No | 115695 | |
著者(漢字) | 大竹,俊裕 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオタケ,トシヒロ | |
標題(和) | 液晶性複合体の構築とイオン伝導材料への応用 | |
標題(洋) | Preparation of Liquid-Crystalline Complexes and Their Application to Ion Conductive Materials | |
報告番号 | 115695 | |
報告番号 | 甲15695 | |
学位授与日 | 2000.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4811号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学生命工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 動的高機能性材料構築の観点から、分子間相互作用を積極的に導入した超分子液晶材料がさかんに研究されている。一方、ポリエチレンオキシドとアルカリ金属塩の複合体は、固体の状態で高いイオン伝導度を示すことから、液体の電解質にかわる材料として、電池あるいはデバイス用材料への応用が期待されている。本研究では、分子間相互作用としてイオン−双極子相互作用に注目し、液晶にオキシエチレン鎖を導入した分子について、アルカリ金属塩とのイオン−双極子相互作用により安定化された異方的組織体の構築とその組織体中での異方的イオン伝導を試みた。 イオン−双極子相互作用による液晶相安定化とイオン伝導性 オキシエチレン鎖の両末端に液晶性部位を導入した二量体型分子8B9、8B13を合成し、金属塩としてLiOSO2CF3と複合化を行ったところ、動的な層構造を形成するスメクチックA相の温度範囲が、液晶単独の場合に比べて広くなり、等方相への転位温度が上昇した。すなわち、液晶相の熱的安定化がみられた。オキシエチレンの酸素原子とリチウムイオンの間のイオン−双極子相互作用による液晶相の安定化と考えられる。メソゲンの末端のアルコキシ鎖の炭素数あるいはエステル連結基の方向を変えた分子で検討を行った結果、そのリチウム塩の液晶性および液晶相の安定化効果が大きく変わることがわかった。末端のアルコキシ鎖の炭素数とエステル連結基の方向が、リチウム塩複合体の液晶相安定化の大きな要素になっていた。また、末端置換基が、アルキル鎖以外の置換基においてもその液晶性を検討した。エトキシカルボニル基あるいはシアノ基の導入により、リチウム塩複合体におけるスメクチックA相の温度範囲を拡大することができた。 リチウム塩の複合体のイオン伝導性を、分子が均一に垂直配向したモノドメイン状態において分子の長軸に対して垂直方向に測定することができた。8B9と8B13のリチウム塩複合体のイオン伝導度の測定の結果をFig1に示す。8B13において、モノドメイン状態で測定したイオン伝導度が、分子が配向していないポリドメイン状態の伝導度よりも高いことが明確に示された。さらに、液晶相と等方相の転位温度(Ti)付近で、冷却時、イオン伝導度の急激な増加がみられた。イオン−双極子相互作用によるナノレベルの相分離構造の安定化により、長距離のイオン伝導の層が形成され、その層の中での二次元的なイオン伝導を発現させることができたと考えられる(Fig.2)。 また添加する塩のカチオン種を変えることによるイオン伝導性の影響をリチウム・ナトリウム・カリウム・マグネシウム・スカンジウムのトリフラートを用いて検討したところ、等方相では、カリウム塩が、液晶相では、リチウム塩が最も高い伝導性を示した。 フッ素置換基を導入した二量体型液晶の液晶相安定化 フェニル基の側方位にフッ素置換基を有する液晶は、比較的低温でスメクチック相を発現するため、本研究におけるイオン伝導性液晶の開発に向けて、より有用な役割を果たすと考えられる。側方フッ素置換基を有す二量体型液晶5C9,5C13を合成し、側方フッ素置換基の効果を評価した。 リチウム塩と複合化させたところ、液晶相と等方相の転位温度が液晶単独の場合に比べて104℃上昇するという顕著な液晶相の安定化がみられた(Fig.3)。その安定化の効果は、無置換体の場合に比べて大きく、オキシエチレンの酸素−リチウム、フッ素−リチウム相互作用が協同的に関与したことによると考えられる。19F NMRを測定したところ、リチウム塩複合体のシグナルが、液晶単独の場合に比べて高磁場にシフトし、カップリングパターンに変化がみられ、フッ素とリチウムのカップリング定数が8.4Hzと求めることができた。メソゲンの側方位のフッ素置換基がリチウムイオンと相互作用していることがわかった。 フッ素置換基の液晶相に及ぼす効果を単量体型のモデル化合物を用いてさらに詳しく検討したところ、単量体の場合においても、フッ素置換体のリチウム塩複合体における液晶相安定化効果が、無置換体に比べて高く、フッ素置換基が、リチウム塩複合体の液晶相安定化に大きく寄与していることがわかった。またイオン伝導性を測定したところ、単量体型、二量体型ともにフッ素置換体の方が高い伝導性を示した。側方フッ素置換基の導入によって、熱的に安定な液晶相を示すリチウム塩複合体が得られ、イオン伝導性の向上がみられた。 結言 本研究では、異方的イオン伝導材料の構築を目的として、オキシエチレン鎖の両末端に液晶性部位を導入した二量体型液晶を合成し、金属塩との複合体において、イオン−双極子の効果によってナノレベルで相分離したスメクチック相の組織体を安定に形成させることができ、その組織体中での二次元的なイオン伝導性の測定を行うことができた。これらの結果は、液晶の異方的イオン伝導材料としての高い可能性を示している。 Figure 1. Ionic conductivities of the lithium salt complexes of 8B9 and 8B13 ([Li+]/[CH2CH2O]=0.05):(○,△)homeotropically aligned monodo main for the samples of 8B9 and 8B13;(●) unaligned polydomain for the sample of 8B13. Figure2. Schematic illustration of anisotropic ion conduction for self-organized ion-conductivematerials. Figure 3. Dependence of the phase transition temperatures of the complexes based on 5C9 as a function of the molar ratio of lithium triflate to the oxyethylene unit([Li+]/[CH2CH2O]). | |
審査要旨 | 液晶は、動的・異方的な性質をもつ機能性材料として様々な可能性を有している。一方、ポリエチレンオキシドとアルカリ金属塩の複合体は、イオン伝導性を示し、固体電解質材料として注目されている。 本論文は、液晶の特徴をイオン伝導材料に導入することによる異方的なイオン伝導材料の構築を目的として、オキシエチレン鎖に液晶性部位を導入した分子の金属塩複合体の液晶性およびイオン伝導性を検討した結果について述べてあり、8章から構成されている。 第1章は序論であり、様々な構造・機能を有する液晶について紹介している。 また、ポリエチレンオキシドを中心としたイオン伝導性高分子に関して、基本的な性質と最近の報告例について述べている。さらに本研究の目的と意義について述べている。 第2章では、オキシエチレン鎖の両末端に液晶性部位を導入した二量体型液晶およびリチウム塩を加えた複合体のデザイン、合成と液晶性、イオン伝導性について述べている。二量体型液晶にリチウム塩を添加することで、層状の液晶相構造(スメクチックA相)を熱的に安定化することに成功した。オキシエチレン鎖の酸素原子とリチウムイオンとの間のイオン−双極子相互作用を活用できたためと結論づけている。さらに、電極上で分子がすべて垂直方向に均一に配向した液晶相(モノドメイン)を形成させ、イオン伝導度を測定することに成功している。分子が配向した状態でスメクチック相の層に沿った伝導度が、配向がランダムな細かいドメインからなる液晶相(ポリドメイン)における伝導度よりも高い値を示すことを、初めて具体的に示している。 第3章では、安定な液晶性構造体の形成を目的として、二量体型液晶の構造に改良を加えた例について述べている。メソゲンの末端のアルキル鎖の炭素数を増やし、エステル連結基の向きが異なるものを合成している。リチウム塩複合体の液晶相が2章で報告された化合物に比べて、より安定化され、スメクチックA相の温度範囲もひろがった。これらの複合体の温度可変X線を測定したところ、リチウム塩の添加によって層の間隔が大きく減少し、オキシエチレン鎖がランダムなコンホメーションをとっていることが明らかとなった。イオン伝導性の測定を行ったところ、モノドメインにおいて、冷却時、等方相と液晶相の転移点付近で、伝導度が増加するという通常のアモルファスのイオン伝導性高分子では見られない現象がみられた。この特異な現象は液晶相の層構造において長距離のイオン伝導層が形成されたことによるものと結論づけている。 第4章では、添加する塩のカチオン種を変えてその液晶性とイオン伝導性の比較を行っている。リチウム・ナトリウム・カリウム・マグネシウム・スカンジウム塩の複合体を作製したところ、リチウムとスカンジウムでは液晶相の安定化がみられたが、他の塩では、高い濃度の塩を加えると、塩と液晶が相分離した。イオン伝導性は、等方相においてはカリウム塩複合体が、液晶相ではリチウム塩複合体が最も高いイオン伝導性を示した。 第5章では、メソゲンの末端置換基の液晶性と伝導性におよぼす効果を検討している。末端基をアルコキシル基からエトキシカルボニル基に変えることで、液晶相におけるイオン伝導性が向上する可能性が示されている。 第6章では、メソゲンに側方フッ素置換基を導入した二量体型液晶について検討している。リチウム塩との複合体の液晶相の安定化が、より顕著となり、低い温度でのスメクチックA相が発現した。この液晶相安定化にフッ素とリチウムの相互作用が寄与していることを、NMRの測定により示している。イオン伝導性は、フッ素置換体が無置換体の伝導度よりも高い値を示した。すなわち本章では、フッ素とリチウムの相互作用のイオン伝導材料開発における可能性を示唆している。 第7章では、フッ素置換基の液晶性に及ぼす効果を、単量体のモデル化合物を用いて検討している。フッ素置換基の導入によって、リチウム塩複合体の液晶性発現に効果的であることが示されている。 第8章は本論文の結論であり、本研究を通して得られた知見をまとめている。 以上のように、本論文は液晶と金属塩による新規の液晶性複合組織体の構築とその異方的イオン伝導性材料としての性質について述べたものである。これらの結果は、機能性材料を開発する上で今後の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |