学位論文要旨



No 115721
著者(漢字)
著者(英字) Kostadinov,Mladen,Vassilev
著者(カナ) コスタディノフ,ムラデン,ウァシレフ
標題(和) 地盤および構造物の地震損傷評価のための強震記録解析手法
標題(洋) Utilization of Strong Motion Parameters for Earthquake Damage Assessment of Grounds and Structures
報告番号 115721
報告番号 甲15721
学位授与日 2000.11.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4819号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須藤,研
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 藤野,洋三
 東京大学 教授 東原,紘道
 東京大学 助教授 山崎,文雄
内容要旨 要旨を表示する

 米国ノースリッジ地震(1994)、兵庫県南部地震(1995)以後、実時間自身防災システムがGISおよび情報システムの急速な進展と相俟って大きな注目を集めている。このシステムは地震動のモニタのために使われ、それに基づき災害の軽減など被災者救援の迅速な立ち上げに活用される。この意味で実時間地震防災は震後の復興のキーストーンと言って良い。初期警報、迅速な被災評価のための多様なシステムが近年実用化されている。これらは日米の中央政府から地方自治体の防災関連機関で活用されている。本研究は強震記録による地盤・構造物の損傷評価の手法を研究している。

 論文の第一部では、液状化と地盤の永久変位という地震により直接生じる現象の強震記録の解析研究を行っている。液状化を生じた地盤上での強震記録はその周波数変動で特別な性状を呈する。これが強震記録から明瞭に識別された。現行の液状化判定手法の吟味と、本研究での波動特性の研究から新しい判定手法を本研究で提案する。この方法の性能がこれまでの手法と比較検討され、結果としてより正確な判定を可能とすることが判明した。

 大きな地震の震源近傍で、永久変位が強震記録の解析を通じて同定する手法を開発した。そうしたサイトでの最大速度の値は大きな地震災害をもたらす可能性をはらんでいる。本研究では、強震記録の解析から静的変動と動的変動の分離手法を検討した。静的変動の効果を構造物の応答から定量化し、集集地震の強震記録に適用した。

 本論文で提案した液状化判定指標を理論的に検証した。この検証に一次元波動理論を用いた。表面土壌の非液状化条件を調べた。コノシミュレーションでは振動台実験での計測値を用いた。この結果液状化発生地での強震動パラメータに直線性の関係が見られた。

 第二部では、兵庫県南部地震でのRC構造物の損傷関数解析手法の研究にあてている。三種類の典型的構造物(低層、中層、高層)について、その地震入力に対する非線型応答解析を行い、夫々についてパーク及びアング指数を得た。損傷指数と地震動指数の間に正規対数分布を仮定し損傷曲線を構築した。これを実際の兵庫県南部地震の損傷曲線と比較しその信頼性を検討した。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究では、地盤および構造物の地震損傷評価のための強震記録解析手法が提案されている。災害の拡大の防止は、被害の可及的速やかな把握にかかっている。これは、阪神淡路大震災から防災関係者が学んだ多くの教訓の中の重要な一つであった。災害をもたらすのは、地震によって生ずる地震波である。しかし、それは地中を音速の10倍を超える速度で伝播する特性からもっとも早く情報を伝播する。米国のCUBEシステムはこの利点に着目し、まずは強震の空間分布をすばやく関係者に提供することでもって早期被害把握を実現している。

 しかし、日進月歩の技術革新が著しい現在の計算機技術・能力を駆使するなら被害把握の一層の内実に迫ることが可能であろう。ひいては防災実務者にそれらが迅速に提供できるなら災害拡大抑止の有力な手段となりえる。本研究はこの視点から

(1)地盤液状化の判定;

(2)永久変位を伴う地盤の振動と構造物の応答性状。

が調査・研究されている。

 (1)地盤液状化判定指数の開発

 背景:強震記録の解析から関心あるサイトで液状化現象が発生したか否かを迅速に判定する手法の開発を行っている。この研究は都市地震災害軽減にきわめて有用である。都市にあっては住民の生活を支えるエネルギー(電気、ガス)、水が地下の埋設管ネットワークによって供給されている。神戸の震災では、地盤液状化がこのネットワークに多大の損傷をもたらした。従って本研究はすばやい損傷個所の発見のためのきわめて有効な手段を提供することとなる。

 研究概要:この問題意識に基づき幾つかの手法が提案されてきた。どの方法にあっても、強震記録の振幅、振動数、振動エネルギを算出しそれらをしかるべく組み合わせることでもって液状化指数を定義している。しかし、在来の指数はどれも高い確度での判定を与えない。現研究者は地盤の振動が時間的に急激に変化することに着目しJoint Time Frequency(JTF)解析の概念を適用し、平均瞬間振動数を導入した。さらに、強震の水平成分の振る舞いに着目した。液状化現象が地震波のうちでP波でなく、S波の伝播に影響を与えるからである。この二つの量の組み合わせから確度の高い液状化判定指数を提案し、液状化程度の定量化を実現した。この手法が既往の手法と比べて格段の性能を呈していることが示されている。

 (2)永久地動変位を伴う地盤の振動と構造物の応答性状

 背景:昭和19年、21年の南海、東南海地震にはさまれて昭和20年に発生した三河地震は逆断層型の地震で2000名近い死者と6千棟近い家屋の倒壊など甚大な被害をもたらした。この地震での一つの重要な観察事実は被害が断層の上盤側に偏在し、下盤側の小被害と著しい対象をなしていることにあった。1999年9月に台湾で発生したマグニチュード7.6の地震では地表に巨大な高低差5メートルを超える断層涯が出現した。被害も甚大であった。しかし、その被害は断層涯の近傍では想定されるよりもはるかに小さかったことが報告されている。日本を含む多くの国で、都市または社会基盤が活断層近辺に位置しているケースは少なくない。こうした視点から中央構造線に位置する徳島、松本などでは地震防災への関心はすこぶる高い。断層近傍での強震記録の迅速な解析から、地盤挙動の把握を行い実務者の的確な判断に資する。

 概要:現研究者はこの現象に対して、近傍で顕著な地盤の永久変位の影響の定量的評価を試みその理論的考察を与えた。加速度記録から変位記録への変換に際しては、積分仮定を通じてドリフトなどの解決せねばならない問題が多い。現研究者はこれらの伴さまざまな問題の解決法を提示した。その上で、断層の近傍で収録された強震記録を積分することで観察される永久変位とほぼ同じ地盤変動記録が得られることを示した。得られた永久変位波形の不規則な形状に着目し、それを静的変位と動的変位に分離し、その動的変位部分を地盤の動的地震動とすることから、その挙動を数学的に取り扱いやすいサイン波に置き換えさらに変位の立ち上がり時間と断層の継続時間に適切な仮定を設けることで上記の観察が説明されることを理論的に解明した。

こうして、強震記録の解析が実時間地震防災実務に資する情報を提供できることとなった。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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