見られた。他の化合物も分子設計通りのピークを見せた。これらの液晶性はDSC及び偏光顕微鏡により調べた。モノマー1は84.2℃、93.6℃、100.4℃、136.3℃で吸熱ピークを持っている。他の化合物も液晶である証拠になる吸熱ピークを見せている。偏光顕微鏡により調べた結果、モノマー1とモノマー2ではスメクチック液晶が見つかった。モデル化合物3と4はスメクチック液晶相以外にもネマチックそも見られた。このようにアルキレンスペーサーの長さや置換基による液晶の変換は他の液晶化合物にもよく見られる。特にピロールを有する化合物はHomeotropic mannerで配列する傾向があった。

 ラジカル重合によりモノマー1と2からピロールを持つポリマー1Pと2Pを得た。ポリマーの数平均分子量は1.39×104と1.55×104であった。NMR分光法によりポリマーの構造を確認した。主鎖に起因するピークはベースラインに隠れた。また主鎖に近い炭素4のピークが非常に小さいが、これはこの炭素が主鎖と側鎖に挟まり分子運動が制限されたためと思われる。DSC及び偏光顕微鏡観察によりピロールを有するポリマー1Pと2Pからスメクチック液晶相が見つかった。

 末端にアクリルを有するN-置換されたポリピロール誘導体は二官能性液晶モノマーから酸化重合により合成した。ポリマーの数平均分子量は6.5×103から11.7×103であった。しかし何回の洗浄にもかかわらずオリゴマーを完全には除けなった。低い収率は何回も繰り返された洗浄や重合の間に架橋構造ができたためと思われる。高分子の構造は1Hと13C NMRやFT-IR分光法により確認した。モノマーに比べるとポリマーのピロール部位の炭素である34番と35番のピークがなくなりピロール部位での重合を証拠できる。またピロール部位に近い33番と32番のピークなくなっているが、これも分子運動の制限によるものと思われる。FT-IR分光法ではピロール部位のC-H振動ピークが725cm-1で出る。このピークの強度を調べる事によりピロール部位での酸化重合の確認ができた。

 第3章 3,4-ジメチルピロールを有する側鎖高分子液晶の合成

目的 液晶の分子配向性と共役高分子の電子機能性を兼ね備えた物が分子レベルの電子デバイス材料として研究されている。ポリピロールやその誘導体は高い導電性、一般環境下での安定性や重合し易いので注目を集めている。特にメソケンを有するポリピロール誘導体は異方性導電性や共役鎖の長さを効果的に調節できるため物理的な特性が改善される可能性がある。しかし、α-β’結合により溶解性や効果的な共役長さが減少されている。そのため3,4-置換されたピロールから液晶モノマーの合成ができれば、異方的導電性や共役長さの効率的構築が期待できる。

結果と考察 二官能性液晶モノマーはマルチスデップ反応により合成した。モノマー合成の最終ステップや3,4−置換されたピロールを有するアクリル高分子の構造をScheme1に示す。モノマーの構造はIHと13CNMR分光法により確認した。モノマー3は3,4-ジメチルピロールに起因するピークを2.Oと6.36ppmにアクリルに起因するピークを5.8-6.42ppmに見せた。13CNMR測定ではアクリル炭素によるピークが128.64,130.45,165.01ppmに、ピロールに起因するピークが117.49,118.33ppmにあった。特に、10.04ppmにあるシングルピークは二つのメチルがピロールの3と4にある明確な証拠である。モノマーの液晶性はDSC及偏光顕微鏡により調べた。モノマー1は53.6℃(ガラス状態から結晶)、69.7℃(結晶からスメクチックX),103.0℃(スメクチックXからスメクチックC)、128.0℃(スメクチックCからスメクチックA)、147.9℃(スメクチックAから等方性液体)に吸熱ピークを見せている。モノマー2や3も液晶である証拠になる吸熱ピークを見せている。しかしすべてのモノマーについて冷却(10℃/min)過程で液晶状態からガラス化が起った。またHomeotropicmannerで配列が起った。

 ラジカル重合によりピロールを持つ側鎖型液晶ポリマーが得られた。数平均分子量は1.04x104から1.65×104であった。ポリマーはピロールに起因するピークをモノマーと同じ所で見せている。ポリマーはネマチック相を見せたが、高い粘性のため鮮明な液晶を見出せなかった。

 第4章 ピロールを有するリジンデンドリマーの合成

目的 デンドリマーの特性は核、繰返し単位、末端官能基によって決められる。特に溶液状態では末端官能基の数と性質がデンドリマーの特性を決める。ペプチド結合により得られるリジンデンドリマーはおもに、ドラッグデリバリー、ワクチン、人工酵素などの創成を目的にして研究されている。溶液状態でのデンドリマーのコンホメーションは重要であるが、特に末端官能基の配向が重要な役割を果す。リジンデンドリマーの末端官能基にメソゲンを結合させることにより、デンドリマーの構造と液晶性との相関を調べようとしている。Scheme3にピロール含有リジンデンドリマーの構造を示す。リジンデンドリマーの構造は1Hと13CNMRにより確認した。リジンデンドリマーの液晶性はDSC及び偏光顕微鏡により調べた。

Schema 1. Structure of liquid crystalline bifunctional monomers model compounds, polyacrylates, and polypyrroles.

Schema 2. Structure of liquid crystalline bifunctional monomers and polyacrylates.

Schema 3. Structure of lysine dendron containig mesogen and pyrrole moiety.

審査要旨 要旨を表示する

 液晶は液体状態でありながら分子配向性という性質を持っているため化学者や物理学者達に注目されて来た。特にその分子配向性を利用したディスプレイの発明から、液晶は科学者のみでなく一般の人々の生活に欠かせない身近な商品の一つとなった。液晶高分子はスペーサーとメソゲンまたは官能基の組み合わせにより高性能な機能性材料となる。特に側鎖型液晶高分子は高分子の特徴と液晶の機能を兼ね備えた新しい機能性材料として注目を集めている。デンドリマーは規則正しい枝分かれ構造を有する高分子であり、一般高分子とは違う構造や性質を持っている。そのユニークな構造に起因する特徴を利用して、ワクチンや人工酵素そして分子間エネルギー移動の媒体などとしての応用を目的に、さまざまな分野で研究が行われている。特にデンドリマーの特徴を決める要因の一つである末端官能基の修飾により新しい機能を持つ材料の設計が可能である。本論文は、液晶の分子配向性を持った新しいタイプの情報処理材料や、デンドリマーのユニークな構造を利用した導電性の期待できる材料の開発について述べており、4章で構成されている。

 第1章は序論であり、液晶物質の化学構造や種類、液晶状態の分類と応用、さらにデンドリマーの合成法と応用研究について説明し、本研究の目的と意義を明示している。

 第2章では、分子が配向した液晶分子組織構造と導電性高分子の機能を兼ね備えた新しい材料の設計を目的に、アクリル酸エステルとピロールを有する二官能性液晶モノマーを合成して選択的な重合を行い、得られたポリマーの構造や液晶性を調べている。分子の両末端に重合が可能であるアクリル酸エステルとピロールを有する二官能性液晶モノマー及びその類似構造を有するモデル化合物を合成している。モノマーやモデル化合物の構造は1Hと13CNMRにより調べ、液晶性はDSC及び偏光顕微鏡により確認している。また、偏光顕微鏡により、特徴的なスメクチック液晶相やネマチック相を観察している。特にピロールを有するモノマーはホメオトロピックマナーで配列することを見いだしている。ラジカル重合により得られたポリマーはピロール基を持ち、液晶性を示すことを報告している。ポリマーの数平均分子量は1.39×104と1.55×104であり、NMRによりポリマーの構造を確認している。DSC及び偏光顕微鏡観察によりピロール基を有するポリマーからスメクチック液晶相が見つかっている。一方、末端にアクリル酸エステルを有するN−置換されたポリピロール誘導体の数平均分子量は6.5×103から11.7×103であり、ポリマー構造はNMRとFT-IRにより確認している。モノマーと比較してポリマーのピロール部位の炭素のピークが消失することから、ピロール部位で重合していると結論づけている。ポリマーのFT-IRではピロール部位のC-H振動ピークが725cm-1に出るため、このピークの強度を調べることによりピロール部位での酸化重合を確認している。

 第3章では、異方的導電性や共役鎖の長さの効果的な調節を目的としてアクリル酸エステルと3,4−置換されたピロールを有する二官能性液晶モノマーを多段階反応により合成し、その重合によって得られたポリマーめ構造と液晶性を調べている。モノマーの液晶性をDSC及び偏光顕微鏡により調べた結果、3,4−置換されたピロール誘導体から液晶性の発現ができたとしている。このモノマーのラジカル重合により得られたピロール基を持つポリマーの数平均分子量は1.04×104から1.65×104であり、ポリマーの液晶性についてもDSC及び偏光顕微鏡により確認している。3,4−置換されたピロールを有する液晶ポリマーは異方的導電性や共役鎖の長さの効果的な調節を可能にする材料になると考察している。

 第4章では、デンドリマーの末端官能基として導電性物質であるピロールを導入することにより新しい導電性材料を開発することを目的としている。アラニンを出発物として第3世代のリジンデンドリマーを得、その構造を1H、13Cおよび二次元NMRにより確認している。さらにピロールとの反応により末端部位をピロールに置換している。デンドリマーの末端にピロールを持つ第3世代のリジンデンドリマーによる液晶性の発現には成功していないが、分子構造の計算からデンドリマー末端のピロール部位が分子の表面に出ていることを明らかにし、デンドリマーの特徴を生かした新しい導電性材料の可能性を示している。

 以上述べたように、本論文は機能性を有する液晶高分子材料を設計するための新しい方法論を提案し、その有効性を実施しているもので、得られた新規高分子液晶物質に関する新しい知見は化学生命工学の分野に寄与するところ大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク