学位論文要旨



No 115704
著者(漢字)
著者(英字) Matangaran,Juang Rata
著者(カナ) マタンガラン,ジュアン ラタ
標題(和) 森林作業による土壌への影響
標題(洋) IMPACTS ON SOIL COMPACTION BY FORESTR OPERATION
報告番号 115704
報告番号 甲15704
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第2194号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 森林科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 太田,猛彦
 東京大学 教授 八木,久義
 東京大学 助教授 酒井,秀夫
 東京大学 助教授 仁多見,俊夫
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は、林業機械を使った集材作業によって引き起こされる森林土壌への影響について論述したものである。大型林業機械による土壌圧縮は、その作用のみならず回復の期間についても大きな問題となっている。一般には、荷重の負荷された車輪あるいは履帯式車両よって圧縮された土壌は、植物の生長に好ましくなく、根の貫入と生長の妨げとなるとされている。

 本研究は、トラクタの繰り返し荷重が土壌の単位体積重量、轍の深さに及ぼす影響、集材作業後の土壌の回復、苗木の生長反応について、天然林択抜作業が行われているインドネシア、スマトラ島と東京大学北海道演習林で調査研究を行ったものである。また新しい林業機械であるプロセッサとフォアワーダによる人工林間伐作業地についても調査を行った。

得られた結果は以下のとおりである。

I. トラクタの繰り返し走行による土壌圧縮

 インドネシアのスマトラ島において、トラクタの繰り返し走行によって土壌の単位体積重量が増加する過程を検討した。試験で用いたキャタピラーD7Gの接地圧は73kPaであり、土壌は粘土とシルトの含有率70.3%のポドソルであった。土壌の単位体積重量は、トラクタの最初と2回目の走行によって著しく増加したが、3回目と4回目の走行による増加は少なく、5回目以降は影響を受けていなかった。5回走行後の土壊の単位体積重量は、未走行の土壌と比べて52%増加した。土壌の単位体積重量の増加は集材路からの距離によって異なり、離れれば離れるほど少なかった。

 北海道演習林の天然林内での調査では、8回目のトラクタ走行まで土壌の単位体積重量は増加し、未走行状態と比べて49%増加した。また約13cmの轍が生じ、コーン指数から50cmの深さまで圧縮されていた。供試したトラクタは履帯式で、接地圧41.64kPaであり、砂質ローム土壊であった。

II. 土壌圧縮の回復

 上記北海道演習林において、主集材路における繰り返し走行による土壌の単位体積重量の増加は、支線の集材路よりも大きく、主集材路の土壌硬度は、集材作業後12年経過しても元の値に回復していなかった。一方支線集材路の土壌の単位体積重量は、前者が回復していなかった集材後5年後に回復する傾向があった。完全に回復するまでには、回帰式によれば支線集材路と主集材路で、11年、37年を要することが明らかになった。

 インドネシアの試験地では、支線集材路における土壌の単位体積重量は、9年後に回復する結果が得られ、支線集材路と主集材路の完全な回復は、回帰式から、それぞれ14年、28年を要することが得られた。

III. 圧縮された土壌における自然復帰と苗の生長

 インドネシアの天然の熱帯林において、集材作業によって多くの直径階の木々が倒される。小径木の多くは、伐倒木と集材作業によって破壊され、その割合は、苗木、幼木、立木について、それぞれ39.1、38.4、38.7%に達した。

 室内実験室のテスト結果から、Shorea selanica苗の根の生長は、土壌の硬度によって減少し、樹高成長は、土壌単位体積重量1.1、1.3g/cm3のレベルでは、有意に影響されなかったが、1.4g/cm3のレベルでは、有意に影響を受けることが明らかになった。

IV. 轍深さの推定

 轍深さは、現地で土壌の硬さを予測するもっとも簡便な方法である。集材作業後の轍深さは、植え替えの必要性を決定するときに使用する土壌の単位体積重量を推定するのに有用である。

東京大学北海道演習林の現地調査結果から、次式によって轍の深さを推定できることを確認した。

Z= 4.61xn0.5xDx(CI/EGPtracks)-2.6

ここで Z = 轍の深さ

 EGPtracks= 履帯式トラクタの有効接地圧

 CI = 乱さない土壌のコーン指数

 D = 機種による違いを調整するための理想機械の車輪直径(1.5m)

 n = 走行回数

V. プロセッサとフォアワーダによる間伐地の土壌圧縮

 群馬県松井田における、最新の小型林業機械であるプロセッサとフォアワーダによる人工林間伐作業についての調査では、コーンペネトロメータを10cmまでしか貫入することができない硬い林地であったが、永久集材路およびフォアワーダ走行路では、20cmの深さまで厳しい圧縮があった。しかしプロセッサはほとんど圧縮には影響を与えていなかった。

VI. 結論

 以上の結果から次のことがいえよう。土壌の硬度はトラクタの走行回数に比例して増加する。スマトラの森林における土壌単位体積重量の増加割合は、北海道演習林より高かったが、使用されたトラクタの接地圧が高かったことも一因と考えられる。土壌の硬度は苗の生長に影響を与えるが、土壌単位体積重量1.3g/cm3がShorea selanica苗の生長に対する限界の値として考えられる。今後この限界値をもとに土壌の硬度レベルを管理し、集材路におけるトラクタの走行回数の限界値として応用することができる。今回の結果から轍の深さをもとに、この限界値を現場で簡易に推定することができるようになった。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、林業機械を使った集材作業によって引き起こされる森林土壌への影響について論述したものである。大型林業機械による土壌圧縮は、その作用のみならず回復の期間についても大きな問題となり、植物の生長に好ましくなく、根の貫入と生長の妨げとなるとされている。本申請論文は、トラクタの繰り返し荷重が土壌の単位体積重量、轍の深さに及ぼす影響、集材作業後の土嬢の回復、苗木の生長反応について、天然林択伐作業が行われているインドネシア、スマトラ島と東京大学北海道演習林で調査研究を行ったもので、得られた結果は以下のとおりである。

 第1章では、トラクタの繰り返し走行による土壌圧縮についてインドネシアのスマトラ島において、土壌の単位体積重量が増加する過程を検討し、トラクタの最初と2回目の走行によって著しく増加すること、集材路からの距離によって異なり、離れれば離れるほど少ないことを明らかにした。北海道演習林の天然林内での調査では、8回目のトラクタ走行まで土壌の単位体積重量は増加し、未走行状態と比べて49%増加した。

 第II章では、土壌圧縮の回復について、上記北海道演習林において、主集材路における繰り返し走行による土壌の単位体積重量の増加は、支線の集材路よりも大きく、主集材路の土壊硬度は、集材作業後12年経過しても元の値に回復していなかった。完全に回復するまでには、回帰式によれば支線集材路と主集材路で、それぞれ11年、37年を要することが明らかになった。インドネシアの試験地では、支線集材路における土壌の単位体積重量は、9年後に回復する結果が得られ、支線集材路と主集材路の完全な回復は、回帰式から、それぞれ14年、28年を要することが分かった。

 第III章では、圧縮された土壌における自然復帰と苗の生長について述べている。インドネシアの天然の熱帯林においては、集材作業によって多くの直径階の木々が倒され、その割合は、苗、幼木、立木について39.1、38,4、38.7%であった。また室内実験室のテスト結果から、Shorea selanica苗の根の生長は、土壌の硬度によって減少し、樹高成長は、土壌単位体積重量1.4g/cm3のレベルで有意に影響を受けることが明らかになった。

 第IV章は、轍深さは、現地で土壌の硬さを予測するもっとも簡便な方法で、集材作業後の轍深さは、回帰式によって轍の深さを推定できることによって、土壌の単位体積重量を推定するのに有用であることを明らかにした。

 第V章では、プロセッサとフォアワーダによる間伐地の土壌圧縮について群馬県松井田における調査で、永久集材路およびフォアワーダ走行路では、20cmの深さまで厳しい圧縮があった。しかしプロセッサはほとんど圧縮には影響を与えていなかった。

 以上のことから土壊の硬度は、トラクタの走行回数に比例して増加すること、土壌の硬度は苗の生長に影響を与えるが、土壌単位体積重量1.3g/cm3がSporea selanica苗の生長に対する限界の値として考えられることを明らかにし、今後この限界値をもとに土壌の硬度レベルを管理し、集材路におけるトラクタの走行回数の限界値として応用することを可能とした。また今回の結果から轍の深さをもとに、この限界値を現場で簡易に推定することができるようになった。

 以上のように、本研究は学術上のみならず応用上も価値が高い。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

UTokyo Repositoryリンク